転生したら陰謀の中心にいた俺

キック

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7.  アレクとなった俺、殿下から逃げる

―― 国王派の貴族たち 4 ――

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 俺は、恐る恐るその少年に近づいた。
 息は荒いが、汗はかいておらず、肌は気味悪いくらい白く、血の気がなかった。
「あの、触ってもよろしいですか?」

 夫人がうなずいたので、少年の頬に触れてみた。触れた指からひんやりとした感触が伝わってきた。ぶ厚い寝具をかけているのに、身体から温もりというものを、少しも感じなかった。
「上半身をみたいが、良いですか?」

 夫人は、またうなずいて、俺の向かい側にまわると、息子の寝具をはがした。何度もやっているのか、手慣れた様子で、肌着のボタンをはずし、胸と腹を出した。

 俺は、両手を重ねて、左右の胸、腹の中央、右と左の脇腹に手をあてた。
 俺自身が、ケガをしたり、調子の悪いときは、その部分にいつも両手をあてている。そうすると、何も考えなくても、すうっと魔力が患部に入ってゆき、その部分が熱を持ったあと、治癒が始まり、軽い傷なら治っている。

 夫人の話だと、小さい頃からよく寝込んではいたそうだが、それでも、寝たきりになることはなかったそうだ。が、一年ほど前から常に身体が重い、だるいともらすようになり、熱心に取り組んでいた領主の勉強も休むようになったらしい。そうして、何人もの治癒士に診てもらっているうちに、起き上がれなくなり、寝たきりになってしまったそうだ。

 俺は、前世の知識から判断するしかなかった。身体が重い、だるい……ということは内臓系の病気だろうか? 肝臓や腎臓、栄養をうまく吸収できないのであれば、胃腸系も怪しい。

 俺は、いったん両手を少年の身体から離し、大きく深呼吸をした。
 胸から腹にかけてを、重点的に診ることにした。

 両手重ねて、慎重に、左胸・右胸・腹部・左わき腹・右わき腹と手をあてていく。胸から腹部への移動時に、一瞬あてていた手の裏側が熱くなった。わき腹に手をあてた時も、手のひら全体に、あつさを感じた。背中側からも、すぐ腰のうえあたりをさわってみる。かなりの熱さを感じる。

 この位置だと、やはり、腎臓か肝臓らしい。
 俺は、大きく息を吐いた。

 元の世界の医学の知識があって、良かった。この世界の治癒士には、内臓の位置や役割などの知識はないのだろう。たいていの病気やケガは、異常箇所を特定しなくても、身体全体に魔法をかければ、治癒できる。ケガの場合は、あざがあったり、血が出たり、外からみてわかるから、そこに魔力を込めたり、魔法薬をかけたりできる。

 魔法で一番治しにくいのが、このような特徴のない、ただ身体がだるいだけで、症状が重くなってゆくというモノなのだろう。

 俺は、局部にむかって魔力を集中した。
 何回も治癒や解毒をやってきて、身体も慣れてきたようだ。以前より、たやすく治癒の魔力が流れるようになった。

 身体全体が、火照ほてった。額に汗の筋ができた。少年に向かうゆるやかだった魔力の流れが、だんだんと激しくなり、奔流のように、どうどうと流れ込んだ。

 俺は、魔力の振動を感じながら、元の世界での、少年と同じ年ごろだった小学生の頃を思い出していた。毎日、その日の授業が終わると、校庭に駆け出し、雲梯や踏み台、ブランコで遊んだものだった。風邪気味でも気にせず、日の入りまで遊び、熱を出して寝込んだりしたけれど、次の日には、また、夕焼けの頃まで遊んでいた。

 思い出にひたっていると、知らぬ間に、俺の魔力の流れがゆるやかになっていた。俺の耳に、ここちよいピアノの音のような響きが聞こえた。

 魔力の流れに何かが加わった。空気以外のみえない何かが俺の足元から、身体に巻きつくようにして這い上り、手のひらで流れ出る魔力と合流し、け込んで、一緒に少年のなかに入っていった。

 と、少年の全身から、じわっと水蒸気のような湿り気のある薄く白い気体が湧き出た。
 俺の頭のなかに、人間の全身の血管のイメージが浮かび上がった。肝臓や腎臓のあたりが白く光っている。

 やがて、血管のイメージが消え、流れる魔力が細くなり、水滴になり、止まった。

 最後の一滴のあと、俺は、両手を少年から離して、大きく肩を動かし深呼吸した。
 少年の顔色は良くなり、早く浅かった呼吸が、深くゆっくりとなっていた。


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