MEAL GAME -ミール ゲーム-

双守桔梗

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第四章 記憶の返還と

第56話 昼ご飯とゲリラゲームの始まり

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 四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った瞬間、めぐるは立ち上がった。そして、弁当や飲み物などが入ったカバンの中に、授業で使っていたタブレットを入れ、それを持って急いで教室を出る。

 旋は早歩きで階段を素通りし、『三年S組』のプレートがついた教室の前に着くと、扉を軽くノックしてから開いた。

いとくん、こんにちは」
 旋は教室の真ん中の席に座るジュンを見つけると、ニコリと笑って挨拶をした。

「……なに?」
 ジュンは机の上にタブレットを出したまま、何をする訳でもなく、椅子に座ってぼぅっとしていたらしい。少し遅れて、旋の声に反応するようにゆっくりと動き出し、机と椅子を盾にするように教室の床にしゃがみ込んだ。

 旋はジュンに警戒されていると即座に察した為、無理には近づかず、まずはその場で頭を下げた。
「この前は突然ごめんなさい。いきなり手を掴んで……驚かせたよね……?」
「別に……気にしてない。だから顔を上げてよ」
 ジュンにそう言われ、旋は恐る恐る顔を上げた。すると、少し困ったような顔で立ち上がっていたジュンと目が合う。

「まさかわざわざ謝りに来たの?」
「それもあるけど……一緒にお昼ご飯を食べたいなぁと思って誘いに来たんだ。糸樹くん、ジブンと一緒にお昼ご飯食べない?」
 旋はそう言いながら、一歩だけ教室の中に足を踏み入れる。

「は……? 意味分かんない」
 ジュンは目をパチパチさせた後、小首を傾げたまま旋をじぃーと見つめる。
「ダメ、かな……?」
「だめではないけど……」
「本当に……?」
「断る理由がないし。ご飯を一緒に食べるだけなら」
 ジュンは椅子に座ると隣の席を指さして、「ここ座れば?」と素っ気なく言った。

「ありがとう」
 旋は内心、ホッとすると同時に嬉しくなり、ジュンが指さした席に近づきながら口元を緩ませる。

「どうしてそんなにうれしそうなの?」
「へへっ……だって糸樹くんと一緒に、お昼ご飯を食べられるから」
「なにそれ。意味分かんない」
 ジュンと会話しながら旋は、弁当や飲み物のペットボトルなどを机の上に置いていく。

 こうりゃく学園では事前に注文しておけば、弁当も作ってもらえる。旋は基本的に、苗字ズの三人と食堂に行ったり、売店で購入した物を誰かの教室で食べたりしている。けれども今日は、三人に前もって事情を話し、ファシアスからジュンは弁当を注文する派だと聞いて自分も同じようにした。

『旋とジュンが一緒にいる間は御前さん達の邪魔にならんよう、俺は多少強引にでもレイを連れて少し離れておく。二人っきりの方が話しやすいじゃろうしな。心から応援しておるぞ、旋』

 改良した例のお守りオマモリをファシアスから受け取った際に、彼から言われた事を旋は思い出しつつ、意を決してジュンの方を見た。だが、ジュンの机の上に置かれた三段の重箱を目にした瞬間、気が抜けてしまう。

「……糸樹くんってたくさん食べるんだね」
 育ち盛りである為、旋の二段弁当もそこそこの大きさだ。だが、ジュンの昼ご飯の量は自分の倍以上であった為、旋はただただ驚く。また、自分より少し小さなジュンのどこに、この量が入るのかと不思議にも思った。

「……小さかったから。……中学生になる前は。……だから大きくなりたくて。……テンシにも勝てなくなっちゃうし。……たくさん食べないと」
 ジュンは咀嚼終わりから次のおかずを口に入れるまでの間に、淡々と説明しながら食事を進める。

 モグモグと昼ご飯を食べるジュンの姿を眺めている内に、なんだか彼の事が可愛らしく見えてきた旋は小さく笑った。

 その日から旋は、昼休みの度にジュンのクラスを訪れるようなった。休日は弁当を持参して、職員寮までジュンに会いに行く。



「糸樹くん、こんにちは。今日も一緒にお昼ご飯食べない?」
 今日もまた、旋は一人でジュンのクラスを訪れた。

「別にいいけど……。どうして毎日来るの?」
「えっと……正直に言うと、糸樹くんと友達になりたくて……。一緒にお昼ご飯を食べてる間に、仲良くなれるかなぁ……とか、思ったりして……」
 ジュンの問いに旋は最初、本当の事を言おうか少し迷ったが、結局は正直に答えた。
「なにそれ。意味分かんない」
 そう言いながらもジュンは旋を拒絶しようとはしない。

