この七日間はノンフィクションです。ただし、七つの嘘が紛れています。

双守桔梗

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終章

Webライターさくらの解釈【独白】

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 わたしはパソコンを閉じて、椅子に座ったまま一息つくと天井を見上げる。

 ちゃんが撮った、とうが主演の卒業制作をたった今、観終わった。

 二人の通う……通っていたあざみ大学では公式サイトやチャンネルに卒業制作を公開している。それから卒業制作展も開催され、映像学科の作品は大学内にある映画館で上映される。わたしはそれも観に行った為、二回目の視聴だ。

 その時も今も、妹達のイチャラブを見せつけられているような気がして……。見ていてこっちが照れるシーンもあったけど、作品自体は全体的に良かったように思えた。姉であり、義姉の欲目もあるかもしれないが……。

「――お姉ちゃんが真理乃の作品を良いと思ったら、『Webライターさくら』チャンネルにレビュー動画を投稿してほしいの」

 藤佳にそんなお願いをされたのもあるけど……。わたしの推薦の件を盾に取られて、藤佳があの人達の言いなりになるしかなかったのを、ずっと負い目に感じていたから……。

 この程度の事で贖罪になるとは思っていないけど、藤佳と真理乃ちゃんの為ならわたしは何だってする。

 だからまずは動画の台本を書き上げようと思う。この作品は一日に一つ、嘘を交えているとの事だから感想と言うより、自分なりの解釈を述べる動画にした方がいいかもしれない。

 そう考えたわたしはノートを開いて、シャーペンを手に持つ。

 一日目は誰でも分かる超イージー問題。真理乃ちゃんが『初日は旅に出る前日の様子』と言っていたが、実際はどこからどう見てもあの最終打ち合わせの風景が一日目である。

 二日目は藤佳が言った『その時の心情を、花言葉で表しているわ』が嘘。あの子は常に、どんな時でも、マイペースに自分の好きなものを描いているから。

 三日目は『当時、占いにハマっていた姉』のくだりが嘘だ。わたしが占いにハマっていた時期などない。それに藤佳曰く、勘が働いて植物園に向かったら、真理乃ちゃんに会えたらしいし。

 四日目は……真理乃ちゃんが言っていた、『おじいちゃんとはしばらく会っていなかったの』が嘘っぽいなぁ……。真理乃ちゃんはおじいちゃんっ子だから、密かに会ってそうだし。あと、きくろうさんを庇う為の、嘘のような気もする。

 五日目は藤佳が言っていた『私達の仲を引き裂いたあの人達を恨んでいるわ』がダウト。相当、怒ってはいるだろうけど、あの子に限って恨むまではないと思うなぁ……。何となくの想像だけど、『あの人達を恨む時間があるなら、愛しの真理乃の事を考え続けるわ』とか、うちの妹なら言い出しそうだし。

 六日目はわたしにとってはイージー問題。藤佳が言った『ひっそり民宿を経営しているわ』が嘘。両親が今、経営しているのは喫茶店だから。
 ……二人が倒れた時は本当に心配したけど、退院してからの……特にお母さんはすごかった。藤佳もだけど、我が家の女性陣は本当にパワフルだ。まぁ、わたしも女性なんだけど……。

 最終日は……どこが嘘なんだろう……。単純に『復讐』か、『心中』のどちらかが嘘だと思うんだけど……う~ん……。

 ……よし、ちょっと難しいからお昼ご飯を食べながら考えよう。もうそこそこ一般的なお昼の時間は過ぎているけれど……。

 そう思ったわたしは適当にお昼ご飯を準備して、BGM代わりにテレビをつけた。すると丁度、お昼の情報番組に出演している真理乃ちゃんの祖父……俳優のかわ菊路郎さんが映った。

 そういえば、この番組に菊路郎さんが出演するのは今日だったと焦ったが、すぐに録画している事も思い出してホッとする。菊路郎さんの優しい笑顔に癒されつつ、台本の事も考えながら、わたしはお昼ご飯を食べ始める――。



「実は他にも宣伝したい作品があるんですよ」
 新ドラマの番宣をした後、菊路郎さんがそんな事を言い出した。そして、真理乃ちゃんの卒業制作の話をし出すものだから、わたしは麺を頬張りながら思わず目を見開く。

 どうやら菊路郎さんのアドリブのようで、MCや共演者は微かにざわついている。

 正直に言うと、ただの学生が作った卒業制作を、身内以外で見る人はあまりいないだろうと。真理乃ちゃんの場合は菊路郎さん以外の彼女の家族ですら、観るかどうか怪しいところだと、わたしは思っていた。

 わたしが『Webライターさくら』として協力したところで、実際に卒業制作を見てくれる人はそこまで多くはないだろう。『さくら』の影響力は微々たるものだ。だからこのままだと、あの人達には二人の想いが届かないのではないだろうかと、わたしは不安に思っていた。

 だが、かなりの影響力もある瑠璃川菊路郎が生放送で宣伝したとなると……とんでもない事になりそうな気がする……。

 おまけに大人気のナナチューバーのチャンネルにもお邪魔して、少し宣伝させてもらったとまで菊路郎さんは言い出した。その動画は今夜、投稿されるらしく、その後、更に広まるかもしれない。

 それにしても……菊路郎さんが生放送でこんな事をしたのは、自分が知る限りでは初めてだ。

 真理乃ちゃんの性格上、彼女がこんな事を頼む訳がないし……。菊路郎さんが自らの判断で……って線もあるけど……どうしても、藤佳の顔が頭を過ぎってしまう。もし本当にそうだとしたら……大御所俳優ですら、舞台装置のように使うなんて恐ろし過ぎる……。

 と言うか、これは少しまずいのではないだろうか……。あの作品には嘘が交じっているからこそ、いろんな憶測が飛び交い、下手すれば藤佳と真理乃ちゃんもネットの玩具になるんじゃ……。

 え、てか、待って……心中ってそういう事……? じゃあ、復讐が嘘? いやでも、ある意味、復讐にもなっているのか……。あの人達がどれだけ揉み消そうとしても、大々的に悪事が広まれば、無傷では済まないだろうから……。

 だけど、藤佳と真理乃ちゃんが復讐なんて考えるかなぁ。それに復讐と言うより、あの人達が真理乃ちゃんの作品を、無視できなくなる状況を作ろうとしているような気もするし……。

 そこまで考えて、わたしは頭がパンクしそうになった為、コーヒーを一口飲んだ。そこでふと、藤佳が写真で送ってくれた、あの子の卒業制作の水彩画を思い出し、スマホのフォトを漁る。少しだけ、現実逃避をする為に。

 真理乃ちゃんの卒業制作内では未完成だったけど、写真の中の水彩画には女の子達の表情がしっかり描かれている。 

 これはどう見ても藤佳と真理乃ちゃんだ。とても良い表情をしている。きっと良い旅だったんだろうな……。映像に映っていないところでは、昔みたいに楽しく無邪気に遊んでいたのだろうと、この絵から想像できる。

 ……そしてこの先、何があっても二人で乗り越える覚悟で、あのを完成させたのかもしれない。例え大変な目に遭ったとしても、最後は二人でこんな風に笑えるように……。あえてあの作品を作ったのではないだろうか……と、わたしは思った。

 だとしたら、わたしがするのは心配ではなく、これからも二人を応援し続ける事だ。最終日の嘘に関しては、無理に正解を当てようとはせずに、自分なりの考えを述べればいい。そうと決まれば、まずは動画の台本を完成させよう。

 わたしはそこまで考えた後、テレビを消してマグカップを片手に、作業机の方へと向かった。


【終】
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