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7章 元自衛官、学園での生活を満喫す
百六話
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~ ☆ ~
突如、全校集会が開かれた。
授業が丸々取り潰されて全学年の生徒がホールへと集められ、俺もそこに居た。
「何が始まるんだ?」
「ユニオン共和国の英霊が来て、挨拶だって。聞いてなかったの?」
「さっきまでタケルの相手をさせられてて、急遽呼び出されたばかりなんだ。着替えたり体を洗ったりしなきゃいけなかったんだ」
「だから稽古着……も、ない、か」
「それ以前に、この私服自体がすでに身動き取りやすい格好だからこのまま戦えるってのもあるしなあ」
「二人とも、静かにしないと」
ミラノと話をしていると、アリアに注意されてしまった。
しかし、ユニオン共和国の英霊か。
コレで何人目だ?
表向きの十二人と裏の一人。
表ではアイアス、ロビン、マリー、ヘラ、タケル、ファム……そしてコレで七人目か。
半分以上はコレで揃ってるわけだ。
「人類の危機って奴が、近いのかな」
「ん~、どうですかね~。ただ、ユニオン共和国の英霊さんって誰なのか気になりますかね~」
「ヘラは知らないのか?」
「あは~。私は学園側の人間じゃないですから。身分や立場を利用して聞き出すのは良くないかと~」
至極マトモな事をいっている。
俺が驚いていると、ヘラは笑顔のままに見上げてくる。
「どうですか? ポイント高くないですか?」
「自分で言い出さなければそのまま加点されてたかもな」
「あは~、手厳しい……」
「「シーッ!」」
ミラノとアリアに怒られてしまい、俺は黙る事に。
そうやって暫く待っていると、どうやら始まったらしく生徒達の喧しさは収まっていった。
しかし、英霊が出てきたらしく再び喧騒が広まっていく。
俺は遠い英霊を見るために双眼鏡を出し、ピントを合わせて相手を見る。
そして英霊を見て、俺は少しばかり困惑した。
「龍……?」
「あ、でしたらヴァイスさんかもしれません。龍の血が目覚めたとか何とかで、龍化してるとかなんとか」
「曖昧だなあ……」
「本人も分かってないみたいですし」
「なるほど」
ヘラが見えないと言い出したので膝の上に座らせ、カティアは猫のままに頭上に乗せる。
コレで全員が英霊・ヴァイスと言う相手を見ることが出来るはずだ。
何度か双眼鏡で見ていたが、若返る前のヘラやマリーを思い浮かべると……若すぎる気がした。
十五~十七歳くらいにしか見えない。
もしかすると龍の血が何か関係しているのかも知れないが。
羽根だの尻尾だの、目だの左手だのと……人じゃないワケか。
『皆の者、よく吾の為に集ってくれた。本来であれば学業や訓練に勤しんでいる中、態々時間を割かせてしまった事は吾の至らなさ故である。まず、それを詫びよう』
そう言って、ヴァイスはまず謝罪をする。
生徒たちは謝罪の言葉で静まり返り、先ほどまで”普通じゃない相手”への騒ぎを消していった。
場が収まったのを見てから、英霊は言葉を続ける。
『吾の姿に、見た目に驚いた者が多いと思う。これから吾は先の出来事について安全性を、子を差し出す親に向けて安心をさせてやらねばならぬ。その為には学園を有るがままに見て、そのまま吾が伝えねばならぬ。その時に、皆が吾を見る度に驚き、戸惑ってしまっては良くないのでな。故に無理を言い、こうして理解してもらうために場を設けてもらった』
なるほど。
つまり自分の見た目が変だから、そのままでは学園の視察が侭ならないと。
生徒達が動揺したりしてしまわないように、こうして集めてもらったと……そう言うわけか。
『確かに吾の見た目はおぞましいやも知れぬ。嫌悪し、出来れば関わりたくないと言う者も居るじゃろう。しかし、暫くは耐えて欲しい。そして吾らが国から来たものは、それを咎めぬように頼む。様々な出来事があり、学園での日々に疑問を抱いていると思う。それを少しでも解消してやれればよいと思い、こうして来たのじゃ。故に、協力的で無くとも良い。ただ、お主等が吾を見かけても驚いたり、逃げたりせねばそれで良い。――では、挨拶はこれで済まそう。重ねて、この場に集ってくれた事に感謝する』
ではな、と。
ヴァイスはそう言うと壇上を去っていった。
暫くは沈黙が場を支配していたが、徐々にまた喧しさが場を支配した。
「英霊である事に胡坐をかいたりせず、理解を求める為にこう言う事をしたのか」
「ヴァイスさんは良い意味で人を纏めるのが得意だったんですよ~? 演説とかも得意でしたし、そうやって様々な方を鼓舞したりしてました。そして自分も前線で剣を振るってましたね~。ただ、あの様子じゃ今は剣を使っているかどうかは分かりませんが」
「へ~」
そう言ってから、俺は脳裏で先ほどの英霊の事を思い出す。
暫く脳裏で三百六十度全方向からの姿を思い描いてから、自然と笑みが漏れた。
「……ヘルマン国に行きたくなってきた」
「あや~、もしかしてそう言うのがお好きですか?」
「醜悪? どこが? むしろただの属性だろ!」
この世界の人、潔癖好き過ぎない?
いや、もしかしたら遺伝子情報の中に”新人類と旧人類”的な物が刻み込まれているのかも知れない。
それでも、まるでゲームのキャラのように──良かったと思う。
「あれが視察か。まあ、俺には関係の無い話だろうな」
「だと、いいけど」
「え? 止めてくれません? ミラノさん? 無関係だって俺が言ってるんだから、係わり合いにならないって意味なんですけど、何でもう巻き込まれるのを受け入れてるの?」
「だって、ねえ? アンタ、また何かありそうだし」
「やめよう!? タダでさえ無休で嫌気が差してるのに、この上何か有るとか嫌なんですけど!」
英霊に関わるとだいたい振り回される事を理解していた。
だからこそ、英霊の新たな登場とは別に俺は周囲の熱気とは別に冷めたものを感じていた。
しかし、その嫌な予感は直ぐに的中する事になる。
全校集会によって一つ授業が潰れて暇な時間が出来たのだが、ホールを出ると珍しい事にマリーがそこに居た。
自分よりも小さな背丈、三角帽子の天辺は俺の背丈より高い位置にある。
そのアンバランスな相手を見逃す事は決して無い。
「くっ……」
ミラノとマリーの仲はすこぶる悪い。
マリーとしては「何その詠唱魔法」とプゲラしただけなのだが、二人ともある意味短気なせいで相性が宜しくない。
「何か用?」
「別に。別にアナタに用事は無いけど、ヤクモに有るの」
「な──」
「ヴァイスがよ」
ミラノが何か言いかけたが、マリーの言葉に遮られる。
それでも何かを言おうとしたようだが、溜息が全てを物語る。
「──理由は、教えてもらえるのかしら」
「この学園に居る中で、一番自由が利くからと言うのと、生徒目線ではない人物である事、それと……魔物と直に戦って生き延びた事を踏まえて、色々聞きたいんだとか」
「つまり、案内人にでもしたいと?」
「そう捉えてくれて構わない。生徒たちは授業が有るし、兵士たちは役目がある上に学園の外に居なかった。そう言ったものを考えると、ソイツ以上に適した人材は居ない」
「──……、」
ミラノは色々考えているようであったが、俺が代理で口を開く。
このまま二人で角を突き合わせても良い事は無い。
「断れば角が立つ、最初から受けるしかない話を持ってくるのは卑怯だとは思わないか?」
「う゛……」
「ただ、理由は理解できたし、その言い分も最もだと思う。だからミラノ、ごめん」
「ゴメンじゃない」
ベシリと、脳天にチョップを叩きつけられる。
余り痛くは無いが、なんだか罪悪感が──。
「アンタは、別に悪くない。ただ、気に入らなかっただけ。勤めを果たしてきなさい。デルブルグ家の名に恥ずかしくない行いをする事」
「元からそのつもりで行くよ……。カティアとヘラは──」
どうしようかなと思った。
しかし、カティアは頭の上でタシタシと頭を叩いてくるし、ヘラは満面の笑みを浮かべている。
連れて行くしか無さそうだと俺は考え、ミラノやアリアと別れる。
「しかし、あの見た目じゃ全生徒の前で話をしたのは正解だろうなあ」
「最後の戦いでほぼ致命傷を負ったのよ。けど、流れている血のおかげで生き長らえられたけれども、その時の怪我の影響でああなっちゃったの」
「ふ~ん」
「ふ~んって。アンタ──」
「あは~。マリー、ヤクモさんはぜんっぜん気にして無いよ?」
「ご主人様にとってはちょっと人と違うだけって認識みたいだし」
俺をまるで異常者であるかのように扱わないでいただけますかね?
ヘラとカティアの言葉にマリーは少しばかり考え込んでから、顔を覆った。
「そう、だったわね」
「だからね、大丈夫だと思うんだ~」
「逆の意味で心配になってきた」
「なんで!?」
俺の信用って皆無? 一切ナッシン!?
