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46. Angels
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目を覚ました陽一は、真っ白に囲まれた世界で横たわっていた。
胸元に何かの気配を感じて目線を動かすと、白の世界においても輝きを放つパール白色の天使が2体寝そべっており、金色の瞳が陽一に優しい視線を向けていた。
『陽さんの肩に天使が二人』
直人の言葉を思い出した。
「そっか。君達が俺の天使なんだね。初めまして、会えて嬉しいよ」
そう呟いた後で陽一は辺りを見渡した。
「天使さん ・・ここはどこ?」
陽一は、駐車場に居たこと、省吾からの怒りを受けた事、そして背中の痛みを思い出す。
「あれって刺されたのかな? ってことは、もしかして ・・俺、死んじゃった?」
死後の世界なのかと実感が湧かないまま、再度周辺を確認する。
「ここにも誰もいないんだ ・・あの世も寂しい所なんだね」
陽一は、幼少の頃から抱えていた自分の孤独感を意識させられる。
「でも、天使さんが居るね ・・直のお陰なのかな?」
直人の名前を口にすると更に寂しくなった。
「直・・ ごめんね。やっと君と一緒に生きていけるはずだったのに」
陽一は、両手で自身の顔を覆う。
陽一の話を無言で聞いていた天使が、急に何かに呼ばれたように上空を見上げた。そして、陽一も彼等の目線を追い駆ける。
すると、上空にはビジョンが映し出されていて、沢山の精霊たちが忙し気に学校の校庭を飛び回っていた。
『じゃあやっぱり、僕にはあの子達が見えているんですね』
高校の校庭で直人と交わした会話。
「これは、もしかしてあの時に直が見ていた精霊達」
次に空中に浮かぶ水玉が弾けると精霊が生れる。そして、空中には水の塊のようなブヨブヨとした精霊がどんどん増えていく。上空でも小さな光が放ったれた場所に、わずかに電気を持つ精霊が生れていた。
『傘持って行ってくださいね』
「直はこんな風に見えていたんだ。すごいな~」
「え? これはサミット?」
ディライトンホテル最上階に位置するラウンジのサミットが映し出される。
「あれは俺?」
直人が宇道と一緒にサミットを訪れていていたのを偶然見かけた日。陽一達が、サミットのオーナーである枇々木斗真に、予約していた個室を案内される自分。そして、今胸元にいる2体と同じ天使が、うっすらと陽一の背中に浮かび上がる。
「そうか、直・・こんなふうに君は、この子達と再会したんだね」
陽一は横たわったまま、真っ白な世界の上空で上映される、直人のビジョンを懐かし気に見つめた。
自分の人生を振り返り、直人と過ごした月日が陽一にとって初めて孤独を忘れ、幸せに満ちあふれた時間だったと改めて感じた。
陽一は、直人との楽しかった日々を思い出しながら頬を緩めていたが、抗えないほどの睡魔に襲われていく。
「あ―― 俺、もうダメなのかな? 死ぬってこんな感覚なんだ ・・ごめんね、直。俺が居なくても幸せになってほしい。君をあの世から見守れるといいな。今までありがとう」
陽一は、ユックリと目を閉じた。
【陽さん! 陽さん! いやだ! 行かないで! 僕を置いていかないで!・・ お願いだ・・よ】
【陽さんを守ってくれてる天使、どうか陽さんを連れ戻して ・・お願い。僕はどうなってもいい、だから彼を生かして ・・お願い。陽さん、陽さん】
白の世界に直人の悲しい叫び声が響き渡る。
「直・・」
意識が遠のいていく陽一の心に直人の声が届くと重い瞼を開く。
「直・・ 直・・」
陽一は、身体を起こすことが出来きなったが、右腕だけを天に伸ばす。
「直、君を置いてはいけない! 俺も離れたくない! 君をまたこの腕に抱きしめたい!」
陽一の胸元に居た天使がスッと羽ばたくと、陽一の両腕を優しく掴む。
