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第五章
遠雷③
しおりを挟むセレナはその口の中にゼノスのものを咥えこみ、両手で包み込んで唾液を絡ませ時折わざと音をたて啜る。
何度か苦しそうに唇を離すのに、舌先だけは自分に触れて絶えず刺激を与え続けていた。
その手つきや舌使いはどこかまだたどたどしくもあり、だけど男の欲を知っているのが伺える。
その小さな喉の奥にまで押し込みたい衝動だけは必死に堪えて、それからゼノスは身を起こす。セレナが自分のものを咥えたまま脚の間から見上げる視線を向けた。
「…セレナも、…ください」
「……?」
「お尻を、こちらに。セレナも欲しいと、言ったでしょう…?」
ゼノスの意図に気付いたセレナが、顔を赤くして咄嗟に首を振る。
つい歯をたててしまいゼノスが呻き、ごめんと謝りながらさするセレナに、ゼノスは緩く笑ってその腕をとった。
掴んだ腕を強くひき、自分の上に抱き上げたその一瞬だけ見つめ合う。それからくるりと向きを変えさせた。突然のその行動に、セレナはされるがままにつんのめる。
ゼノスは引き寄せたセレナの腰にかさむスカートの裾を捲り上げ、甘い香りのたつそこに舌を這わせた。
突然の刺激にセレナが小さく声を上げてゼノスの脚に倒れ込む。その鼻先にちょうど屹立するゼノスのものが当たり、無意識にセレナは同じものを返していた。
ゼノスの舌が、太い指が。セレナの喘ぎ声と快楽を体の奥から引きずり出す。そしてそれを余さずゼノスが受け止める。
それでも今度は、先に限界を迎えたのはゼノスだった。
体の感覚すべてがセレナに侵されて、思考も上手く纏まらず体だけが本能に従う。
一瞬ゼノスの動きが止まったその隙に、セレナがその唇から逃げて腰をひき、更に口の奥へとゼノスのものを呑み込んだ。
その刺激にゼノスはかたく目をつむり短く喘いで虚空を仰ぐ。瞼の裏が白く弾けた。
セレナの喉の奥に吐き出されたそれを、苦しそうにセレナが呻きながら受け止めて、ゆっくりと飲みこむ。
ごくりとセレナが喉を鳴らすその音に、ゼノスは思わず泣きそうになった。理由も分からず、再びせり上がる欲情も抑えられぬまま。
ゼノスは深く長く息をついて、僅かに冷静さを取り戻した体でセレナを背後から引き寄せ、その身を起こす。
それから背後からセレナの胸元を開き、衣服をひとつずつ取り払った。
一瞬の躊躇を見せたセレナはそれでも大人しくゼノスに身を任せ、その素肌が少しずつ顕になる。暗闇にもその白い肌はうっすらと浮かび、輪郭は夜に溶けていた。
見られたくないと言った、セレナのその心は尊重されるべきだ。
だからゼノスはまわした手でセレナを後ろに向かせて口づけをし、それ以外はすべて手の平だけで彼女に触れた。
柔らかな肌の輪郭を、汗ばむ温もりの感触を、手の平だけで堪能するように撫でまわして。
お腹と心臓のうえ。他の肌と僅かに異なるその感触に、びくりとセレナが肩を震わせる。彼女が生きてきた証の傷痕。そっと指先で撫でてから、離れる。
それからその胸をそっと包み、セレナの体がぴくりと先ほどとは違う反応をみせると、知らず自分も息を漏らしていた。
ふたつの手の平におさまる柔らかなその感触が心地良いのに、痺れるようにまた下腹部を燻られる。
どこもかしこも柔らかくて甘くて壊れてしまいそうだ。それなのに触れるのをやめられない。
その儚さがゼノスの心の奥深くを抉った。守りたいと、その時はじめて。
思ったのだ。
このままでは居られないと。
昂る感情を抑えながら、その首筋に、背中に、耳の裏に。口づけを落として痕を残し、それからセレナの腰と脚を僅かに持ち上げた。
