MEAL GAME -ミール ゲーム-

双守桔梗

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第四章 記憶の返還と

第57話 ゲリラゲームとぬいぐるみ達

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「やれるか? めぐる
 ファシアスはそう問いながら、旋が制服の上に着ている、緑色のパーカーのフードを被せる。

「うん、大丈夫。鍛錬は積んできたし、ファシアスが作ってくれた服も着てるから」
 旋はファシアスの目を見て力強く頷いた後、ワイシャツとパーカーの裾を一緒に掴んでニッと笑ってみせた。

 ドロモスの長い話が終わるとすぐに、遠くの方から建物が壊れる音や生徒達の叫び声が聞こえてきた。その次の瞬間、ジュンのクラスの窓ガラスも割れ、複数のテンシの棘が入ってくる。だが、この場にいる者は誰も慌てる事なく、全員でテンシの棘を斬り落としていく。

「室内じゃと動き辛いのぉ……そうじゃ!」
 ファシアスは何か閃いたのか、声を上げた。その刹那、旋達の足元に大きな木の板が現れる。それは一瞬で巨大な船に変形すると、乗っている旋達ごと教室の壁や窓をすり抜けた。

「ファシアス……貴様はまた勝手に……」
「すまん! しかし流石じゃな、レイ。御前さんは瞬時に俺の考えを解ってくれるのぉ」

 中庭にゆっくりと降りていく船には、ドーム状のバリアが張られている。旋がそれを不思議そうに眺めていると、ファシアスが「あのバリアはレイが作ってくれたものじゃ」と説明してくれた。

 船は中庭に着陸すると、旋達をゆっくり地面に下ろしながら、一枚の大きな木の板へと戻っていく。その板は旋達を取り囲むように複数に分裂すると即座に、ドーム状のバリア付の小型船へと姿を変える。そして、周囲のテンシに攻撃しながら散り散りに飛んでいく。

「小舟達よ! 人の子の助太刀は頼んだぞ~!」
「ファシアス、貴様が相棒以外のヒトの手助けをすると他のカミに……」
「はっはっはっ! 言いたいやつには言わせておけば良い! それにゲリラゲームは誰がどれだけテンシを倒してもよいからな! 早う終わらせる為にも、ガンガン倒した方がいいじゃろ!」

 旋はレイとファシアスの会話を聞いて、苗字ズやこう寿じゅの事が心配になる。しかし、すぐに彼らなら大丈夫だと思い直し、目の前の戦闘に集中する。



「ジュン! どこへ行く気だ……!?」
 しばらくして、少し怒りがこもったようなレイの声が、テンシと戦う旋の耳に届いた。その刹那、旋の目の前にいたテンシは巨大な何かに激突され、どこかへ連れて行かれる。

 旋が反射的にそれを目で追うと、大きなシャチのぬいぐるみがテンシに噛みついたまま、空へ向かって飛んでいくのが見えた。その上にはジュンが乗っており、彼がクジラのぬいぐるみに移動すると、シャチの方は天高く飛んで行ってテンシごと爆発した。

 ジュンは乗り移ったクジラのぬいぐるみでテンシに接近しては、それらを淡々と刀で斬り倒していく。そんな彼を、レイは刀でテンシを斬り捨てつつ、追い続ける。地面にも空中にも、ジュンが作ったであろうさまざまな形の大きなぬいぐるみ達がいて、テンシを攻撃している。

 旋は攻撃してくるテンシはいないかと周囲を見渡すが、手持無沙汰になっているファシアスと目が合うだけだった。

「旋、俺らはサポートに徹するとしよう」
 ファシアスはあっけらかんとそう言った後、蜂と蝶の小型ロボを作り出して飛ばす。ファシアスの言葉に旋は頷くと、複数のナイフを作り出して同じように周囲に飛ばした。

「ジュンっ……!」
 その次の瞬間、明らかに焦っているようなレイの声が上空から聞こえてきた。その声に驚いた旋が空を見上げると、ジュンが乗っているぬいぐるみ目掛けて、四方八方から大量のテンシが集まっていた。

