深夜の散歩、鳥居前にて。

双守桔梗

文字の大きさ
1 / 2

カミサマと男子大学生

しおりを挟む
 深夜一時半過ぎ。居酒屋のバイトが終わり、店を出た大学三年生のはやかわイツキは大きく伸びをしてから、家とは反対方向に歩き始める。

 特に深い理由はない。なんとなく、散歩したい気分だったイツキは、いつもと違う道を選んだ。

 淡い月明かりに照らされながらイツキは、商店街の近くにある、木々が生い茂る公園に足を踏み入れる。辺りに人は誰もおらず、街灯は少ない。それでもイツキに不安はなく、深夜の散歩に胸を高鳴らせている。

 公園を抜けて、真っすぐ畦道を進むと、赤い鳥居がイツキの目に飛び込んできた。だが、その近くに神社はなく、大きな鳥居の後ろには雑木林が広がっている。

「ん……? なんだあれ……」
 鳥居の上に、何かが乗っかっている事に気がついたイツキは首を傾げた。ゆっくり鳥居に近づき、それが人だと分かると、彼は息をのんだ。

 大正時代を思わせる格好をした、独特の雰囲気を纏っている男が腕を組み、鳥居の上に立っている。

 今まで霊的なモノなど目にした事はないが、それらの存在を信じているイツキは内心、焦った。早く目を逸らさなければならない。頭ではそう分かっていても、その綺麗な男から目が離せずにいた。

 視線に気がついたのか、男がイツキの方を見る。男はイツキと目が合うと、ニヤリと笑い、地上に降り立った。

 男はイツキより背が高く、彼をじぃと見下ろしている。

 イツキが一歩、後退ったのと、男が動いたのはほぼ同時だった。男はイツキを肩に担ぎ上げると飛び上がり、鳥居の上に着地する。

「人間! ここから降りたければ、供物を捧げよ!」
 鳥居の上に立たされ、呆然とするイツキに男は手を差し出す。
「供物……?」
「そうだ。最高級の供物を捧げよ」
「えー……」

 イツキは困惑しつつ、視線を地面に向ける。飛び降りれば少なくとも骨折は免れない高さに、どうしたものかと考えた。彼が手に持っているビニールの手提げ袋の中には、居酒屋の店主からもらった、パック容器に詰められた鶏の唐揚げがある。供物になりそうな食べ物は今、それだけだ。

 男の期待の眼差しを見る限り、何かを差し出さないと、ここから降りられそうにない。そう判断したイツキは渋々、袋からパックを取り出し、鶏の唐揚げを献上した。

「なんだこれは……」
 露骨に残念がる男にイラっとしたイツキは、爪楊枝に刺した唐揚げを突き出す。
「騙されたと思って食ってみろって。そんで早くここから降ろせ」
 そう言いながらイツキは、男の口の中へ強引に唐揚げを突っ込む。男は目を見開きつつも、素直に唐揚げを咀嚼する。

「旨い……なかなか悪くない供物だ」
「だろ?」
 男は目を輝かせ、イツキから爪楊枝を受け取ると、今度は自ら唐揚げを口にする。無邪気に唐揚げを頬張る男の姿に、イツキは小さく笑う。

「てか、幽霊って食事もできるんだな」
 ふと、そんな疑問が頭に思い浮かんだイツキは、思わずそう口にした。
 イツキのその言葉に、男はムッとする。

「幽霊だと? 我はこの鳥居の神ぞ。そんな低俗なモノと一緒にするな」
「……鳥居の神ってなんだよ?」
「鳥居の神は神だ。ところで君は食べないのか?」
 説明せずとも分かるだろう。そう言いたげな顔で男は話を流すと、爪楊枝に刺した唐揚げをイツキの口元に寄せる。

「オレが食べてもいいのか?」
「ん? 元々は君のモノだったんだ。何も遠慮する事などないだろう?」
 男の言葉に若干、戸惑いつつもイツキは唐揚げを頬張った。

「うん。やっぱり美味しいな」
「うむ」
 唐揚げの美味しさと、この訳が分からないおかしな状況に、イツキは自然と笑みがこぼれた。イツキのその表情に、男は満足そうにうなずく。

 それから二人は月を眺めながら唐揚げを一緒に食し、パック容器が空になると男はイツキを地上に下ろした。

「我は非常に満足した。ゆえに人間、今後も供物を捧げよ」
「……早河イツキだ」
「む?」
「オレの名前。人間じゃなくて、早河イツキな」
「ほう、良い名だ。では改めて早河イツキ! 我に供物を捧げよ!」
「はいはい。気が向いたら、また持ってきてやる。だから他の人には同じような事するなよ」
「うむ、良かろう」

 他の誰かが、この自称カミサマに絡まれるくらいなら、自分が面倒事を引き受けよう。そう思ったイツキは仕方なく、男の命令を了承した。それなのに、男があまりにも嬉しそうな顔で笑うものだから、イツキはうっかり絆されそうになる。

「そんじゃあ、イイ子にして待ってろよ」
「うむ、また来るが良い」
 男に心を許してしまいそうになったイツキは早口で一言だけ口にすると、急いでその場から立ち去る。

 数歩進んだところで、イツキが振り向くと、男はニコリと笑った。

 ――絶対、あんな得体の知れない男に絆されたりしない。

 そう決意したイツキは帰路につく。しかし、彼が自称“鳥居の神様”と打ち解けるまで、大して時間は掛からなさそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

雪嶺後宮と、狼王の花嫁

由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。 巫女として献上された少女セツナは、 封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。 人と妖、政と信仰の狭間で、 彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。 雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...