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第29話 嘘は涙となって
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「僕が……僕だけが、誰よりもいちばん、衣真くんのきれいなところを評価してあげられると思ってたんです」
「まったく評価していないとは思いません。ゼロか100かで考えたら、伊藤さんはずいぶん恋人さんのまっすぐさを大事に思って尊重していると思います」
「でも100パーセントじゃない」
僕の手は震えた。フェイクグリーンの白い磁器の鉢を掴んで床に叩きつけて割ってしまいたかった。何もかも終わりだと思った。残酷すぎる現実だった。
「ゼロか100かで考えないでほしいんです。他人を100パーセント尊重できる人なんてそうそういません」
「衣真くんならできます」
「恋人さんも、時にはほかのご友人を優先して、伊藤さんを心配させるでしょう。それは伊藤さんを100パーセント尊重してることにはならないと思いませんか?」
「……思います」
「恋人さんが自分の基準を伊藤さんに押し付けて行動するのは——」
「押し付けられてるわけじゃない。僕は衣真くんの話を聞いて納得してるんです」
「捉え方がずれていて申し訳ありません。でも、恋人さんの基準ばかりが絶対になってしまうと、強い言い方ですが、モラハラに近いとは思いませんか?」
「そんなわけない!」
僕が大声を上げたので、カウンセリング室の受付の人が心配そうに僕たちの部屋をのぞきに来た。
「衣真くんとモラハラなんて一番相容れない! 衣真くんはそういう『悪』から注意深く自分を離して生きているんです!」
後半はぐずぐずで何を言ったのか自分でもよく分からなかった。衣真くんと「悪」は相容れないはずなのに、今まで僕が傷ついてきたことを総括する言葉として「モラハラ」はおろしたての毛布のように肌に優しく馴染んだ。
僕の世界はひっくり返った。内海を穏やかに進んでいた僕の船は、急に太平洋という巨大な現実のもとへ連れ出されて、大風に吹かれて船の中は何もかもめちゃくちゃになった。
僕は泣いた。今までつらかったことを全部ぜんぶ「つらかった」と思うことを自分に許してやったら、泣けて仕方なかった。フェイクグリーンは、僕が叩きつけてやりたいと思っていることも知らずに静かだった。カウンセラーも黙っていた。
「衣真くんを、衣真くんのまま愛するのは、難しいです」
「そうですね」
「衣真くんにも、変わってほしい」
「まったく評価していないとは思いません。ゼロか100かで考えたら、伊藤さんはずいぶん恋人さんのまっすぐさを大事に思って尊重していると思います」
「でも100パーセントじゃない」
僕の手は震えた。フェイクグリーンの白い磁器の鉢を掴んで床に叩きつけて割ってしまいたかった。何もかも終わりだと思った。残酷すぎる現実だった。
「ゼロか100かで考えないでほしいんです。他人を100パーセント尊重できる人なんてそうそういません」
「衣真くんならできます」
「恋人さんも、時にはほかのご友人を優先して、伊藤さんを心配させるでしょう。それは伊藤さんを100パーセント尊重してることにはならないと思いませんか?」
「……思います」
「恋人さんが自分の基準を伊藤さんに押し付けて行動するのは——」
「押し付けられてるわけじゃない。僕は衣真くんの話を聞いて納得してるんです」
「捉え方がずれていて申し訳ありません。でも、恋人さんの基準ばかりが絶対になってしまうと、強い言い方ですが、モラハラに近いとは思いませんか?」
「そんなわけない!」
僕が大声を上げたので、カウンセリング室の受付の人が心配そうに僕たちの部屋をのぞきに来た。
「衣真くんとモラハラなんて一番相容れない! 衣真くんはそういう『悪』から注意深く自分を離して生きているんです!」
後半はぐずぐずで何を言ったのか自分でもよく分からなかった。衣真くんと「悪」は相容れないはずなのに、今まで僕が傷ついてきたことを総括する言葉として「モラハラ」はおろしたての毛布のように肌に優しく馴染んだ。
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僕は泣いた。今までつらかったことを全部ぜんぶ「つらかった」と思うことを自分に許してやったら、泣けて仕方なかった。フェイクグリーンは、僕が叩きつけてやりたいと思っていることも知らずに静かだった。カウンセラーも黙っていた。
「衣真くんを、衣真くんのまま愛するのは、難しいです」
「そうですね」
「衣真くんにも、変わってほしい」
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