この七日間はノンフィクションです。ただし、七つの嘘が紛れています。

双守桔梗

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本編

4.旅の二日目【真理乃の祖父の別荘】

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 緑に囲まれた、白い外壁の洋館の前に立っている、フェミニンな服装のとうの背中が映る。傍らには黒色のキャリーバックがある。

「あの頃と何も変わっていないわね」
 藤佳は懐かしむように、洋館を見上げながらそう言った。

「うん。それじゃあ早速、中に入ろっか」
 の声も昔を懐かしんでいるようで穏やかだ。

 彼女の言葉に藤佳は一瞬だけ振り返り、「えぇ」と相槌を打つ。藤佳はキャリーバックを引きながら、洋館の方へと近づいていく。

 チョコレート色の両開きドアの片側で藤佳は立ち止まる。その次の瞬間、ドアだけが映り、鍵を持つ真理乃の手が解錠する。その後、真理乃の手がドアを開く。

 洋館の内装はシンプルで、正面には幅の広い階段がある。

「藤佳ちゃん、どうぞ先に入って」
「ありがとう」
 真理乃に促され、「お邪魔します」と言いながら中に入った藤佳が、玄関付近で周囲を見渡している。

「ふふっ……懐かしいわ」

 真理乃が電気をつけたようで、室内が明るくなる。

「うん。懐かしいよね」
 ドアを閉めて施錠する真理乃の手が映っている。

「そういえば、記憶を失っている間、真理乃は一度もここに来なかったの?」
 階段の前で小首を傾げる藤佳の姿が映る。

「うん。お母様とおばあ様に止められていたから……。お母様には……アタシをここに近づけさせない為の、子どもっぽい嘘までつかれていたし……」
 真理乃はため息まじりに、少し呆れたような声を出す。

「あら、ちなみにどんな嘘だったの?」
「……そこの階段から親戚の子が落ちて亡くなった。それ以来、その子の幽霊が出たり、ポルターガイストが起こるようになったって……」
 真理乃の声から、彼女が心底、呆れ返っているのが分かる。

 藤佳は一瞬だけ目を丸くした後、「ふっ……」と小さく吹き出した。

「本当に子どもっぽい嘘ね。最初の、『そこの階段から落ちて……』ってとこだけは真実だけど……」
 最初は笑っていた藤佳の瞳が少しだけ仄暗くなる。

「真理乃がここに来たら、いろいろと思い出すとでも思ったのかしら?」
 藤佳は階段の方を見ながら言葉を発する。

「多分、そうだと思う……」
 真理乃が呆れたように答える。すると、藤佳は少し笑いながら一瞬だけ振り返った後、キャリーバックを持ち上げて階段を上っていく。

「真理乃と親しくなった後も、学校では話す機会がなかったけど……。夏休みとかに、真理乃のおじい様のこの別荘にお邪魔するようになったわね」
 藤佳は穏やかで、どこか懐かしむような声で話す。

 階段を上る藤佳の背中が映り続ける。

「うん。おじいちゃんにもいろいろと協力してもらって……一緒に宿題をしたり、遊んだりしたよね」
 真理乃は最初、少しだけ罪悪感のある声だったが、後半は楽しそうに言った。

「そういえば、真理乃のおじい様はお元気?」
「うん。この前、久しぶりに会ったけど、元気だったよ」
「しばらく会っていなかったの?」

 階段を上り切った藤佳は数歩、歩いて廊下で立ち止まり、隣を見る。

「うん。実はいろいろあって……おじいちゃんとおばあ様は別居中で……。おばあ様に『きくろうには会うな』って言われてたから……おじいちゃんとはしばらく会っていなかったの」
 真菜花が躊躇いがちに答える。

「そうだったのね……」
 藤佳は申し訳なさそうな顔をする。

「えっと……藤佳ちゃんが気にする事ではないし、そんな顔しないで?」
 優しい声音で真理乃はそう言った。

 その刹那、真理乃の腕が伸びてきて、藤佳の手を優しく握る。

「ひとまず部屋に荷物を置きに行こっか」
 真理乃は明るい声でそう言った後、少し驚いたような顔をする藤佳の手を引いた。



 画面が切り替わり、寝室のようなシンプルな部屋と、ベッドに腰掛ける藤佳が映る。

「この部屋も当時のままね」
 藤佳は軽く周囲を見渡してから、正面を見て目を細めた。

「うん。おじいちゃんもこの別荘にはあまり来ていないみたいで、どの部屋も家具の配置とかそのままなんだって。管理は信頼できる人に、お掃除は定期的に業者さんに頼んでいるって言ってたよ」

 真理乃の話を、藤佳は微笑みながら聞いており、「そうなのね」と相槌を打った。その後、藤佳は立ち上がると、真っすぐ歩いてくる。

 一瞬、画面から藤佳が消えるが、すぐにもう一つのベッドに座った彼女が映る。
「と、藤佳ちゃん……?」
 真理乃は少し動揺しているような声を出す。

「覚えてる? 真理乃は昔、怖がりだったから……私と同じベッドで寝たいって甘えてくれた事」
 藤佳は悪戯っぽい笑みを浮かべると、そんな事を言いながら手を伸ばした。

「うん。覚えているよ。ちなみに今はもう幽霊とか、怖くないからね……?」
 恥ずかしそうな真理乃の声がする。

「本当に? 今晩は一緒に眠らなくても大丈夫? この別荘には親戚の子の幽霊が出るんでしょ?」
 藤佳は少し意地悪な感じで言いながら笑う。

 恋人繋ぎをしている真理乃と藤佳の手が、画面の端にさり気なく映り続ける。

「だからそれはお母様がついた嘘だってば~」
「ふふっ……そうだったわね」

 藤佳が楽しげに笑う。それにつられるように笑う、真理乃の声も聞こえる。

「今日はお手伝いさんもいないし、二人でご飯作ろうね」
「えぇ。後でスーパーに買い物に行きましょうか」
「うん。ご飯を食べた後は昔みたいに、一緒にお風呂にも入ろうね」
「あら、私と一緒に入っていいの? 昔とはいろいろと違うのに……」

 そう言って藤佳が妖艶な笑みを浮かべた瞬間、映像がカクンッと大きく揺れた。

「あ……えっと……その……」
「ふふっ……冗談よ。昔みたいに、一緒に入りましょ。その後はトランプとかボードゲームで遊びましょうか。今回もいろいろと持ってきているから」

 藤佳が悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう言った後、沈黙が流れる。無言の間も、藤佳はずっとニコニコしている。

「も、も~……藤佳ちゃんってばからかわないでよ~」
 しばらくして、脱力したような真理乃の声が聞こえる。

「ふふっ……ごめんなさい」
「別にいいけどさ~。あと、夜更かしして遊ぶのもいいけど、明日に備えてなるべく早く寝ようね。明日は朝早くから『つくもフラワーパーク』に行く訳だし」
「そうね。だけど、真理乃とたくさんトランプとかもしたいから、早く荷物の整理を終わらせて、スーパーに買い出しにいきましょ?」
「うん。そうだね」

 そんな会話をした後、藤佳は真理乃の手をゆっくりと離して、キャリーバックが置いてある方へと歩いて行った。
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