いとくん……!」
 旋は考えるより先に、身体が動いていた。思い切り地面を蹴った旋は空高く飛び上がる。

「旋! 一人で行くな!」
 背後からファシアスの声が聞こえても、旋は引き返さない。跳躍力が上がるスニーカーを履いているのもあり、どんどん空の方へと近づいていき、その勢いのままテンシに大剣を突き刺した。

 大剣で刺されたテンシは叫び声を上げて暴れ出し、旋を振り払う。

「うわあああぁっ……!」
 振り飛ばされた旋は地面へと落ちていく。だが途中で、逞しい腕と身体にガッシリ受け止められ、地面に叩きつけられずに済んだ。

「大丈夫か、旋」
 旋を受け止めたのは彼の予想通り、ファシアスだった。

「う、うん……ありがとう」
「全く……あまり無茶をせんでくれ。ヒヤッとしたではないか……」
 ファシアスは言葉を発しながら、地面にゆっくりと下り立ち、旋の身体を離す。

「ご、ごめん……」
 ファシアスに謝った後、すぐに旋はジュンの事を思い出し、空を見上げる。すると、蜂と蝶の小型ロボや動物のぬいぐるみ、旋のナイフもテンシ達を攻撃していた。更にジュンを横抱きにして、旋達の方へ向かってくるレイの姿も見えた。

「糸樹くん! ケガはない?」
 レイが着地するのとほぼ同時くらいに、旋はジュンに問いかけた。
「うん。大丈夫」
 ジュンのけろっとした言葉が返ってきた事で、旋は胸を撫で下ろす。

「ジュン……何故、我の傍を離れて戦った?」
 そう問うたレイの声は通常より少し低い。その事に驚いた旋が恐る恐るレイの顔を見上げると、彼は眉間に深いシワを寄せ、険しい表情をしていた。あまりにも迫力のあるレイの顔を目にした瞬間、旋は思わずビクッと肩を震わせる。

「どうしてだろ?」
 一方ジュンは平然とした顔をしており、おまけに旋の方を見て小首を傾げている。唐突なジュンの問いに旋は困惑し、ファシアスは小さく吹き出し、レイは深いため息をつく。

「己の気持ちを他人に聞いてどうする……」
「まぁまぁレイ、その辺にしてやりんしゃい。ジュンは無事だったのじゃから」

 ファシアスはレイを宥めるように、彼の頭をわしゃわしゃと撫でる。するとレイは「うむ……」と呟き、少し表情を和らげた後、ジュンの方を見て口を開く。

「だが、ゲームが終わるまで、ジュンはこのままだ」
「いや、それじゃと両手が塞がって、レイがまともに戦えんじゃろ……」

 ファシアスのツッコミにレイはハッとし、何かを考え出す。その数秒後、ジュンを地面にそっと下ろしたかと思えば、直ぐに彼の手を握った。それから空いている方の手で、新たに作り直した刀を持つ。

「これなら問題なく戦える。ジュンが我の傍を離れる心配もない」
「そうだね……」

 レイの言葉に、ジュンは少し不満そうにしながらも素直に頷く。それでようやくレイの眉間のシワはなくなるが、ファシアスは少し困ったような声で笑う。

 彼らの様子を見守っていた旋は内心、ホッと胸を撫で下ろす。その直後、ゲリラゲーム中だった事を思い出し、大剣を作り直しながら周囲を見渡した。

 そこで旋はやっと、レイが張ったであろうドーム状のバリアが、自分達を守ってくれていた事に気がつく。おまけに会話をしている間に、中庭から目に見える範囲のテンシはぬいぐるみ達によって殲滅されたらしい。テンシの残骸がそこかしこに散らばっている。

「すごい……。糸樹くんのぬいぐるみ、見た目は可愛くて、とっても強くてかっこいいね」
「ありがと。……きみのナイフもかっこいい。飛び回ってて」
「へへっ……ありがとう」

 旋はジュンの表情が少し柔らかくなったような気がしたのと、自分が作り出した武器を褒められた事が嬉しくて小さく笑う。

「さて、次はどうするかのぉ」
 ファシアスの言葉をきっかけに、旋達は今後の動きについて軽く話し合い――騒ぎの大きい運動場の方へ移動する事を決める。

 その後、ジュンのぬいぐるみはあちこちに散らばり、旋達は倒したテンシの数を大体、把握してから運動場に向かって走り出した。
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