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20. Still Buddies
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直人は、宇道の興味深いフランスでの体験談により、久々に再会した彼との時間を楽しむ事が出来た。
「今日は楽しかったです。有難う、先生。だから俺に奢らせてよ」
「馬鹿言え。確かに今では橘の方が収入上だろうが、元生徒に奢ってもらうなんて出来るか」
「そっか。じゃあお言葉に甘えて、ご馳走さまでした。個展のチケットは買うからさ」
「おう」
直人と宇道が会計を済まし、サミットを後にしようと出口に向かうと、見覚えのある顔に出くわした。
「あっれぇ? さっきからどこかで見た事のある顔だなぁって思ってたら、橘だよな? ・・それと、美術の ・・・・」
「宇道だ」
「そうそう、宇道! ・・・・先生」
「もう先生じゃないから、無理に付けなくていい。お前は確か ・・」
「お久振りです。竹ノ内先輩」
「そうだ、バスケ部の竹ノ内」
「正解! 二人とも本当に久し振り。いつ以来だ? 先生とは卒業以来会ってないし、橘とも・・外国行ったきりだよな。帰国して有名になったってのは、陽一から聞いてたけどな」
「相澤先輩から・・・・」
「そうだ、今から夾達と合流するんだけど、橘も来いよ。勿論先生も」
「俺は、明日の朝早いし、まだ時差ボケだから遠慮しておくよ」
「そうですか? 橘は来るよな? 陽一は、子供を寝かせてから来るって言ってたけど、アイツ子供と一緒に寝ちまう事が多いから、どうだろ?」
「そうですか」
「久々に話そうぜ。少しでいいからさ。店もプラザ地下だし」
そう言うと、陸はウィンクをする。
「じゃあ、少しだけ」
「そうこなくっちゃ! じゃあ行くか」
高校時代と変わらぬ人柄の陸に続いて、直人もサミットを後にした。
ディラントンホテルに部屋を取っていた宇道と途中で別れた直人は、陸に連れられるまま今まで足を踏み入れた事の無かった、ディライトンプラザ地下にあるショットバーに到着していた。
「ここさ、陽一と良く来るんだよな。最近は、アイツ忙しいから久し振りだけど。陽一がキープしているボトルがあるから飲もうぜ」
「勝手に良いんですか?」
「アイツの物は皆の物だから! ハハハ」
直人と陸が店に入るとまだ夾達の姿は無かった。
直人達は案内された奥のボックスに腰を掛ける。
「いや~ こうやって橘と飲めるなんて高校の時には想像もしてなかったなぁ~」
「お、俺もです」
「そっか。で、元気なのか? 随分と忙しいみたいだけど」
「あ、はい、お蔭様で」
「陽一とは・・ 会ったりしてないのか?」
「ディライトンホテルの社長さんだったんですね ・・最近知りました」
「え? まじで? それは浮世離れし過ぎだろ、橘画伯さん」
「そう ・・ですね」
直人は、前に置かれたウィスキーのソーダー割りを手に取ると、一口身体に流し込んだ。
「そっか、会ってないのかぁ」
直人には、なぜ陸が残念そうに応えるのかが分からずにいた。
「結城社長 ・・ですよね?」
直人の問いに陸は軽く頷く。
「イベントの企画をしてくれていて、仕事を通じてこれからは会う機会が増えそうです」
「3周年記念ってやつ?」
「はい」
「聞いてるよ。1階のスペース使うんだってな。凄いよ」
「相澤 ・・いや、結城社長のお蔭です」
「陽一から、橘の事は聞いてるよ。個展をやったとか、KEYのデザイナーとコラボ商品を出したとか、最近、絵に元気がない ・・とかもさ」
「え?」
陽一が、ずっと気に掛けてくれた事を知った直人は、先程流し込んだウィスキーのせいか、胸が急に熱くなる。
「陽一が橘の事を話す時、自分の事の様に嬉しそうなんだぜ」
「そんな ・・俺の事なんて忘れられたと思ってました」
「まさか! 陽一は、口には出さないけど、今でも橘のことを想ってる」
陸からの想定外の言葉に、直人は持っていたグラスを慌ててテーブルに置く。
「どう言う意味ですか?」
「橘が外国に行ってしまった後、陽一は直ぐに結婚して子供が出来て ・・順調で幸せだと思うよな? でもな、今でもアイツが本当に幸せそうに見えたのは ・・橘、お前と付き合ってた時だけだよ」
