ファンタジー/ストーリー4

雪矢酢

文字の大きさ
26 / 27
第ニ章

十話 帰るべきところ

しおりを挟む
レフトはゆっくりとベットから起き上がる。
寝たきりだったので身体中がおかしい。


「過酷な戦いだった…」


身体のチェックをしているレフト。
そこへ突然セフィアが入室してくる。


「あら、起きたのね」


「あっ」


一瞬動きが止まるレフト。
赤面する彼を気にすることもなくセフィアはお茶を出し椅子に座る。
レフトは恥ずかしながらもお茶を手に取りベットに座った。


「レフト、あなたは十分戦ったわ」


「えっ」


「実はね、あなたが寝ている間、私、アレサと話をしたの」


「ちょっと待って、いったい何が?」


「少し歩きましょう。さあ手を」


セフィアに促され外に出たレフトは言葉を失った。


空が赤い。
夕焼けとかそんなレベルではない。
空は青いという常識が崩壊した。
赤いというより紅いと表現すべきだろうか。
その異様な空は禍々しく、まるでこの世の終わりを告げる終末感がある。


「これは…」


「不気味で心を不安にさせる空の色ね、だけど生物への害というか影響はないみたい」


「…そう…影響…ね」


「ふふふ、ねえ、みてみて」


そういうとセフィアは右腕をレフトに見せる。
傷ひとつないキレイで美しい腕だ。


「傷がない、よかった」


「ミミズクさんが優秀な先生を紹介してくれたの。その人にあなたのことを話したら、驚いていたわよ」


「…」


無邪気に笑うセフィア。


…なんなんだ?
まるで時間が止まったようなこの感覚は…。
セフィアはまるで別人だ…いったい何があった?
もしやこれは夢か…。


「あなたはね、魔力を失ってしまったのよ。たいていの敵なら剣術だけでも倒せると思うけれど……」


するとセフィアは一枚の記事をレフトに渡す。


「ん、レフトーラ、カルト教団の前に倒れる?」


魔力を失い一般人となったレフトを保護するため機関やヘルゲートはレフトが倒れたとの報道をした。


「安全な集落があるのよね?そこで暮らして」


「ちょっと…待ってよ」


「大丈夫、あなたの代わりに私が戦うわ。盾も復元しているし、みんなとも仲良くやっているわ」


「それは良かった。けど、いきなりの戦線離反は…」


急に立ち止まるセフィア。


「私ね、あなたと戦って思ったのよ…」


「えっ」


「あなたは優しすぎる…」


「…」


「私と勝負した時、折れた剣をわざと腕に投げたわね…」


セフィアは右腕をレフトにみせる。


「なんて言えばいいのか……」


「その優しさは時に弱点となる……今回だけではないはずよ…あなたが加減をしたその代償はね、周囲の者たちの犠牲となるのよ……」


セフィアは上空を見上げゆっくり指差す。


「この先の戦いは…躊躇したら…世界が終わってしまう…」


紅い空は最初こそ不気味であったが、目が慣れてくると特に気にはならなくなる。


「だけどね、私はあなたの優しさに救われたわ」


「ちょっと待って、いったい何を…」


セフィアはレフトの目を覗き込む。
急接近する彼女は無邪気でとても大盾を扱う人物にはみえない。


「ハザークメテオを止めなければ。それに各地で残存する教徒が暴れているとの報告もあるわ」


「…暴れて…いる?」


「レフト、私は復興機関の一員になったの」


「機関の一員に?」


「うん、復興機関の本部は教徒やならず者に占拠されているの」


「本部が…」


「ハザークメテオが動き出すのにはまだ猶予があるけど…私は兵器が動き出す前に本部を解放するつもりよ」


「…」


「それだけじゃない、オメガとフラット、そしてニナはエンデへ向かったわ」


「エンデに?」


するとセフィアはいきなりレフトに抱きつく。


「ちょ…」


「ハザークメテオだろうが、武装集団だろうが、エンデだろうが、私はあらゆるモノから世界を守ってみせる」


「セフィアさん…」


…信じていた者に裏切られ傷心しているんだ。
つらくて誰かに泣きつきたいのだろうけど……。
メテオを起動させたのは彼女だ。
責任を感じているのだろう。
無邪気なふりをしているが…つらいのだろう。
…アレサはそれに気づいたか……。


「私は…守ってみせる」


レフトは彼女を優しく抱きしめる。


「セフィア、また会おう、ヘルゲートはお願いするよ」


「うん、任せて」


…彼女は未来のため覚悟を決めた。
自分がすべき道をもっているんだ…。
…しっかりしなくては…。


レフトは秘密裏にヘルゲートを後にした。


紅い空の下、レフトはある場所に向かって走った。
武装集団にハザークメテオ、そしてエンデ…。
迫りくる世界の終焉。
あらゆる方向から滅亡がたたみかけてくる、かつてない絶望的な状況。
このまま大陸は……世界は終わってしまうのか…。



