年下くんは三十路の私より経験が豊富でした。

オリゴ糖

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21.研修4日目 その1

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 カーテンの隙間から朝日を感じ、怠い身体を起こす。隣にはまだ、寝息をたてる茜がいる。暗いトーンの髪色、真っ白な肌が布団の隙間から見える。

「夢みたいだ…。」

 まだ眠たい感覚の中、昨夜の出来事を思い出す。

「初恋ってわかってくれたんだな。」

 頬を指でなぞる。眠りが深いのか、少し触れたくらいでは起きてくれそうにない。答え合わせをした香水は、れおが調香した茜への贈り物だった。

「男から香水をプレゼントする意味、わかってなさそうだったな。たしか、日本はそういう風習ないな。」

 小さく笑い、時計をみると2人時間を楽しんでいられるのもあと少し。
 今日は、昨日のマーケティング結果を集計し、忙しい1日になるだろう。敵視するつもりはなかったチームメンバーと一緒に。
 立花が茜へ好意を向けているのは分かっている。何となくどこまで踏み込んでいるのか、あの男の所作をみれば、一目瞭然だ。それに気付いているのか、いないのか、茜は適度な距離感を保てていない様に見える。あの男の前で無防備な姿をしたり、気づかってみせたり、男なら好意を持つだろう。

「完全に嫉妬だな。」

 れお自身がこんなに嫉妬深い考えを持つ事に驚きだった。それは新しい発見だったが、余裕のなさが昨夜の様な結果を生んでしまった。

「……茜さんは、どんな男が好き…?」

 眠っていることをいい事にそんな馬鹿げた質問をしてみる。そんな事言ってる自分が可笑しい。
 人並みに性欲はあるし、正直今まで女性に困った事がなかった。というか、来るもの拒まず、去るもの追わずだった。茜の様に警戒心剥き出しで、接してくる女はいないに等しい。言い寄ってくる人は皆、見た目も性格も派手で、割と地味な茜とは正反対だった。

「そうだ。」

 昨日受け取った紙袋には茜の着替え一式を用意してもらった。昔は調香一筋だった母親も、趣味で行っていたファッションコーディネーター、そして現役調香師として細々と活動している。茜の白い肌に合いそうな物を見繕ってもらった。
 エメラルドグリーンのカシュクールデザインのワンピースだった。さらに手紙が入っていた。

『レディにお化粧もさせないで出社してさせないように。まだまだ、女心わかってなさそうね。最低限のもの入れておいたから、使ってもらって。他の女性の方物だと思われない様に!女性は意外と敏感よ!母より』

「はい…。母恐るべし。」

 茜はまだベッドで眠っている。

 ——会社に間に合う時間に起こしてやろう。それから朝食とってもらって、着替えて、行く前に抱きしめたいな……って何楽しんでんだ俺。

 簡単な朝食くらいしか作ってあげられないが、茜がどんな顔をするのか楽しみだった。
 30分経ち、まだ眠っている様だった。

「茜さーん。朝だよー。」

 中指の背中側で左の頬を触る。

「ん……。」

 茜は左側に顔を向け、れおの指が茜の口にあたるようにスリスリしている。

「っ?!」

 ——なにこれ、寝起きの茜さん…子どもみたいだ。

「……れお君、おいしい。」

 笑いを堪えるのにれおは必死だった。
 こんなに可愛いとイタズラしたくなり、茜の下唇を人差し指で開く。

「んー。小さい口。何が美味しいの?」

「美味しい…匂い………???」

 茜は眼をパチリと開け、この状況を理解しようとしている。

「茜さんおはよ。6時半だよ。」

「香原さん…?お、おはようございます…。」

「あれ?何だかすごく他人行儀だね。昨日はあんなに激しく求め合ったのに、寂しいな。」

 布団を首元まで持って行き、恥ずかしがる。その姿を何度も見たいと思ってしまう。茜さんの事だから、洋服や下着、化粧の事を考えて、何分にここを出たら出社に間に合うか考えるだろう。でも、その思考を阻止したくなる。

「ベッドから出ないとこのままシちゃうよ?もしかして、誘ってる?」

「そ、そうじゃありませんっ!違うんです。全身が筋肉痛で…あと服がなくて出られません…。あと、シャワー浴びたいです…。」

「いいよ。着替えは用意してある。身支度整えたら朝食とろうね。」

「ありがとうございます…。」

 そういうと、シャワールームに急ぎ足で向かっていった。

「はぁ…。俺、我慢した…、偉い…。」
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