この姉妹に関しては、少なくとも命を助けたり一緒に戦ったりしたはずなんだけどな……。
「……普段の行いが悪いのかな」
「ええ、そうですわね? ご主人様」
「私は信じてますよ~? 良い意味で」
「良い意味で……」
俺は溜息を吐き、落胆するしかなかった。
マリーの案内で俺たちは暫く歩いていくと、来賓用の客間にまでやってきた。
ホールと同じ建物の中に存在する客間のような場所は、これがお城だと考えればそのような部屋があってもおかしくないなと理解できた。
そして客間の戸を開くと、お茶を飲んでいる一人の──いや、二人を見つける。
先ほど壇上で見かけたヴァイスと、何故か……クラインがそこに居た。
お茶を飲み、なにやら談笑しているようである。
「ヴァイス! アナタ──」
「おぉ、済まぬなマリー。手間をかけた。それと、ヤクモであったか」
「あぁ、はぁ……」
「此方に来るが良い! 直ぐにお主のお茶も用意させよう。それと、ヘラも久しいな。息災であったか?」
「あは~、私は元気にしてますよ~?」
「吾よりも小さくなってしまって、いつもは吾が見上げておったが、こういうのも悪くは無いな」
「ゴメンね? 暫くは守られる側になっちゃいますね」
「よいよい。吾等はお主にも散々世話になったからのう。入用なものがあれば何でも言うが良い。この血、この身体、この名に誓って恩知らずであろうとは思わぬ」
そう言い切ったヴァイスは立派だが、俺はクラインを見る。
目線に気がついたのか、クラインは苦笑している。
「何でここに居るんだ? クライン」
「全校集会で静かになったでしょ? それでさ、授業がなくなっちゃったから散策でもしようと思ったら──ヴァイスさんと会っちゃってさ。人を待ってるからそれまでの間相手をして欲しいって言われて」
「相手をして欲しいって……誰だか知ってる?」
「うん、一応」
どうやら相手が英霊である事は理解しているらしい。
それでも変に畏まったりせず、外見で判断してないあたりさすがと言うべきだろうか。
外見だけじゃなくて、そこらへんの思考判断も俺と似ているのかもしれない。
マリーは「それじゃ、私の仕事は終わったから」と言って去ってしまった。
それをヴァイスは見送り、入れ替わるように俺とヘラ、カティアの茶が出てくる。
クラインに詰めて貰い、俺も長椅子に腰掛けた。
「さて、良く来たのじゃ、ヤクモ! そなたの武名、吾の耳にも届いておるぞ」
「あ~……。有難う御座います、ヴァイス様」
「堅苦しいのは抜きじゃ、仲間とそうしているように普段のお主の語り口で喋ってくれて構わぬ」
「それじゃあ、失礼して……」
咳払いをして、出されたお茶を口にする。
その美味しさに、公爵家で出されたものに劣らぬ味わいに少しだけ華やいだ。
「とりあえず、初めまして。ここに居るクラインの妹、ミラノに召喚された、記憶も名も失ったヤクモだ。どんな噂が流れているかは抜きに、直接見て、言動から人柄等を踏まえて自分なりに判断してもらえると助かる」
「んむ。吾はヴァイスじゃ。先ほどのマリーやそこに居るヘラと一緒に戦った仲間の一人なのじゃ。訳有ってこのような姿になってしまったが、出来れば恐れずに関わってくれると助かる」
「ヴァイスが敵意や害意を向けたりしなければ、俺は大丈夫だよ。それに、自分の居た場所ではそう言う人と何かのハーフ……じゃなくて、なんて言えば良いんだ……。混血? いや、人と何かの要素が交わってると言うのは珍しくなかったんだ。だから、恐れたりはしないよ」
まあ、三次元ではなく二次元での話しなのだが。
クソ最先端ランド、ジャパン。別名ジパング。
二十一世紀に入り、自分が日本に来た頃よりもオタク文化は更に精鋭化した。
ハリーポッターやフルメタ、ゼロ魔などにドハマリしていた学生時代が、気がつけば在隊中にGATE~自衛隊彼の地にて斯く戦えり~のアニメ化までなされた。
アニメだけでなく、ラノベ、書籍でも様々な本が見られるようになった。
その結果、イラストや挿絵、キャラクターや世界は生まれ、見かけるようになる。
そんな? オタク相手に? 純粋な人間じゃないから? 怖がるな?
無理だね。
怖いと思うよりも愛でたくなる方が先である。
それに、ヴァイスは怖がるなとか言ってるけれども、これはこれで──。
「可愛いじゃん。むしろ誰とも被らない、誰も並び立つ事のない美を持っているんだからさ。俺は怖いと言うよりは、可愛いとおもぶひょぉぉおおっ!?」
横から杖とカティアのグーパンチで思い切り殴りつけられた。
二人が用は済んだとかばかりに戻るが、ヘラは満面の笑みだしカティアは怒っているように見える。
こうやって痛めつけられているうちにEndrance《耐久力》が上昇してしまう。
なんでサンドバッグにされる事で自身の能力を上げなきゃいけないんですかね?
できれば三日経過すれば元通りになる町の壁を掘って、採掘スキルと一緒に耐久を上げるような感覚でがんばりたい。
「君は……」
「止めろ、何もいうな!」
クラインまで何か言ってこようとして、俺はそれをせき止めた。
止めて欲しい。いつになったら平穏な日常とやらを過ごせるようになるのか。
そんな俺たちのやり取りを見ていたヴァイスは笑っているし、踏んだり蹴ったりである。
「くくく……。いや──こういう和やかなのも良いものじゃな。ユニオン共和国では見られぬ光景と言うか──」
「──憶測で物を言うけど、良く言えば厳格で、悪く言えば気を許していないか気の抜けない雰囲気なんだろうなあ」
「いやいや、全く持ってその通りじゃ。地域や地方などを全て無理に統合して国と言う形態を取っておるだけじゃからな。吾とはしては、今この時のような雰囲気や空気を向こうでも持てれば良いと思っておる。吾は、仲間内で出し抜いたり蹴落とすのを是としたいわけでは無いのじゃが……」
そう言って彼女は遠い目をした。
彼女がどこの出自かは知らないが、今おこなったやり取りの方が良いと言えるような場所だったのだろう。
或いは──夢の中で見た、かつて仲間達と命を賭しながらも、遠慮なくわけ隔てなく色々言い合っていた時期が懐かしいのか。
「──済まぬな。思い出話は老けた証拠じゃな。さて、では本題に入るとしよう。ヤクモ、それとクラインには其々学園の内と外の案内を頼みたいのじゃ」
「え、僕も?」
待ってくれ、初耳だぞ……。
俺はまだ分かるが、何故クラインまで?
クライン自身も驚いているようだったが、ヴァイスは笑みを浮かべたままに話を進める。
「そちらの……クラインは学生ではない。故に何かに染まった考え方を述べる事が出来ると思う。そちらのヤクモじゃと庶民寄りの考えになると思うのでな」
たしかに一理ある。
俺はこの学園に通う”特別階級”の連中とは違い、庶民寄りの人間だ。
クラインは特別階級の人間ではあるが、まだ学園に通っておらず染まっていない考え方が出来る。
奇しくも、情報の多面性を充足させられる訳だ。
しかもクラインはタダの見学として滞在している身であり否定する理由が無い。
俺も当代限りの騎士階級な上に公爵家のお抱えなので、断れば角が立つ。
どちらにせよ拒絶出来ない。
「俺は良いけど……クラインは?」
「僕も良いけど、役に立てるかな?」
「何。素人意見の方が漠然とした、曖昧な問題を捉えることが出来る場合もある。学園に通うものは素人じゃ、兵士であれば瑣末と切り捨てることであっても具体的に述べる事も出来よう」
「それでも良いのなら」
「では、決まりじゃな。予定は組み上げて通達するので、何も無ければそのように手伝ってくれると助かるのじゃ」
俺とクラインは顔を見合わせたが、特に何も言い出せない。
仕方が無いので、俺が率先して口火を切る。
「因みに拘束回数、拘束時間、拘束頻度などは?」
「拘束……。あぁ、行動概要などを示せと言う事じゃな? 大丈夫じゃ、流石に毎日束縛したりはせん」
「拘束時間は?」
「都合が良い時間帯があれば聞くが、授業時間中の視察は数度行うのは外せぬ。それと、出来る限り二人が揃っていれば、手間は省けるかの」
「じゃあ、ヴァイスの仕立てた行動予定を見てまた話し合った方が良いかな。それでクラインも良いか?」
「任せるよ。なんだか面白そうだし。そう言った一面に触れるのも良い経験になりそう」
と、どうやら前向きな意見をもらえた。
ま~た怒られるんだろうなと、俺はすでに気分が重い。
けれども説得する方向性や、言い包める為の材料などは頭の中に揃っている。
ただ、それを言い聞かせるまでにまた色々厄介だろうなと、溜息を吐くしかなかった。
「さて、話も終わったでな。話でもしようではないか」
「あ、マジで……?」
「こうなったら長いかな~。カティアちゃん、私達はいこっか?」
「そう、ね。入り込む余地無さそうだし」
「え? あ、ちょまっ──」
ヘラとカティアはさっさと退場してしまい、来る前の「一緒だよね?」的な雰囲気は何処に消えたんだ。
二人はお茶を飲むと部屋を出て行ってしまい、クラインと俺しか残っていない。
何の為に来たんだ? 顔見せか?
「──話って?」
「そうじゃな。お主がどのように魔物の襲撃の際に生き延びたのか、何をしたのかを聞きたいのじゃ!」
「あぁ、そう言えば僕もそれは聞いてないな」
「どのように公爵家の子息等を助けたのか、どのように行動したのか……。それを聞きたい」
それだったら、別に秘匿性も何も無い。
まあ良いかと、俺はストレージの中から一枚の大きな紙を取り出した。
ラミネート加工してあり、折りたたんで持ち運べるようにしてある地図だ。
何度かの外出で埋まってる分しかないが、それでも大よそ学園や周囲の都市の道や配置図などは埋めてある。
こういったものは中隊長ドライバーなどをしていると必要となる事柄であり、そうでなくとも歩哨等では定点報告等にも用いる。
「これは……」
「この都市の地図じゃな? ふむふむ……。中々に細かく描かれておる」
「本当ならこんなもん持ってるって知られたら、斥候だとか間者とか思われても仕方が無いんだけど。内緒の方向で」
机の上に置き、都市の図を展開するとマジックを取り出す。
そして地図上を眺め、網膜に映されている当時の自分の行動を思い出しながら点と数字、点線を書き込んでいく。
「学園での授業を終えてからの外出だから、大よそ──軍事時間で1805くらいに学園の門を潜って、知り合いの鍛冶屋に向かったんだ。鍛冶屋に到着したのがおおむね1837で、そこでまだ手ぶらだった俺の武器を探すと言う事になった」
「なんじゃ。お主、手ぶらじゃったのか」
「最初は……ただの身代わりの盾扱いだったんだよ。それに、魔法を知らなかったし、学園での生活になれるので精一杯で……。今みたいに、使い慣れた武器を持つと言う事もしなかった」
アルバートと戦って、辛うじて「こいつ戦えるのかも」と思ってもらえたくらいだ。
それまでは本当に無知で無教養な凡夫くらいの扱いだっただろう。
