ファンタジー/ストーリー4

雪矢酢

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第一章

三話 封印された想い

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「ニナ…」


倒れるニナを受け止めたレフト。
だが身体が異様に冷たい。
退避していたミミズクがバイオに駆け寄り支える。



失敗…したか。



その時、ニナはいきなり目を開く。
そして驚いたレフトの首を激しく掴む。

「ぐっ…ニナ?」

凄まじい力だ。
これは…魔力を完全に払えなかった…のか…。

「レフトーラ様…」

「くっ……レフト」

バイオは合体魔法の負荷で動けないが、アレサとオメガはすぐにレフトを救出に向かう。
だがニナは周囲に防壁を展開し二人を妨害する。

「ちょっと……まだ魔力が」

「うむ、いかん、失敗だ」

「……」

魔力がニナとレフトをつつむ。
しかし、彼女はすぐに両膝をついて防壁は消滅する。解呪こそ失敗したが彼女の身体へのダメージはかなり大きいのだ。その隙にレフトは距離をとりニナと対峙する。


「レフトっ!今いくわ」


アレサが叫び闘気を解放しようとする。だがそれをオメガが止める。

「抑えろアレサ、ここはレフトに任せるのだ」

「嫌だ、このままじゃ二人ともっ!!!」

オメガを振り払うアレサ。

「奥様……信じて…信じて下さいあの二人を…お願いです……信じて…」

バイオはその言葉を最後に意識を失う。
そんな彼女をミミズクが医務室へ連れていく。

「オメガさん、ここの指揮をお願いします。私たちは医務室へいきます。魔力のことは魔法を使う者に任せましょう。奥様、申し訳ないですが手を貸してくれますか」

ミミズクの正論に冷静さを取り戻したアレサは彼女に大人しく従った。

「私は魔法が使えない……わかったわ…オメガ、二人をお願いね」

バイオはミミズクとアレサによって医務室へ運ばれた。

「うむ、疲労しているかと思うがもう少し耐えてくれ」

オメガは二人から指揮権を預かり魔術師に指示する。
ニナは目こそ開いてはいるが廃人のようで、その様子から微弱ではあるがまだ魔力に支配されているようにみえる。


「…ニナ、聞いてほしい」

「…」

するとレフトは剣に手を置く。
その動きに身構えるニナ。
レフトは無言で剣を抜刀する。
黒い炎を宿した刀身はニナの残り少ない魔力を確実に燃やしていく。
それに危険と判断したのかニナはレフトに突撃し腹部に強烈な一撃を放つ。
それを抵抗もせず受けるレフト。

「……できなかったんだ……」

無抵抗のレフトに戸惑うニナ。
その彼女を抱きしめる。

「…もう解呪はできない…ならば…」

するとレフトは剣で彼女の肩を突き刺す。
と同時に自分の肩をも貫通させ共に大ダメージを受ける。
ニナはすぐに剣をすり抜け距離をとる。

「……終わりにしようニナ…」

レフトは剣を両手で構えた。
ニナは身構えてこそいるが、身体はボロボロで立っているのがやっとである。時折歯をくいしばり何かに抗っているようにも見える。

「…」

ニナは…魔力と…戦っているんだ。

レフトは強く剣を握る。
オメガはレフトの決意に何かを察知しキューブで槍を展開する。

「レフト、一人で背負うつもりか…やめろ」

ニナはとうとう膝をついてしまう。
そして剣の前に首をつき出した。
彼女はレフトに討たれることを望んだ。

「…」

無言のニナ、その眼を直視できないレフト。

「………くっ…」

「うむ」

レフトは後ろを向き、脱力し剣を下に置いた。
その様子に安堵するオメガ。
だがその時、どこからか鋭く洗練された気配をオメガとレフトは感じた。

「…なんだ」

「うむ」

二人はその気配がする方向を特定した。

「見事だよレフトーラ」

清々しい声が辺りに響く。
その声の主はレフトとニナの間に入る。

「下がってくれ、ここは任せろ」

謎の人物から発する不気味な圧が周囲をつつむ。

「…」

「うむ」

レフトは声が出ない。
オメガは敵か味方わからないこの存在に一歩が出せない。

「この者を失うわけにはいかんだろ。だから道はつくる、後はレフトーラ、お前次第だ」

するとその者は神々しい鞘から刀を抜刀、ニナの心臓を躊躇なく突き刺す。
切先からすぅと貫通するとニナの残存していた魔力は弾け彼女は音もなく倒れた。

「さあ、いけ」

そして謎の人物はレフトに魔法を放つ。

「彼女の魔力は解呪した。後は精神だ、お前が彼女を連れ戻すんだ」

魔法にかかるとレフトも倒れた。
あっという間の出来事に周囲は沈黙していた。
その者はオメガをみる。

「女性が目覚めたらこの薬を飲ませるといい」

小瓶をオメガに投げその者は去った。
その場にいた人たちは何が起きたのか理解できなかった。
オメガは魔術師たちに礼をしてこの場を解散。
ガルシアやソロモンたちがニナとレフトを医務室へ運ぶ。
一人残ったオメガはボソっと呟いた。



