私が消えたその後で(完結)

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準備が整うと不機嫌そうな顔をした執事が私の部屋にやってきた。

「時間だ。それにしても、それなりの服を用意してもこんなにも酷く見えるのもなのか」

執事の嫌味に私はため息を吐きたくなる。
彼がここまで私の事を嫌うのは両親に醜いゆえに見捨てられたせいもあるだろう。

「さっさと来い。権力ない第二王子だからって粗相は絶対にするなよ」

粗相をするな。と言うくせに、なぜ私にまともな教育すら施さないのだろう。言い分はあまりにも身勝手だ。

執事は私の歩く速度すら無視して早足に歩いていく。
大急ぎでついていくと。

「マナーがなっていない。お前のようなものに、ヘンウッド家の血が流れているなんて……、ルシンダ様が娘なら良かったのに」

執事は吐き捨てるように呟く。
ルシンダとは誰のことだろう。
彼は私の事など無視して、第二王子は応接室にいる。今日ははじめての顔合わせで、お前は病気療養していたことになっている。と、淡々と状況の説明を始めた。
私は執事が一方的に話す内容を頭の中に入れ込む。

ようやく部屋の前に着くと「粗相だけはするなよ」と執事に低めの声で脅され、関わりたくない。と、言わんばかりに去っていった。
残された私は仕方ないと、自分に言い聞かせて応接室のドアを開けた。

そこにいたのは、ジョンと同い年くらいだろうか物静かそうな少年がいた。
茶色の髪の毛と瞳は貴族の中では珍しく平民に多い。

「はじめまして、僕が第二王子のケネス・ヴァージニアです」

ケネスは、少しだけ緊張した様子で私に挨拶をしてきた。
彼の雰囲気から穏やかな性格なのがなんとなくだがわかる。
笑みも緊張しているものの悪意は見られない。

「はじめまして、私はヘンウッド家のシビルです」

「幼い時から、療養中と聞いたが身体の方は大丈夫ですか?」

私が挨拶を返すと、ケネスは形式的な心配の声をかけた。
彼は真実を知っている筈だ。しかし、知らないふりをしてくれるようだ。

「はい、おかげさまで」

「それならよかった」

私も療養していた事として返事をする。

「僕たちは、政略結婚という事になるけど、友達として仲良くやっていこう。立場上、僕とは白い結婚にはなるけれど」

ケネスは挨拶をするかのように、「白い結婚」というワードを口にした。
しかし、私と子供を作りたくない。という、口ぶりではない。

「僕の母親はただのメイドで立場が弱いんだ。陛下が気まぐれで手をつけてね。寵愛も何もないんだ。結婚後は年金が充てられて田舎で生活することになると思う。だから、僕は子供を残してはダメなんだ」

簡単な説明だが、彼の立場の危うさをそれだけでよく理解できた。
彼がどんな生活をしているのかも、何も不自由する事はないかもしれない。しかし、あまりいい目で見られていない事だけはわかる。

「……そうなんですね」

「本当に何も知らされていないんだ」

ケネスは困ったような顔で笑った。
取るに足らない存在。だからこそ、何も知らない私を充てがう。
誰も彼もが悪趣味で気持ち悪い。

「何も知らされませんでした」

ケネスも同じ事を思ったのだろう「悪趣味だよね」と笑った。

「夫婦になるんだ。顔を見せてもらえない?」

ケネスの言葉に私は身体を強張らせた。
今後の信頼関係のために顔を見せる必要はあるけれど、醜いゆえに軽蔑されたらどうしたらいいのだろう。
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