あの時を思えば、やる事もなす事も全て単純明快で、今ほどに面倒じゃなかった。
「鍛冶屋に行ってから武器を選んでたんだ。ミラノと、アリアと、カティアが一緒だった。盾とか、剣とか……色々見てた。その途中大きな地震が起きて、店も外も滅茶苦茶になった。そこから俺は鍛冶屋の主人にミラノとアリアを頼んで、直ぐに外がどうなってるかを確認しにいった」
ミラノは負傷した俺を見てフラッシュバックを起し、アリアも今ほど健康じゃなかった。
だからカティアを引き連れて外に出て、周辺の状況や学園までの道のりなどを確認し、そのついでで──五月蝿かった人を黙らせる為に、頭に響く声を静まり返らせる為に──人助けもした。
ただ、それは今は蛇足なので割愛する。
「周囲の状況を確認して、ミラノとアリアが落ち着いてから──デルブルグ家のお忍びで滞在していた家で一泊する事になった。ミラノもまだ回復してなかったし、瓦礫とかで道は塞がっていたし、いつもなら問題無く通れた道も二人には辛い道のりだった」
「あの家か……」
「心細くは無かったのか? 武器も無く、見知った場所でもないのじゃろ?」
「俺は──」
あの時は、本当にまだ抜け殻だった。
元自衛官だったのに銃を持つ事を躊躇い、かといって魔法に対しても否定的だった。
銃を使い慣れたものだと言いながらも、その銃ですら余り握りたく無かったのは負い目があったからだ。
落伍し、除隊した自分が恥ずかしかったから。
「心細くは無かった。カティアも居て、俺がやらなきゃいけないってそう思った。剣も借りたし、俺の使い慣れた武器も持ってたし。二人ともショック……じゃない、不安そうにしてたから、出来ることをしただけで」
「具体的に何をしたの?」
「家の中を点検して、暴徒化した人が来ないかを確認したり、料理をして振舞ったりして出来る限り落ち着けるようにしたくらいかな。それで早朝まで休んで、早めに出た」
「何故早めに?」
「家を失った人であろうと無かろうと、少し日が出たくらいの境目が丁度良かった。結局学園までの道のりは大半が手探りだったし、道は歩きにくい事から時間がかかる事も分かってた。ただ、都市を囲う城壁が崩落して魔物が乗り込んできたとは思わなかったけどさ」
途中で重傷の兵士と遭遇し、魔物が雪崩れ込んできた事を知った。
そのせいで魔物を避けるように大きく迂回する道を通らなければならなくなり、昼頃に到着すると思ったがそれすら果たせなかった。
「兵士と一緒に簡易的な避難所まで向かったんだ。そこで一度休息と補給を受けて、そこから改めて学園に向かおうと思ったんだ」
「二人とも疲弊してただろうね」
「疲弊してたけど、それが肉体的な物か精神的な物かまでは分からない。この避難所でアルバートとグリム、マルコと合流して、兵士とは別れた」
アルバートは躁状態になっていたし、グリムの使っていた剣も折れてしまった。
マルコはパニックをおこしていたが、それも割愛する。
「魔物との戦いは最初は俺と兵士が担当していたけど、ここからはアルバートと俺で前衛を担当して、グリムに後方警戒を頼みながら歩いた。途中小競り合いや、俺が先制して魔物を排除できたけど、学園までは概ね問題なくたどり着くことが出来たんだ」
「陣形……いや、隊列、か?」
「俺一人じゃ目で見る事が出来る範囲は狭いから、前方二名での警戒、護衛されている三名は真横と前方を、グリムとカティアには横や後ろを見てもらう事で出来るだけ安全に行動しようとしたんだ。魔法は、使えなかった」
「使えなかったと言うのはなんなのじゃ?」
「魔法は詠唱に時間がかかる、そのくせ発動したら光を放つし喧しいから存在が露呈する。隠密行動、静かに安全に向かうには向いてなかったんだよ」
まだマリーもおらず、俺も魔法に関しては未着手だった。
天才と言われたミラノやアリアでさえ、詠唱をするのなら十秒前後を消費しなければならない。
しかも文言を間違えれば失敗で、魔法を発動すると光るし着弾音までする。
そんな物に頼って魔物の本隊に発見でもされたら、俺は八九小銃などをばら撒かねばならず、余計に呼び水となっていただろう。
「学園の南門について、ミラノやアリア、マルコをまず通した。抗戦能力の低い相手を入れて、それからグリムとカティアを通す。最後に主戦力で橋の周囲警戒をしていたアルバートと俺が入ればおしまいだったけど、まあ上手くいかなかったよなぁ……」
アルバート達を通し、後は俺だけだった。
しかし、横合いから何かがやって来て、橋をぶち壊しながら俺は水路へと放り出された。
その結果魔物の多い南へと流されてしまい、単独行動をする羽目になる。
「──で、二人を救ったところまでは俺が覚えている事。その次に目を覚ましたら棺桶の中で、グールやゾンビと勘違いされたっけな」
出来る限り全てを語り、時折挟まれる問いにも答えていった。
それらで満足したかは分からないが、目の前のヴァイスは少なくとも真面目に聞いているようであった。
「お主は召喚されて間もないのに主人や友の為に体を張ったのか。いや、忠臣であるな」
「忠臣だなんて──」
「お主のような奴が、当時居ればな。いや、今も居てくれればと思うのじゃが」
そう言ってヴァイスは、色々考えているようであった。
俺は何も言えず、彼女達の過去は思い描く事しか出来ない。
十四人居て、二人は歴史から消された。
十二人居て、そのうちの三人は殿を受け持って終結の時点ですでに帰らぬ人となっていた。
そのことを考えると、何も言えない。
「しかし、その事を今更言っても仕方が無い。じゃが、お主の示した勇気は人類にとって誇るべきものであり、見習うべき物である。献身と奉公に感謝するぞ」
「なぜヴァイスが感謝するんだ」
「吾にとって人とは未来じゃ。国は違えども、魔物なぞに命をくれてやるつもりは無い。魔物は全て駆逐する、滅ぼす──吾は、それだけを考えて生きてきたのじゃからな」
天真爛漫と言えるくらいに笑みを浮かべていた彼女であったが、その一瞬だけ”英霊らしさ”を見せた。
仇、敵、許す事も相容れることも出来ない相手を滅ぼす事を考えている顔。
タケルも魔物に対しては憎しみを持っていたし、アイアスもマリーもそうだが……英霊は、魔物に対しては絶対的な敵意を有しているようである。
「そんなに怨んでいるんだ?」
「怨む……怨む、か。身内を縊られ、好いた相手も死に、国を滅ぼされた。父上の大事にしてきた兵も、土地も全てが魔物と破壊の海に沈むのをみた。分かるか? 吾の背負うべき物や、受け継ぐもの全てが壊されて行くのを、悔やみながら見つめるしかなかったのじゃ」
「国……」
「父上の国、そして歴史が──悉く破壊されて、恨まぬ者がおるか?」
「──僕は、考えられないかな。家が、家族が、住んでいた場所が全て失われたら、正気じゃいられないと思う」
俺も、自分の事で考えてみたが──とてもじゃないが冷静ではいられないと思う。
塞ぎこむか、怒りや憎しみに囚われるか……。
少なくとも、今の自分のままではいられないだろう。
「ヴァイスも、良いところの人なんだな」
「なんじゃ、そういう情報は聞いておるのか」
「マリーからね」
「いかにも、吾も亡国とは言え一国の姫であった。ただ、今となってはただ一人の臣下も持たぬ、姫でも何でもない一人の小娘に過ぎぬ。姫と言うだけで、万能であるかのように感じておった……。今となっては、その時の吾に会えるのであれば殴ってやりたいくらい愚かであったが」
「好きな人も居たんだね」
クラインの問いに、ヴァイスは目を閉ざした。
暫くそのままだったヴァイスだが、溜息を吐く。
「二人居た。幼い時に一緒であった男児と、共に戦ってきた一人の騎士じゃ。一人は病に倒れて亡くなったと彼の父君に聞いた。騎士も……卑劣な魔物によって倒れた。じゃから、魔物と吾等は決して相容れぬ。それは同じ目にあわせると言う復讐の意味ではない、奪われる者が居なくなり安心と安全を確保する為にせねばならぬ事なのじゃ」
魔物と相容れないことを理解し、そしてそれらの一切の殲滅や根絶を口にする。
たしかにそれが叶えば魔物と言う脅威に怯える事も無くなり、人々は今よりは平穏・平和に暮らせる事になるだろう。
ただし──それは、魔物に対する平穏・平和である。
「出来るのかなあ……?」
そして、クラインは確信ではなく疑問を口にした。
ヴァイスは直ぐに意識を切り替え、問いかけた。
「それはどういう意味じゃ。その為に吾は魔法を使える者でなくとも扱える武器を作らせておる。学園の警備に来ておる者は、誰もがその武器を持ち──実際に戦えておる」
「あぁ、うん。魔法が使えないとある程度強大な魔物を相手に出来ないって言うのは分かってる。それを解消するための武器なんだよね?」
「そうなのじゃ」
「けどさ。魔物を一切合切殲滅するとなると一国じゃどうしようもないよね? それに関して協力は取り付けられたの?」
「いや、まだじゃが……」
「魔物を殲滅すると言っても、他国の軍隊をハイどうぞって通すわけがないと思う。それに、大規模な戦いになるって事は今度は実績が必要になってくるし、そう言った戦いでの部隊運用だとかも自他に証明して補微修正していかなきゃいけないはず。ユニオン共和国は、軍隊としての魔物との戦いや殲滅は?」
「──……、」
「自国でやってない事を他国でやろうとするのは余計難しいと思う。それに、今度は補給の観点がある。独自の武器を使ってるって事は、他国では補給が利かないんじゃないかな?」
「む、むぅ……」
「あと──」
「あ~、クライン。それくらいにした方が良い。何を言っても、俺たちはユニオン共和国の兵でも指揮官でもないんだから。スカートの上から……じゃない。えっと……」
「どれだけ考えても、物事の本質には至れないって事だよね」
「そうそれ」
クラインの言っている事はもっともだった。
ただ、俺はそのもう一個先のことを考えていたので盲点でもあったのだが。
クラインの指摘にヴァイスは言葉に詰まり、徐々に首から顔が赤くなっていく。
やばいかな? キレたかな?
俺はクラインを庇えるように少しばかり浅く椅子に腰掛けなおすが、彼女は大きく息を吐き出しただけだった。
「ぐ、ぐぅ……。誰もそういった事は言ってくれなかったのじゃ」
「英霊にも得手不得手があるんだ」
「吾は纏める為に御託を並べて、先陣で剣を振るう事しかしなかったからのう。こういった事は、ヘラが少し知っておるが、あ奴ほどではない」
「あ奴って?」
「──んむ。名前が出てこぬが、そういうことに長けた奴が一人おったのじゃ。最も、最後の戦いで相打ちとなって、死んでしまったのじゃが」
なんか、聞いていると存在が消滅したただ一人の庶民だった娘さん、負担でかすぎね?
アイアスと言いロビンと言いマリーと言い、戦いや用兵に長けている連中は何で後方だの裏方だのに疎いの?
そら「ちゃんと休まなきゃ」って言葉が皮肉にしか聞こえなくなるわ。
作戦立案もして? 負傷兵の見回りもして? 物資の確認もして?
