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第1話 ねえ、いまくん
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新歓を経て残った新入生は僕と、宮澤くんと、関根さんと、山口くんの4人だった。理系は僕だけ。宮澤くんは文学部哲学科。関根さんは文学部のフランス文学コース。山口くんは法学部で弁護士を目指すらしい。
正直に言おう。すごく引け目を感じていた。小説が好きなだけで入れるサークルじゃなかったかも。
いや、まだ書くことに慣れていないだけだ。自分だってやればできる。負けん気を原動力にして、活動に毎回参加した。
そんな空元気を打ち砕くほど、宮澤くんの書くものはすごかった。美しかった。認めざるを得なかった。
書評でありながら、確固たる文体を持っていた。言葉の端々に奔放で自在な表現力がきらめいて、なおかつそれを御す慎重な手つきを忘れてはいなかった。
ランタンを灯して夜を駆ける馬車の、青馬の躍動と御者の白い手袋。
そんな光景が浮かぶほどの文章があることを知った。
4月の下旬、図書館前で山口くんに遭遇した。何か言いたげな顔をしていた。
「ねえ、サークル、残る?」
「え?」
虚を衝かれて一瞬口をつぐんだ。その選択肢は目に入れないようにしていた。でも……もうサークルに行かなければいいのだ。山口くんは、そういう話をしている。
「いやー。衣真くん、圧倒的すぎるじゃん?」
彼を「衣真くん」と呼ぶ人は多い。仕草がかわいらしく、小動物的な雰囲気で、みんなの弟のように思われている。本人も嬉しいらしく、名前呼びが浸透していった。名字で呼んでいるのは僕だけかもしれない。複雑な心境のまま下の名前で呼ぶ気になれなかった。
「宮澤くんが圧倒的、は、わかる」
「でしょ」
「でも、いい奴だし」
「衣真くんはいい奴、それはそう。でも迷ってる。関根さんは残ると思う。伊藤くんは……自分に自信ありそうだから、聞いてみた」
オブラートに包んでくれたけど、口ぶりで「プライドが高そう」と言われたのだと分かった。顔が熱くなる。「実力がないのに宮澤くんに張り合おうとしている」と言われたみたいだ。
そういうつもりじゃないのは分かっている、山口くんも同じように悩んでいる。でも、図星を突かれた防衛反応が僕の口を重くする。
「それは……いや、でも、僕が書くのをやめる理由にはならないから」
「んー。ぼくは幽霊会員になりそう」
「ありだと思う。でも会費集めるって。一年に1000円」
「1000円払って幽霊会員になるか……。これは悩ましい」
そんな会話のあと、山口くんは集まりに来なくなった。言葉通り幽霊会員になったのか、入会を取りやめたのかは分からない。
正直に言おう。すごく引け目を感じていた。小説が好きなだけで入れるサークルじゃなかったかも。
いや、まだ書くことに慣れていないだけだ。自分だってやればできる。負けん気を原動力にして、活動に毎回参加した。
そんな空元気を打ち砕くほど、宮澤くんの書くものはすごかった。美しかった。認めざるを得なかった。
書評でありながら、確固たる文体を持っていた。言葉の端々に奔放で自在な表現力がきらめいて、なおかつそれを御す慎重な手つきを忘れてはいなかった。
ランタンを灯して夜を駆ける馬車の、青馬の躍動と御者の白い手袋。
そんな光景が浮かぶほどの文章があることを知った。
4月の下旬、図書館前で山口くんに遭遇した。何か言いたげな顔をしていた。
「ねえ、サークル、残る?」
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「いやー。衣真くん、圧倒的すぎるじゃん?」
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「宮澤くんが圧倒的、は、わかる」
「でしょ」
「でも、いい奴だし」
「衣真くんはいい奴、それはそう。でも迷ってる。関根さんは残ると思う。伊藤くんは……自分に自信ありそうだから、聞いてみた」
オブラートに包んでくれたけど、口ぶりで「プライドが高そう」と言われたのだと分かった。顔が熱くなる。「実力がないのに宮澤くんに張り合おうとしている」と言われたみたいだ。
そういうつもりじゃないのは分かっている、山口くんも同じように悩んでいる。でも、図星を突かれた防衛反応が僕の口を重くする。
「それは……いや、でも、僕が書くのをやめる理由にはならないから」
「んー。ぼくは幽霊会員になりそう」
「ありだと思う。でも会費集めるって。一年に1000円」
「1000円払って幽霊会員になるか……。これは悩ましい」
そんな会話のあと、山口くんは集まりに来なくなった。言葉通り幽霊会員になったのか、入会を取りやめたのかは分からない。
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