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第三章:村祭りと屋台戦争
第23話リューシャ、涙の味見担当
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「うぅ……今日こそ成功するって思ったのにゃ……!」
台所の片隅で、しょんぼりと丸くなった猫耳が一つ。
ミュリの前には、真っ黒に炭化した“なにか”が、湯気を立てていた。
「ミュリ、これは何を作ろうとしたんだ?」
俺は黒い塊をフォークでつつきながら尋ねた。
「し、シナモン風味のハーブクッキーにゃ……甘くてスパイシーで、村の男の子たちもメロメロなやつ……の予定だったにゃ……」
「……完全にカーボンになってるぞ、これ」
「にゃああああっ!」
バタン、とミュリが台所に突っ伏す。しっぽも耳も、見事にしょぼんモードだった。
そこへ、静かに現れたのは――リューシャ。
白銀の髪に、淡い猫耳。瞳の奥には、常に遠くを見ているような透明なまなざし。そしていつも、微妙なタイミングで登場する。
「……私、味見する」
「えっ!? ダメにゃダメにゃ! これはもう“焦がした”とか“失敗”とかいうレベルじゃないにゃ!!」
「だからこそ……味見が必要」
リューシャは無言で皿を持ち上げ、一口……カリッ。
「……………あ」
「ど、どう!? どうなの!? リューシャ、息してる!? 生きてる!?」
「……これは、“焦げ”ではない。“絶望の味”」
「やっぱり失敗にゃーーーーー!!」
バサッとミュリがテーブルに突っ伏した。
「でも……ミュリの涙が、最後にかかったこの一片だけ……少し、甘かった」
「えっ!? にゃ、にゃにそれ!? それってもしかして……感動系!? 奇跡!? 料理に宿った魂の味!?」
「……多分、単にシロップが垂れただけ」
「台無しにゃ!!」
🐈🐾 🐾 🐾
その後も、ミュリのリベンジは続いた。
「よーし、次は絶対うまくいくにゃ! 『香るローズマリーの幸せ焼き』、通称・幸焼き(さちやき)! 幸せにするにゃ!」
「ミュリ、それ名前でハードル上げすぎだろ……」
リューシャはまたもや無言で隣に立ち、すでにスプーンを構えていた。
「……準備完了」
「にゃっ!? まだ焼き始めてすらいないのにゃ!?」
「いつでも味見できるように、心の準備が必要」
「リューシャさん、それ準備というより“覚悟”では……」
ノアがぼそっと突っ込みながら、別の机でハーブ配合表を更新している。
そこにチャチャが鼻をひくつかせながらやってきた。
「ちょっと、また香ばしい香りが……ていうか、ミュリまたやらかした!?」
「ちょ、ちょっと! まだ焼いてる途中にゃ!!」
「どうせまた焦げるんでしょ!? あたし、火の加減だけはうるさいんだからねっ!」
「なら、あんたが見てればよかったにゃーーー!」
「うるさいっ!! ……で、リューシャ、どうなの?」
「……食べる」
焼き上がるや否や、無言でパクッ。周囲が静まり返る。
「……………」
「ど、ど、どーにゃ!? これぞ“幸せの味”にゃ!? 感動した!? 涙出た!?」
「……これは、“中途半端な幸福”の味」
「評価が哲学的すぎるにゃああああ!!」
🐈🐾 🐾 🐾
その夜。台所の片隅で、再びミュリは丸まっていた。
「もうダメにゃ……レオン、あたし料理向いてないのかもにゃ……」
「お前がそれ言うの、今日で何度目だと思ってるんだ?」
「うぅぅ……でも、あたしだって……誰かに『おいしい』って言ってもらいたいにゃ……」
そのとき、カタンと小さな音がした。
リューシャが、ミュリの焼いた“幸せ焼き”の最後の一切れを、無言で皿にのせていた。
「……これは、味見じゃない。おやつ」
「えっ……?」
「ちゃんと、おいしいから……残しておいた」
「リューシャ……にゃ、にゃにそれ……泣いちゃうにゃ……!」
「……それも、味に入ってると思う」
「うわあああん!!」
🐈🐾 🐾 🐾
こうして、リューシャの「涙の味見担当」としての評判は、村の猫耳少女たちの間で密かに広がっていく。
なお、その後――
「リューシャの“おやつ判定”が出たら成功ってことにしよう!」
「レオン、今後の料理チェックはリューシャがメインでやるにゃ!」