俺だったら即座に「辞めさせて頂きます」って言ったかも知れない。
「……お主らが居ればな」
そして彼女は、同じ言葉を吐いた。
「悪いけど、俺は行くつもりは無いからな。そっちの国の連中がなんだか俺の周囲を嗅ぎ回っているようだけど、どんな条件を提示されようが断る」
「そう、か」
「けど、手助けして欲しいと言うのなら、別に吝かではないって事は伝えておく。賓客とか、食客という扱いで一時的な滞在くらいなら考えるけどさ」
流石に引抜を受ける訳には行かないが、そうやって何かしらのアドバイスくらいならしても良いと思っている。
一度転んだ人間は、二度三度と転ぶのではないかと思われてしまう。
そうなると今以上に面倒臭くなるのは目に見えており、金だの女だの待遇だの地位をぶら下げて沢山の人が来るのはごめん被る。
「ヤクモ、そんな話が来てたの?」
「ユニオン共和国での地位や身分を意味する階級を提示されて、ちょっとな。少佐までなら用意できるとか言われたけど、断ってきた」
「断ったんだ……」
「なんだかきな臭そうな感じがしたし、偉くなると仕事が増えるだろ。俺は今くらいが気に入ってるの」
少佐とか、中隊長レベルの階級だ。
そうなるとン百人と部下を持ち、複数の小隊を所有し、部隊運営をしなければならなくなる。
残念ながら俺は下士官の一個下の兵でしかなく、部隊運営に関しては丸っきりの無知である。
それでも自分が関係したものを想像してゼロから組み上げねばならず、受け入れて貰える可能性だって有るとは言い辛いのだ。
「俺は自分とカティアの事で手一杯なのに、いきなり部隊を任されるような地位にはなりたくない」
「面倒臭いとか、そんな理由で断る人は初めて聞いたなあ……」
「あのですね。俺はまだ色々な事が分からないのに、そんな奴がいきなり偉くなったら反感や顰蹙も買う。それと、俺は自分が何処まで通用するかも分からないのに階級にはぶら下がりたくない」
「階級に、ぶら下がる? なんじゃそれは」
「兵士も指揮官も、生まれが良いから、金が出せるから階級が高くなるんじゃない。優秀で、どれくらい長く勤めて、貢献してきたか──そう言った”総合”でみた結果、偉くなっていくのが俺の持つごち……軍曹と言う階級だ。金で階級を買う、裏で圧力を加えて階級を脅し取る。そんな奴に、どうして背中を、部隊を、仲間を預けられるんだ?」
予備自、即応予備自、常備自衛官。
自衛官候補生、曹候補生、幹部候補生。
一般からの入隊、防衛大からの部隊配属……。
色々あるが、どれも”意志無き者”には勤まらないと思っている。
「偉くなるって事は楽が出来るって事じゃない、より難しく辛い環境に身を置くということだ。他にも部隊にどれくらい長く居るかとか、先輩だけど階級は下だとか、後輩だけど自分より偉いとか色々複雑なものも絡むんだよ。そもそも、部隊のあり方──その特性が違うんだから、階級が……軍曹、であっても意味がまったく無い」
「何故じゃ?」
「俺が学んだ事は、多分ユニオン共和国の兵の運用方法と相容れない。もし俺がユニオン共和国に行くとしたら、訓練兵からやり直しだ」
それが当たり前じゃないのだろうか?
階級、身分、爵位……。
国が違えば尊重はされても通用はしない。
そもそも俺は剣士ではなくただの歩兵である。
普通科隊員として散兵を担い、場合によってはLAMだのMINIMIだのを持って対戦車手や機関銃手をするだけである。
「訓練兵じゃと、お主の身分は最下層では無いか」
「それくらいじゃないと兵士なんてやってられないだろ。訓練を受ける、施される、教育を受けるってのは自分の為だけじゃなく仲間のためでもあるんだ。安易に階級だの爵位だの渡されても、俺は困る」
「──そう言う考えなんだ、なるほど」
と、公爵家と言うほぼ最上位である家の長男がぼやく。
あぁ、そうでしたね。貴方は引き抜かれたらそもそも戦争レベルでのちょっかいだし、地位や身分は最上級を差し出さないといけないから想像できないでしょうね……。
「と言う訳で、ま、諦めてくれ」
「で、では。助言を聞きたいと言えば、来てくれるのじゃな?」
「主人のミラノかデルブルグ家に断りを必ず入れて、許可を得たらね。流石に俺も勝手な行動はしたくないし、そう言ったことを踏まえないと公爵家軽視だとかで要らん揚げ足取りされかねない」
「色々考えてるね」
ただ臆病なだけなんですけどね?
言い訳と言うか、出来る限り断ろうと様々な事柄を考えるとこういう言い回しになるくらいだ。
けれども、結構真理だと思っている。
「因みにユニオン共和国で兵士を前進させる時ってどうしてるの?」
「む? うむ。こう横並びに武器を持った兵士を並べ、意気揚々と前進していく。そして武器の射程距離に収めたら多段撃ちで敵を撃滅していくのじゃ」
「あ、うん。そっか……」
完全に戦列歩兵なんだよなぁ……。
しかも俺は一人とは言え機関銃だの迫撃砲の榴弾だの、手榴弾だのLAMだの持っている。
流石に平野や平原では正面の戦列歩兵や横撃してくる騎兵などには対処出来ないが、それでも魔法も含めれば幾らか瓦解させることは出来る。
現代の志願制の兵士が相手では難しい話だが、徴用兵だの──下手すりゃ犯罪者まで加えている部隊等は壊走させてやれば良い。
戦争とは殲滅する必要は無い、戦えなくすれば良いのだから無線だの何だのと言った通信インフラや連絡手段が劣っている限りは幾らでもやりようがある。
「そういや、ヴァイスって主人は?」
「吾の主人はとっくの昔に亡くなった。じゃが吾のこの血が主人無しでも大丈夫なようでな。無尽蔵の魔力が吾を保ってくれていると言うわけじゃ」
……なにそのチート。
マリーやヘラですら主人が居なければダメで、アイアスやロビンでも使い魔になる事に甘んじていると言うのに。
龍の血と言う物がそもそも理解不能なのだが、ヘラも魔力を充足させる実を育ててたような。
「なんで亡くなったの?」
「まだ共和国の体も成せぬ頃にな、今の指導者の部下の一人が吾を召喚したのじゃ。残念な事に、平定の戦いの最中に矢に撃たれてな。最後の最後まで彼奴は勇敢であった」
ヘラの時もそうだったけど、何か有る主人ってのは多いな。
このままだとデルブルグ家の当主も、ヴァレリオ家の当主もいつか何か有りそうで怖い。
貴族至上主義にとって目の上のタンコブである二家の当主とその使い魔である英霊。
主人をやれば直ぐとは言わずとも英霊たちはいずれ魔力切れで消滅する。
そうなると他の英霊が何か言いたくとも他国の英霊ゆえに内政干渉などになる。
実質的な詰みになりかねない。
「主人が居なくても存在できるんだ……」
「英霊は皆過去の存在じゃからな。肉体は既に滅んでおる、故に存在を繋ぎ止めるには魔力が必要となるのじゃ。魔力が無くなれば他の仲間は消えるしかないが、吾は血のおかげで大丈夫と言うだけで、異例だと思わねばならぬ」
「主人が居るのと居ないのでは、どれくらい違うのかな?」
「そうじゃな。吾の間隔で言えば『腹が減らない』と言うだけで、主人が居れば『腹を満たす事が出来る』と言う感じじゃな。腹が減らないと言う事は、別に食を必要としない訳ではない。食事をすれば満たされるし、それが美味であれば尚更の事」
「へぇ~」
「それに、吾は魔法を使ったり等をしても自然と回復するが、他の者は使えば使うほどに空腹になると考えれば分かるじゃろ?」
「あ、それは分かりやすい。居ないと大変なんだなぁ……」
理解してもらえたようで何よりだけれども、これは雑談なのだろうか?
地図を片付けて俺は話の成り行きを見守っていたが、ノックが部屋に飛び込んできた。
「あの、クライン様は此方に居られますでしょうか?」
「はい、居ますが」
「ヴィトリーと名乗る方が来られてますが……」
「「え゛?」」
「なんと……」
俺とクラインだけでなく、ヴァイスも来訪者に驚いている。
多分この国の姫の名は知っていたのかもしれない、そら驚きもするか。
まだ相手が何かを言っている最中だったようだが、直ぐに扉が思い切り開かれる。
そして其処にはかつて見たままの姫さんが其処に居た。
「久しいな、クライン! まさかこのような場所に来ているとは思わなくてな、つい顔を出すのが遅れたのじゃ!」
「はぁ、姫様……」
開け放たれた扉の向こう側には教育係のオルバも居る。
しかも俺とヴァイスが都合よく無視されており、彼女はクラインしか見えて居ないようである。
姫さんはクラインに飛びついて行き、俺はそそくさとクラインから距離を開く事に。
「わぁ、ヴィト……姫ぇ!?」
「他人行儀な呼び方は抜きじゃ!」
あちらは此方に興味が無いのだろうし、俺は離れる。
助けを求めてるようだが、リア充に差し伸べる手はないのだ。
ヴァイスも離れており、オルバの方へと行く。
既に痴態とも破廉恥とも言える光景に、オルバは頭が痛そうだ。
「やはり、こうなりましたか……」
「止められなかったのか」
「止めるも何も、ご子息を学園に通わせる場合は自国の王に一言いう事になってるので。それを聞いた姫様を、どうやって止めろと?」
「魔法は封じたんだろ? なら物理的に止められるんじゃないのか?」
「姫様はここ最近、魔法封じに対抗する勉強ばかりしています。既に何度か破れかかっており、放置すれば破られるのは目に見えています。私も学園を最年少で卒業し宮仕えをそれなりにしているつもりでしたが、思い上がりを踏み躙られている気になります……」
そう言ってオルバは「いたた……」と腹を押さえた。
若いのに胃痛なのかもしれない。
可哀想だとは思うが、俺にはどうする事も出来ない。
「苦労しすぎでお腹が痛いのなら、薬を分けてやる事は出来るぞ」
「いえ、其処までお世話になるわけには――」
「俺も、しょっちゅう腹痛くするから、沢山あるし」
そう言って、力ない笑みを浮かべる事しか出来なかった。
オルバは俺の表情を見て察したらしく「後で、幾らか分けていただけると助かります」と力無く言った。
「すみません、ヴァイス様。先にお話をされていたと言うのに、姫がとんだ失礼を……」
「吾は構わぬ。人は、特に男女の仲というものは盲目だと心得ておるのでな。吾に対して行われた無礼では無いのでな、気にはしておらぬのじゃ」
「そのように言っていただき、感謝いたします……」
オルバはそう言って、胸に手を当てて深く頭を下げた。
本来はああいった態度が普通なのだろうが、俺は余りにも関わりすぎて身近になってしまった。
それに相手が畏まるなと言っていたので、許可事態は貰っている。
これで後から縛り首とか処刑なんてされるのなら、徹底的に抵抗させてもらう。
「オルバか」
「はっ、私のような者をご存知だとは、恐れ多いです……」
「学園を最年少で卒業し、ヴィスコンティで教育係として仕えており、優秀だと聞く。お主のような者が居る事が、人類にとっての財産となる。――苦労や面倒は決して少なくないじゃろう、じゃがお主の献身と奉公はいつか報われるじゃろう」
「有り難きお言葉……」
と、オルバの事も褒めるヴァイス。
オルバはオルバで父親が乱心した結果領地を一時取り上げを食らっているし、その結果爵位も領地も無い一個人として『オルバ・ライラント』を名乗っている。
若い上に教育係だ、何かと苦労する事は多いだろう。
英霊から直々に褒められては俄然やる気が出るというもの。
俺は分からないけれども、きっと物凄く感銘を受けているに違いない。
しかし、何だかなあである。
姫さんにじゃれ付かれて困惑しているクライン、ヴァイスに褒められて感謝しているオルバ。
二人一組を作ってくださいと言わんばかりに俺だけハブにされてしまい、独りぼっちをかみ締めるしかない。
あれ、俺がこの場に居る意味は?