「竹ノ内先輩 ・・それは違いますよ。俺なんか居なくたって、相澤先輩は幸せそうです。だって可愛い子供が二人もいて、綺麗な奥さんも」
「奥さん? 美緒さんの事? 亡くなる前に会った事あるのか?」
「み・・おさん? 亡くなった? え? 亡くなったって!」
「ああ、もう4年になるかな。美緒さんは素敵な女性だったよ。陽一とは夫婦と言うより同志みたいだったけど、やっとアイツが新しい環境で美緒さんだけには、心を許せそうになった矢先だったからさ ・・辛かったと思う」
「そう・・だったんですね」
陽一の結婚は直人の心を痛めたが、子供達を残して亡くなった美緒や、残された陽一達の気持ちを思うと胸が締め付けられた。
「・・そんな時に相澤先輩を支えたのが、いつも傍に居る女性なんですね」
「女性? ああ、美沙さんの事?」
「はい」
「彼女は、美緒さんの妹だよ」
「・・妹」
直人は、美沙が美緒の妹ならば、妻を亡くした陽一の心に寄り添うには、最も適した人だと受け止める。
「ああ。美紗さんには、美来ちゃんも悠人も懐いているみたいだし、双方の親としては、陽一に美沙さんと再婚して欲しいって思ってるんじゃないかな?」
「そう・・ですよ。それが相澤先輩には一番良いと思います」
「橘もそう思うか?」
「は・・い」
「そっか ・・でもさ、親友の俺としては ・・橘と寄り戻って欲しい」
「え?」
「お前と離れ離れになってからの8年、陽一は必死で頑張って、親になって社長になって、立派に責務を果たしたと思う。だからさ、もう自由にさせてやりたい ・・って、ごめん。俺何言ってんだ ・・ハハ。今のは忘れてくれ。橘には関係のない話だよな。ホント、余計な事言ってごめん」
陸は失言した自分を叱責しると目線をテーブル上にあるグラスに落とす。
「そ ・・そうですね。俺にはそんな資格ありません」
「橘には良い人がいるみたいだもんな」
直人は否定も肯定も出来ず言葉に困っていると、スーツに身を包んだ凛々しい二人が直人達の前に立った。
「え? えええ? もしかして橘?」
「あ! 桜井先輩と徳田先輩ですか?」
「ひっさしぶりだな!」
「お二人とも、かっこいいです」
「あ? スーツ着てるからか? まぁ学生の時よりはマシかな?」
「マシって、夾。俺達良い感じだと思うぜ」
「分かった、分かった、二人共、座れよ」
「おお、陸」
「陸とも久々だな」
「ここんとこ皆忙しかったからなぁ~」
陸に座るよう促された徳田と夾が腰を下ろすと、陸が手際よくグラス2つに氷を入れ始める。
「あれ? 陽一は?」
「また寝ちゃったんじゃないのか?」
「ホント、良いパパだよなぁ アイツ」
「家族サービスなんてさ。最近までニセコの件で大変だったのに」
「皆さん、今でもこんなに仲が良いんですね」
「ああ、旧知の仲っての」
「腐れ縁」
昔と変わらず、陸、夾、徳田の3人が、陽一と仲が良いのを知った直人は、ホッとするのと同時に羨ましいと思ってしまう。
もし、恋人ではなく後輩として陽一との関係を続けていたら、陸達のように今でも変わらぬ付合いが出来ていたのだろうかと頭に浮かぶ。しかし、陽一と過ごした月日は直人にとって何にも代え難い時間だったと改めて感じた。
「皆さん、今何をされてるんですか?」
「こいつ等、お馬鹿コンビだけど、意外にエリート」
「意外は余計だ」
「お馬鹿コンビも余計だ」
「ハハ 夾は弁護士、徳田は会計士だ」
「凄いですね」
「橘だって画伯だろ」
「何故か、いつも陽一が自慢してるな」
陽一が、陸だけでなく夾や徳田とも直人の話をしてくれている事に胸が一杯になった。
「そうだ、夾、来年結婚すんだぜ」
そう告げると夾の隣に腰掛けた徳田が夾の肩を叩いた。
「ヘヘ」
夾は嬉しそうに応える。
「ディライトンで式挙げるんだぜ、こいつ」
「親友割りってやつ」
「そんなに割引して貰ってないぜ」
「でも、帆奈ちゃん って夾の婚約者な。衣装代格安にして貰ったって嬉しそうに言ってたぜ」
「余計な事を」
「陽一なら、幾らでもサービスしてくれるよ」
「そんな訳にはいかないよ。俺だってしっかり稼いでるんだしよ」
