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第三章:村祭りと屋台戦争
第24話スパイス風呂と村人の悲鳴
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「できたにゃ! ミュリ特製・超癒やし系スパイス風呂!」
――その日、村は香りに包まれた。
「……なんか、鼻がヒリヒリするんだが」
「目が開けられないんですけど!」
「く、くしゃみが……! はっ、はっくしょん!!」
村人たちの叫びとくしゃみの大合唱が、朝もやの中に響き渡る。
きっかけは、ミュリが「美容と健康にいいお風呂を作るにゃ!」と思いついたことだった。
「レオン、聞いて聞いて! 最近スパイスが余ってるから、スパイス風呂を作るにゃ!」
「余ってる理由は、たぶんミュリが爆発させたからだな……あの香房の二階、まだ焦げ臭いぞ」
「それは過去の話にゃ! 今回はちゃんと分量もバッチリにゃ!」
「前もそう言って鍋が二回転したが……まぁ、止めても聞かないだろうな」
レオンは深いため息をつきつつも、結局付き合うことにした。ミュリの“今回は本気”は、信用ならないが笑える。
「じゃあ、準備するにゃ! チャチャ、火をよろしくにゃ!」
「え、もう? えーと、わかったわよ……火傷したら責任取りなさいよっ!」
「ノア、温度と効能のバランスをチェックしてにゃ!」
「……面白い。これは記録しておく」
「スイは水の加減をお願いにゃ」
「……水、あげた」
「ビビは湯加減チェックと泡立て係にゃ!」
「了解ー! 泡風呂っておいしい? 食べちゃだめ?」
「おい、泡風呂食うな! そもそも泡風呂じゃないし、スパイス風呂ってどう泡立つんだよ!」
レオンがツッコミを入れる間にも、どこからか謎のスパイスの香りが立ち上る。そして、風呂桶の中から立ち上がった湯気が――
「うぎゃっ!? 目が、目がああああ!」
「こ、これは唐辛子成分!? 誰だ、カレー粉まで入れたのは!?」
「アロマ効果抜群にゃ! 村人、健康間違いなしにゃ!」
「アロマじゃなくて攻撃だろこれは!」
逃げ出す村人たち。畑のスイすら無言で小屋に避難し、ビビはくしゃみと戦っていた。
「ハ、ハクション! 草も逃げた気がするぅ!」
「おいミュリ、お前これ何入れたんだ!? 湯気で魔法陣でも描けそうな勢いだぞ!」
「カモミールに、シナモンに、スターアニスに、ちょっぴりカレーパウダー……」
「カレー!? なんで風呂にカレー!?」
「だって、体もポカポカ、心もホカホカ、香りもバッチリにゃ!」
「飯テロかよ!」
その頃、村の広場では。
「こ、これは……戦場か?」
「村に、香辛料の嵐が……!」
レオンは全速力で風呂場の釜を止めに走った。途中、チャチャが魔法で火を消し、ノアが化学反応メモを取りながら頷いていた。
「やはり、唐辛子と温泉は禁忌の組み合わせ……これは記録しておく」
「誰も試してくれとは言ってねぇ!」
最終的に風呂は、川の水で一気に冷却され、村の被害は“ちょっと涙目”で済んだ。
――夜。
「はぁ……なんで毎回こうなるんだ」
レオンが腰に手を当てて夜空を見上げていると、ミュリがしょんぼりしながら寄ってきた。耳がぺたんと下がり、しっぽがだらんと床を掃いている。
「……また、やっちゃったにゃ」
「……まぁ、村が無事だっただけマシだ」
「レオン、怒ってる?」
「怒ってない。ただな、次からはスパイスを風呂じゃなくて、ちゃんと料理に使おうな」
「料理は、ほら、禁止令出てるにゃ……」
「……じゃあ、俺が風呂に料理を入れようとしたら止めろ」
「わかったにゃ! レオンが風呂にカレーを入れようとしたら全力で止めるにゃ!」
「そもそも誰がそんなことすんだよ!」
二人の掛け合いを見守りながら、猫耳たちが笑い合っていた。
「ま、うちらの毎日って、これでこそだよね~!」
「……ミュリ、またやった」
「ハーブ・フレアで全部蒸発させてやるわ!」