すると、陽一の身体少し浮かび上がった。次に天使2体は陽一に微笑むと、直人の声のする方へ一気に天高く飛び上がる。
手術室では、心電図モニターが陽一の心臓の波動を示し、陽一は一命を取り戻したのだ。
その後、陽一は意識を取り戻さないまま数日が経過し、集中治療室から一般床に移動していた。
直人は一度も家に帰らぬまま、陽一の傍に付き添った。
陽一のベッドに身を預け寝てしまった直人の髪を、誰かが優しく触れている。
直人が、ふと目を開けると陽一の笑顔が彼の瞳に飛び込んできた。
「陽さ・・ん」
直人は髪を触っていた陽一の手をそっと掴むと、自分の頬に押し当てた。
「良かった ・・本当に良かった」
直人の瞳から止めどなく涙が流れ落ちる。
「な・・お」
か細い声で陽一が話し掛けると、直人は陽一の顔に少し近づいた。
「て・・んしに ・・あったよ。直と天使が ・・俺を助けてくれた。ありがとう」
そう告げると、再び陽一は目を閉じた。
「陽さん」
直人は、また陽一を失ったのかと思ったが、陽一は静かに寝息を立てており、安堵すると握っていた彼の手の温もりを強く感じた。
外の光が病室に差し込む朝、陽一は目を覚ます。
「陽一君! あ~良かった。私が来る度に寝てたから、でも本当に良かった」
「美沙ちゃん」
陽一は、途中何度か目を覚ましたようだが記憶になく、今やっと長い夢から覚めた気分だった。
「病院?」
「そうよ、会社の駐車場で刺されて死にかけたんだから」
美沙は冗談めいて語り掛けたが、目には涙が溜まっていた。
『そうだった駐車場に行った ・・省吾の車を』
そう心で呟いた陽一は、身体から血の気が引いていく。
「大丈夫? まだ無理に話さなくていいから ・・1週間近く意識が戻らなかったんだもん」
「そうなんだ ・・美来と悠人は?」
「昨日も一緒に来たんだけど、陽一君寝てたから。二人とも元気よ。マスコミが自宅に来なくなったし、美来も学校に行ってる。虐めとかなくて大丈夫みたい」
「そっか ・・良かった」
「私、会ったわ。陽一君の恋人。橘先生 ・・でしょ?」
「え?」
「亮平おじさまも蒼乃さんも貴方の家族は誰も、救急で運ばれた陽一君の所に駆け付けなかったけど、あの人は貴方の傍にずっと居て、ずっと祈ってた」
「直が?」
「うん。彼、部外者でしょ。病院の受付で陽一君の名前を叫んで、仔犬みたいにキャンキャン鳴いてたから、拾って来たのよ」
「そっか、やっぱりあれは直だったんだ」
「ずっと陽一君に付き添っていたけど、お医者さまが陽一君は大丈夫だって言ったから、やっと昨日家に帰って貰った。携帯と財布しか持っていなかったし、フラフラだったから、鮫島さんが送って行ったわ ・・フフフ」
「そっか」
慌てて家を飛び出し、陽一の元に駆け付ける直人の姿を想像すると、陽一の胸が熱くなった。
「陽一君、ごめんなさい。私、何も知らない癖に貴方に酷い事を言ったわ」
「美沙ちゃん?」
「それにお姉ちゃんの事も信じてなかった。あんなに楓馬君を愛していたくせに、陽一君と結婚したら、まるで楓馬君を忘れてしまったみたいで悲しかったの。でも・・そうじゃないんでしょ? 二人共、心に別の誰かを抱いて、それを尊重し合って暮らしてた・・違う?」
「美沙ちゃん」
「橘先生、素敵な人ね。陽一君の事を誰よりも大切に思ってるわ」
「うん ・・僕、一度死んだと思う。でも、直が助けてくれた」
「そうなの ・・フフフ素敵ね。万里江おばさんが知ったら喜びそう!」
「万里江おばさんが総会で助けてくれたよ」
「聞いたわ」
「彼女って・・」
「元祖腐女子 ・・榊家では有名よ。私もお姉ちゃんも幼い頃に、そういう思想を植付けられそうでパパが心配してたもん」
「あ、ハハハ。痛っ!」
「陽一君、大丈夫?」
「うん」
「私達、榊家は陽一君と橘先生の味方だから。二人の事、応援してる」
