88 / 88
7. アレクとなった俺、殿下から逃げる
―― 国王派の貴族たち 5 ――
しおりを挟む
俺は、待っている夫人に振り向いた。
「――終わりました」
夫人が、小走りで前に出てきた。俺の隣に立って、身をかがめ、息子の顔を、一心にみつめる。
夫人の荒い呼吸の音が、耳のすぐそばで聞こえる。
「手ぬぐいを――」
侍女が、すぐに、水に浸していた手ぬぐいをしぼって手渡す。
夫人は、手ぬぐいを息子の額や頬にあて、ついていた細かい水滴をぬぐった。その後も息子をじっとみていたが、ホッと息をついた。
「顔色が、良くなっています」
俺は、うなずいた。少年から手を放す直前に、少年の魔力が少しだけ流れ込んできた。それは、何といったらいいだろう……暖かく活力にあふれたものだった。俺には、少年が回復しつつあるという確信があった。
「まだ、無理はいけませんが、大丈夫だと思います」
夫人が、ふいに俺の両手を握り締めた。
「このような治癒魔法、初めてみました。あなたは、精霊魔法も使えるのですね!」
精霊魔法? いまのがそうなのだろうか?
俺には、皆目わからなかった。そういう魔法があるということは、アリアたちから教わっていたし、上級魔法は、精霊の手助けによりできるモノが多い、とは聞いていたけれど、精霊はみたことがなかったし、生前のアレクが精霊魔法を使えたなどとも、聞いたことがなかった。
「あなたの身体にまとわりつく精霊をみました。あなたの手を伝って、精霊が我が息子に入ってゆくのがみえました。精霊が、身体を浄化したのですね!」
俺にはみえなかったが、夫人には精霊がみえたらしい。
魔法を使った俺にはみえず、夫人にはみえるとは、どういうことなんだろう?
俺は混乱したが、表情に出ないように我慢した。
「――奥様! 坊ちゃまが!」
侍女が、あわてた声をあげた。
俺と夫人が、少年をみると、少年の眼が薄く開いていた。
夫人が声にならない声をあげて、屈みこんだ。
少年の眼がはっきりと開いた。何度も、まばたきをした。眼球が左右に動き、屈みこんでいる自らの母をとらえた。
「ははうえ……」
かぼそいが、意志を持った母を呼ぶ声が、はっきりと聞こえた。
夫人の眼から涙がこぼれた。ゆっくりと顔を伝い、一滴、二滴、三適とこぼれ落ちた。
「マルカム……」
夫人は、声をつまらせ、震える声でいい直した。
「マルカム、よく頑張りました……もう大丈夫ですよ」
「ははうえ……。すいません」
マルカム少年は、弱々しい声であやまった。
「いいえ、あなたは、何も悪くありません」
夫人は、息子の頭をなでた。
俺も、涙が出そうだったが、グッとこらえた。そばにいた侍女も、もらい泣きしている。
マルカム少年が、心地よさそうに眠り始めると、夫人は、また、俺の両手を握った。
「本当にありがとうございました。この御恩は忘れません」
何度も礼をいう夫人に、もう一度、選挙の支援をお願いして、屋敷を出た。
たくさんの贅沢な、この世界のお菓子をみやげにもらい、甘いモノの苦手な俺は、閉口した。イリアたちと屋敷の召使いたちに適当に分けて食べるよう、全部渡した。
アリアとイリアは、満面に笑みを浮かべ、喜んで持って帰った。あとで訊くと、相当な量があったのに、2日で食べてしまったという。また貰ったら、分けてほしいといわれた。
「――終わりました」
夫人が、小走りで前に出てきた。俺の隣に立って、身をかがめ、息子の顔を、一心にみつめる。
夫人の荒い呼吸の音が、耳のすぐそばで聞こえる。
「手ぬぐいを――」
侍女が、すぐに、水に浸していた手ぬぐいをしぼって手渡す。
夫人は、手ぬぐいを息子の額や頬にあて、ついていた細かい水滴をぬぐった。その後も息子をじっとみていたが、ホッと息をついた。
「顔色が、良くなっています」
俺は、うなずいた。少年から手を放す直前に、少年の魔力が少しだけ流れ込んできた。それは、何といったらいいだろう……暖かく活力にあふれたものだった。俺には、少年が回復しつつあるという確信があった。
「まだ、無理はいけませんが、大丈夫だと思います」
夫人が、ふいに俺の両手を握り締めた。
「このような治癒魔法、初めてみました。あなたは、精霊魔法も使えるのですね!」
精霊魔法? いまのがそうなのだろうか?
俺には、皆目わからなかった。そういう魔法があるということは、アリアたちから教わっていたし、上級魔法は、精霊の手助けによりできるモノが多い、とは聞いていたけれど、精霊はみたことがなかったし、生前のアレクが精霊魔法を使えたなどとも、聞いたことがなかった。
「あなたの身体にまとわりつく精霊をみました。あなたの手を伝って、精霊が我が息子に入ってゆくのがみえました。精霊が、身体を浄化したのですね!」
俺にはみえなかったが、夫人には精霊がみえたらしい。
魔法を使った俺にはみえず、夫人にはみえるとは、どういうことなんだろう?
俺は混乱したが、表情に出ないように我慢した。
「――奥様! 坊ちゃまが!」
侍女が、あわてた声をあげた。
俺と夫人が、少年をみると、少年の眼が薄く開いていた。
夫人が声にならない声をあげて、屈みこんだ。
少年の眼がはっきりと開いた。何度も、まばたきをした。眼球が左右に動き、屈みこんでいる自らの母をとらえた。
「ははうえ……」
かぼそいが、意志を持った母を呼ぶ声が、はっきりと聞こえた。
夫人の眼から涙がこぼれた。ゆっくりと顔を伝い、一滴、二滴、三適とこぼれ落ちた。
「マルカム……」
夫人は、声をつまらせ、震える声でいい直した。
「マルカム、よく頑張りました……もう大丈夫ですよ」
「ははうえ……。すいません」
マルカム少年は、弱々しい声であやまった。
「いいえ、あなたは、何も悪くありません」
夫人は、息子の頭をなでた。
俺も、涙が出そうだったが、グッとこらえた。そばにいた侍女も、もらい泣きしている。
マルカム少年が、心地よさそうに眠り始めると、夫人は、また、俺の両手を握った。
「本当にありがとうございました。この御恩は忘れません」
何度も礼をいう夫人に、もう一度、選挙の支援をお願いして、屋敷を出た。
たくさんの贅沢な、この世界のお菓子をみやげにもらい、甘いモノの苦手な俺は、閉口した。イリアたちと屋敷の召使いたちに適当に分けて食べるよう、全部渡した。
アリアとイリアは、満面に笑みを浮かべ、喜んで持って帰った。あとで訊くと、相当な量があったのに、2日で食べてしまったという。また貰ったら、分けてほしいといわれた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。
猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。
もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。
すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。
主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。
――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました――
風景が目まぐるしく移り変わる。
天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。
移り変わる景色こそは、
第一天 ヴィロン。
第二天 ラキア。
第三天 シャハクィム。
第四天 ゼブル。
第五天 マオン。
第六天 マコン。
それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。
気付けば明星は、玉座に座っていた。
そこは天の最高位。
第七天 アラボト。
そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。
――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命
遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる