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【本編】騎士の最後
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黄色い信号弾が上がった。
一斉に皆が空を見る。
次の瞬間黒い国の城門は崩落した。
ものすごい轟音とともに重厚であった門が崩れ落ちた。
そして白い兵士が城内へと攻め込んできた。
奇襲に黒い国は対応できず兵士は次々と討たれていった。市民は壁外へと逃亡させ、外の部隊が捕縛し被害が拡大しないように対応している。
「…これは…」
呆然とするクロス。
「クロス、すぐに下がって逃げてくっ」
その瞬間、ブラクに数本の矢が刺さり、そのうちの一本は喉に命中。
「…にげ…」
声にならない訴えで伝えるブラク。
アイはすぐさま身を低くして、ブラクを寝かせて気道を確保した。
「アイ殿…」
「身を低くくしないと的になるわ。残念だけど…ブラクは助からない。ここに置いていくわ」
スゥスゥとかろうじて息をしているが瀕死のブラクを抱えては逃げられない。
「くっ…何故攻めてくるのだ」
白い国の進軍に憤るクロス。
その様をみてアイは話す。
「かつて私たちが侵攻した地域の市民は今のあなたと同じ気持ちだったと思うわ」
「…くっ…」
「私はここで死ぬわけにはいかない。だから逃げるわ」
アイは勝負に出た。
ドレスを破り動きやすいように縛った。
逃走の意志を示せば必ずクロスはついてくると思ったからだ。
動揺し不安定な状態の彼なら討てる…。
案の定クロスはあとを追ってきた。
そして市街に出た時、アイは討たれた兵士の剣を手に取った。
攻め込まれているが、市街は破壊されることなく城に向かう兵士たち。
「クロス…まもなく城は堕ち、この国は終わる」
「んっ…どうしたのだ、アイ殿…逃げないと…」
「貯水池であなたと対峙した後、私は白い国に救助されたのよ」
「なっ」
「そこで一人の兵士に恋をしたわ」
「ちっ…やはり…敵の手に堕ちていたか…」
クロスは転がっていた剣を持つ。
それをみたアイは剣を構える。
「私は全身の骨が砕けて記憶を失ったわ。今こうして立っていられるのは多くの人々が治療し協力してくれたからよ。そしてそんな私を支えてくれる人がいたのよ」
決闘が始まる。
両者共に隙のない斬撃を繰り出し互角といったところだ。
「くっ…」
全身の骨が砕けた人間の動きじゃないぞ…。
以前より強い。
そしてこのままだと負ける…。
クロスは強者であり、強者は強者に敏感である。
アイの動きは負傷者の動きとは思えず、精神に乱れがある状態では勝てないと判断した。
「…わかった、負けを認めよう」
そう言うとクロスは剣を捨てた。
急な投降に攻撃を躊躇するアイ。
だがその一瞬の隙に強烈なストレートパンチがアイの腹部に命中した。
吐血し凄まじい威力により吹き飛ぶアイ。
「アイ殿、武力だけでは戦いには勝てないぞ」
そう、以前なら投降など無視して斬り捨てていただろう。変わったアイの物言いから弱さを冷静に分析し、クロスは戦闘に応用した。
ゆっくりと立ち上がったが満身創痍なアイ。
「…くっ…」
「しゃべると激痛だろう。内臓へのダメージが大きいだろう。すぐに治療したほうがいいぞ。あなたを愛する者は物言わぬあなたと暮らすことになるからな」
表情が歪み倒れるアイ。
言葉を発せず顔には涙がにじんでいる。
それでも剣を取りまだ戦おうとしている。
「よかろう…その闘志、確かに見届けたぞ」
アイに近づき剣を取るクロス。
刀身を確認し首に狙いを定める。
気絶する寸前であり抵抗することができないアイ。
「さらばだ」
振り下ろした剣は、突如放たれた矢が腕に命中し首をそれた。
「っ…なにやつ」
アイの表情が緩む。
「その女性から離れろっ」
スルだ。
「白い国の兵士か。もはやこの国に未練はないが…お前ら白い兵士には少しでも悪夢をみせてやらんとな」
そう言うと狂気のクロスはものすごい剣幕でスルに襲いかかる。農民出身のにわか仕込みの剣術では太刀打ちできず、すぐに剣を奪われてしまい、右腕を貫かれてしまった。
「バカめ、大人しくしておれば怪我することもなかっただろう」
アイは這いずってスルの元へいく。
「…強い…だけど…引くわけには…」
スルは立ち上がり再びクロスと対峙した。
「死にたいらしいな。ならば…」
クロスはそう言い放つとスルを突いた。
「心臓は外しておいた。二人で仲良く逝くがよいわ」
「ぐはっ…」
スルは左胸を突かれ倒れた。
天気が急変しお昼過ぎだがとても暗い。黒い雲が国を覆い今にも雨が降りだしそうだ。
「…ス……ル…」
二人は寄り添って再開した。
アイはスルに身体を預け、スルは優しくアイを抱きしめる。
「遅くなって…ごめんね…」
二人はもう離れることはないだろう。
「ちっ…正面を突破するしかないか」
逃亡を始めたクロスを多数の白い兵士が包囲する。
「なにっ…」
そして将軍ワイト、参謀とコトが立ちふさがった。
アイたちの姿を見たコトは絶句した。
医療部隊がすぐに二人を救出し撤退。
城は堕ちたようで、残存勢力や敵将クロスの捜査中だったようだ。
「なるほど。この部隊の隊長というわけか…それにコト殿…これはさすがに逃げられないな」
「…将軍、ここは私にお任せください」
コトが静かな闘志を燃やす。
「因縁があるようだが、必ず生きて捕縛し本国へ連れ帰る。約束できるか」
「もちろんです。ただ手足の一本二本はお許し下さい。私とて人間。大切な人が痛めつけられて、それを黙って見過ごすことはできません」
「変わったなコト…良い。では我々は城へ向かう。シルとソルはこの場に残り見届けよ」
「はっ」
コト、そして双子のシルソルが残った。
周囲は真っ暗になり稲光が発生している。
「貴様は許さんぞ」
「従者に何ができっ」
クロスは構える間もなくコトから一撃を受ける。
さらに顔面を連打された。
「ぐあっ…」
ズルズルと後退するクロス。
アイと同様に腹部への一撃は重く顔面は崩壊。
それでもまだ立って戦おうとしている。
「…やるな…」
クロスはコトを挑発する。
自分を生かして捕らえよとの命令を聞いており、ボコボコにされても死ぬことはないと思っているからだ。
「自分は助かると思っているのか」
そんなクロスにコトは問う。
「くっくっくっ…白い国がどんなとこか楽しみ…だ」
崩れた顔だが、笑っているのがよくわかる。
「おろかだな…漆黒の騎士…」
コトの言葉に困惑するクロス。
やれやれという感じでコトは今後について説明した。
「白い国へ着いたら争いの戦犯として罰せられる。態度次第だがその調子では厳刑でしょう」
「…」
争いは黒い国の王ロクが降伏を受け入れたことにより終結した。
マクロは兵士に武器を捨てるよう命じ被害は最小限だった。
命を落とした市民がいないこの戦いは、ワイトの采配とマクロとロクが早期に降伏を受け入れたのが大きい。
勝ったものが蹂躙するのは蛮行であるという思想のもと、白い国は黒い国の独立と今後は貿易など国交を構築するようになった。
一斉に皆が空を見る。
次の瞬間黒い国の城門は崩落した。
ものすごい轟音とともに重厚であった門が崩れ落ちた。
そして白い兵士が城内へと攻め込んできた。
奇襲に黒い国は対応できず兵士は次々と討たれていった。市民は壁外へと逃亡させ、外の部隊が捕縛し被害が拡大しないように対応している。
「…これは…」
呆然とするクロス。
「クロス、すぐに下がって逃げてくっ」
その瞬間、ブラクに数本の矢が刺さり、そのうちの一本は喉に命中。
「…にげ…」
声にならない訴えで伝えるブラク。
アイはすぐさま身を低くして、ブラクを寝かせて気道を確保した。
「アイ殿…」
「身を低くくしないと的になるわ。残念だけど…ブラクは助からない。ここに置いていくわ」
スゥスゥとかろうじて息をしているが瀕死のブラクを抱えては逃げられない。
「くっ…何故攻めてくるのだ」
白い国の進軍に憤るクロス。
その様をみてアイは話す。
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「…くっ…」
「私はここで死ぬわけにはいかない。だから逃げるわ」
アイは勝負に出た。
ドレスを破り動きやすいように縛った。
逃走の意志を示せば必ずクロスはついてくると思ったからだ。
動揺し不安定な状態の彼なら討てる…。
案の定クロスはあとを追ってきた。
そして市街に出た時、アイは討たれた兵士の剣を手に取った。
攻め込まれているが、市街は破壊されることなく城に向かう兵士たち。
「クロス…まもなく城は堕ち、この国は終わる」
「んっ…どうしたのだ、アイ殿…逃げないと…」
「貯水池であなたと対峙した後、私は白い国に救助されたのよ」
「なっ」
「そこで一人の兵士に恋をしたわ」
「ちっ…やはり…敵の手に堕ちていたか…」
クロスは転がっていた剣を持つ。
それをみたアイは剣を構える。
「私は全身の骨が砕けて記憶を失ったわ。今こうして立っていられるのは多くの人々が治療し協力してくれたからよ。そしてそんな私を支えてくれる人がいたのよ」
決闘が始まる。
両者共に隙のない斬撃を繰り出し互角といったところだ。
「くっ…」
全身の骨が砕けた人間の動きじゃないぞ…。
以前より強い。
そしてこのままだと負ける…。
クロスは強者であり、強者は強者に敏感である。
アイの動きは負傷者の動きとは思えず、精神に乱れがある状態では勝てないと判断した。
「…わかった、負けを認めよう」
そう言うとクロスは剣を捨てた。
急な投降に攻撃を躊躇するアイ。
だがその一瞬の隙に強烈なストレートパンチがアイの腹部に命中した。
吐血し凄まじい威力により吹き飛ぶアイ。
「アイ殿、武力だけでは戦いには勝てないぞ」
そう、以前なら投降など無視して斬り捨てていただろう。変わったアイの物言いから弱さを冷静に分析し、クロスは戦闘に応用した。
ゆっくりと立ち上がったが満身創痍なアイ。
「…くっ…」
「しゃべると激痛だろう。内臓へのダメージが大きいだろう。すぐに治療したほうがいいぞ。あなたを愛する者は物言わぬあなたと暮らすことになるからな」
表情が歪み倒れるアイ。
言葉を発せず顔には涙がにじんでいる。
それでも剣を取りまだ戦おうとしている。
「よかろう…その闘志、確かに見届けたぞ」
アイに近づき剣を取るクロス。
刀身を確認し首に狙いを定める。
気絶する寸前であり抵抗することができないアイ。
「さらばだ」
振り下ろした剣は、突如放たれた矢が腕に命中し首をそれた。
「っ…なにやつ」
アイの表情が緩む。
「その女性から離れろっ」
スルだ。
「白い国の兵士か。もはやこの国に未練はないが…お前ら白い兵士には少しでも悪夢をみせてやらんとな」
そう言うと狂気のクロスはものすごい剣幕でスルに襲いかかる。農民出身のにわか仕込みの剣術では太刀打ちできず、すぐに剣を奪われてしまい、右腕を貫かれてしまった。
「バカめ、大人しくしておれば怪我することもなかっただろう」
アイは這いずってスルの元へいく。
「…強い…だけど…引くわけには…」
スルは立ち上がり再びクロスと対峙した。
「死にたいらしいな。ならば…」
クロスはそう言い放つとスルを突いた。
「心臓は外しておいた。二人で仲良く逝くがよいわ」
「ぐはっ…」
スルは左胸を突かれ倒れた。
天気が急変しお昼過ぎだがとても暗い。黒い雲が国を覆い今にも雨が降りだしそうだ。
「…ス……ル…」
二人は寄り添って再開した。
アイはスルに身体を預け、スルは優しくアイを抱きしめる。
「遅くなって…ごめんね…」
二人はもう離れることはないだろう。
「ちっ…正面を突破するしかないか」
逃亡を始めたクロスを多数の白い兵士が包囲する。
「なにっ…」
そして将軍ワイト、参謀とコトが立ちふさがった。
アイたちの姿を見たコトは絶句した。
医療部隊がすぐに二人を救出し撤退。
城は堕ちたようで、残存勢力や敵将クロスの捜査中だったようだ。
「なるほど。この部隊の隊長というわけか…それにコト殿…これはさすがに逃げられないな」
「…将軍、ここは私にお任せください」
コトが静かな闘志を燃やす。
「因縁があるようだが、必ず生きて捕縛し本国へ連れ帰る。約束できるか」
「もちろんです。ただ手足の一本二本はお許し下さい。私とて人間。大切な人が痛めつけられて、それを黙って見過ごすことはできません」
「変わったなコト…良い。では我々は城へ向かう。シルとソルはこの場に残り見届けよ」
「はっ」
コト、そして双子のシルソルが残った。
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「貴様は許さんぞ」
「従者に何ができっ」
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さらに顔面を連打された。
「ぐあっ…」
ズルズルと後退するクロス。
アイと同様に腹部への一撃は重く顔面は崩壊。
それでもまだ立って戦おうとしている。
「…やるな…」
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自分を生かして捕らえよとの命令を聞いており、ボコボコにされても死ぬことはないと思っているからだ。
「自分は助かると思っているのか」
そんなクロスにコトは問う。
「くっくっくっ…白い国がどんなとこか楽しみ…だ」
崩れた顔だが、笑っているのがよくわかる。
「おろかだな…漆黒の騎士…」
コトの言葉に困惑するクロス。
やれやれという感じでコトは今後について説明した。
「白い国へ着いたら争いの戦犯として罰せられる。態度次第だがその調子では厳刑でしょう」
「…」
争いは黒い国の王ロクが降伏を受け入れたことにより終結した。
マクロは兵士に武器を捨てるよう命じ被害は最小限だった。
命を落とした市民がいないこの戦いは、ワイトの采配とマクロとロクが早期に降伏を受け入れたのが大きい。
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