僕の恋愛スケッチブック

美 倭古

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29. Love you the Most

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 亮平の話を聞いてから1週間以上が経過していた。
 陽一の母、蒼乃からの着信は毎日何度もあったが、陽一は応答しなかった。
 陽一の答えは、当然『ノー』だ。だが、それを受け入れて貰うのは困難だと分かっていた。

 風呂上りの直人は、未だダイニングテーブルで勉強をしている陽一の背後に立つと、陽一のノートを覗き込んだ。
「陽さん、次は何の資格を取るんですか?」
「中小企業診断士」
「あ、聞いた事あります。すっごい難しいのですよね? でも前は簿記受けてなかったですか?」
「受かったから、次の段階ってやつかな?」
「最近、猛勉強してますよね? バイトも忙しそうだし ・・身体壊さないか心配です」

 先日の出来事から陽一は勉強とバイトに明け暮れた。あの日聞いた事を現実だと受け止められず、自身を忙殺させ忘れたかったのだ。また、蒼乃からの着信を無視する口実も欲しかった。

「平気平気。でも心配してくれて、ありがとう」
「これ以上、頭良くしてどうするんですか ・・ハハ」
「良い会社に就職して、安定した収入を得たいからね」
「陽さんのエリートビジネスマン姿、かっこいいだろうなぁ~」
「アハハハ、どうだろ? 沢山稼げるようになったら、直を外国に連れて行って、見知らぬ土地で見知らぬ景色を、思い切り描かせてあげたい」
 直人は、感動のあまり陽一を背後から抱きしめた。
「嬉しい」
「それとさ、母親にも早く隠居させてあげたいしね」
 自身が吐いた言葉にハッとする。

 陽一は、一人で育ててくれた母親に一日も早く楽をさせてあげたかった。そのため今まで頑張ってきたのだ。

【アイツと結婚すれば、一生安泰か ・・ハハ】
 今まで自分がしてきた努力が泡となって消えた気がした。

「陽さん? どうしたんですか?」
 突然、苦い顔をする陽一が心配になった直人が声を掛ける。
「やっぱ疲れているんですよ。お風呂入ってきてください」
「だねぇ~」
 陽一は、開いていた参考書やノートを閉じると、後ろから抱き付いている直人の腕を優しく掴んだ。

 陽一が直人の待つ寝室に入ると彼はベッドの中で雑誌のような物を読んでいた。
「BL読んでるの?」
「もう、BL本は必要ありません ・・陽さんの方が上手だし、全然素敵だから」
「ハハハ。それは良かった。BL本でも妬けちゃうからね」
「これ、アート誌です ・・僕の作品が紹介されてて今日学校に届いてたんです」
「凄いね。去年入賞した作品?」
「そうです。あと、それ以外も ・・コンテストに優勝したのとか」
「有名人みたいだなぁ 直は可愛いから顔写真なんて付けたら、一気にスターになるかもね」
「え? そんな ・・僕、陽さんの一番ならそれでいいから」
 はにかみながら呟く直人に陽一の心が苦しくなった。
 その痛みを感じないように、ベッド上に座る直人の両足を引っ張ると仰向けに寝かせ、その上に覆いかぶさった。そして激しいキスをすると、直人を甘美な気分にさせる。
「今日は、疲れてるんじゃ?」
「大丈夫だよ。こう見えてもタフだからね。今日も直を満足させたい」
 
 あの日以来、陽一は毎日のように直人を抱いた。まるで細胞の一つ一つに記憶させるように。

「陽さん ・・ンッ、最近どうしたんですか?」
「何で? 激しいの嫌い?」
「アッ ・・陽さんに激しく ・・ンッ ・・求められのは嬉しい。でもちょっと あッ 心配で」
「何が?」
「お母さんと、ンッ 何かあったんですか?」
 そう問われた陽一は、直人の身体中にキスをしていたのを止めると、直人の胸の中に崩れ落ちた。
「陽さん?」
「ハハハ、今日はさすがに疲れてるね。もう寝よっか?」
「・・は・い」
「・・・・」
「 ・・陽さん?」
 未だ直人の胸元に顔を埋めたままで動かない陽一を気遣う。

「ねぇ、直、何処か行こうか? 二人だけで」
「え? あ、はい! 僕もそう思ってました」
「二人だけになれる所に行きたいなぁ」
「僕も ・・誰にも邪魔されない空間が欲しい ・・そしてずっとその場所で陽さんと居たい」
 直人は、愛おしそうに陽一の髪を触りながら応えた。
「直 ・・愛してるよ」
「僕も、陽さんのこと、誰よりも ・・愛しています」
 陽一は、顔を上げると直人に優しいキスをした。 

 大学からの帰り道、磯崎スーパー前を通り過ぎた陽一は、今日直人の帰宅が遅い事を思い出していた。
 相変わらずクラスでは一人だった直人だが、バスケ部には仲間が出来ており、駅前のファミレスで3年生引退のプチパーティーを下級生が開いてくれたのだ。
「俺一人だったら、昨日の残り物でいいか」
 そう呟きながら、家に辿り着くと誰かが門前に立って居た。
 一瞬直人だと思ったが、直ぐに別人だと分かる。

「よ~ 相澤久し振りだな~」
「宇道 ・・先生」
「先生はいいよ。もう生徒じゃないだろ」
「何してるんですか? 橘なら・・」
「バスケ部のパーティーだろ?」
「俺に用事って事ですか?」
「ああ」
「橘に聞かれたくない話なんですね?」
「さすがT大生。察しがいいね」
 陽一はあの時と同様に嫌な予感に襲われると背筋に冷たいものが走る。

「お前さ~ 橘がイタリア留学に誘われてるの知ってるか?」
 陽一の悪い予感がまたも的中してしまう。
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