突如、全校集会が開かれた。
授業が丸々取り潰されて全学年の生徒がホールへと集められ、俺もそこに居た。
「何が始まるんだ?」
「ユニオン共和国の英霊が来て、挨拶だって。聞いてなかったの?」
「さっきまでタケルの相手をさせられてて、急遽呼び出されたばかりなんだ。着替えたり体を洗ったりしなきゃいけなかったんだ」
「だから稽古着……も、ない、か」
「それ以前に、この私服自体がすでに身動き取りやすい格好だからこのまま戦えるってのもあるしなあ」
「二人とも、静かにしないと」
ミラノと話をしていると、アリアに注意されてしまった。
しかし、ユニオン共和国の英霊か。
コレで何人目だ?
表向きの十二人と裏の一人。
表ではアイアス、ロビン、マリー、ヘラ、タケル、ファム……そしてコレで七人目か。
半分以上はコレで揃ってるわけだ。
「人類の危機って奴が、近いのかな」
「ん~、どうですかね~。ただ、ユニオン共和国の英霊さんって誰なのか気になりますかね~」
「ヘラは知らないのか?」
「あは~。私は学園側の人間じゃないですから。身分や立場を利用して聞き出すのは良くないかと~」
至極マトモな事をいっている。
俺が驚いていると、ヘラは笑顔のままに見上げてくる。
「どうですか? ポイント高くないですか?」
「自分で言い出さなければそのまま加点されてたかもな」
「あは~、手厳しい……」
「「シーッ!」」
ミラノとアリアに怒られてしまい、俺は黙る事に。
そうやって暫く待っていると、どうやら始まったらしく生徒達の喧しさは収まっていった。
しかし、英霊が出てきたらしく再び喧騒が広まっていく。
俺は遠い英霊を見るために双眼鏡を出し、ピントを合わせて相手を見る。
そして英霊を見て、俺は少しばかり困惑した。
「龍……?」
「あ、でしたらヴァイスさんかもしれません。龍の血が目覚めたとか何とかで、龍化してるとかなんとか」
「曖昧だなあ……」
「本人も分かってないみたいですし」
「なるほど」
ヘラが見えないと言い出したので膝の上に座らせ、カティアは猫のままに頭上に乗せる。
コレで全員が英霊・ヴァイスと言う相手を見ることが出来るはずだ。
何度か双眼鏡で見ていたが、若返る前のヘラやマリーを思い浮かべると……若すぎる気がした。
十五~十七歳くらいにしか見えない。
もしかすると龍の血が何か関係しているのかも知れないが。
羽根だの尻尾だの、目だの左手だのと……人じゃないワケか。
『皆の者、よく吾の為に集ってくれた。本来であれば学業や訓練に勤しんでいる中、態々時間を割かせてしまった事は吾の至らなさ故である。まず、それを詫びよう』
そう言って、ヴァイスはまず謝罪をする。
生徒たちは謝罪の言葉で静まり返り、先ほどまで”普通じゃない相手”への騒ぎを消していった。
場が収まったのを見てから、英霊は言葉を続ける。
『吾の姿に、見た目に驚いた者が多いと思う。これから吾は先の出来事について安全性を、子を差し出す親に向けて安心をさせてやらねばならぬ。その為には学園を有るがままに見て、そのまま吾が伝えねばならぬ。その時に、皆が吾を見る度に驚き、戸惑ってしまっては良くないのでな。故に無理を言い、こうして理解してもらうために場を設けてもらった』
なるほど。
つまり自分の見た目が変だから、そのままでは学園の視察が侭ならないと。
生徒達が動揺したりしてしまわないように、こうして集めてもらったと……そう言うわけか。
『確かに吾の見た目はおぞましいやも知れぬ。嫌悪し、出来れば関わりたくないと言う者も居るじゃろう。しかし、暫くは耐えて欲しい。そして吾らが国から来たものは、それを咎めぬように頼む。様々な出来事があり、学園での日々に疑問を抱いていると思う。それを少しでも解消してやれればよいと思い、こうして来たのじゃ。故に、協力的で無くとも良い。ただ、お主等が吾を見かけても驚いたり、逃げたりせねばそれで良い。――では、挨拶はこれで済まそう。重ねて、この場に集ってくれた事に感謝する』
ではな、と。
ヴァイスはそう言うと壇上を去っていった。
暫くは沈黙が場を支配していたが、徐々にまた喧しさが場を支配した。
「英霊である事に胡坐をかいたりせず、理解を求める為にこう言う事をしたのか」
「ヴァイスさんは良い意味で人を纏めるのが得意だったんですよ~? 演説とかも得意でしたし、そうやって様々な方を鼓舞したりしてました。そして自分も前線で剣を振るってましたね~。ただ、あの様子じゃ今は剣を使っているかどうかは分かりませんが」
「へ~」
そう言ってから、俺は脳裏で先ほどの英霊の事を思い出す。
暫く脳裏で三百六十度全方向からの姿を思い描いてから、自然と笑みが漏れた。
「……ヘルマン国に行きたくなってきた」
「あや~、もしかしてそう言うのがお好きですか?」
「醜悪? どこが? むしろただの属性だろ!」
この世界の人、潔癖好き過ぎない?
いや、もしかしたら遺伝子情報の中に”新人類と旧人類”的な物が刻み込まれているのかも知れない。
それでも、まるでゲームのキャラのように──良かったと思う。
「あれが視察か。まあ、俺には関係の無い話だろうな」
「だと、いいけど」
「え? 止めてくれません? ミラノさん? 無関係だって俺が言ってるんだから、係わり合いにならないって意味なんですけど、何でもう巻き込まれるのを受け入れてるの?」
「だって、ねえ? アンタ、また何かありそうだし」
「やめよう!? タダでさえ無休で嫌気が差してるのに、この上何か有るとか嫌なんですけど!」
英霊に関わるとだいたい振り回される事を理解していた。
だからこそ、英霊の新たな登場とは別に俺は周囲の熱気とは別に冷めたものを感じていた。
しかし、その嫌な予感は直ぐに的中する事になる。
全校集会によって一つ授業が潰れて暇な時間が出来たのだが、ホールを出ると珍しい事にマリーがそこに居た。
自分よりも小さな背丈、三角帽子の天辺は俺の背丈より高い位置にある。
そのアンバランスな相手を見逃す事は決して無い。
「くっ……」
ミラノとマリーの仲はすこぶる悪い。
マリーとしては「何その詠唱魔法」とプゲラしただけなのだが、二人ともある意味短気なせいで相性が宜しくない。
「何か用?」
「別に。別にアナタに用事は無いけど、ヤクモに有るの」
「な──」
「ヴァイスがよ」
ミラノが何か言いかけたが、マリーの言葉に遮られる。
それでも何かを言おうとしたようだが、溜息が全てを物語る。
「──理由は、教えてもらえるのかしら」
「この学園に居る中で、一番自由が利くからと言うのと、生徒目線ではない人物である事、それと……魔物と直に戦って生き延びた事を踏まえて、色々聞きたいんだとか」
「つまり、案内人にでもしたいと?」
「そう捉えてくれて構わない。生徒たちは授業が有るし、兵士たちは役目がある上に学園の外に居なかった。そう言ったものを考えると、ソイツ以上に適した人材は居ない」
「──……、」
ミラノは色々考えているようであったが、俺が代理で口を開く。
このまま二人で角を突き合わせても良い事は無い。
「断れば角が立つ、最初から受けるしかない話を持ってくるのは卑怯だとは思わないか?」
「う゛……」
「ただ、理由は理解できたし、その言い分も最もだと思う。だからミラノ、ごめん」
「ゴメンじゃない」
ベシリと、脳天にチョップを叩きつけられる。
余り痛くは無いが、なんだか罪悪感が──。
「アンタは、別に悪くない。ただ、気に入らなかっただけ。勤めを果たしてきなさい。デルブルグ家の名に恥ずかしくない行いをする事」
「元からそのつもりで行くよ……。カティアとヘラは──」
どうしようかなと思った。
しかし、カティアは頭の上でタシタシと頭を叩いてくるし、ヘラは満面の笑みを浮かべている。
連れて行くしか無さそうだと俺は考え、ミラノやアリアと別れる。
「しかし、あの見た目じゃ全生徒の前で話をしたのは正解だろうなあ」
「最後の戦いでほぼ致命傷を負ったのよ。けど、流れている血のおかげで生き長らえられたけれども、その時の怪我の影響でああなっちゃったの」
「ふ~ん」
「ふ~んって。アンタ──」
「あは~。マリー、ヤクモさんはぜんっぜん気にして無いよ?」
「ご主人様にとってはちょっと人と違うだけって認識みたいだし」
俺をまるで異常者であるかのように扱わないでいただけますかね?
ヘラとカティアの言葉にマリーは少しばかり考え込んでから、顔を覆った。
「そう、だったわね」
「だからね、大丈夫だと思うんだ~」
「逆の意味で心配になってきた」
「なんで!?」
俺の信用って皆無? 一切ナッシン!?