後ろから抱き締めたまま、ゼノスは再びセレナの内に自分のものを深く沈めた。セレナの内はすんなりとそれを受け容れて蜜を溢れさせる。
「っ、ぁ…!」
既に高められていたセレナが、埋められた熱に小さく震えて喘ぎ声を漏らした。
ゼノスはそのまま腰を打ちつけて、一番奥で一度止め息を吐く。
荒い呼吸をなだめるように、セレナがその合間に浅い呼吸を繰り返す。
それからもう自分の体を支えることもかなわないセレナの体の向きを変え向かい合わせになり、その腰を抱いたままシーツの上に背中を下ろした。
ゼノスは繋がりを離さずに身に付けていた衣服を脱ぎ捨てて、セレナの腰を再び掴む。そしてまた一番深くに打ち付ける。
覆い被さるようにセレナの体を自分の内側に閉じ込めて、ただ求めるままに快楽を与えるゼノスにセレナは喘ぎ声で応えるしかできなかった。
それからその細い腕が自分の首に絡み抱き寄せ。ゼノスの唇に、セレナから触れた。セレナ自身の意思で、その時はじめて。
痛みに呻く自分への口移しという名目の為などではなく、自分からの無理やりではなく。
彼女の意思で与えられた唇は、焼けるように熱く、溶けるように甘い。
それが錯覚だとしても構わない。その幸福さに眩暈がした。
そうしてセレナから絡められる舌にゼノスはもう何も考えられなくなっていた。
ただ夢中で舌を絡ませ合って、互いの吐息を分け合って。あとはもう上り詰めるだけ。
この瞬間が永遠に続けばと、何度も願い祈ってしまう。永遠などないと知っているからこそ、その一瞬に縋るのだろう。
「…っ、ぁ、ゼノス、も、ぅ…!」
「…は、おれ、も……セレナ…!」
突き上げるごとに自分を締め付けるセレナと、体も唇も離れることなく。
ふたり一緒に最後を迎えた。
――彼女は夜伽を断れない。
それが兄であるイリオスの命であり、そしてセレナ自身の望みの為。
自分が望むだけで抱くこともできるのに、それでも自分は。一方的でしかないそれは、嫌だった。
気持ちの伴わないそれは無理強いとなんら変わらない気がしてならなかった。
それはゼノスの心が受け入れられなかった。
生まれきてからこれまで、奪われ続けてきた自分だからこそ。奪うことだけは、したくなかったのだ。
はじめゼノスはその理由が分らなかった。分らないから葛藤した。夜伽を受けること…セレナを抱くことを。
だけどここに来てようやく気付いた。焦がれ求めているものを。
本当に欲しいのは、体だけじゃなくて。その心もぜんぶ、欲しかったのだ。
夜伽などではなく、ただの男と女として。
自分たちから夜伽を失くしたら、何も残らないことくらいわかっていた。
彼女がその為にここに居ることも、それがなければ自分たちは出会うことすらなかったことも。
残るものがあるとすれば、せいぜい同情くらいだろう。彼女は優しいひとだから。
――でも。
もう今さらまた孤独になど戻れるはずもなかった。
差し伸べられた手を知ってしまったから。
触れた素肌に絡む熱を知ってしまったから。
こんなにも求める欲を、知ってしまったのだから。
だから自分も覚悟して、その道を選びとる。
彼女がその役目を終えここから居なくなる前に。
腕の中でくたりと横たわるセレナの、自分に絡ませていた腕がするりと解かれてシーツに落ちた。
視線を向けると、セレナが下りる瞼を必死にこすって堪えている。
疲労と眠気で限界なのだろう。まるでその子どものような仕草がかわいらしかった。
腕に抱き締めたまま自分も身を横たえて、その体を抱き直す。
腕の中からセレナが申し訳なさそうに呟いた。
「…ごめん、ゼノス…眠くて、もう、むりかも…」