 食後も昼休みが終わるまで、旋はジュンのクラスに居座っている。最初の頃は主に旋が話し、ジュンは短く受け答えするだけだったが、日を追うごとに彼の言葉数は増えていく。



 ある日、旋がタブレットで自分が作ったジオラマなどの写真を見せると、ジュンは目を輝かせて画面に釘付けになった。しかしその数秒後、ジュンは我に返ったのか、顔を背けて素っ気ない態度を取る。だが、旋が説明しながら写真を見せ続けていると、気にはなるようでジュンはチラチラとタブレットを見ていた。



 またある日は、痺れを切らせたらしいイツキとれつが弁当を持って、ジュンのクラスに乗り込んできた。二人のあまりの勢いに押されたのか、ジュンは旋の後ろに隠れる。旋もイツキと烈の全く悪気のない圧に困っていると、明らかに怒っているさんが二人を回収しに来てくれた。

 こうして旋とジュンは次第に二人でいる時間が増えていき、放課後に途中まで一緒に帰る日もあった。晩ご飯を食べて、就寝時間まで話す日もできた。



「そういえばさ。ふぁしあすが毎回れいをどこかへ連れて行くんだけど。きみがおれのところに来る少し前に。どうして?」
「二人っきりの方が話しやすいだろうからって、ファシアスがレイさんを連れて少し離れてくれてるんだ」
「ふーん……。そうだったんだ」
 ジュンから初めて長文の問いかけをされた事に、旋は驚きよりも嬉しさが勝って口元が緩む。

 この日、旋は少しだけ、ジュンが自分に心を開き始めてくれているのではないかと思った。けれども、まだまだジュンから感じる壁は厚い気もして、それを破れるのか不安にもなる。



 旋とジュンが一緒に過ごすようになった日から二週間後の昼休み。旋がいつものようにジュンのクラスを訪れ、彼の隣の席に座った瞬間、校舎の外から悲鳴が聞こえてきた。それと同時にファシアスとレイが教室内に瞬時に現れ、彼らは旋とジュンを囲むように立って、それぞれ武器を構える。

「ファシアス……! さっきの悲鳴って……」
 反射的に立ち上がった旋の言葉を遮るように、恐怖のテンシのボスであるドロモスの笑い声が響き渡る。ドロモスはひとしきり笑った後、「タッタ今、ゲリラゲームヲ開始シタ」と言ってからルールの説明を始めた。

 中等部エリアにのみ、百体のテンシを放った。上空含む現在、中等部エリア内にいる生徒とテンシ、どちらかが全滅すればゲームは終了。なお、他のエリアにいる生徒が加勢するのは禁止だと、ドロモスは愉快そうに言った。

 更にその後、『今ノ中等部ニハ、生意気ナ餌ガ多イ』と前置きし、演説じみた口調でごちゃごちゃと語り始める。

「これあげる。今の内に食べて。力が出ないでしょ。少しくらいは食べないと」
 ジュンは一口サイズの海苔おにぎりばかりが詰め込まれた、重箱の一段目を旋に見せてそう言った。突然の事に旋は戸惑いつつも、「ありがとう」と一つだけおにぎりをもらい、急いでそれを頬張って咀嚼しながら大剣を作り出す。

 旋がチラリとジュンの方を見れば、彼は咀嚼しながら大きなクマのぬいぐるみを作り出していた。
「お弁当はこの子に守ってもらう。きみの分も守ってくれるから安心して」
 ジュンがそう言うと、大きなクマのぬいぐるみは重箱の蓋を閉め、それをカバンの中に入れる。その後、二人分のカバンを体内に取り込み、どこかへ走り去ってしまった。

「その、いろいろとありがとう」
「別にいいよ。ご飯は大事だから」
 ジュンはじぃーと旋の大剣を見つめながら、気の抜けるような事を口にする。

「糸樹くん……? 大丈夫……?」
 あまりにも長い間、ジュンが大剣を見続ける為、旋は心配になって声をかけた。するとジュンはハッとしたような顔をした後、コクンと頷き、アリスブルーの刀を作り出す。

 その刀を見た旋は内心、『かっこいいな~』と思った。

「大丈夫。きみの大剣がかっこいいから見てただけ」
 ジュンはふいっと顔を逸らしながら、少しだけ素っ気なくそう言った。
「あ、ありがとう……糸樹くんの刀もかっこいいね」
「……ありがと」
 ジュンのその声が少し嬉しそうだった為、旋はほっこりして小さく笑う。

「御前さん達! そろそろドロモスの長話が終わりそうじゃから構えておれ!」
 ドロモスのゲームに関係ない話が長過ぎて、旋はついジュンの方に気を取られてしまっていた。だが、ファシアスの声にハッとして、彼の隣で大剣を構える。

 その後も旋は少しだけジュンの事が気になり、チラリと彼の方を見る。すると、旋の真後ろとレイの横でジュンも刀を構えていた。
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