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待っているのはお前じゃない
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チャイムが鳴ったので僕は玄関を開けた。
今日は資料を取りにマンションに来ていたのだ。一応、マンションには山の屋敷に通じる扉がある。
だからといって僕はなるたけ扉を使わないことにしている。流石に僕所有のマンションとはいえ、玄関を使わないとマンションの住人の目が怖い。
異世界のことは誰にも秘密なのだ。
「ヤッホー、久しぶり」
玄関にいたのは僕と高校で同級生だった瀬川愛子だった。
ちなみに僕はしばらく、彼女とつきあったことがある。だけど、この女はあっさりと弟のあきらに鞍替えした。
「何か用、」
僕はかなり不貞腐れた顔をして彼女をにらんだ。
僕のマンションに上がり込み、住みつこうとしたのは彼女だった。
「うちにあった君の荷物は全部、あきらに送ったけど」
「えー、なんで私の家に送らなかったの」
「いや、まだつきあっているとは思わなかったから」
「おかげで大恥をかいたわよ。あんたの母さん、うちにまできたんだからね」
「自業自得だろ。人のマンションを乗っ取ろうとするからだ」
「だって、あきらが『兄さんは山の家に引っ越したからマンションが空いたんだ』と言っていたんだもの」
「だから、勝手に使ってもいいと思ったのか。ここはあいつの持ち物じゃない。僕の所有物だぞ」
「榊家のマンションでしょ。愛人の子のくせに」
むかっ。
愛子の奴、何か誤解しているな。
「僕が愛人の子ってあいつが言ったのか」
「そうよ。母親が死んだからお情けで引き取ってあげたって言っていたわ。それなのに、お祖母さんに可愛がられているのはずるいって」
しかも、お祖母さんをたぶらかして遺産を独り占めしたって。
あきらの奴、なんてことを吹き込んでいるんだ。
「あのな、愛人というのはあいつの母親だぞ。僕は祖母の遺産を受けついただけだ」
「だから、あきらだって遺産を貰える権利があるんでしょ」
「あるわけないだろ。元々、僕の母さんが榊家の一人娘だったんだ。父さんは婿養子だよ。言っとくが祖母と父は養子縁組をしていない。だから、遺産は僕しか受け継ぐことはできないんだ」
「そんなの詐欺じゃないの。てっきり、私は、」
ふと愛子があの女の顔にダブってみえた。
「将来、榊病院の院長婦人になれるって僕からあきらに乗り換えたんだよな。あいつ、医学部だし医者になればそれも夢じゃないけど。甘いんだよ」
「父親が婿だったと言っているだろ。元々、あの病院は祖母さんの名義なんだから。そのことは古参の医師たちも知っている」
「僕は医学部に進学しなかったし。医師になる気もない。だけど、今時、院長の息子だからといって院長になれるわけじゃない」
といっても、父さんはまだまだ現役だ。あいつの頑張り次第だと思う。
だけど、一人前の医師になるのは時間がかかるからなぁ。
まっ、あいつがどうなろうがしったこっちゃない。
「それで今日は何しにきたんだ。言っておくが、このマンションは僕のものでお前の自由にならないぞ」
「冷たいことを言わないでよ」
愛子は大きな旅行鞄を持っていた。明らかに僕の家に泊まろうと思っているようだ。
「私さ、ちょっと家を出たいのよね。だけど、このご時世でしょ。なかなか、いいところがなくて」
「そりゃ、ただで住めるところなんてあるわけないだろ。大体、お前、人の家だと好きなことをしやがって」
一応、レトルト食品や缶詰といった非常食はストックしていた。それに打ち合わせに来る担当さんが無類のワイン好きなので高級ワインも何本かあった。
だけど、知らない間に高級ワインは全て消え、非常食も大部分無くなっていた。
「ひょっとして、ワインのこと?それはあきらが飲んだのよ。あいつ、『愛人の子がこんなモノを飲んで生意気だ』と言っていたもの」
どうやら、ワインがかなり高いと気づいていたようだ。
多分、愛子の言う通りだから被害届けは出さなかったんだ。
一応、あいつも身内だからな。警察に届けても大したことにならない。
「ねぇ、中に入らせてよ」
「何でだよ。お前はあいつの彼女だろ」
「とっくに別れたわよ。あきらの母さんがうちにも来てさ。さんざん、人のこと、あばずれだとか暴言吐いたんだもの」
それに榊家の財産を狙っているとかも言っていたし。
「財産かぁ。おそらく、父さんが死んだ後,父の遺産はあきらとあの女のものになるだろうな。だけど、父さんの財産なんてあの女が思っているほどないぞ」
確かに医者は高収入なのかもしれない。だけど、榊病院は個人経営だし、それにあの女も気づいていないことがある。
「そもそも、榊病院も榊家の本宅も建物も敷地も祖母さんの所有だったんだ」
「父さんはまだ現役だし。僕は病院を継ぐ気はないから。権利とかを主張しないだけさ」
「よく分かった。つまり、あきらより一郎の方がお金持ちだということなのね」
お前、僕の言葉をきちんと理解しているのか。
「だったら、やっぱりヨリを戻そうよ。一郎となら働かなくても贅沢し放題だもんね」
はぁっ。何を言っているんだ。
僕は思い出した。こいつは僕の顔で近寄ってきたんだ。自慢じゃないが、僕は死んだ母によく似て色白でしかも彫の深い顔立ちをしている。
祖父は外国から日本に帰化したと言われていた。つまり、母親はハーフ。僕はクォーターということになる。 当然、見た目はいい。
だから、愛子も僕の顔に惹かれて交際を申し込んだらしい。らしいというのは僕は顔がいいと思っていないからだ。確かに靴箱に手紙が入っていたこともあったが。
中学の頃から一人暮らしをするので精一杯で他の学友たちに気を配るゆとりがなかったのだ。
「お前、見た目より財力よとあきらに乗り換えたくせに。僕が相手にすると思っている」
パタンと彼女の鼻先で玄関のドアを閉めた。
今日は資料を取りにマンションに来ていたのだ。一応、マンションには山の屋敷に通じる扉がある。
だからといって僕はなるたけ扉を使わないことにしている。流石に僕所有のマンションとはいえ、玄関を使わないとマンションの住人の目が怖い。
異世界のことは誰にも秘密なのだ。
「ヤッホー、久しぶり」
玄関にいたのは僕と高校で同級生だった瀬川愛子だった。
ちなみに僕はしばらく、彼女とつきあったことがある。だけど、この女はあっさりと弟のあきらに鞍替えした。
「何か用、」
僕はかなり不貞腐れた顔をして彼女をにらんだ。
僕のマンションに上がり込み、住みつこうとしたのは彼女だった。
「うちにあった君の荷物は全部、あきらに送ったけど」
「えー、なんで私の家に送らなかったの」
「いや、まだつきあっているとは思わなかったから」
「おかげで大恥をかいたわよ。あんたの母さん、うちにまできたんだからね」
「自業自得だろ。人のマンションを乗っ取ろうとするからだ」
「だって、あきらが『兄さんは山の家に引っ越したからマンションが空いたんだ』と言っていたんだもの」
「だから、勝手に使ってもいいと思ったのか。ここはあいつの持ち物じゃない。僕の所有物だぞ」
「榊家のマンションでしょ。愛人の子のくせに」
むかっ。
愛子の奴、何か誤解しているな。
「僕が愛人の子ってあいつが言ったのか」
「そうよ。母親が死んだからお情けで引き取ってあげたって言っていたわ。それなのに、お祖母さんに可愛がられているのはずるいって」
しかも、お祖母さんをたぶらかして遺産を独り占めしたって。
あきらの奴、なんてことを吹き込んでいるんだ。
「あのな、愛人というのはあいつの母親だぞ。僕は祖母の遺産を受けついただけだ」
