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第十五話「カイの求婚」
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アランザール王国の空に、柔らかな春の光が差し込む午後。
王宮の高台にある、一般の貴族たちですら立ち入れぬ静かな庭園。
その場所で、リディア・エルグレインはカイ王とふたりきりで歩いていた。
「静かですね。まるで、王都全体の喧騒が嘘のようです」
「この庭は、私が即位したときに造らせた。外からの音が反響しないように、石の角度も計算されている」
さりげないカイの説明に、リディアは少しだけ目を見張った。
「……この国の王は、建築の細部まで心を配るのですね」
「君がこの国の空気に耳を澄ませてくれるなら、私もこの空気を整えようと思っただけだ」
言葉の意味を咀嚼する間もなく、彼は立ち止まり、リディアの方へと向き直った。
「リディア」
「はい」
風が通り過ぎる。木々の葉擦れの音が、ささやきのように響く中――
カイは、真正面から、彼女を見据えて言った。
「私は君を、正式に“王妃”として迎えたい。
女王候補としてではなく、私個人の伴侶として」
静寂が、ふたりを包んだ。
リディアの表情に驚きはない。ただ、その眼差しには、深い思慮と緊張が宿っていた。
「……その言葉は、“王”としての責務を超えた、あなた自身の意志ですか?」
「ああ。私は君を“利用できる人物”として見ていた時期があった。
けれど今は、君の強さと知性だけでなく、君という人間の在り方に惹かれている。
……君が隣にいる未来を、私は望むようになった」
それは、王としての戦略でも、政略でもない。
一人の男としての、純粋な意志だった。
リディアは少しだけ目を伏せ、深く息を吐いた。
そして、静かに顔を上げた。
「私には、“愛”というものが、よく分かりません。
誰かに好かれるより、役に立ちたいと考えてしまう性分で……。
けれど、あなたがくださったこの言葉は、私の中で“温かさ”として確かに残りました」
その声は震えていなかった。むしろ、凛としていて、正確で、どこか優しかった。
「ですから、もしあなたが私の隣に“責務”ではなく、“未来”を求めてくださるのなら――」
一拍置いて、リディアは言った。
「……その手を、取らせていただきます」
カイの表情が、ふっと緩んだ。
「ありがとう、リディア」
ふたりの影が、並んで地面に落ちる。
風は柔らかく、太陽はまるで微笑むように空を照らしていた。
その日の夜、王宮の鐘が鳴った。
「本日、国王陛下はリディア・エルグレイン嬢へ正式な婚約の申し出を行い、
これを以て王妃への道が確定したことを、ここに通達いたします――」
その報せは、王都中に広まり、
同時に、リディアという令嬢の“真の逆転劇”が完結したことを意味していた。
そして、王都の片隅でその報せを聞いたユリウスは、ただ、何も言わずに空を見上げていた。
あのとき、自分の隣にいた少女は、
今や、誰もが見上げる“王の隣”にいた。
王宮の高台にある、一般の貴族たちですら立ち入れぬ静かな庭園。
その場所で、リディア・エルグレインはカイ王とふたりきりで歩いていた。
「静かですね。まるで、王都全体の喧騒が嘘のようです」
「この庭は、私が即位したときに造らせた。外からの音が反響しないように、石の角度も計算されている」
さりげないカイの説明に、リディアは少しだけ目を見張った。
「……この国の王は、建築の細部まで心を配るのですね」
「君がこの国の空気に耳を澄ませてくれるなら、私もこの空気を整えようと思っただけだ」
言葉の意味を咀嚼する間もなく、彼は立ち止まり、リディアの方へと向き直った。
「リディア」
「はい」
風が通り過ぎる。木々の葉擦れの音が、ささやきのように響く中――
カイは、真正面から、彼女を見据えて言った。
「私は君を、正式に“王妃”として迎えたい。
女王候補としてではなく、私個人の伴侶として」
静寂が、ふたりを包んだ。
リディアの表情に驚きはない。ただ、その眼差しには、深い思慮と緊張が宿っていた。
「……その言葉は、“王”としての責務を超えた、あなた自身の意志ですか?」
「ああ。私は君を“利用できる人物”として見ていた時期があった。
けれど今は、君の強さと知性だけでなく、君という人間の在り方に惹かれている。
……君が隣にいる未来を、私は望むようになった」
それは、王としての戦略でも、政略でもない。
一人の男としての、純粋な意志だった。
リディアは少しだけ目を伏せ、深く息を吐いた。
そして、静かに顔を上げた。
「私には、“愛”というものが、よく分かりません。
誰かに好かれるより、役に立ちたいと考えてしまう性分で……。
けれど、あなたがくださったこの言葉は、私の中で“温かさ”として確かに残りました」
その声は震えていなかった。むしろ、凛としていて、正確で、どこか優しかった。
「ですから、もしあなたが私の隣に“責務”ではなく、“未来”を求めてくださるのなら――」
一拍置いて、リディアは言った。
「……その手を、取らせていただきます」
カイの表情が、ふっと緩んだ。
「ありがとう、リディア」
ふたりの影が、並んで地面に落ちる。
風は柔らかく、太陽はまるで微笑むように空を照らしていた。
その日の夜、王宮の鐘が鳴った。
「本日、国王陛下はリディア・エルグレイン嬢へ正式な婚約の申し出を行い、
これを以て王妃への道が確定したことを、ここに通達いたします――」
その報せは、王都中に広まり、
同時に、リディアという令嬢の“真の逆転劇”が完結したことを意味していた。
そして、王都の片隅でその報せを聞いたユリウスは、ただ、何も言わずに空を見上げていた。
あのとき、自分の隣にいた少女は、
今や、誰もが見上げる“王の隣”にいた。
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