ニアリー・シンメトリー・ハート——お前の手だけだよ……こんなゾクゾクさせられるの……

街田あんぐる

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13. 3秒よりも長いハグで満たして

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「お待たせ」

 玄関を開けたらそこに梓がいて、ふわっと微笑んでくれる。それだけで遥二の胸は幸せでいっぱいになる。

「ありがと、ほんと……」
「ううん。好きだよ」
「……!!」

 今すぐ梓を抱きしめたい。腕を広げてから、風邪をうつしてしまうといけないのでやめにする。
 でも梓はお構いなしで、買い出しの袋を下ろすと遥二をぎゅっと抱きしめた。

「梓、うつるといけないから」
「あと3秒だけ」
「……ん」

 好きな人に抱きしめられる3秒は、心が溶け出しそうなほど甘い時間だった。

「お粥食べる? 家のことも手伝うよ」
「いやいや! とてもこの惨状は見せられない!!」
「風邪のときなんてそんなもんでしょ~」

 実はおれの部屋は常に「惨状」です、とは言えない。遥二はごにょごにょとごまかして、お粥を温めてもらうことにした。
 今はまだ全身が重くて、できれば動きたくない。手伝ってもらえるのは、正直すごくありがたかった。

 でも、てきぱきと食材をしまってくれる梓に、ほとんど空っぽの冷蔵庫を見られるのが恥ずかしかったりする。

「はい。ぬるかったら言って」

 ボウルによそった卵粥を手渡してくれる。

「ありがとう。いただきます」

 最初は身体が食事を受け付けるか心配だったけど、ひと口食べたらおいしくて、ガツガツ食べ進めた。もう24時間食事をしていなかったから。

「フルーツも食べられそう?」

 梓は遥二が食べるのを見て嬉しそうな笑顔を見せた。遥二がうなずくのを見て、冷蔵庫にみかんを取りに行く。
 甘えている自覚はある。でももう少しだけ梓にそばにいてほしくて、好意に甘えてしまう。
 でもそれって、「奪う恋愛」かな。

「梓、おれの世話は焼かなくていいんだよ」
「……? あ、疲れちゃった? 帰ろうか」
「そうじゃなくて……。ただ、もう少し話がしたいなって」

 梓はうなずいて、シロップ漬けのみかんとフォークだけ持って戻ってきた。遥二はベッドに座り、梓は床のクッションに座って話す。

「ずっと寝てたの?」
「そうみたい」
「仕事は? 休めそう?」

 梓は心配そうに遥二を見上げる。

「しばらく余裕あるから大丈夫。あ、『パフェまつり』次第だけど」
「ああ。それなんだけど。もう全体チャットで連絡したけど『パフェまつり』は中止になりました」
「……!! そっか……」

 遥二はなんと言っていいか分からなくてうつむいた。

「報酬は契約書通り出るから、」
「そんなことより、梓があんなに……」

 落胆した声で言う遥二に、梓は微笑んで立ち上がった。歩み寄り、ゆったりと頭を撫でる。

「僕はさっぱりした。加藤さんがめちゃくちゃ頑張って中止に『させた』んだ。保留のまま何ヶ月も待たされてもおかしくない案件だった」
「……確かに」

 今回の取引先は大企業。組織が大きいゆえにどうしても判断に時間がかかるはずだ。1週間での結論は、驚くほど早い。

「それじゃ弊社もメンバー全員もやってられないからって、一人で乗り込んで中止の報告を持って帰ってきた」
「すげえ」
「うん。すごく難しい判断だよ」
「そっか……終わったんだ」
「うん。ごめんね」
「ごめんねじゃなくて」
「友人としても、社員としても、ありがとうございました。光栄でした」

 梓は少し涙声で、でもさっぱりした顔で笑った。
 遥二の目は潤み始めた。

「おれも……中止になるかもって言われて悔しかったんだわ」
 中止なんだ。その動かせない事実が遥二の胸に沁み込んで、じんわりと鈍い痛みがうずき出す。

 わくわくした心でスタートを切った企画だった。プロジェクトの中で、たくさんの素晴らしいクリエイターに出会った。短い間にも、あのプロジェクトは遥二の世界を広げた。
 それが秋まで続くはず、だったのだ……。遥二の心のわくわくが急に没収されて、そこにぽかんと空洞が空いた。

 きっと梓も同じ気持ちだ。

「悔しいな」
「うん。あのトラブルで遥二の心も疲れてたのに、無理して僕を気遣ってくれたんだよね。だから風邪を引いてしまった。ごめんね」

 遥二は何も言わず首を横に振って、梓の手を取って自分の頬に当てた。今日は素直に遥二から甘える気分だったから。頬をゆったりと撫でられて、遥二の心が満たされていく。

「遥二。あのね。デートに誘ってもいいですか」
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