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【本編】動き出す作戦
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「本当に…生きていた…のか」
「久しぶりねクロス。今はクロス様と跪いたほうがよいかしら」
「…雰囲気が…以前と違う…」
クロスはすぐに以前のアイと違うことを看破した。
「何者だ、アイ殿はどこだ」
「私はアイよ。これが本当の私」
クロスが大声を出したことで、大勢の兵士がアイとコトを囲む。コトは身構えるがアイは毅然としている。
「くっ…面影はあるが、まるで別人。一体どうなっているんだ」
「クロス、世の中は私たちが思っている以上に広く、もう両国で争う時代は終わったのよ」
「…正気か…皆が恐怖した騎士の発言とは思えんぞ」
「恐怖の騎士はもういないわ。ただあなたがそれを望むのならば、私はもう一度兵士の前でそれを示すわ」
思わぬ言葉に考え込むクロス。
ブラクを呼び助言してもらっているようだ。
「アイ様、お見事な物言いです」
そっと囁くコトに笑顔で応えるアイ。
明らかに警戒しているクロスをどう信用させるかが重要だ。
「納得ができぬわ。この状況でいきなり帰国してくるのが…敵国の策略と考えるのが妥当であろう」
「そうね。何か争いがあったようだし、あなたの言うようにタイミングが悪いわね。策略と思われても仕方ないわ」
「…」
沈黙するクロス。
「生かすも処刑するもあなた次第よ。好きにするといいわ。私はあなたの許嫁でしょう?従う覚悟があるから私は帰ってきたのよ」
「…」
「クロス、処刑はいつでもできる、これはあなたの言葉です。恐怖の騎士は兵士たちを鼓舞するのに必ず役立ちます。これを機に敵国へ今一度攻め込むのです」
「…うむ…わかった…」
クロスは一瞬だけ目を閉じて気持ちを切りかえたようだ。
「アイ殿、婚姻を兵士たちの前で宣言する。さすれば兵士たちは奮起し、かつてないほど士気が上がるだろう」
アイたちの策略にのったクロス。
おそらく信用してはいないだろう。
それでもこの状況を打破するには最善策であるとクロス、ブラクは思いアイの提案を受けた。
「ところでアイ殿、その執事のような者は?」
話がまとまり、身なりの整ったコトについて聞くクロス。
「従者よ、名はコト」
「初めてお目にかかります、コトと申します。お世話になります」
深々とお辞儀をするコト。
それをお辞儀で返すクロス。
「ふむ、コト殿か…」
「何でしょうか」
なんとも険悪な空気というか微妙な雰囲気となった。ブラクはあたふたしており、それをみた兵士たちもざわついている。
「…なるほど…」
「私はアイ様の従者です」
「わかった」
「クロス、婚姻するならすぐ準備したほうがよいのではないかしら」
アイの言葉で冷静になるクロス。
我に戻り、コトに一礼する。
「失礼した。アイ殿の言うとおりだな」
二人は部屋に案内され、休むように指示された。豪華で落ち着いた雰囲気の部屋で高級感がある。
二人はようやくひと息ついたといった感じだ。
「潜入は上手くいったわね」
「はい、ただあの巨大で重厚な北門を何とかしないと白い国の兵士たちは全滅します」
「ええ、あれは確か緊急レバーがあったはず。ただ…」
「問題があるのですね」
「はい、レバーを下げると門が崩落して、本人とその周囲に被害が発生します」
「なるほど。それは厄介ですね。ならば私がやります」
「えっ、でもそれではコトさんが…」
「大丈夫です。生還してみせます」
「でもタイミングが難しいわ。白い国の部隊が到着する前にやらねばならないだろうし、そもそも二人が別々に行動していたら…何かあると疑われてしまうわ」
「そうですね。私たちがレバー操作をするのは難しい」
「一人あてがあるのでレバーは大丈夫よ。それよりもタイミングが重要だわ」
この策略はいくつものハードルを越えねばならない。
困惑するアイ。
「おそらくですがここへ部隊が到着するにはまだ時間があります」
「そうなの?」
「はい、まず上層部が捕虜の二人を尋問します。その間に部隊を編成し尋問で情報を得てから出陣となると思います」
「…そうね、どちらというと黒い国の方が好戦的な記憶があるわ」
「婚姻の日程が決まってから動き出しても大丈夫かと思います。まず怪しい動きは避けてクロスの信用を得ましょう」
「そうよね…こうして実際に育った国に戻るというのは少々複雑な気持ちだわ」
アイの表情は暗い。
「アイ様、大丈夫でしょうか」
「この国が良いとかじゃなくて、寂しいのよ…」
「いつもスル様が側にいましたからね。それがここ何日は私と二人でしたから」
コトはアイの寂しさを理解していた。
アイにとってスルは特別であり、この策略はスルのためといっても過言ではない。
「…スル…」
一方そのスルは…
黒い国に向けて出陣していた。
ザッザッと進軍する白い国の兵士たち。
立派な鎧をまとい兵を率いるは白い国の将軍ワイト。
国で五本の指に入る猛者で、武勇だけでなく指揮能力も非常に高く兵士たちからは絶大な信頼がある。
ワイトが隊を率いている以上、白い国はこれで争いを終らせるというのが現実的であるといえる。
「はぁはぁ」
隊に着いていくのがやっと、という兵士がいる。
「大丈夫?」
「…はぁはぁ…今日が初陣でして…」
「そうか」
スルはそんな若い兵士の肩をポンと叩く。
「気合いが入りました。ありがとうございます」
コトの予測は当たっていた。