「だから、あきらだって遺産を貰える権利があるんでしょ」
「あるわけないだろ。元々、僕の母さんが榊家の一人娘だったんだ。父さんは婿養子だよ。言っとくが祖母と父は養子縁組をしていない。だから、遺産は僕しか受け継ぐことはできないんだ」
「そんなの詐欺じゃないの。てっきり、私は、」
ふと愛子があの女の顔にダブってみえた。
「将来、榊病院の院長婦人になれるって僕からあきらに乗り換えたんだよな。あいつ、医学部だし医者になればそれも夢じゃないけど。甘いんだよ」
「父親が婿だったと言っているだろ。元々、あの病院は祖母さんの名義なんだから。そのことは古参の医師たちも知っている」
「僕は医学部に進学しなかったし。医師になる気もない。だけど、今時、院長の息子だからといって院長になれるわけじゃない」
といっても、父さんはまだまだ現役だ。あいつの頑張り次第だと思う。
だけど、一人前の医師になるのは時間がかかるからなぁ。
まっ、あいつがどうなろうがしったこっちゃない。
「それで今日は何しにきたんだ。言っておくが、このマンションは僕のものでお前の自由にならないぞ」
「冷たいことを言わないでよ」
愛子は大きな旅行鞄を持っていた。明らかに僕の家に泊まろうと思っているようだ。
「私さ、ちょっと家を出たいのよね。だけど、このご時世でしょ。なかなか、いいところがなくて」
「そりゃ、ただで住めるところなんてあるわけないだろ。大体、お前、人の家だと好きなことをしやがって」
一応、レトルト食品や缶詰といった非常食はストックしていた。それに打ち合わせに来る担当さんが無類のワイン好きなので高級ワインも何本かあった。
だけど、知らない間に高級ワインは全て消え、非常食も大部分無くなっていた。
「ひょっとして、ワインのこと?それはあきらが飲んだのよ。あいつ、『愛人の子がこんなモノを飲んで生意気だ』と言っていたもの」
どうやら、ワインがかなり高いと気づいていたようだ。
多分、愛子の言う通りだから被害届けは出さなかったんだ。
一応、あいつも身内だからな。警察に届けても大したことにならない。
「ねぇ、中に入らせてよ」
「何でだよ。お前はあいつの彼女だろ」
「とっくに別れたわよ。あきらの母さんがうちにも来てさ。さんざん、人のこと、あばずれだとか暴言吐いたんだもの」
それに榊家の財産を狙っているとかも言っていたし。
「財産かぁ。おそらく、父さんが死んだ後,父の遺産はあきらとあの女のものになるだろうな。だけど、父さんの財産なんてあの女が思っているほどないぞ」
確かに医者は高収入なのかもしれない。だけど、榊病院は個人経営だし、それにあの女も気づいていないことがある。
「そもそも、榊病院も榊家の本宅も建物も敷地も祖母さんの所有だったんだ」
「父さんはまだ現役だし。僕は病院を継ぐ気はないから。権利とかを主張しないだけさ」
「よく分かった。つまり、あきらより一郎の方がお金持ちだということなのね」
お前、僕の言葉をきちんと理解しているのか。
「だったら、やっぱりヨリを戻そうよ。一郎となら働かなくても贅沢し放題だもんね」
はぁっ。何を言っているんだ。
僕は思い出した。こいつは僕の顔で近寄ってきたんだ。自慢じゃないが、僕は死んだ母によく似て色白でしかも彫の深い顔立ちをしている。
祖父は外国から日本に帰化したと言われていた。つまり、母親はハーフ。僕はクォーターということになる。 当然、見た目はいい。
だから、愛子も僕の顔に惹かれて交際を申し込んだらしい。らしいというのは僕は顔がいいと思っていないからだ。確かに靴箱に手紙が入っていたこともあったが。
中学の頃から一人暮らしをするので精一杯で他の学友たちに気を配るゆとりがなかったのだ。
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