婚約破棄された悪役令嬢ですが、薬草で作った美容水が王都でバカ売れしてます

みなこん。@イラストレーター

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第16話:仕組まれた毒香と、夜の救出劇

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ミーナは寝台の上で苦しげに呼吸を繰り返していた。
 肌には赤い湿疹、目の周囲は腫れ、涙が止まらない。
 その姿は、まるで《香り過敏症》の末期症状のようだった。

「……やっぱり、誰かがこの工房に毒香を仕掛けた。昨日の深夜か、今朝のどこかで……」

 エリシアは、震える手でミーナの額に布を当てながら、かすかな香りの残り香を嗅ぎ取っていた。

 ——この香り。微かに柑橘系の甘さ。そして、ツンと刺すような苦味。
 母の調香日記に記されていた、“禁忌の香り”のひとつ。

「《フラグニア香》……魔力に過敏な者にとっては、劇物。……まさか、これを直接……!」
 

 一方、王都南門の倉庫街。
 ライアスは数名の近衛兵を引き連れ、密輸香料の摘発に動いていた。

「この荷……香料にしては数が多すぎるな。全部で……百二十瓶?」

 ひとつひとつを検査官が開封し、香りと成分を確かめていく——
 その中に、確かにあった。

「……これは! “フラグニア”! しかも、未精製のまま……!」

 調香に使われるどころか、密封を解くだけで毒性を持つ危険香料。
 それを、王都内に大量に持ち込む目的とは——ただひとつ。

「……香りを“毒”に変えることで、王都そのものを混乱させるつもりだ」

 その時、ライアスのもとに伝令が駆け込む。

「報告! 《エリシア製作所》にて、“香料瓶による急性症状者”発生! 被害者は従業員の少女、ミーナ!」

「……チッ、先に動かれたか!」


 工房。
 エリシアは、急ごしらえで“無香処方”の精霊香を調合し、それをミーナの枕元で揮発させていた。

「お願い……持ちこたえて……ミーナ……!」

 そのとき——ガラリ、と扉が開かれた。

「エリシア!」

「——ライアス様!」

 ライアスはすぐさまミーナの様子を確認し、衛兵たちに叫ぶ。

「すぐに療養院へ搬送! 香料拡散を防ぐため、工房全域を封鎖しろ! 手袋とマスクを着けろ!」

「はっ!」

 兵たちが動き出す中、エリシアは立ち尽くしていた。

「……私のせいです。私が、香りを広めたせいで……ミーナが……!」

「違う、エリシア。
 香りが広がったのは、君が“人々を救った”からだ。
 ミーナがここにいたのは、君を信じていたからだ。……責任を感じることと、自分を責めることは違う」

 その言葉に、エリシアの目が潤む。

「……私は、絶対に犯人を許さない。
 この“香りを悪用した者”を、この手で暴いて、止めてみせます」

「……ああ。なら、俺もその隣に立とう。もう誰も、君をひとりにしない」

 ふたりの誓いは、もはや“王子と調香師”ではなかった。
 それは、王都と香りを守るために立ち上がった、戦友としての契りだった。
 

 その頃、王都の闇市にて。

「ふふ……あの子、無香処方を手に入れたようね。でも、それだけで防げると思わないことね」

 黒衣をまとった女——フィアナが、ひとつの香水瓶を手にしていた。

「次は、もっと大きな“香りの嵐”をお届けするわ。……王妃も、エリシアも、全部まとめてね」

 《香りの戦争》は、なおも続いていた——。
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