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1. 俺、異世界に巻きこまれる
―― 身代わりを引き受ける ――
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俺は、眉間にしわを寄せた。「俺は、アレク様ではないぞ」
この姉妹は、俺が日本人――守口耕平である事を、まだ疑っているのだろうか?
老女は、首を振りながら、
「わかっている。お主は、コウヘイじゃ、じゃが、アレク様になってほしい。――それが、わしらにとっても、お主にとっても、最善の策じゃと思うのじゃ」
「姿はアレクでも、中身は俺なのだから、すぐばれるぞ。役者の才能なんかないしな」
「アレク様は、結婚はしておらぬ。……一人暮らしじゃ。詳しいことは後で話すが、周囲から恐れられておる。……親しい者もおらん。貴族とのつきあい方を間違えなければ、大丈夫じゃ」
老女は、手をあわせ、おがむような仕草をした。
不思議なことに、老女たちの身体表現は、前世の世界とにている。問題なく理解できる。
イチかバチか……やってみるか。
どうせ、元の世界には帰れない。元の身体にも、もどれない。
俺は、ばあちゃん子だったので、年寄りの頼みには弱い。老い先短い人の頼みは、どうにも断れないのだ。ずうずうしい頼みだとわかっていても、つい引き受けてしまう。
「いいよ。やってみよう。もしばれても、そのあとの事は知らないけど」
「そうか――よかった!心配はいらん。甦りの魔法を使えるのは、この国では我らだけじゃ。なかに入っている魂が別人のものであるなど、疑う者など、おらん!」
老女たちは、とたんに生気を取り戻し、忙し気に動き始めた。
おおきなトランクを引っ張ってきたと思うと、中身は衣装でぎゅうぎゅう詰めだった。
「依頼主が用意した、アレク様の服じゃ。着てみてくれ・・・」
衣服のデザインに弱い俺には、ヨーロッパの中世風の衣装としかいえない、少女マンガの歴史もので見るような、ごてごてとした飾りのついたぶ厚い衣装。
そでを通してみると、思ったよりも軽かった。それに、暖かい。
転生に驚いて訴える暇がなかったが、ごわごわした半ズボンと、やはりごわごわした肌触りの悪い、大きな布の三か所に穴をあけただけのような服(この世界の下着?)しか着ていなくて、実は寒かったのだ。
「――お似合いじゃ。問題ないの」
老女は、満足げに眼をほそめる。
まあ、元々の、この身体の持ち主が着ていたのだから、似合うのは当たり前か。鏡がみたかったが、老女たちの引っ張ってきたのは、よく磨かれた銅製の四角い板で、いびつな像しか映っていない。明確な像の映る鏡をつくる技術は、この世界には、ないみたいだ。
アレク様の、服を着るときの癖や、物腰など、レクチャーを受けていると、どこかに出かけていたのか、姿のみえなかった中年の女が、あわてた様子で戻ってきた。
「姉者、たいへんじゃ! 宰相様が、ここへいらっしゃる!」
この姉妹は、俺が日本人――守口耕平である事を、まだ疑っているのだろうか?
老女は、首を振りながら、
「わかっている。お主は、コウヘイじゃ、じゃが、アレク様になってほしい。――それが、わしらにとっても、お主にとっても、最善の策じゃと思うのじゃ」
「姿はアレクでも、中身は俺なのだから、すぐばれるぞ。役者の才能なんかないしな」
「アレク様は、結婚はしておらぬ。……一人暮らしじゃ。詳しいことは後で話すが、周囲から恐れられておる。……親しい者もおらん。貴族とのつきあい方を間違えなければ、大丈夫じゃ」
老女は、手をあわせ、おがむような仕草をした。
不思議なことに、老女たちの身体表現は、前世の世界とにている。問題なく理解できる。
イチかバチか……やってみるか。
どうせ、元の世界には帰れない。元の身体にも、もどれない。
俺は、ばあちゃん子だったので、年寄りの頼みには弱い。老い先短い人の頼みは、どうにも断れないのだ。ずうずうしい頼みだとわかっていても、つい引き受けてしまう。
「いいよ。やってみよう。もしばれても、そのあとの事は知らないけど」
「そうか――よかった!心配はいらん。甦りの魔法を使えるのは、この国では我らだけじゃ。なかに入っている魂が別人のものであるなど、疑う者など、おらん!」
老女たちは、とたんに生気を取り戻し、忙し気に動き始めた。
おおきなトランクを引っ張ってきたと思うと、中身は衣装でぎゅうぎゅう詰めだった。
「依頼主が用意した、アレク様の服じゃ。着てみてくれ・・・」
衣服のデザインに弱い俺には、ヨーロッパの中世風の衣装としかいえない、少女マンガの歴史もので見るような、ごてごてとした飾りのついたぶ厚い衣装。
そでを通してみると、思ったよりも軽かった。それに、暖かい。
転生に驚いて訴える暇がなかったが、ごわごわした半ズボンと、やはりごわごわした肌触りの悪い、大きな布の三か所に穴をあけただけのような服(この世界の下着?)しか着ていなくて、実は寒かったのだ。
「――お似合いじゃ。問題ないの」
老女は、満足げに眼をほそめる。
まあ、元々の、この身体の持ち主が着ていたのだから、似合うのは当たり前か。鏡がみたかったが、老女たちの引っ張ってきたのは、よく磨かれた銅製の四角い板で、いびつな像しか映っていない。明確な像の映る鏡をつくる技術は、この世界には、ないみたいだ。
アレク様の、服を着るときの癖や、物腰など、レクチャーを受けていると、どこかに出かけていたのか、姿のみえなかった中年の女が、あわてた様子で戻ってきた。
「姉者、たいへんじゃ! 宰相様が、ここへいらっしゃる!」
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