この姉妹に関しては、少なくとも命を助けたり一緒に戦ったりしたはずなんだけどな……。
「……普段の行いが悪いのかな」
「ええ、そうですわね? ご主人様」
「私は信じてますよ~? 良い意味で」
「良い意味で……」
俺は溜息を吐き、落胆するしかなかった。
マリーの案内で俺たちは暫く歩いていくと、来賓用の客間にまでやってきた。
ホールと同じ建物の中に存在する客間のような場所は、これがお城だと考えればそのような部屋があってもおかしくないなと理解できた。
そして客間の戸を開くと、お茶を飲んでいる一人の──いや、二人を見つける。
先ほど壇上で見かけたヴァイスと、何故か……クラインがそこに居た。
お茶を飲み、なにやら談笑しているようである。
「ヴァイス! アナタ──」
「おぉ、済まぬなマリー。手間をかけた。それと、ヤクモであったか」
「あぁ、はぁ……」
「此方に来るが良い! 直ぐにお主のお茶も用意させよう。それと、ヘラも久しいな。息災であったか?」
「あは~、私は元気にしてますよ~?」
「吾よりも小さくなってしまって、いつもは吾が見上げておったが、こういうのも悪くは無いな」
「ゴメンね? 暫くは守られる側になっちゃいますね」
「よいよい。吾等はお主にも散々世話になったからのう。入用なものがあれば何でも言うが良い。この血、この身体、この名に誓って恩知らずであろうとは思わぬ」
そう言い切ったヴァイスは立派だが、俺はクラインを見る。
目線に気がついたのか、クラインは苦笑している。
「何でここに居るんだ? クライン」
「全校集会で静かになったでしょ? それでさ、授業がなくなっちゃったから散策でもしようと思ったら──ヴァイスさんと会っちゃってさ。人を待ってるからそれまでの間相手をして欲しいって言われて」
「相手をして欲しいって……誰だか知ってる?」
「うん、一応」
どうやら相手が英霊である事は理解しているらしい。
それでも変に畏まったりせず、外見で判断してないあたりさすがと言うべきだろうか。
外見だけじゃなくて、そこらへんの思考判断も俺と似ているのかもしれない。
マリーは「それじゃ、私の仕事は終わったから」と言って去ってしまった。
それをヴァイスは見送り、入れ替わるように俺とヘラ、カティアの茶が出てくる。
クラインに詰めて貰い、俺も長椅子に腰掛けた。
「さて、良く来たのじゃ、ヤクモ! そなたの武名、吾の耳にも届いておるぞ」
「あ~……。有難う御座います、ヴァイス様」
「堅苦しいのは抜きじゃ、仲間とそうしているように普段のお主の語り口で喋ってくれて構わぬ」
「それじゃあ、失礼して……」
咳払いをして、出されたお茶を口にする。
その美味しさに、公爵家で出されたものに劣らぬ味わいに少しだけ華やいだ。
「とりあえず、初めまして。ここに居るクラインの妹、ミラノに召喚された、記憶も名も失ったヤクモだ。どんな噂が流れているかは抜きに、直接見て、言動から人柄等を踏まえて自分なりに判断してもらえると助かる」
「んむ。吾はヴァイスじゃ。先ほどのマリーやそこに居るヘラと一緒に戦った仲間の一人なのじゃ。訳有ってこのような姿になってしまったが、出来れば恐れずに関わってくれると助かる」
「ヴァイスが敵意や害意を向けたりしなければ、俺は大丈夫だよ。それに、自分の居た場所ではそう言う人と何かのハーフ……じゃなくて、なんて言えば良いんだ……。混血? いや、人と何かの要素が交わってると言うのは珍しくなかったんだ。だから、恐れたりはしないよ」
まあ、三次元ではなく二次元での話しなのだが。
クソ最先端ランド、ジャパン。別名ジパング。
二十一世紀に入り、自分が日本に来た頃よりもオタク文化は更に精鋭化した。
ハリーポッターやフルメタ、ゼロ魔などにドハマリしていた学生時代が、気がつけば在隊中にGATE~自衛隊彼の地にて斯く戦えり~のアニメ化までなされた。
アニメだけでなく、ラノベ、書籍でも様々な本が見られるようになった。
その結果、イラストや挿絵、キャラクターや世界は生まれ、見かけるようになる。
そんな? オタク相手に? 純粋な人間じゃないから? 怖がるな?
無理だね。
怖いと思うよりも愛でたくなる方が先である。
それに、ヴァイスは怖がるなとか言ってるけれども、これはこれで──。
「可愛いじゃん。むしろ誰とも被らない、誰も並び立つ事のない美を持っているんだからさ。俺は怖いと言うよりは、可愛いとおもぶひょぉぉおおっ!?」
横から杖とカティアのグーパンチで思い切り殴りつけられた。
二人が用は済んだとかばかりに戻るが、ヘラは満面の笑みだしカティアは怒っているように見える。
こうやって痛めつけられているうちにEndrance《耐久力》が上昇してしまう。
なんでサンドバッグにされる事で自身の能力を上げなきゃいけないんですかね?
できれば三日経過すれば元通りになる町の壁を掘って、採掘スキルと一緒に耐久を上げるような感覚でがんばりたい。
「君は……」
「止めろ、何もいうな!」
クラインまで何か言ってこようとして、俺はそれをせき止めた。
止めて欲しい。いつになったら平穏な日常とやらを過ごせるようになるのか。
そんな俺たちのやり取りを見ていたヴァイスは笑っているし、踏んだり蹴ったりである。
「くくく……。いや──こういう和やかなのも良いものじゃな。ユニオン共和国では見られぬ光景と言うか──」
「──憶測で物を言うけど、良く言えば厳格で、悪く言えば気を許していないか気の抜けない雰囲気なんだろうなあ」
「いやいや、全く持ってその通りじゃ。地域や地方などを全て無理に統合して国と言う形態を取っておるだけじゃからな。吾とはしては、今この時のような雰囲気や空気を向こうでも持てれば良いと思っておる。吾は、仲間内で出し抜いたり蹴落とすのを是としたいわけでは無いのじゃが……」
そう言って彼女は遠い目をした。
彼女がどこの出自かは知らないが、今おこなったやり取りの方が良いと言えるような場所だったのだろう。
或いは──夢の中で見た、かつて仲間達と命を賭しながらも、遠慮なくわけ隔てなく色々言い合っていた時期が懐かしいのか。
「──済まぬな。思い出話は老けた証拠じゃな。さて、では本題に入るとしよう。ヤクモ、それとクラインには其々学園の内と外の案内を頼みたいのじゃ」
「え、僕も?」
待ってくれ、初耳だぞ……。
俺はまだ分かるが、何故クラインまで?
クライン自身も驚いているようだったが、ヴァイスは笑みを浮かべたままに話を進める。
「そちらの……クラインは学生ではない。故に何かに染まった考え方を述べる事が出来ると思う。そちらのヤクモじゃと庶民寄りの考えになると思うのでな」
たしかに一理ある。
俺はこの学園に通う”特別階級”の連中とは違い、庶民寄りの人間だ。
クラインは特別階級の人間ではあるが、まだ学園に通っておらず染まっていない考え方が出来る。
奇しくも、情報の多面性を充足させられる訳だ。
しかもクラインはタダの見学として滞在している身であり否定する理由が無い。
俺も当代限りの騎士階級な上に公爵家のお抱えなので、断れば角が立つ。
どちらにせよ拒絶出来ない。
「俺は良いけど……クラインは?」
「僕も良いけど、役に立てるかな?」
「何。素人意見の方が漠然とした、曖昧な問題を捉えることが出来る場合もある。学園に通うものは素人じゃ、兵士であれば瑣末と切り捨てることであっても具体的に述べる事も出来よう」
「それでも良いのなら」
「では、決まりじゃな。予定は組み上げて通達するので、何も無ければそのように手伝ってくれると助かるのじゃ」
俺とクラインは顔を見合わせたが、特に何も言い出せない。
仕方が無いので、俺が率先して口火を切る。
「因みに拘束回数、拘束時間、拘束頻度などは?」
「拘束……。あぁ、行動概要などを示せと言う事じゃな? 大丈夫じゃ、流石に毎日束縛したりはせん」
「拘束時間は?」
「都合が良い時間帯があれば聞くが、授業時間中の視察は数度行うのは外せぬ。それと、出来る限り二人が揃っていれば、手間は省けるかの」
「じゃあ、ヴァイスの仕立てた行動予定を見てまた話し合った方が良いかな。それでクラインも良いか?」
「任せるよ。なんだか面白そうだし。そう言った一面に触れるのも良い経験になりそう」
と、どうやら前向きな意見をもらえた。
ま~た怒られるんだろうなと、俺はすでに気分が重い。
けれども説得する方向性や、言い包める為の材料などは頭の中に揃っている。
ただ、それを言い聞かせるまでにまた色々厄介だろうなと、溜息を吐くしかなかった。
「さて、話も終わったでな。話でもしようではないか」
「あ、マジで……?」
「こうなったら長いかな~。カティアちゃん、私達はいこっか?」
「そう、ね。入り込む余地無さそうだし」
「え? あ、ちょまっ──」
ヘラとカティアはさっさと退場してしまい、来る前の「一緒だよね?」的な雰囲気は何処に消えたんだ。
二人はお茶を飲むと部屋を出て行ってしまい、クラインと俺しか残っていない。
何の為に来たんだ? 顔見せか?
「──話って?」
「そうじゃな。お主がどのように魔物の襲撃の際に生き延びたのか、何をしたのかを聞きたいのじゃ!」
「あぁ、そう言えば僕もそれは聞いてないな」
「どのように公爵家の子息等を助けたのか、どのように行動したのか……。それを聞きたい」
それだったら、別に秘匿性も何も無い。
まあ良いかと、俺はストレージの中から一枚の大きな紙を取り出した。
ラミネート加工してあり、折りたたんで持ち運べるようにしてある地図だ。
何度かの外出で埋まってる分しかないが、それでも大よそ学園や周囲の都市の道や配置図などは埋めてある。
こういったものは中隊長ドライバーなどをしていると必要となる事柄であり、そうでなくとも歩哨等では定点報告等にも用いる。
「これは……」
「この都市の地図じゃな? ふむふむ……。中々に細かく描かれておる」
「本当ならこんなもん持ってるって知られたら、斥候だとか間者とか思われても仕方が無いんだけど。内緒の方向で」
机の上に置き、都市の図を展開するとマジックを取り出す。
そして地図上を眺め、網膜に映されている当時の自分の行動を思い出しながら点と数字、点線を書き込んでいく。
「学園での授業を終えてからの外出だから、大よそ──軍事時間で1805くらいに学園の門を潜って、知り合いの鍛冶屋に向かったんだ。鍛冶屋に到着したのがおおむね1837で、そこでまだ手ぶらだった俺の武器を探すと言う事になった」
「なんじゃ。お主、手ぶらじゃったのか」
「最初は……ただの身代わりの盾扱いだったんだよ。それに、魔法を知らなかったし、学園での生活になれるので精一杯で……。今みたいに、使い慣れた武器を持つと言う事もしなかった」
アルバートと戦って、辛うじて「こいつ戦えるのかも」と思ってもらえたくらいだ。
それまでは本当に無知で無教養な凡夫くらいの扱いだっただろう。
