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 その日、ライザは寝込んだ。当然のように私の食事は抜かれて、気が滅入っていた。
 数日後、私に追い討ちをかけるような事が起こった。

「フレディ様が会いにしました」

 クラリスに声をかけられて私は戸惑った。
 フレディと会う約束なんてしていないからだ。

「約束はしていないけど」

「ですが、顔を出しに来てください!無視だなんて失礼にもほどがあります」

 キツくそう言われて、嫌だとは言えなかった。
 最近の、使用人の私への扱いを見ていると、故意に手紙を破棄している可能性もあり、それを考えると無視するわけにはいかなかった。

「……わかったわ」

 応接間に行くと、フレディとライザの声が聞こえてきた。
 いつものように二人で会っている様子だ。

「ライザ、元気を出してくれ」

 フレディの口ぶりから、ライザを励ましているようだ。
 いつもの事だ、フレディは婚約者の私がいるのに、優先するのはライザだ。
 何か話をしようとすると、ライザは必ず咳き込み。心配したフレディが彼女を部屋へと連れていく。
 婚約発表の話し合いをする時ですらそうだった。
 気がつけば、まともな話し合いすらしないままに、誕生パーティーまで一ヶ月を切っていた。

 挨拶だけをして早く帰ろう。

 軽く扉を叩いても、二人はそれに全く気が付かない。だから、私は少しだけ扉を開けた。
 応接間の二人は隣り合うように座り、そして、抱きしめ合っていた。
 その様子はどう見ても愛し合う恋人同士にしか見えない。
 心臓を針で刺されたように痛い。
 あそこに座っているのは、本来なら私のはずなのに、なぜ、ライザがいるのだろう。
 ライザはいつも私の大切なものを平気で取り上げていく。

「私、お姉様が羨ましい。フレディ兄様のような人がいて」

 ライザはフレディの腕の中でうっとりと微笑む。
 その様子にフレディが息を呑むのが見えた。

「ライザ」

 見つめ合いしばらくの沈黙の後、ライザは躊躇いがちに口を開いた。

「……フレディ様、どうか聞き流してもらえますか?」

 そして、ライザは何かと葛藤するような苦しげな表情を浮かべて、しばらく沈黙した。
 フレディは、それを咎める事を一切ぜずにライザが口を開くのを待ち続けた。
 ライザが何を言うのか、私にはすぐに予想ができた。
 互いにあれほどに好意を持っているのは、客観的に見てもよくわかるから。
 止めないといけない。わかっているのに、身体は石のように固まり動かない。
 永遠のような長い沈黙の後、ライザの表情が和らぎ、大輪の花が綻ぶような笑みを浮かべた後、口を開いた。

「フレディ様を……愛しています」






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