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第15話:毒香の陰謀と、“無香”の処方
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数日後。
王都の外れにある治療院《青薔薇の庵》では、患者たちの症状が次第に悪化しつつあった。
「頭が……痛い……」
「香水の匂いがするだけで、息が苦しくなる……」
主な症状は、軽度のめまい、頭痛、呼吸困難、発疹。
だが、すべてに共通するのは——“香りに過剰反応を起こす”という点だった。
その場を訪れたエリシアは、調香師ではなく、まるで医師のような眼差しで患者たちを見つめる。
「これは単なる花粉症や香水アレルギーではありません……香りに含まれた“魔力媒質”に、異常な反応が起きている」
彼女の手には、母の調香日記とともに、新たに作成された“実験調香リスト”。
中には、香りを極限まで抑えた——“無香処方”の項目があった。
「“香りを消す香水”なんて、本当にできるのかい?」
治療院の老薬師が首をかしげる。
「できます。……香りというのは、もともと“揮発する分子”の集まり。
ならば、“鼻に届く前に中和”してしまえば、“香りは香らない”のです」
それは、まさに逆転の発想だった。
エリシアは村の工房に戻ると、すぐに調合を開始した。
揮発を抑える“ヒュミス草”、魔力媒質を中和する“ナズロ樹皮”、基底に使う無香性の精霊水。
「これは……新しい香水というより、“魔力調整剤”に近いわね」
ミーナが興味津々でのぞきこむ。
「でもこれ、全然香らないよ? ……なんだか、寂しいかも」
「ええ。でも、“命を守る香り”って、こういうものなのかもしれないわね」
そして、ついに——
完成した試作品は、無色透明、香りゼロ。
しかしそのひとしずくを空中に垂らすと、微かに漂っていた“他の香り”が、ふわりと消えていく。
「“香りを打ち消す香り”……!」
翌日、《青薔薇の庵》で試作品を使用すると、驚くべき効果が現れた。
「頭が軽い……」
「いつもの香水の匂いが、しなくなった……!」
患者たちは次々と回復の兆しを見せる。
エリシアは確信した——“無香処方”は成功したのだと。
だが、その報告を王宮に届けた直後——一本の密書が、ライアスの元に届く。
“王都の南門で、大量の香料が密輸されている。成分は不明。注意されたし”
「……動いたか。フィアナの手か、それとも別の者か……」
ライアスは剣を帯び、すぐに現場へと向かった。
一方その夜。
工房の裏手では、ミーナが保管棚にしまっていた香料瓶の中に、異変を見つけていた。
「……あれ? この瓶、……開けた覚え、ないんだけど」
何気なく香りを嗅いだその瞬間——
「っ……! ごほっ、ごほっ……!」
ミーナの身体がぐらりと傾く。
「ミーナ!? しっかりして!」
エリシアが駆け寄ると、ミーナの目はうるみ、肌が赤く腫れ始めていた。
(これは……ただのアレルギーじゃない)
——誰かが、工房内部に“毒香”を仕込んだ。
再び忍び寄る“陰謀”の気配。
そしてその矛先は、彼女たちの日常そのものを狙い始めていた。
王都の外れにある治療院《青薔薇の庵》では、患者たちの症状が次第に悪化しつつあった。
「頭が……痛い……」
「香水の匂いがするだけで、息が苦しくなる……」
主な症状は、軽度のめまい、頭痛、呼吸困難、発疹。
だが、すべてに共通するのは——“香りに過剰反応を起こす”という点だった。
その場を訪れたエリシアは、調香師ではなく、まるで医師のような眼差しで患者たちを見つめる。
「これは単なる花粉症や香水アレルギーではありません……香りに含まれた“魔力媒質”に、異常な反応が起きている」
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中には、香りを極限まで抑えた——“無香処方”の項目があった。
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治療院の老薬師が首をかしげる。
「できます。……香りというのは、もともと“揮発する分子”の集まり。
ならば、“鼻に届く前に中和”してしまえば、“香りは香らない”のです」
それは、まさに逆転の発想だった。
エリシアは村の工房に戻ると、すぐに調合を開始した。
揮発を抑える“ヒュミス草”、魔力媒質を中和する“ナズロ樹皮”、基底に使う無香性の精霊水。
「これは……新しい香水というより、“魔力調整剤”に近いわね」
ミーナが興味津々でのぞきこむ。
「でもこれ、全然香らないよ? ……なんだか、寂しいかも」
「ええ。でも、“命を守る香り”って、こういうものなのかもしれないわね」
そして、ついに——
完成した試作品は、無色透明、香りゼロ。
しかしそのひとしずくを空中に垂らすと、微かに漂っていた“他の香り”が、ふわりと消えていく。
「“香りを打ち消す香り”……!」
翌日、《青薔薇の庵》で試作品を使用すると、驚くべき効果が現れた。
「頭が軽い……」
「いつもの香水の匂いが、しなくなった……!」
患者たちは次々と回復の兆しを見せる。
エリシアは確信した——“無香処方”は成功したのだと。
だが、その報告を王宮に届けた直後——一本の密書が、ライアスの元に届く。
“王都の南門で、大量の香料が密輸されている。成分は不明。注意されたし”
「……動いたか。フィアナの手か、それとも別の者か……」
ライアスは剣を帯び、すぐに現場へと向かった。
一方その夜。
工房の裏手では、ミーナが保管棚にしまっていた香料瓶の中に、異変を見つけていた。
「……あれ? この瓶、……開けた覚え、ないんだけど」
何気なく香りを嗅いだその瞬間——
「っ……! ごほっ、ごほっ……!」
ミーナの身体がぐらりと傾く。
「ミーナ!? しっかりして!」
エリシアが駆け寄ると、ミーナの目はうるみ、肌が赤く腫れ始めていた。
(これは……ただのアレルギーじゃない)
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そしてその矛先は、彼女たちの日常そのものを狙い始めていた。
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