転生したら陰謀の中心にいた俺

キック

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7.  アレクとなった俺、殿下から逃げる

―― 国王派の貴族たち 3 ――

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 ――ええっ! 
 予想外の要望に、驚いた。
 夫人ぐらいの財力があるなら、治癒師を雇うぐらい簡単だろう。治癒魔法が使えるとはいえ、専門家ではない俺に、なぜ、頼むのだろう?

 俺は、上ずった声で問い返した。
「ええっと――その――あの……ご子息の治癒ですか? わたしは、専門家ではないので……。もちろん、できれば、力をお貸ししたいのですが。……その、どのような症状でしょうか?」
「生まれたときから、身体が弱く、特に、ここ最近、起き上がることもできなくなってしまって……」

「……ほかの治癒魔法使いに、診断させましたか?」
「何人もの治癒師にせたのですが、はっきりした原因は、わかりませんでした」
 夫人は、溜め息をついた。身体の前で、握り合わせた手が震えている。顔には現われていないシワが、手の甲から指にかけて、深く刻まれていた。

「……わたしは、治癒を専門にやっているわけではありません。……それでも、よろしいのですか?」
「……お願いします。殿下のお母上も、身体がだるい症状が、長年続いていて、殿下の治癒魔法で改善されたと聞いております。――夫が亡くなってから、息子に領地を継がせるため、死に物狂いで働いてまいりました。息子が亡くなっては、何のために苦労してきたのか、わかりません」
 嗚咽をこらえているのか、低い、くぐもったような声だった。

「――わかりました。いまから、ご子息を、診させてもらってよろしいですか?」

「もちろんですわ。こちらへ……」
 夫人は、俺を、屋敷の廊下の一番奥の部屋へ案内した。

 部屋の中央にえられた寝台に、顔色が悪い、10歳ぐらいの少年が寝ていた。そばには、治癒師の水色の作業衣を着た、白髪で灰色のあごヒゲを生やした男が立っている。
 部屋の隅には、手洗い用のたらいを持った侍女が控えていた。

 治癒師らしい男が、数歩前に出て、膝まづいた。
「これは、これは、伯爵さま。マルカム様は、いつもと変わりないご様子です」

「……顔色が悪くなっているようにみえるわ?」
「それは、少しのあいだ、マルカム様から離れられていたからでしょう。悲観的なお心が、顔色を悪くみせているのです」
「それなら、いいのだけれど……」

 夫人は、眠っている息子に近寄り、じっと顔をみつめた。
 右手を、息子の頬にあてがった。息子は眠ったままだった。息が荒く、離れている俺の耳にも、呼吸する音が聞こえた。

 夫人は、深く溜め息をついた。
 治癒師の男に顔を向けると、
「力になってくれる御方を連れてきたの。――少しのあいだ、下がっていてもらえる?」

 男は、驚いた顔をしたあと、顔を赤らめて、
「どなたを連れてこられたのか存じませんが、わたし以上のことができるとは、思えません! わたしの師匠は、王宮の治癒団で腕を振るっておりまする。わたし自身も、若い頃は、王族の方の治癒を引き受けておりました!」

 男は、俺の方を射殺すような眼でみた。
 俺を指さしながら、
「どなたからか、推薦されたのでしょうが、あのような年の若い者は経験がたりません。――おやめになった方がよろしい」

 夫人は、冷たい眼で男をみた。
「あなたには、もう半年もまかせているが、少しも良くなった様子がない。それどころか、少しずつ、悪くなっているではないか」
「悪くなっていくのを、くい止めているのです。決して、何もしてないわけでは……」

 夫人は、声をあらげた。
「――いいから。下がりなさい! こちらから呼ぶまで、部屋にいなさい!」

 男は、また、俺に憎々しげな眼をむけると、小さく頭を下げて出ていった。

 夫人は、溜め息をついて、振り返った。
「――お待たせしました。息子を診てもらえますか」           
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