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第二章
運悪くこの世界にたどり着いてしまった方へ 14
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まるで天上にまで続いているかのように見える、長い長い石段の参道に、真っ赤な七つの鳥居が等間隔に並んでいる。これが噂に聞く九宇時神社《天地の参道》である。その由来は、文字通り天地を繋いでいそうなくらい長い事からである。石段の総数、三百段。傾斜角度四十度。登り切るのに、成人男性で平均十二分かかると言われている。
「すげ……」
話に聞くのと実物を見るのとでは大違いだ。九宇時は健脚が自慢だったが、毎日ここを上っていたのだろうか。そりゃ足腰も強くなる。
と、煌津は腕時計を見た。九時五十分。約束の時間まで十分ほど。
「間に合うかな」
ともかく、上るしかない。階段の脇のほうから煌津は早足で上り始める。三つ目の鳥居までは全速力が出せた。そこからは、自分でもわかるくらいにがくっと勢いが落ちる。とんでもない階段だ。四つ目を過ぎる。腕時計の長身は五十五分を指している……。
「いやいや……」
無理でしょ、これ、と声にならない声で呟く。だが、何とかしなければ。あと三つ鳥居を抜ければゴールなのだし。
「はあっ、はあっ」
無我夢中で駆け上がる。五つ目を過ぎる。時計を見る余裕はない。六つ目が見えてくる。
「はあっ、はあっ!」
七つ目を抜けた。山頂だ。
「無理っ。ここを、走るのはっ……」
体を折り、肩で息をする。汗がどばっと噴き出していた。筋肉ががくがくとなっている。腕時計を確認する。十時五分。
「あちゃ……」
間に合わなかったか。そう思った時、目の前にペットボトルが差し出された。
「はい」
長袖シャツにスカートというシンプルな恰好の銀髪の子が、目の前に立っていた。制服じゃないし、髪の色も桜色じゃないが、誰かくらいはさすがにわかる。
「九宇時さん」
「お疲れさん。喉渇いたでしょ、おごってあげる」
「あ、ありがとう」
「いいんだよ、うちの自販機だし」
ペットボトルを受け取って周りを見る。確かに自販機があった。ここまで集金に来たり中身を入れに来たりするのはさぞ大変だろう、と思う。
「ハゼランノヒメ、ご苦労様」
ずっと後ろについていたハゼランノヒメに、那美は声をかけた。ハゼランノヒメはやはり微笑んだまますっと消え去っていく。はらりと落ちたお札を拾い、那美は言った。
「上がって。今、お義父さんいるから」
「あ、うん……」
ハンカチで汗を拭き、念のためその場で制汗スプレーを噴く。
緊張とも、何とも言えない気持ちが込み上げてくる。
曇りガラスの引き戸を開け、社務所兼自宅のような建物の中へ入っていく那美に続く。
「お邪魔します」
「どうぞ」
突き放すふうでもなく言って、那美はサンダルを脱ぐとそのまま奥に行ってしまう。煌津は慌ててそれを追いかける。
「すげ……」
話に聞くのと実物を見るのとでは大違いだ。九宇時は健脚が自慢だったが、毎日ここを上っていたのだろうか。そりゃ足腰も強くなる。
と、煌津は腕時計を見た。九時五十分。約束の時間まで十分ほど。
「間に合うかな」
ともかく、上るしかない。階段の脇のほうから煌津は早足で上り始める。三つ目の鳥居までは全速力が出せた。そこからは、自分でもわかるくらいにがくっと勢いが落ちる。とんでもない階段だ。四つ目を過ぎる。腕時計の長身は五十五分を指している……。
「いやいや……」
無理でしょ、これ、と声にならない声で呟く。だが、何とかしなければ。あと三つ鳥居を抜ければゴールなのだし。
「はあっ、はあっ」
無我夢中で駆け上がる。五つ目を過ぎる。時計を見る余裕はない。六つ目が見えてくる。
「はあっ、はあっ!」
七つ目を抜けた。山頂だ。
「無理っ。ここを、走るのはっ……」
体を折り、肩で息をする。汗がどばっと噴き出していた。筋肉ががくがくとなっている。腕時計を確認する。十時五分。
「あちゃ……」
間に合わなかったか。そう思った時、目の前にペットボトルが差し出された。
「はい」
長袖シャツにスカートというシンプルな恰好の銀髪の子が、目の前に立っていた。制服じゃないし、髪の色も桜色じゃないが、誰かくらいはさすがにわかる。
「九宇時さん」
「お疲れさん。喉渇いたでしょ、おごってあげる」
「あ、ありがとう」
「いいんだよ、うちの自販機だし」
ペットボトルを受け取って周りを見る。確かに自販機があった。ここまで集金に来たり中身を入れに来たりするのはさぞ大変だろう、と思う。
「ハゼランノヒメ、ご苦労様」
ずっと後ろについていたハゼランノヒメに、那美は声をかけた。ハゼランノヒメはやはり微笑んだまますっと消え去っていく。はらりと落ちたお札を拾い、那美は言った。
「上がって。今、お義父さんいるから」
「あ、うん……」
ハンカチで汗を拭き、念のためその場で制汗スプレーを噴く。
緊張とも、何とも言えない気持ちが込み上げてくる。
曇りガラスの引き戸を開け、社務所兼自宅のような建物の中へ入っていく那美に続く。
「お邪魔します」
「どうぞ」
突き放すふうでもなく言って、那美はサンダルを脱ぐとそのまま奥に行ってしまう。煌津は慌ててそれを追いかける。
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