…終わらせるわけがないだろう。
世界を守りたいと思っているのは君だけじゃない。
多くの人や……いや人だけじゃない全ての生物が…。



「レフトーラさん……」



「…君は……デルタ」




ヘルゲートから少し離れた道に、まるで待ち伏せをしていたかのように立っているデルタ。


「セフィアさんはヘルゲートですね…」


「そうよ、復興機関に入り、崩壊した本部を解放すると…」


「なるほど、ならば急いで本部へ向かうべきですが…」


デルタは突如身構える。


「デルタ?どういうことだい?」


身構えるレフト。
剣に手をおこうとするが幻獣の剣は消滅している。


「大丈夫、あなたを攻撃するつもりは全くありません。今はそんなことをしている場合じゃあない」


その言葉にひと息つくレフト。
自分のおかれている状況を痛感した。


「それを聞いて安心したよ」


「ところでレフトーラさん、もしかしてアレを取りに行くつもりですか?でしたら既に手遅れですよ?」


「ん、アレとは?」


するとデルタは背負っていたアレをレフトにみせる。


「バカな…君が…」


「レフトーラさん、これはもともと父の所有物ですよ」


魔封剣。


デルタは魔封剣を持っている。


「アレサさんが集落へ案内してくれました。ジジさんに封印場所を聞き持ち出したのです」


「扱えるのかい?」


「はい、違和感は多少ありますが…持ち出せたので。それをあなたに報告しようと…」


「…」


「あなたは十分戦いました。父があなたの師に、師はあなたに、そしてあなたは僕に。この継承されていく魔封剣を持ってセフィアさんの剣となります」


「そうかい…」


「集落にてアレサさんが待ってます。あとのことは僕らに任せて下さい」


デルタは変わった。
世界の危機に立ち上がったのだ。
彼は一礼し足早にヘルゲートへ向かった。


去りゆくデルタを背中にみたレフトは感じたことがない気持ちに襲われた。


「…言葉に…ならない気持ちって…あるんだな…」



大切な何かを失い廃人のようにふらふらとしながらも集落へたどり着いたレフト。
仲間はそれぞれ動き出した、だが自分は…。



そんなレフトをアレサとヴァン、それにジジ、ホープが出迎える。


「…帰って…きたんだ…」


レフトの異変にアレサが気づき彼を抱きしめる。


「うぅ…うわぁぁ……うわあ」


それは無力な自分を嘆く叫びか。
剣を失ったかなしみか。
世界が終わってしまう絶望感なのか。
泣き崩れるレフトをアレサは無言で抱きしめていた。


そして紅い空からは雨がポツリとふってきた。


ホープらはレフトの姿を確認するとジジの屋敷へ入っていった。



「おかえりなさい」



「…うぅ…ただいま…」



「レフト、聞いてくれるかしら?」



「…うん」



「私、あなたに会えて本当に良かった」



雨がひどくなる。
アレサの言葉にレフトは冷静さを取り戻した。
彼女はいつも味方でいてくれる。


あなたに会えて良かった?
アレサ、それはこっちのセリフだよ…。


トップオブザワールド、ガイアはシーキヨとその周辺地域にヘルゲートの市民を避難させた。
ゼノンブールがヘルゲートは激戦地になると予感したからである。
兵士や機関の戦士、魔術師、さらにはお金で動くハズの傭兵たちもが残ることを志願。
国はかつてないほど武装し、来るべき時に備えていた。


決戦の地はヘルゲート。


ガルシアはセフィアとアンを率いて機関の本部へ向かう。
セフィアと合流すべく走るデルタ。
陥落した本部はかつてのヘルゲートのように危険地帯となっているようだ。



「なんとも言えぬ心境だぜ…今ならレフト、お前の気持ちが少しわかる。オメガやニナと組んだお前はこんな気持ちだったのかな…」


「ガルシア、何をぶつぶつと。覚えておくのだ、セフィア様は我々を圧倒する力を有しています」


「アン、止めなさい。今の私たちはガルシアさんの部下。戦いは単に力が強いだけでは勝てない」


「ですが…」


「…ううむ」


アンは最初こそ盾に洗脳されていたが、本心でセフィアを慕っているのだ。
教団は過激な連中が多かったが、アンやセフィアのようにおとなしい人格者は確かに存在していた。

ガルシアはそんな二人を率いるという大役をバイオから頼まれた。


「まあ…仲良くやろうぜ、セフィアにアン」


「ガルシア、セフィア様を呼び捨てするでない」


「うぅ」


「アン、いいのです。ガルシアさん、お気にせず」


それぞれが世界の終焉を阻止すべく動き出す。
エンデとはどんな国なのか。
オメガ、フラット、ニナの三人は無事にたどり着けるのか。
完全に戦闘力を失ったレフトだが彼は大陸を救うことができるのか…。


次巻へ続く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...