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第一部:追放と再起
第9話 魔術と剣の訓練
「……これが、“本気”の魔術という
わけか」
白銀の雪原に、蒼い魔力が渦を
巻いていた。
砦の裏手にある訓練場。魔術の練習
には広すぎるほどの空間だったが、
今やその半分が凍てついた氷の結晶
に覆われていた。
レティシアが魔術の杖を下ろし、
肩で息をつく。
「ちょっと威力が出すぎただけよ。
調整は次回するわ」
「ふむ……敵なら、もう蒸発してるな」
クラウスが呆れたように呟くが、
その目は鋭いながらもどこか
楽しげだった。
「剣の稽古と違って、魔術には
“感情”が影響するから。……
さっきのは、ちょっと気分が
乗りすぎたの」
レティシアはそう言って目を逸らす。
けれど彼女自身、自分の鼓動が
いつもより早いことに気づいていた。
クラウスは剣を鞘から抜き、
レティシアの魔力がまだ揺らめく
空間に一歩足を踏み出す。
「では次は、剣と魔術の連携訓練だ。
実戦に近い状況を想定する」
「……私がサポート側?」
「いや、逆だ。俺がおまえの
魔術の“盾”になる」
「……は?」
レティシアは思わずクラウスを
見上げた。彼は至って真面目な
表情で続ける。
「おまえの魔術が通じない相手に
接近するには、俺が囮になるのが
最適だ。おまえの攻撃のタイミング
と俺の間合いを合わせる。……
その訓練だ」
「……なるほどね。合理的だけど――」
「なにか問題でも?」
「あるに決まってるでしょ。……
あんた、無事でいられる保証
あるの?」
その問いに、クラウスは珍しく
薄く笑った。
「俺は、簡単には燃えない」
「……ふん。自信だけは一人前ね」
しかし、彼の真剣な目を見て、
レティシアはふっと息を吐いた。
「いいわ。じゃあ、少し“本気”で
いくから。剣で受け止められる
かは……あなた次第よ」
魔力が空気を震わせ、雪の上に
閃光が走る。
クラウスは間合いを計り、疾風の
ように駆けた。
レティシアの詠唱が走る。紡がれる
古代語――そして放たれる氷の槍。
「《クレスタ・グレイ・エルド――
氷槍穿て》!」
クラウスはそれを見事に剣で弾き、
地面に深い裂け目を作る。
「……っ、本当に止めたわね」
「おまえの魔術の癖はもう分かった。
発動の直前、指先が微かに震える」
「……観察力はあるのね」
「剣の使い手は、魔術師を観る目が
ないと生き残れない」
その後も幾度か繰り返される攻防。
レティシアの魔術は、時に鋭く、
時に激しく――そして、次第にクラウス
との距離も縮まっていった。
呼吸を合わせ、動きを読む。互いの
存在が、戦場での“信頼”に変わって
いくのが分かった。
やがて、訓練が終わり、ふたりは
肩を並べて腰を下ろす。
「……思ったより、悪くなかったわ」
「おまえもな。魔術師としては、
かなり戦場向きだ」
「……どういう意味?」
「頼れるという意味だ」
不意に、レティシアは黙った。
砦の空に、雪がちらちらと舞い
始める。沈黙の中、クラウスが
不器用に口を開いた。
「……俺は、おまえを受け入れて
よかったと思っている」
「……なに、それ。急に」
「ただの感想だ」
レティシアは雪を見上げ、そっと
呟いた。
「私も、今はそう思ってる。ここ
に来て……良かったって」
ほんの少しだけ、二人の距離が
近づいた。まだ、指が触れるほど
ではない。けれど、心の間合いは、
確かに縮まっていた。
🪄ྀི🪄ྀི🪄ྀི☆≡。゚✩.*˚🌟
✡️キャラクター紹介🪄◝✩
≡目次からどうぞ☪︎⋆。˚✩
わけか」
白銀の雪原に、蒼い魔力が渦を
巻いていた。
砦の裏手にある訓練場。魔術の練習
には広すぎるほどの空間だったが、
今やその半分が凍てついた氷の結晶
に覆われていた。
レティシアが魔術の杖を下ろし、
肩で息をつく。
「ちょっと威力が出すぎただけよ。
調整は次回するわ」
「ふむ……敵なら、もう蒸発してるな」
クラウスが呆れたように呟くが、
その目は鋭いながらもどこか
楽しげだった。
「剣の稽古と違って、魔術には
“感情”が影響するから。……
さっきのは、ちょっと気分が
乗りすぎたの」
レティシアはそう言って目を逸らす。
けれど彼女自身、自分の鼓動が
いつもより早いことに気づいていた。
クラウスは剣を鞘から抜き、
レティシアの魔力がまだ揺らめく
空間に一歩足を踏み出す。
「では次は、剣と魔術の連携訓練だ。
実戦に近い状況を想定する」
「……私がサポート側?」
「いや、逆だ。俺がおまえの
魔術の“盾”になる」
「……は?」
レティシアは思わずクラウスを
見上げた。彼は至って真面目な
表情で続ける。
「おまえの魔術が通じない相手に
接近するには、俺が囮になるのが
最適だ。おまえの攻撃のタイミング
と俺の間合いを合わせる。……
その訓練だ」
「……なるほどね。合理的だけど――」
「なにか問題でも?」
「あるに決まってるでしょ。……
あんた、無事でいられる保証
あるの?」
その問いに、クラウスは珍しく
薄く笑った。
「俺は、簡単には燃えない」
「……ふん。自信だけは一人前ね」
しかし、彼の真剣な目を見て、
レティシアはふっと息を吐いた。
「いいわ。じゃあ、少し“本気”で
いくから。剣で受け止められる
かは……あなた次第よ」
魔力が空気を震わせ、雪の上に
閃光が走る。
クラウスは間合いを計り、疾風の
ように駆けた。
レティシアの詠唱が走る。紡がれる
古代語――そして放たれる氷の槍。
「《クレスタ・グレイ・エルド――
氷槍穿て》!」
クラウスはそれを見事に剣で弾き、
地面に深い裂け目を作る。
「……っ、本当に止めたわね」
「おまえの魔術の癖はもう分かった。
発動の直前、指先が微かに震える」
「……観察力はあるのね」
「剣の使い手は、魔術師を観る目が
ないと生き残れない」
その後も幾度か繰り返される攻防。
レティシアの魔術は、時に鋭く、
時に激しく――そして、次第にクラウス
との距離も縮まっていった。
呼吸を合わせ、動きを読む。互いの
存在が、戦場での“信頼”に変わって
いくのが分かった。
やがて、訓練が終わり、ふたりは
肩を並べて腰を下ろす。
「……思ったより、悪くなかったわ」
「おまえもな。魔術師としては、
かなり戦場向きだ」
「……どういう意味?」
「頼れるという意味だ」
不意に、レティシアは黙った。
砦の空に、雪がちらちらと舞い
始める。沈黙の中、クラウスが
不器用に口を開いた。
「……俺は、おまえを受け入れて
よかったと思っている」
「……なに、それ。急に」
「ただの感想だ」
レティシアは雪を見上げ、そっと
呟いた。
「私も、今はそう思ってる。ここ
に来て……良かったって」
ほんの少しだけ、二人の距離が
近づいた。まだ、指が触れるほど
ではない。けれど、心の間合いは、
確かに縮まっていた。
🪄ྀི🪄ྀི🪄ྀི☆≡。゚✩.*˚🌟
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