直人は、愉しそうに話す先輩達を眺めながら、ふと昔に戻れたらと望んでしまう。
この夜、陽一は現れなかった。
直人は子供二人と寝入ってしまう素敵な陽一パパを想像しながら帰路についた。
「今日は楽しかったです。有難う、先生。だから俺に奢らせてよ」
「馬鹿言え。確かに今では橘の方が収入上だろうが、元生徒に奢ってもらうなんて出来るか」
「そっか。じゃあお言葉に甘えて、ご馳走さまでした。個展のチケットは買うからさ」
「おう」
直人と宇道が会計を済まし、サミットを後にしようと出口に向かうと、見覚えのある顔に出くわした。
「あっれぇ? さっきからどこかで見た事のある顔だなぁって思ってたら、橘だよな? ・・それと、美術の ・・・・」
「宇道だ」
「そうそう、宇道! ・・・・先生」
「もう先生じゃないから、無理に付けなくていい。お前は確か ・・」
「お久振りです。竹ノ内先輩」
「そうだ、バスケ部の竹ノ内」
「正解! 二人とも本当に久し振り。いつ以来だ? 先生とは卒業以来会ってないし、橘とも・・外国行ったきりだよな。帰国して有名になったってのは、陽一から聞いてたけどな」
「相澤先輩から・・・・」
「そうだ、今から夾達と合流するんだけど、橘も来いよ。勿論先生も」
「俺は、明日の朝早いし、まだ時差ボケだから遠慮しておくよ」
「そうですか? 橘は来るよな? 陽一は、子供を寝かせてから来るって言ってたけど、アイツ子供と一緒に寝ちまう事が多いから、どうだろ?」
「そうですか」
「久々に話そうぜ。少しでいいからさ。店もプラザ地下だし」
そう言うと、陸はウィンクをする。
「じゃあ、少しだけ」
「そうこなくっちゃ! じゃあ行くか」
高校時代と変わらぬ人柄の陸に続いて、直人もサミットを後にした。
ディラントンホテルに部屋を取っていた宇道と途中で別れた直人は、陸に連れられるまま今まで足を踏み入れた事の無かった、ディライトンプラザ地下にあるショットバーに到着していた。
「ここさ、陽一と良く来るんだよな。最近は、アイツ忙しいから久し振りだけど。陽一がキープしているボトルがあるから飲もうぜ」
「勝手に良いんですか?」
「アイツの物は皆の物だから! ハハハ」
直人と陸が店に入るとまだ夾達の姿は無かった。
直人達は案内された奥のボックスに腰を掛ける。
「いや~ こうやって橘と飲めるなんて高校の時には想像もしてなかったなぁ~」
「お、俺もです」
「そっか。で、元気なのか? 随分と忙しいみたいだけど」
「あ、はい、お蔭様で」
「陽一とは・・ 会ったりしてないのか?」
「ディライトンホテルの社長さんだったんですね ・・最近知りました」
「え? まじで? それは浮世離れし過ぎだろ、橘画伯さん」
「そう ・・ですね」
直人は、前に置かれたウィスキーのソーダー割りを手に取ると、一口身体に流し込んだ。
「そっか、会ってないのかぁ」
直人には、なぜ陸が残念そうに応えるのかが分からずにいた。
「結城社長 ・・ですよね?」
直人の問いに陸は軽く頷く。
「イベントの企画をしてくれていて、仕事を通じてこれからは会う機会が増えそうです」
「3周年記念ってやつ?」
「はい」
「聞いてるよ。1階のスペース使うんだってな。凄いよ」
「相澤 ・・いや、結城社長のお蔭です」
「陽一から、橘の事は聞いてるよ。個展をやったとか、KEYのデザイナーとコラボ商品を出したとか、最近、絵に元気がない ・・とかもさ」
「え?」
陽一が、ずっと気に掛けてくれた事を知った直人は、先程流し込んだウィスキーのせいか、胸が急に熱くなる。
「陽一が橘の事を話す時、自分の事の様に嬉しそうなんだぜ」
「そんな ・・俺の事なんて忘れられたと思ってました」
「まさか! 陽一は、口には出さないけど、今でも橘のことを想ってる」
陸からの想定外の言葉に、直人は持っていたグラスを慌ててテーブルに置く。
「どう言う意味ですか?」
「橘が外国に行ってしまった後、陽一は直ぐに結婚して子供が出来て ・・順調で幸せだと思うよな? でもな、今でもアイツが本当に幸せそうに見えたのは ・・橘、お前と付き合ってた時だけだよ」
「竹ノ内先輩 ・・それは違いますよ。俺なんか居なくたって、相澤先輩は幸せそうです。だって可愛い子供が二人もいて、綺麗な奥さんも」