陽一は、美沙の眩しい笑顔に少し許された気がした。そして、生きていて本当に良かったと心から直人に感謝した。
胸元に何かの気配を感じて目線を動かすと、白の世界においても輝きを放つパール白色の天使が2体寝そべっており、金色の瞳が陽一に優しい視線を向けていた。
『陽さんの肩に天使が二人』
直人の言葉を思い出した。
「そっか。君達が俺の天使なんだね。初めまして、会えて嬉しいよ」
そう呟いた後で陽一は辺りを見渡した。
「天使さん ・・ここはどこ?」
陽一は、駐車場に居たこと、省吾からの怒りを受けた事、そして背中の痛みを思い出す。
「あれって刺されたのかな? ってことは、もしかして ・・俺、死んじゃった?」
死後の世界なのかと実感が湧かないまま、再度周辺を確認する。
「ここにも誰もいないんだ ・・あの世も寂しい所なんだね」
陽一は、幼少の頃から抱えていた自分の孤独感を意識させられる。
「でも、天使さんが居るね ・・直のお陰なのかな?」
直人の名前を口にすると更に寂しくなった。
「直・・ ごめんね。やっと君と一緒に生きていけるはずだったのに」
陽一は、両手で自身の顔を覆う。
陽一の話を無言で聞いていた天使が、急に何かに呼ばれたように上空を見上げた。そして、陽一も彼等の目線を追い駆ける。
すると、上空にはビジョンが映し出されていて、沢山の精霊たちが忙し気に学校の校庭を飛び回っていた。
『じゃあやっぱり、僕にはあの子達が見えているんですね』
高校の校庭で直人と交わした会話。
「これは、もしかしてあの時に直が見ていた精霊達」
次に空中に浮かぶ水玉が弾けると精霊が生れる。そして、空中には水の塊のようなブヨブヨとした精霊がどんどん増えていく。上空でも小さな光が放ったれた場所に、わずかに電気を持つ精霊が生れていた。
『傘持って行ってくださいね』
「直はこんな風に見えていたんだ。すごいな~」
「え? これはサミット?」
ディライトンホテル最上階に位置するラウンジのサミットが映し出される。
「あれは俺?」
直人が宇道と一緒にサミットを訪れていていたのを偶然見かけた日。陽一達が、サミットのオーナーである枇々木斗真に、予約していた個室を案内される自分。そして、今胸元にいる2体と同じ天使が、うっすらと陽一の背中に浮かび上がる。
「そうか、直・・こんなふうに君は、この子達と再会したんだね」
陽一は横たわったまま、真っ白な世界の上空で上映される、直人のビジョンを懐かし気に見つめた。
自分の人生を振り返り、直人と過ごした月日が陽一にとって初めて孤独を忘れ、幸せに満ちあふれた時間だったと改めて感じた。
陽一は、直人との楽しかった日々を思い出しながら頬を緩めていたが、抗えないほどの睡魔に襲われていく。
「あ―― 俺、もうダメなのかな? 死ぬってこんな感覚なんだ ・・ごめんね、直。俺が居なくても幸せになってほしい。君をあの世から見守れるといいな。今までありがとう」
陽一は、ユックリと目を閉じた。
【陽さん! 陽さん! いやだ! 行かないで! 僕を置いていかないで!・・ お願いだ・・よ】
【陽さんを守ってくれてる天使、どうか陽さんを連れ戻して ・・お願い。僕はどうなってもいい、だから彼を生かして ・・お願い。陽さん、陽さん】
白の世界に直人の悲しい叫び声が響き渡る。
「直・・」
意識が遠のいていく陽一の心に直人の声が届くと重い瞼を開く。
「直・・ 直・・」
陽一は、身体を起こすことが出来きなったが、右腕だけを天に伸ばす。
「直、君を置いてはいけない! 俺も離れたくない! 君をまたこの腕に抱きしめたい!」
陽一の胸元に居た天使がスッと羽ばたくと、陽一の両腕を優しく掴む。
すると、陽一の身体少し浮かび上がった。次に天使2体は陽一に微笑むと、直人の声のする方へ一気に天高く飛び上がる。
手術室では、心電図モニターが陽一の心臓の波動を示し、陽一は一命を取り戻したのだ。