「…大丈夫です、休んでください。流石に今夜はもう、充分ですから。おれも、戻ります」
「だめ、ちゃんと、見送るから…」
そう言うセレナの瞼は今にも落ちそうだ。だけどゼノスを引き留める。
時折見せるセレナのその不安に揺れる心を、ゼノスは僅かながら感じていた。
離れること自体に不安を感じているのではなく、目覚めた時に居たはずの人物が居なくなることが怖いのだろう。さっきもそうだった。
だから安心させるようにゼノスは、その胸にセレナをつよく抱いて耳元で囁く。
「じゃあ起きるまで、ここに居ます。だから寝て良いですよ、セレナ」
「…う、ん…」
ゼノスの言葉に安心したように頷いて、呟いたその瞬間にはもう。セレナは眠りに落ちていた。
糸が切れたようにその全身から力が抜けそのすべてをゼノスに預け、小さな寝息をたてはじめる。
まだあどけなさを残すその表情に、言い得ぬ感情が込み上げる。
そういえばゼノスは彼女の年齢を知らない。その華奢な体躯からは年下のように思っていたけれど、今夜共に過ごして年上のような気がしていた。
でも年齢なんて関係ない。生きてきた時間よりも、その内容の積み重ねだとゼノスは思うからだ。
セレナがセレナである前のことが聞けたことは、ゼノスにとって大きな収穫だった。
過去など顧みることは決してしないゼノスだが、セレナのことは今はなんでも知っておきたい。
でないと自分は何もできずに彼女と終わることになる。それだけはどうしても嫌だった。
それからそっと腕の中の存在を改めて確かめる。暗闇に慣れた目に、その姿を灼きつけるように。
何も身に付けず裸のままで、今ここに居るのはただの男と女だ。
その余韻に縋るようにゼノスも目を閉じた。朝が来るまでに部屋に帰らなければいけないとは分かっている。だけどまだもう少しだけ、この幸福に浸りたかった
それでも意識の片隅で、彼女がひとの温もりに飢えていたことに気付いた時、おそらく以前までこの場所に別の誰かが居たことをゼノスは悟った。
思い当たる存在はひとりしか居ない。
ヘルメス・ノヴァ。
これまでセレナの一番近くに居た、腹違いの自分の兄。
彼が今彼女の傍に居ないことは、ルミナスを通じて知っていた。先日の兄弟会議の場には姿を現したので驚いたのをよく覚えている。
王室がこれまでにない慌ただしさと緊迫感に見舞われているのを、そこから一歩離れた場所に居るゼノスでさえ気づいていた。
もしかしたら、彼が。関係しているのだろうか。
呪いが解かれた途端に、セレナの傍を離れた彼が。
セレナに対する彼の思いと自分の思いは、おそらく近いところにある。
でも、だったら何故セレナの傍を離れたのか。自分だったらもう離れられない。
だけどセレナが自分に心をゆるす素振りを見せたのは、明らかに彼の不在が大きく影響しているであろうことは伺えた。
セレナの近くに居る間、彼もきっと。彼女を抱き締めて眠ったのだろう。彼女にすべてをゆるされて。
ぎゅっと思わず、セレナを抱く腕に力がこもる。
代わりでもいい、そう思った。
今は未だ誰かの身代わりでも、それで彼女が眠れるのなら、目覚めて泣かずに済むのなら。いくらでも務めてやる。
彼女から求められた時、自分の覚悟は決まったのだ。
もう、底は見ない。そこには自分の望むものは何もない。
――解こう。呪いを。
自分の体と心を縛る、忌まわしき鎖を。
そうして今度は、自分の望みのままに生きるのだ。
これまで奪われてきた分、その権利が自分にもあるはずだ。
そして、彼女を、手にいれる。
もう誰にも奪わせはしない。
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