「うむ…あれは解魔刀だ……」







レフトはニナの精神世界をさまよっていた。


「ここはニナの心の中かな…」

薄暗い一本道をひたすら進むレフト。
自分も腕を負傷した時にさまよっていたため、多少免疫がある。


「言葉にできない…なんとも言えぬこの感情はいったい…」


ニナの心にある感情がわからないレフト。
すると目の前に見覚えがある光景が広がる。

「…ここは子供の頃に見た…」

懐かしい。

「なぜニナはここを…」

するとニナとその父であるラオスが登場する。

「お父さん、どうしてレフトと暮らせないの?」

「レフトはね、ここにいると危険なのだよ」

「危険?」

「そう、うちの家系は敵が多い。だからオメガやアレサに守ってもらっているのだよ」

「ならレフトも…」


なんだこれは…。
ニナが子供の頃に何で…。
これは…いったい。


するとニナが背後からゆっくりと現れる。


「ごめんね、びっくりさせて。それに私、大失敗しちゃったわね」

「ニナ…」

「私はここまでだったのよ」

「えっ」

うつむくニナ。

「みんなのように私は戦いが得意なわけじゃないわ。悪魔は怖いし、ドルガと対峙したら何もできないかもしれないわ」

「…」

「あなたは強くなった。ほんと、びっくりするくらい強くなったわ。だから私の役目はもうおしまい」

「ニナ、何を言っているのかわからない」

「…」

「こんな事言うのはおかしいけど…君は何者なんだ?」

「…」

「まあいいか。いつも助けてもらっていたし、機関じゃいちょう先輩だったけど…君はとても強く頼もしかった。今もだよ」

「強くないわよ、私は必死だったの」

強く否定するニナ。

「…そんなのみんな知ってるよニナ。それが君だろ?」

「えっ…」

「人は弱い、悪魔だってそうさ、アンドロイドさえもね。みんな弱いんだよ」

「だから寄り添うだの言うのね?」

「いや、弱いと思えば、そんな自分を変えようと思うでしょ?」

「…なにその精神論みたいなのは…」

いつものニナの顔だ。
よかった、心の底にある彼女はみんなが知るニナだ。


「精神論…好きでしょ?」

「ふふふ」


ニナは消えた。
幻覚のようなニナは笑顔だった。
これでいいはずだ。
あとはここを出れば…。


「レフト…逃げて」


ん、なんだこの記憶は…。



「怖いよ」




これは…。


そこには子供のニナとレフトがモンスターと戦っている。
モンスターは大きく二人に勝ち目はない。


「大丈夫、大丈夫だからね」

モンスターの注意をひくニナ。
レフトは怯えて震えている。

凛々しいニナの気迫に怯んだモンスターは、怯えているレフトへと狙いを変更する。

「ダメ、レフト逃げてっ」

ニナの叫びはむなしくレフトはモンスターの打撃を受け気絶してしまう。
そんなレフトをさらにいたぶるモンスター。

「やめろっ!」

ニナはモンスターへ殴りかかるが強烈な一撃をもらってしまう。
激しく吐血するニナ。

「…や…やめて…おと…弟を…」


弟?



その光景は急に消滅する。


「ニナ…どういうことなんだい?弟って…まさか…」

「…」



「ニナ、あんた弟がいるんだって?名前は?」

「うむ」



そうか…そうだったのか…。
アレサとオメガ、先生は知っていたんだ。
アレサはニナと仲が良かった。
だからシーキヨで軍にいたアレサへ彼女は情報を流したんだ。
カレンが絡んで内心嫌だっただろうが…アレサとの出会いはこういうことだったのか。


「レフト」


考え込むレフトの前にニナが再び現れる。

「ニナ…君は」

「言わないでレフトっ!」

突然怒鳴るニナ。

「お願い、知らないまま、終わらせたいの…」

「終わらせたい?」

「あなたは優しすぎるわ、何でバイオの言う通り全力を出さなかったのよ」

「くっ…それは…」

「あの人は瞬時にそれを見抜き、自分で不足する魔力を補った」

「…」

「でもね…レフト」

「ん?」

「ありがとう、そういう優しいあなたが大好きよ」

「ニナ…?」

目の前のニナが薄れゆく。

「言ったでしょ?もう私は終わりなのよ」

「ふふ」

「レフト?」

「らしくないねニナ」

…ニナは自分を見失っているだけだ。
ここで、彼女を失うわけにはいかない。
そのためにはぶつけるしかない。


気持ちをぶつけるしかないだ。


「何を言っても私は聞かないわよ、あなたならわかるでしょう?」

「さあ、どうだろうね。正直混乱しているよ」

「混乱?」

「なぜニナの精神世界にいるのか、なぜ共通する記憶があるのか…」

「…」

「聞いてほしい」

「何を?」

「力をかしてほしい」

「…」

「いろいろとわからないことがあるけど、そんなのはこの際どうでもいい。ニナ、お願いだ、力をかしてほしいんだ」

「ふふふ」

「ダメでもあきらめないよ。ここを出て一緒に帰ろう」

「必死ね」

「えっ…」

「私もね、そうだったの。必死になって後先考えず、とにかく進んでいたわ…」

「似ているんだよ、ただそれだけだよニナ」

ニナの瞳から涙が溢れる。

「ねえ、涙が…止まらないわ」

「そんな時もあるよ。後で水分補給しよう」

「ふっ」


笑顔が戻った。


そしてレフトは優しくニナを抱きしめる。
身をゆだね安堵するニナ。


「…レフト…」


次回へ続く。
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