尋問である程度の情報を得た白い国は、勝利を確実とするためワイト将軍が指揮する部隊を編成した。
白い国とて無策で進軍したわけではない。
黒い国での戦闘が近づいている。
「久しぶりねクロス。今はクロス様と跪いたほうがよいかしら」
「…雰囲気が…以前と違う…」
クロスはすぐに以前のアイと違うことを看破した。
「何者だ、アイ殿はどこだ」
「私はアイよ。これが本当の私」
クロスが大声を出したことで、大勢の兵士がアイとコトを囲む。コトは身構えるがアイは毅然としている。
「くっ…面影はあるが、まるで別人。一体どうなっているんだ」
「クロス、世の中は私たちが思っている以上に広く、もう両国で争う時代は終わったのよ」
「…正気か…皆が恐怖した騎士の発言とは思えんぞ」
「恐怖の騎士はもういないわ。ただあなたがそれを望むのならば、私はもう一度兵士の前でそれを示すわ」
思わぬ言葉に考え込むクロス。
ブラクを呼び助言してもらっているようだ。
「アイ様、お見事な物言いです」
そっと囁くコトに笑顔で応えるアイ。
明らかに警戒しているクロスをどう信用させるかが重要だ。
「納得ができぬわ。この状況でいきなり帰国してくるのが…敵国の策略と考えるのが妥当であろう」
「そうね。何か争いがあったようだし、あなたの言うようにタイミングが悪いわね。策略と思われても仕方ないわ」
「…」
沈黙するクロス。
「生かすも処刑するもあなた次第よ。好きにするといいわ。私はあなたの許嫁でしょう?従う覚悟があるから私は帰ってきたのよ」
「…」
「クロス、処刑はいつでもできる、これはあなたの言葉です。恐怖の騎士は兵士たちを鼓舞するのに必ず役立ちます。これを機に敵国へ今一度攻め込むのです」
「…うむ…わかった…」
クロスは一瞬だけ目を閉じて気持ちを切りかえたようだ。
「アイ殿、婚姻を兵士たちの前で宣言する。さすれば兵士たちは奮起し、かつてないほど士気が上がるだろう」
アイたちの策略にのったクロス。
おそらく信用してはいないだろう。
それでもこの状況を打破するには最善策であるとクロス、ブラクは思いアイの提案を受けた。
「ところでアイ殿、その執事のような者は?」
話がまとまり、身なりの整ったコトについて聞くクロス。
「従者よ、名はコト」
「初めてお目にかかります、コトと申します。お世話になります」
深々とお辞儀をするコト。
それをお辞儀で返すクロス。
「ふむ、コト殿か…」
「何でしょうか」
なんとも険悪な空気というか微妙な雰囲気となった。ブラクはあたふたしており、それをみた兵士たちもざわついている。
「…なるほど…」
「私はアイ様の従者です」
「わかった」
「クロス、婚姻するならすぐ準備したほうがよいのではないかしら」
アイの言葉で冷静になるクロス。
我に戻り、コトに一礼する。
「失礼した。アイ殿の言うとおりだな」
二人は部屋に案内され、休むように指示された。豪華で落ち着いた雰囲気の部屋で高級感がある。
二人はようやくひと息ついたといった感じだ。
「潜入は上手くいったわね」
「はい、ただあの巨大で重厚な北門を何とかしないと白い国の兵士たちは全滅します」
「ええ、あれは確か緊急レバーがあったはず。ただ…」
「問題があるのですね」
「はい、レバーを下げると門が崩落して、本人とその周囲に被害が発生します」
「なるほど。それは厄介ですね。ならば私がやります」
「えっ、でもそれではコトさんが…」
「大丈夫です。生還してみせます」
「でもタイミングが難しいわ。白い国の部隊が到着する前にやらねばならないだろうし、そもそも二人が別々に行動していたら…何かあると疑われてしまうわ」
「そうですね。私たちがレバー操作をするのは難しい」
「一人あてがあるのでレバーは大丈夫よ。それよりもタイミングが重要だわ」
この策略はいくつものハードルを越えねばならない。
困惑するアイ。
「おそらくですがここへ部隊が到着するにはまだ時間があります」
「そうなの?」
「はい、まず上層部が捕虜の二人を尋問します。その間に部隊を編成し尋問で情報を得てから出陣となると思います」
「…そうね、どちらというと黒い国の方が好戦的な記憶があるわ」
「婚姻の日程が決まってから動き出しても大丈夫かと思います。まず怪しい動きは避けてクロスの信用を得ましょう」
「そうよね…こうして実際に育った国に戻るというのは少々複雑な気持ちだわ」
アイの表情は暗い。
「アイ様、大丈夫でしょうか」
「この国が良いとかじゃなくて、寂しいのよ…」
「いつもスル様が側にいましたからね。それがここ何日は私と二人でしたから」
コトはアイの寂しさを理解していた。
アイにとってスルは特別であり、この策略はスルのためといっても過言ではない。
「…スル…」
一方そのスルは…
黒い国に向けて出陣していた。
ザッザッと進軍する白い国の兵士たち。
立派な鎧をまとい兵を率いるは白い国の将軍ワイト。
国で五本の指に入る猛者で、武勇だけでなく指揮能力も非常に高く兵士たちからは絶大な信頼がある。
ワイトが隊を率いている以上、白い国はこれで争いを終らせるというのが現実的であるといえる。
「はぁはぁ」
隊に着いていくのがやっと、という兵士がいる。
「大丈夫?」
「…はぁはぁ…今日が初陣でして…」
「そうか」
スルはそんな若い兵士の肩をポンと叩く。
「気合いが入りました。ありがとうございます」
コトの予測は当たっていた。
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