[完結]おっさん、異世界でスローライフ はじめます 2 〜猫耳少女とふしぎな毎日~

桃源 華

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第二章:猫耳チームとハーブ革命

第18話香辛料倉庫、燃ゆ

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「にゃあああああああっ! 
倉庫がぁあああああっ!!」

ミュリの絶叫が、村中に響き
渡った。

俺、レオンはスコップを手に
畑を耕していたのだが、あまり
の声に腰をひねってひっくり
返った。

「うごっ……腰が……腰が死ぬ……」

「レオーーーンっ! たいへん
にゃっ!」

ミュリが全速力で駆け寄ってくる。
いつも通りしっぽはブンブン
振って……いや、違う、今回はピン
と立って震えている。

「何があった!? まさかまた
料理を――」

「違うにゃ! 今度は火事にゃ! 
火事! 香辛料倉庫が……っ!」

「なんだとぉっ!?」

慌てて腰をさすりつつ立ち上がる
と、畑の奥、ハーブ倉庫の向こう
に建てたスパイス倉庫から、
うっすらと煙が上がっていた。

「うわぁああああああああ!!」

まさかの自家製スモーク・チリに
なるとは思わなかった。

🐈🐾 🐾 🐾

「スイ! 水を頼む!」

「……うん」

スイは黙って井戸からバケツを
ぶら下げ、全力ダッシュで戻って
きた。服の袖から灰色の猫耳が
ピコピコ揺れる。

ザバーッ!

その冷静な水かけに、周囲の
ミュリたちが慌てて避ける。

「ちょ、ちょっとスイ、あたしに
かけないでってば!」

「……火の方が大事」

「それはそうにゃ……!」

一方、リンが「べ、別に助けたい
わけじゃないんだからねっ!」
と叫びながら“ハーブ・フレア!”
を連発。いやそれ火だろ、火力
アップしてどーすんの!

「リン! 火を出すな火を!」

「ちょ、ちょっとまって!? 
消そうとして……あああああっ! 
ご、ごめんってばぁ!」

🐈🐾 🐾 🐾

結局、消火活動はスイの地道な
水攻めと、ノアの即席ハーブ
スモークボム(煙幕)で鎮火に
成功。

「……これで酸素を遮断して、
燃焼を抑制する。理論的
だろう?」

「ノアさんかっこいいにゃ……! 
あ、でもメガネ曇ってるにゃ!」

「それも理論の一部だ」

うん、よくわからんが
ありがとう。

香辛料の被害は――大ダメージ
だった。

「ううっ……オレガノが……
シナモンが……ターメリック
がぁああっ……!」

ミュリがしょんぼりして耳を
ぺたんと折り、しっぽもだらん。
あの元気な猫耳少女がここまで
落ち込むのは久々だった。

「ミュリ、もしかしてまた火を
使ったのか?」

「ち、違うにゃ! 今日は火は
使ってないにゃ! ちゃんと
“チリパウダーを振るだけ”
にしたのにっ!」

「振るだけで倉庫が燃える
わけ――」

「……チャチャが、こぼしてた……
たくさん……」

スイの低音ボイスが静かに告げる
と、みんなの視線がチャチャに
集まる。

「な、なんでよ!? あたし
ちょっとピリっとさせたくて
ちょっと……その……唐辛子山盛り
にしちゃったけど!」

「ちょっとじゃないにゃ! 
チャチャの“ちょっと”は
山一つ分にゃ!」

「うにゃああああああっ!」

「……しかも、その唐辛子の袋を
ビビが持って転んだ……」

「やっちまった~☆」

ドサッとその場に座り込むビビ。
耳には泥、鼻の頭にもスパイス、
なぜかしっぽからは雑草が生え
ていた。

「お、おれの……おれの香辛料が
あぁぁ……!」

「レオン! 落ち着くにゃ! 
ほら、また一から作ればいい
にゃっ!」

「それが何年かかると思って
んだ……!」

🐈🐾 🐾 🐾

その日の夜、ミュリはテーブル
の上で膝を抱えてしょんぼり
していた。

「ミュリ、落ち込むな。誰に
だって失敗はある」

「にゃ~……でも、お店のスパイス
全部燃えたら、パサージュに戻っ
ても店開けられないにゃ……」

「まだ畑がある。仲間もいる。
スパイスはまた育てればいい」

俺はそう言ってミュリの頭を
ぽんと撫でた。ピクリと猫耳
が反応し、ゆっくりと起き
上がる。

「にゃ……?」

「元気出せ。倉庫はまた建て
るし、スパイスはまた作る。
失敗は、成功への香辛料だ」

「か、かっこいいにゃっ! 
レオン、ちょっとイケメン
台詞にゃっ!」

「だろ? 一回言ってみた
かったんだ」

「よーしっ! あしたから、
ハーブ栽培もっと頑張る
にゃ!」

その瞬間、ミュリのしっぽが
ブンブンと再起動を開始した。

「おっと、でも火の扱いは
禁止な?」

「えっ……ちょっとだけなら……」

「禁止!」

「にゃーーーっ!!」

🐈🐾 🐾 🐾

こうして、俺たちはまたゼロ
からスパイス作りを始めること
になった。

倉庫は燃えた。

スパイスも灰になった。

でも、猫耳娘たちの笑い声が
あれば、異世界スローライフ
はまだまだ続く。

たとえ香辛料まみれでも、な。
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