「いや、俺の胃の役割はどこいった……?」
という感じで、ますます俺の台所の地位が不安定になっていくのであった――。
台所の片隅で、しょんぼりと丸くなった猫耳が一つ。
ミュリの前には、真っ黒に炭化した“なにか”が、湯気を立てていた。
「ミュリ、これは何を作ろうとしたんだ?」
俺は黒い塊をフォークでつつきながら尋ねた。
「し、シナモン風味のハーブクッキーにゃ……甘くてスパイシーで、村の男の子たちもメロメロなやつ……の予定だったにゃ……」
「……完全にカーボンになってるぞ、これ」
「にゃああああっ!」
バタン、とミュリが台所に突っ伏す。しっぽも耳も、見事にしょぼんモードだった。
そこへ、静かに現れたのは――リューシャ。
白銀の髪に、淡い猫耳。瞳の奥には、常に遠くを見ているような透明なまなざし。そしていつも、微妙なタイミングで登場する。
「……私、味見する」
「えっ!? ダメにゃダメにゃ! これはもう“焦がした”とか“失敗”とかいうレベルじゃないにゃ!!」
「だからこそ……味見が必要」
リューシャは無言で皿を持ち上げ、一口……カリッ。
「……………あ」
「ど、どう!? どうなの!? リューシャ、息してる!? 生きてる!?」
「……これは、“焦げ”ではない。“絶望の味”」
「やっぱり失敗にゃーーーーー!!」
バサッとミュリがテーブルに突っ伏した。
「でも……ミュリの涙が、最後にかかったこの一片だけ……少し、甘かった」
「えっ!? にゃ、にゃにそれ!? それってもしかして……感動系!? 奇跡!? 料理に宿った魂の味!?」
「……多分、単にシロップが垂れただけ」
「台無しにゃ!!」
🐈🐾 🐾 🐾
その後も、ミュリのリベンジは続いた。
「よーし、次は絶対うまくいくにゃ! 『香るローズマリーの幸せ焼き』、通称・幸焼き(さちやき)! 幸せにするにゃ!」
「ミュリ、それ名前でハードル上げすぎだろ……」
リューシャはまたもや無言で隣に立ち、すでにスプーンを構えていた。
「……準備完了」
「にゃっ!? まだ焼き始めてすらいないのにゃ!?」
「いつでも味見できるように、心の準備が必要」
「リューシャさん、それ準備というより“覚悟”では……」
ノアがぼそっと突っ込みながら、別の机でハーブ配合表を更新している。
そこにチャチャが鼻をひくつかせながらやってきた。
「ちょっと、また香ばしい香りが……ていうか、ミュリまたやらかした!?」
「ちょ、ちょっと! まだ焼いてる途中にゃ!!」
「どうせまた焦げるんでしょ!? あたし、火の加減だけはうるさいんだからねっ!」
「なら、あんたが見てればよかったにゃーーー!」
「うるさいっ!! ……で、リューシャ、どうなの?」
「……食べる」
焼き上がるや否や、無言でパクッ。周囲が静まり返る。
「……………」
「ど、ど、どーにゃ!? これぞ“幸せの味”にゃ!? 感動した!? 涙出た!?」
「……これは、“中途半端な幸福”の味」
「評価が哲学的すぎるにゃああああ!!」
🐈🐾 🐾 🐾
その夜。台所の片隅で、再びミュリは丸まっていた。
「もうダメにゃ……レオン、あたし料理向いてないのかもにゃ……」
「お前がそれ言うの、今日で何度目だと思ってるんだ?」
「うぅぅ……でも、あたしだって……誰かに『おいしい』って言ってもらいたいにゃ……」
そのとき、カタンと小さな音がした。
リューシャが、ミュリの焼いた“幸せ焼き”の最後の一切れを、無言で皿にのせていた。
「……これは、味見じゃない。おやつ」
「えっ……?」
「ちゃんと、おいしいから……残しておいた」
「リューシャ……にゃ、にゃにそれ……泣いちゃうにゃ……!」
「……それも、味に入ってると思う」
「うわあああん!!」
🐈🐾 🐾 🐾
こうして、リューシャの「涙の味見担当」としての評判は、村の猫耳少女たちの間で密かに広がっていく。
なお、その後――
「リューシャの“おやつ判定”が出たら成功ってことにしよう!」
「レオン、今後の料理チェックはリューシャがメインでやるにゃ!」
「いや、俺の胃の役割はどこいった……?」
という感じで、ますます俺の台所の地位が不安定になっていくのであった――。
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