その後、陽一は意識を取り戻さないまま数日が経過し、集中治療室から一般床に移動していた。
直人は一度も家に帰らぬまま、陽一の傍に付き添った。
陽一のベッドに身を預け寝てしまった直人の髪を、誰かが優しく触れている。
直人が、ふと目を開けると陽一の笑顔が彼の瞳に飛び込んできた。
「陽さ・・ん」
直人は髪を触っていた陽一の手をそっと掴むと、自分の頬に押し当てた。
「良かった ・・本当に良かった」
直人の瞳から止めどなく涙が流れ落ちる。
「な・・お」
か細い声で陽一が話し掛けると、直人は陽一の顔に少し近づいた。
「て・・んしに ・・あったよ。直と天使が ・・俺を助けてくれた。ありがとう」
そう告げると、再び陽一は目を閉じた。
「陽さん」
直人は、また陽一を失ったのかと思ったが、陽一は静かに寝息を立てており、安堵すると握っていた彼の手の温もりを強く感じた。
外の光が病室に差し込む朝、陽一は目を覚ます。
「陽一君! あ~良かった。私が来る度に寝てたから、でも本当に良かった」
「美沙ちゃん」
陽一は、途中何度か目を覚ましたようだが記憶になく、今やっと長い夢から覚めた気分だった。
「病院?」
「そうよ、会社の駐車場で刺されて死にかけたんだから」
美沙は冗談めいて語り掛けたが、目には涙が溜まっていた。
『そうだった駐車場に行った ・・省吾の車を』
そう心で呟いた陽一は、身体から血の気が引いていく。
「大丈夫? まだ無理に話さなくていいから ・・1週間近く意識が戻らなかったんだもん」
「そうなんだ ・・美来と悠人は?」
「昨日も一緒に来たんだけど、陽一君寝てたから。二人とも元気よ。マスコミが自宅に来なくなったし、美来も学校に行ってる。虐めとかなくて大丈夫みたい」
「そっか ・・良かった」
「私、会ったわ。陽一君の恋人。橘先生 ・・でしょ?」
「え?」
「亮平おじさまも蒼乃さんも貴方の家族は誰も、救急で運ばれた陽一君の所に駆け付けなかったけど、あの人は貴方の傍にずっと居て、ずっと祈ってた」
「直が?」
「うん。彼、部外者でしょ。病院の受付で陽一君の名前を叫んで、仔犬みたいにキャンキャン鳴いてたから、拾って来たのよ」
「そっか、やっぱりあれは直だったんだ」
「ずっと陽一君に付き添っていたけど、お医者さまが陽一君は大丈夫だって言ったから、やっと昨日家に帰って貰った。携帯と財布しか持っていなかったし、フラフラだったから、鮫島さんが送って行ったわ ・・フフフ」
「そっか」
慌てて家を飛び出し、陽一の元に駆け付ける直人の姿を想像すると、陽一の胸が熱くなった。
「陽一君、ごめんなさい。私、何も知らない癖に貴方に酷い事を言ったわ」
「美沙ちゃん?」
「それにお姉ちゃんの事も信じてなかった。あんなに楓馬君を愛していたくせに、陽一君と結婚したら、まるで楓馬君を忘れてしまったみたいで悲しかったの。でも・・そうじゃないんでしょ? 二人共、心に別の誰かを抱いて、それを尊重し合って暮らしてた・・違う?」
「美沙ちゃん」
「橘先生、素敵な人ね。陽一君の事を誰よりも大切に思ってるわ」
「うん ・・僕、一度死んだと思う。でも、直が助けてくれた」
「そうなの ・・フフフ素敵ね。万里江おばさんが知ったら喜びそう!」
「万里江おばさんが総会で助けてくれたよ」
「聞いたわ」
「彼女って・・」
「元祖腐女子 ・・榊家では有名よ。私もお姉ちゃんも幼い頃に、そういう思想を植付けられそうでパパが心配してたもん」
「あ、ハハハ。痛っ!」
「陽一君、大丈夫?」
「うん」
「私達、榊家は陽一君と橘先生の味方だから。二人の事、応援してる」
陽一は、美沙の眩しい笑顔に少し許された気がした。そして、生きていて本当に良かったと心から直人に感謝した。
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