「奥さん? 美緒さんの事? 亡くなる前に会った事あるのか?」
「み・・おさん? 亡くなった? え? 亡くなったって!」
「ああ、もう4年になるかな。美緒さんは素敵な女性だったよ。陽一とは夫婦と言うより同志みたいだったけど、やっとアイツが新しい環境で美緒さんだけには、心を許せそうになった矢先だったからさ ・・辛かったと思う」
「そう・・だったんですね」
陽一の結婚は直人の心を痛めたが、子供達を残して亡くなった美緒や、残された陽一達の気持ちを思うと胸が締め付けられた。
「・・そんな時に相澤先輩を支えたのが、いつも傍に居る女性なんですね」
「女性? ああ、美沙さんの事?」
「はい」
「彼女は、美緒さんの妹だよ」
「・・妹」
直人は、美沙が美緒の妹ならば、妻を亡くした陽一の心に寄り添うには、最も適した人だと受け止める。
「ああ。美紗さんには、美来ちゃんも悠人も懐いているみたいだし、双方の親としては、陽一に美沙さんと再婚して欲しいって思ってるんじゃないかな?」
「そう・・ですよ。それが相澤先輩には一番良いと思います」
「橘もそう思うか?」
「は・・い」
「そっか ・・でもさ、親友の俺としては ・・橘と寄り戻って欲しい」
「え?」
「お前と離れ離れになってからの8年、陽一は必死で頑張って、親になって社長になって、立派に責務を果たしたと思う。だからさ、もう自由にさせてやりたい ・・って、ごめん。俺何言ってんだ ・・ハハ。今のは忘れてくれ。橘には関係のない話だよな。ホント、余計な事言ってごめん」
陸は失言した自分を叱責しると目線をテーブル上にあるグラスに落とす。
「そ ・・そうですね。俺にはそんな資格ありません」
「橘には良い人がいるみたいだもんな」
直人は否定も肯定も出来ず言葉に困っていると、スーツに身を包んだ凛々しい二人が直人達の前に立った。
「え? えええ? もしかして橘?」
「あ! 桜井先輩と徳田先輩ですか?」
「ひっさしぶりだな!」
「お二人とも、かっこいいです」
「あ? スーツ着てるからか? まぁ学生の時よりはマシかな?」
「マシって、夾。俺達良い感じだと思うぜ」
「分かった、分かった、二人共、座れよ」
「おお、陸」
「陸とも久々だな」
「ここんとこ皆忙しかったからなぁ~」
陸に座るよう促された徳田と夾が腰を下ろすと、陸が手際よくグラス2つに氷を入れ始める。
「あれ? 陽一は?」
「また寝ちゃったんじゃないのか?」
「ホント、良いパパだよなぁ アイツ」
「家族サービスなんてさ。最近までニセコの件で大変だったのに」
「皆さん、今でもこんなに仲が良いんですね」
「ああ、旧知の仲っての」
「腐れ縁」
昔と変わらず、陸、夾、徳田の3人が、陽一と仲が良いのを知った直人は、ホッとするのと同時に羨ましいと思ってしまう。
もし、恋人ではなく後輩として陽一との関係を続けていたら、陸達のように今でも変わらぬ付合いが出来ていたのだろうかと頭に浮かぶ。しかし、陽一と過ごした月日は直人にとって何にも代え難い時間だったと改めて感じた。
「皆さん、今何をされてるんですか?」
「こいつ等、お馬鹿コンビだけど、意外にエリート」
「意外は余計だ」
「お馬鹿コンビも余計だ」
「ハハ 夾は弁護士、徳田は会計士だ」
「凄いですね」
「橘だって画伯だろ」
「何故か、いつも陽一が自慢してるな」
陽一が、陸だけでなく夾や徳田とも直人の話をしてくれている事に胸が一杯になった。
「そうだ、夾、来年結婚すんだぜ」
そう告げると夾の隣に腰掛けた徳田が夾の肩を叩いた。
「ヘヘ」
夾は嬉しそうに応える。
「ディライトンで式挙げるんだぜ、こいつ」
「親友割りってやつ」
「そんなに割引して貰ってないぜ」
「でも、帆奈ちゃん って夾の婚約者な。衣装代格安にして貰ったって嬉しそうに言ってたぜ」
「余計な事を」
「陽一なら、幾らでもサービスしてくれるよ」
「そんな訳にはいかないよ。俺だってしっかり稼いでるんだしよ」
直人は、愉しそうに話す先輩達を眺めながら、ふと昔に戻れたらと望んでしまう。
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