あの時を思えば、やる事もなす事も全て単純明快で、今ほどに面倒じゃなかった。
「鍛冶屋に行ってから武器を選んでたんだ。ミラノと、アリアと、カティアが一緒だった。盾とか、剣とか……色々見てた。その途中大きな地震が起きて、店も外も滅茶苦茶になった。そこから俺は鍛冶屋の主人にミラノとアリアを頼んで、直ぐに外がどうなってるかを確認しにいった」
ミラノは負傷した俺を見てフラッシュバックを起し、アリアも今ほど健康じゃなかった。
だからカティアを引き連れて外に出て、周辺の状況や学園までの道のりなどを確認し、そのついでで──五月蝿かった人を黙らせる為に、頭に響く声を静まり返らせる為に──人助けもした。
ただ、それは今は蛇足なので割愛する。
「周囲の状況を確認して、ミラノとアリアが落ち着いてから──デルブルグ家のお忍びで滞在していた家で一泊する事になった。ミラノもまだ回復してなかったし、瓦礫とかで道は塞がっていたし、いつもなら問題無く通れた道も二人には辛い道のりだった」
「あの家か……」
「心細くは無かったのか? 武器も無く、見知った場所でもないのじゃろ?」
「俺は──」
あの時は、本当にまだ抜け殻だった。
元自衛官だったのに銃を持つ事を躊躇い、かといって魔法に対しても否定的だった。
銃を使い慣れたものだと言いながらも、その銃ですら余り握りたく無かったのは負い目があったからだ。
落伍し、除隊した自分が恥ずかしかったから。
「心細くは無かった。カティアも居て、俺がやらなきゃいけないってそう思った。剣も借りたし、俺の使い慣れた武器も持ってたし。二人ともショック……じゃない、不安そうにしてたから、出来ることをしただけで」
「具体的に何をしたの?」
「家の中を点検して、暴徒化した人が来ないかを確認したり、料理をして振舞ったりして出来る限り落ち着けるようにしたくらいかな。それで早朝まで休んで、早めに出た」
「何故早めに?」
「家を失った人であろうと無かろうと、少し日が出たくらいの境目が丁度良かった。結局学園までの道のりは大半が手探りだったし、道は歩きにくい事から時間がかかる事も分かってた。ただ、都市を囲う城壁が崩落して魔物が乗り込んできたとは思わなかったけどさ」
途中で重傷の兵士と遭遇し、魔物が雪崩れ込んできた事を知った。
そのせいで魔物を避けるように大きく迂回する道を通らなければならなくなり、昼頃に到着すると思ったがそれすら果たせなかった。
「兵士と一緒に簡易的な避難所まで向かったんだ。そこで一度休息と補給を受けて、そこから改めて学園に向かおうと思ったんだ」
「二人とも疲弊してただろうね」
「疲弊してたけど、それが肉体的な物か精神的な物かまでは分からない。この避難所でアルバートとグリム、マルコと合流して、兵士とは別れた」
アルバートは躁状態になっていたし、グリムの使っていた剣も折れてしまった。
マルコはパニックをおこしていたが、それも割愛する。
「魔物との戦いは最初は俺と兵士が担当していたけど、ここからはアルバートと俺で前衛を担当して、グリムに後方警戒を頼みながら歩いた。途中小競り合いや、俺が先制して魔物を排除できたけど、学園までは概ね問題なくたどり着くことが出来たんだ」
「陣形……いや、隊列、か?」
「俺一人じゃ目で見る事が出来る範囲は狭いから、前方二名での警戒、護衛されている三名は真横と前方を、グリムとカティアには横や後ろを見てもらう事で出来るだけ安全に行動しようとしたんだ。魔法は、使えなかった」
「使えなかったと言うのはなんなのじゃ?」
「魔法は詠唱に時間がかかる、そのくせ発動したら光を放つし喧しいから存在が露呈する。隠密行動、静かに安全に向かうには向いてなかったんだよ」
まだマリーもおらず、俺も魔法に関しては未着手だった。
天才と言われたミラノやアリアでさえ、詠唱をするのなら十秒前後を消費しなければならない。
しかも文言を間違えれば失敗で、魔法を発動すると光るし着弾音までする。
そんな物に頼って魔物の本隊に発見でもされたら、俺は八九小銃などをばら撒かねばならず、余計に呼び水となっていただろう。
「学園の南門について、ミラノやアリア、マルコをまず通した。抗戦能力の低い相手を入れて、それからグリムとカティアを通す。最後に主戦力で橋の周囲警戒をしていたアルバートと俺が入ればおしまいだったけど、まあ上手くいかなかったよなぁ……」
アルバート達を通し、後は俺だけだった。
しかし、横合いから何かがやって来て、橋をぶち壊しながら俺は水路へと放り出された。
その結果魔物の多い南へと流されてしまい、単独行動をする羽目になる。
「──で、二人を救ったところまでは俺が覚えている事。その次に目を覚ましたら棺桶の中で、グールやゾンビと勘違いされたっけな」
出来る限り全てを語り、時折挟まれる問いにも答えていった。
それらで満足したかは分からないが、目の前のヴァイスは少なくとも真面目に聞いているようであった。
「お主は召喚されて間もないのに主人や友の為に体を張ったのか。いや、忠臣であるな」
「忠臣だなんて──」
「お主のような奴が、当時居ればな。いや、今も居てくれればと思うのじゃが」
そう言ってヴァイスは、色々考えているようであった。
俺は何も言えず、彼女達の過去は思い描く事しか出来ない。
十四人居て、二人は歴史から消された。
十二人居て、そのうちの三人は殿を受け持って終結の時点ですでに帰らぬ人となっていた。
そのことを考えると、何も言えない。
「しかし、その事を今更言っても仕方が無い。じゃが、お主の示した勇気は人類にとって誇るべきものであり、見習うべき物である。献身と奉公に感謝するぞ」
「なぜヴァイスが感謝するんだ」
「吾にとって人とは未来じゃ。国は違えども、魔物なぞに命をくれてやるつもりは無い。魔物は全て駆逐する、滅ぼす──吾は、それだけを考えて生きてきたのじゃからな」
天真爛漫と言えるくらいに笑みを浮かべていた彼女であったが、その一瞬だけ”英霊らしさ”を見せた。
仇、敵、許す事も相容れることも出来ない相手を滅ぼす事を考えている顔。
タケルも魔物に対しては憎しみを持っていたし、アイアスもマリーもそうだが……英霊は、魔物に対しては絶対的な敵意を有しているようである。
「そんなに怨んでいるんだ?」
「怨む……怨む、か。身内を縊られ、好いた相手も死に、国を滅ぼされた。父上の大事にしてきた兵も、土地も全てが魔物と破壊の海に沈むのをみた。分かるか? 吾の背負うべき物や、受け継ぐもの全てが壊されて行くのを、悔やみながら見つめるしかなかったのじゃ」
「国……」
「父上の国、そして歴史が──悉く破壊されて、恨まぬ者がおるか?」
「──僕は、考えられないかな。家が、家族が、住んでいた場所が全て失われたら、正気じゃいられないと思う」
俺も、自分の事で考えてみたが──とてもじゃないが冷静ではいられないと思う。
塞ぎこむか、怒りや憎しみに囚われるか……。
少なくとも、今の自分のままではいられないだろう。
「ヴァイスも、良いところの人なんだな」
「なんじゃ、そういう情報は聞いておるのか」
「マリーからね」
「いかにも、吾も亡国とは言え一国の姫であった。ただ、今となってはただ一人の臣下も持たぬ、姫でも何でもない一人の小娘に過ぎぬ。姫と言うだけで、万能であるかのように感じておった……。今となっては、その時の吾に会えるのであれば殴ってやりたいくらい愚かであったが」
「好きな人も居たんだね」
クラインの問いに、ヴァイスは目を閉ざした。
暫くそのままだったヴァイスだが、溜息を吐く。
「二人居た。幼い時に一緒であった男児と、共に戦ってきた一人の騎士じゃ。一人は病に倒れて亡くなったと彼の父君に聞いた。騎士も……卑劣な魔物によって倒れた。じゃから、魔物と吾等は決して相容れぬ。それは同じ目にあわせると言う復讐の意味ではない、奪われる者が居なくなり安心と安全を確保する為にせねばならぬ事なのじゃ」
魔物と相容れないことを理解し、そしてそれらの一切の殲滅や根絶を口にする。
たしかにそれが叶えば魔物と言う脅威に怯える事も無くなり、人々は今よりは平穏・平和に暮らせる事になるだろう。
ただし──それは、魔物に対する平穏・平和である。
「出来るのかなあ……?」
そして、クラインは確信ではなく疑問を口にした。
ヴァイスは直ぐに意識を切り替え、問いかけた。
「それはどういう意味じゃ。その為に吾は魔法を使える者でなくとも扱える武器を作らせておる。学園の警備に来ておる者は、誰もがその武器を持ち──実際に戦えておる」
「あぁ、うん。魔法が使えないとある程度強大な魔物を相手に出来ないって言うのは分かってる。それを解消するための武器なんだよね?」
「そうなのじゃ」
「けどさ。魔物を一切合切殲滅するとなると一国じゃどうしようもないよね? それに関して協力は取り付けられたの?」
「いや、まだじゃが……」
「魔物を殲滅すると言っても、他国の軍隊をハイどうぞって通すわけがないと思う。それに、大規模な戦いになるって事は今度は実績が必要になってくるし、そう言った戦いでの部隊運用だとかも自他に証明して補微修正していかなきゃいけないはず。ユニオン共和国は、軍隊としての魔物との戦いや殲滅は?」
「──……、」
「自国でやってない事を他国でやろうとするのは余計難しいと思う。それに、今度は補給の観点がある。独自の武器を使ってるって事は、他国では補給が利かないんじゃないかな?」
「む、むぅ……」
「あと──」
「あ~、クライン。それくらいにした方が良い。何を言っても、俺たちはユニオン共和国の兵でも指揮官でもないんだから。スカートの上から……じゃない。えっと……」
「どれだけ考えても、物事の本質には至れないって事だよね」
「そうそれ」
クラインの言っている事はもっともだった。
ただ、俺はそのもう一個先のことを考えていたので盲点でもあったのだが。
クラインの指摘にヴァイスは言葉に詰まり、徐々に首から顔が赤くなっていく。
やばいかな? キレたかな?
俺はクラインを庇えるように少しばかり浅く椅子に腰掛けなおすが、彼女は大きく息を吐き出しただけだった。
「ぐ、ぐぅ……。誰もそういった事は言ってくれなかったのじゃ」
「英霊にも得手不得手があるんだ」
「吾は纏める為に御託を並べて、先陣で剣を振るう事しかしなかったからのう。こういった事は、ヘラが少し知っておるが、あ奴ほどではない」
「あ奴って?」
「──んむ。名前が出てこぬが、そういうことに長けた奴が一人おったのじゃ。最も、最後の戦いで相打ちとなって、死んでしまったのじゃが」
なんか、聞いていると存在が消滅したただ一人の庶民だった娘さん、負担でかすぎね?
アイアスと言いロビンと言いマリーと言い、戦いや用兵に長けている連中は何で後方だの裏方だのに疎いの?
そら「ちゃんと休まなきゃ」って言葉が皮肉にしか聞こえなくなるわ。
作戦立案もして? 負傷兵の見回りもして? 物資の確認もして?