こうして、村の夜はスパイスの香りと笑い声に包まれた。
明日もまた、きっと何かが起こる――たぶん、ミュリ発。
――その日、村は香りに包まれた。
「……なんか、鼻がヒリヒリするんだが」
「目が開けられないんですけど!」
「く、くしゃみが……! はっ、はっくしょん!!」
村人たちの叫びとくしゃみの大合唱が、朝もやの中に響き渡る。
きっかけは、ミュリが「美容と健康にいいお風呂を作るにゃ!」と思いついたことだった。
「レオン、聞いて聞いて! 最近スパイスが余ってるから、スパイス風呂を作るにゃ!」
「余ってる理由は、たぶんミュリが爆発させたからだな……あの香房の二階、まだ焦げ臭いぞ」
「それは過去の話にゃ! 今回はちゃんと分量もバッチリにゃ!」
「前もそう言って鍋が二回転したが……まぁ、止めても聞かないだろうな」
レオンは深いため息をつきつつも、結局付き合うことにした。ミュリの“今回は本気”は、信用ならないが笑える。
「じゃあ、準備するにゃ! チャチャ、火をよろしくにゃ!」
「え、もう? えーと、わかったわよ……火傷したら責任取りなさいよっ!」
「ノア、温度と効能のバランスをチェックしてにゃ!」
「……面白い。これは記録しておく」
「スイは水の加減をお願いにゃ」
「……水、あげた」
「ビビは湯加減チェックと泡立て係にゃ!」
「了解ー! 泡風呂っておいしい? 食べちゃだめ?」
「おい、泡風呂食うな! そもそも泡風呂じゃないし、スパイス風呂ってどう泡立つんだよ!」
レオンがツッコミを入れる間にも、どこからか謎のスパイスの香りが立ち上る。そして、風呂桶の中から立ち上がった湯気が――
「うぎゃっ!? 目が、目がああああ!」
「こ、これは唐辛子成分!? 誰だ、カレー粉まで入れたのは!?」
「アロマ効果抜群にゃ! 村人、健康間違いなしにゃ!」
「アロマじゃなくて攻撃だろこれは!」
逃げ出す村人たち。畑のスイすら無言で小屋に避難し、ビビはくしゃみと戦っていた。
「ハ、ハクション! 草も逃げた気がするぅ!」
「おいミュリ、お前これ何入れたんだ!? 湯気で魔法陣でも描けそうな勢いだぞ!」
「カモミールに、シナモンに、スターアニスに、ちょっぴりカレーパウダー……」
「カレー!? なんで風呂にカレー!?」
「だって、体もポカポカ、心もホカホカ、香りもバッチリにゃ!」
「飯テロかよ!」
その頃、村の広場では。
「こ、これは……戦場か?」
「村に、香辛料の嵐が……!」
レオンは全速力で風呂場の釜を止めに走った。途中、チャチャが魔法で火を消し、ノアが化学反応メモを取りながら頷いていた。
「やはり、唐辛子と温泉は禁忌の組み合わせ……これは記録しておく」
「誰も試してくれとは言ってねぇ!」
最終的に風呂は、川の水で一気に冷却され、村の被害は“ちょっと涙目”で済んだ。
――夜。
「はぁ……なんで毎回こうなるんだ」
レオンが腰に手を当てて夜空を見上げていると、ミュリがしょんぼりしながら寄ってきた。耳がぺたんと下がり、しっぽがだらんと床を掃いている。
「……また、やっちゃったにゃ」
「……まぁ、村が無事だっただけマシだ」
「レオン、怒ってる?」
「怒ってない。ただな、次からはスパイスを風呂じゃなくて、ちゃんと料理に使おうな」
「料理は、ほら、禁止令出てるにゃ……」
「……じゃあ、俺が風呂に料理を入れようとしたら止めろ」
「わかったにゃ! レオンが風呂にカレーを入れようとしたら全力で止めるにゃ!」
「そもそも誰がそんなことすんだよ!」
二人の掛け合いを見守りながら、猫耳たちが笑い合っていた。
「ま、うちらの毎日って、これでこそだよね~!」
「……ミュリ、またやった」
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明日もまた、きっと何かが起こる――たぶん、ミュリ発。
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