俺だったら即座に「辞めさせて頂きます」って言ったかも知れない。
「……お主らが居ればな」
そして彼女は、同じ言葉を吐いた。
「悪いけど、俺は行くつもりは無いからな。そっちの国の連中がなんだか俺の周囲を嗅ぎ回っているようだけど、どんな条件を提示されようが断る」
「そう、か」
「けど、手助けして欲しいと言うのなら、別に吝かではないって事は伝えておく。賓客とか、食客という扱いで一時的な滞在くらいなら考えるけどさ」
流石に引抜を受ける訳には行かないが、そうやって何かしらのアドバイスくらいならしても良いと思っている。
一度転んだ人間は、二度三度と転ぶのではないかと思われてしまう。
そうなると今以上に面倒臭くなるのは目に見えており、金だの女だの待遇だの地位をぶら下げて沢山の人が来るのはごめん被る。
「ヤクモ、そんな話が来てたの?」
「ユニオン共和国での地位や身分を意味する階級を提示されて、ちょっとな。少佐までなら用意できるとか言われたけど、断ってきた」
「断ったんだ……」
「なんだかきな臭そうな感じがしたし、偉くなると仕事が増えるだろ。俺は今くらいが気に入ってるの」
少佐とか、中隊長レベルの階級だ。
そうなるとン百人と部下を持ち、複数の小隊を所有し、部隊運営をしなければならなくなる。
残念ながら俺は下士官の一個下の兵でしかなく、部隊運営に関しては丸っきりの無知である。
それでも自分が関係したものを想像してゼロから組み上げねばならず、受け入れて貰える可能性だって有るとは言い辛いのだ。
「俺は自分とカティアの事で手一杯なのに、いきなり部隊を任されるような地位にはなりたくない」
「面倒臭いとか、そんな理由で断る人は初めて聞いたなあ……」
「あのですね。俺はまだ色々な事が分からないのに、そんな奴がいきなり偉くなったら反感や顰蹙も買う。それと、俺は自分が何処まで通用するかも分からないのに階級にはぶら下がりたくない」
「階級に、ぶら下がる? なんじゃそれは」
「兵士も指揮官も、生まれが良いから、金が出せるから階級が高くなるんじゃない。優秀で、どれくらい長く勤めて、貢献してきたか──そう言った”総合”でみた結果、偉くなっていくのが俺の持つごち……軍曹と言う階級だ。金で階級を買う、裏で圧力を加えて階級を脅し取る。そんな奴に、どうして背中を、部隊を、仲間を預けられるんだ?」
予備自、即応予備自、常備自衛官。
自衛官候補生、曹候補生、幹部候補生。
一般からの入隊、防衛大からの部隊配属……。
色々あるが、どれも”意志無き者”には勤まらないと思っている。
「偉くなるって事は楽が出来るって事じゃない、より難しく辛い環境に身を置くということだ。他にも部隊にどれくらい長く居るかとか、先輩だけど階級は下だとか、後輩だけど自分より偉いとか色々複雑なものも絡むんだよ。そもそも、部隊のあり方──その特性が違うんだから、階級が……軍曹、であっても意味がまったく無い」
「何故じゃ?」
「俺が学んだ事は、多分ユニオン共和国の兵の運用方法と相容れない。もし俺がユニオン共和国に行くとしたら、訓練兵からやり直しだ」
それが当たり前じゃないのだろうか?
階級、身分、爵位……。
国が違えば尊重はされても通用はしない。
そもそも俺は剣士ではなくただの歩兵である。
普通科隊員として散兵を担い、場合によってはLAMだのMINIMIだのを持って対戦車手や機関銃手をするだけである。
「訓練兵じゃと、お主の身分は最下層では無いか」
「それくらいじゃないと兵士なんてやってられないだろ。訓練を受ける、施される、教育を受けるってのは自分の為だけじゃなく仲間のためでもあるんだ。安易に階級だの爵位だの渡されても、俺は困る」
「──そう言う考えなんだ、なるほど」
と、公爵家と言うほぼ最上位である家の長男がぼやく。
あぁ、そうでしたね。貴方は引き抜かれたらそもそも戦争レベルでのちょっかいだし、地位や身分は最上級を差し出さないといけないから想像できないでしょうね……。
「と言う訳で、ま、諦めてくれ」
「で、では。助言を聞きたいと言えば、来てくれるのじゃな?」
「主人のミラノかデルブルグ家に断りを必ず入れて、許可を得たらね。流石に俺も勝手な行動はしたくないし、そう言ったことを踏まえないと公爵家軽視だとかで要らん揚げ足取りされかねない」
「色々考えてるね」
ただ臆病なだけなんですけどね?
言い訳と言うか、出来る限り断ろうと様々な事柄を考えるとこういう言い回しになるくらいだ。
けれども、結構真理だと思っている。
「因みにユニオン共和国で兵士を前進させる時ってどうしてるの?」
「む? うむ。こう横並びに武器を持った兵士を並べ、意気揚々と前進していく。そして武器の射程距離に収めたら多段撃ちで敵を撃滅していくのじゃ」
「あ、うん。そっか……」
完全に戦列歩兵なんだよなぁ……。
しかも俺は一人とは言え機関銃だの迫撃砲の榴弾だの、手榴弾だのLAMだの持っている。
流石に平野や平原では正面の戦列歩兵や横撃してくる騎兵などには対処出来ないが、それでも魔法も含めれば幾らか瓦解させることは出来る。
現代の志願制の兵士が相手では難しい話だが、徴用兵だの──下手すりゃ犯罪者まで加えている部隊等は壊走させてやれば良い。
戦争とは殲滅する必要は無い、戦えなくすれば良いのだから無線だの何だのと言った通信インフラや連絡手段が劣っている限りは幾らでもやりようがある。
「そういや、ヴァイスって主人は?」
「吾の主人はとっくの昔に亡くなった。じゃが吾のこの血が主人無しでも大丈夫なようでな。無尽蔵の魔力が吾を保ってくれていると言うわけじゃ」
……なにそのチート。
マリーやヘラですら主人が居なければダメで、アイアスやロビンでも使い魔になる事に甘んじていると言うのに。
龍の血と言う物がそもそも理解不能なのだが、ヘラも魔力を充足させる実を育ててたような。
「なんで亡くなったの?」
「まだ共和国の体も成せぬ頃にな、今の指導者の部下の一人が吾を召喚したのじゃ。残念な事に、平定の戦いの最中に矢に撃たれてな。最後の最後まで彼奴は勇敢であった」
ヘラの時もそうだったけど、何か有る主人ってのは多いな。
このままだとデルブルグ家の当主も、ヴァレリオ家の当主もいつか何か有りそうで怖い。
貴族至上主義にとって目の上のタンコブである二家の当主とその使い魔である英霊。
主人をやれば直ぐとは言わずとも英霊たちはいずれ魔力切れで消滅する。
そうなると他の英霊が何か言いたくとも他国の英霊ゆえに内政干渉などになる。
実質的な詰みになりかねない。
「主人が居なくても存在できるんだ……」
「英霊は皆過去の存在じゃからな。肉体は既に滅んでおる、故に存在を繋ぎ止めるには魔力が必要となるのじゃ。魔力が無くなれば他の仲間は消えるしかないが、吾は血のおかげで大丈夫と言うだけで、異例だと思わねばならぬ」
「主人が居るのと居ないのでは、どれくらい違うのかな?」
「そうじゃな。吾の間隔で言えば『腹が減らない』と言うだけで、主人が居れば『腹を満たす事が出来る』と言う感じじゃな。腹が減らないと言う事は、別に食を必要としない訳ではない。食事をすれば満たされるし、それが美味であれば尚更の事」
「へぇ~」
「それに、吾は魔法を使ったり等をしても自然と回復するが、他の者は使えば使うほどに空腹になると考えれば分かるじゃろ?」
「あ、それは分かりやすい。居ないと大変なんだなぁ……」
理解してもらえたようで何よりだけれども、これは雑談なのだろうか?
地図を片付けて俺は話の成り行きを見守っていたが、ノックが部屋に飛び込んできた。
「あの、クライン様は此方に居られますでしょうか?」
「はい、居ますが」
「ヴィトリーと名乗る方が来られてますが……」
「「え゛?」」
「なんと……」
俺とクラインだけでなく、ヴァイスも来訪者に驚いている。
多分この国の姫の名は知っていたのかもしれない、そら驚きもするか。
まだ相手が何かを言っている最中だったようだが、直ぐに扉が思い切り開かれる。
そして其処にはかつて見たままの姫さんが其処に居た。
「久しいな、クライン! まさかこのような場所に来ているとは思わなくてな、つい顔を出すのが遅れたのじゃ!」
「はぁ、姫様……」
開け放たれた扉の向こう側には教育係のオルバも居る。
しかも俺とヴァイスが都合よく無視されており、彼女はクラインしか見えて居ないようである。
姫さんはクラインに飛びついて行き、俺はそそくさとクラインから距離を開く事に。
「わぁ、ヴィト……姫ぇ!?」
「他人行儀な呼び方は抜きじゃ!」
あちらは此方に興味が無いのだろうし、俺は離れる。
助けを求めてるようだが、リア充に差し伸べる手はないのだ。
ヴァイスも離れており、オルバの方へと行く。
既に痴態とも破廉恥とも言える光景に、オルバは頭が痛そうだ。
「やはり、こうなりましたか……」
「止められなかったのか」
「止めるも何も、ご子息を学園に通わせる場合は自国の王に一言いう事になってるので。それを聞いた姫様を、どうやって止めろと?」
「魔法は封じたんだろ? なら物理的に止められるんじゃないのか?」
「姫様はここ最近、魔法封じに対抗する勉強ばかりしています。既に何度か破れかかっており、放置すれば破られるのは目に見えています。私も学園を最年少で卒業し宮仕えをそれなりにしているつもりでしたが、思い上がりを踏み躙られている気になります……」
そう言ってオルバは「いたた……」と腹を押さえた。
若いのに胃痛なのかもしれない。
可哀想だとは思うが、俺にはどうする事も出来ない。
「苦労しすぎでお腹が痛いのなら、薬を分けてやる事は出来るぞ」
「いえ、其処までお世話になるわけには――」
「俺も、しょっちゅう腹痛くするから、沢山あるし」
そう言って、力ない笑みを浮かべる事しか出来なかった。
オルバは俺の表情を見て察したらしく「後で、幾らか分けていただけると助かります」と力無く言った。
「すみません、ヴァイス様。先にお話をされていたと言うのに、姫がとんだ失礼を……」
「吾は構わぬ。人は、特に男女の仲というものは盲目だと心得ておるのでな。吾に対して行われた無礼では無いのでな、気にはしておらぬのじゃ」
「そのように言っていただき、感謝いたします……」
オルバはそう言って、胸に手を当てて深く頭を下げた。
本来はああいった態度が普通なのだろうが、俺は余りにも関わりすぎて身近になってしまった。
それに相手が畏まるなと言っていたので、許可事態は貰っている。
これで後から縛り首とか処刑なんてされるのなら、徹底的に抵抗させてもらう。
「オルバか」
「はっ、私のような者をご存知だとは、恐れ多いです……」
「学園を最年少で卒業し、ヴィスコンティで教育係として仕えており、優秀だと聞く。お主のような者が居る事が、人類にとっての財産となる。――苦労や面倒は決して少なくないじゃろう、じゃがお主の献身と奉公はいつか報われるじゃろう」
「有り難きお言葉……」
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オルバはオルバで父親が乱心した結果領地を一時取り上げを食らっているし、その結果爵位も領地も無い一個人として『オルバ・ライラント』を名乗っている。
若い上に教育係だ、何かと苦労する事は多いだろう。
英霊から直々に褒められては俄然やる気が出るというもの。
俺は分からないけれども、きっと物凄く感銘を受けているに違いない。
しかし、何だかなあである。
姫さんにじゃれ付かれて困惑しているクライン、ヴァイスに褒められて感謝しているオルバ。
二人一組を作ってくださいと言わんばかりに俺だけハブにされてしまい、独りぼっちをかみ締めるしかない。
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僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
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