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「……!」
二人は絶句するが、立場上言い返す事ができずに、逃げるように会場から去って行った。
私は、それを見て安堵する。
正直、ライザにもお披露目にでる権利はある。しかし、問題を起こすのなら話はまた別だ。
不意にチラリとロシェルと目が合った。
「やあ、君がナイジェル兄さんの婚約者だね。こっちに来なよ」
「は、はい、ロシェル殿下」
声をかけられて、ナイジェルに抱き留められたままロシェルの元へと向かった。
挨拶を交わすと、ロシェルはナイジェルと私を交互に見て微笑んだ。
先ほどの作られたような笑みとは違い本物の笑みのように見える。
「先ほどはご迷惑をおかけしました」
ロシェルがレオナルドとライザの間に入ってくれたおかげで、騒ぎにならなくて済んだ。
私がお礼を言うとロシェルは、「どのみち摘み出していたから気にしなくていい」と、言った。
「いや、気にしてないよ。最初に君もちゃんと警告したのに無視した向こうが悪い。それに、デビュタントのお披露目は令嬢の憧れて夢でもあるんだ。あの子が君の所に行った時から、間に入ろうかとずっと様子を見ていたんだ」
ロシェルは、王族という立場上会場内でかなり気を配ってくれていたようだ。
「お気遣いありがとうございます」
「ちゃんと言い返すなんて、さすがレオナルドの妹だなって思ったよ」
ロシェルの物言いから、いつも遠慮なく色々な事をレオナルドは言っているような気がした。
二人の仲は良さそうだと思った。
「ナイジェル兄さん、今回は魔獣用の結界の協力本当に感謝します。おかげでいいデータが取れました」
「役に立てたならよかったよ」
ロシェルとナイジェルのやり取りを見ていると、臣下というよりも兄弟のような親さがあるように見える。
「本当は僕がそっちに行きたかったんだけどね。レオナルドがアストラ嬢と会いたいと泣きついてきたから我慢したんだ」
ロシェルはレオナルドを意味深に見る。
レオナルドはというと、少しだけ気まずそうな顔をしていた。
「で、殿下、事実だけどやめてもらえますか?」
泣きついたのは事実らしい。
「どの顔をして会えばいいのか、と、ずっと気にしていたよ」
「……そうですか」
シズリーに来るまでの裏側を聞く事ができてよかった気がした。
「仲直りできてよかった。そういう関係で羨ましいよ」
どこか困った顔で笑うロシェル。そういえば、第一王子とあまり関係が良くなかったはずだ。
なんだか親近感持ってしまうわ。
そこに、ロシェルと同じような真っ赤な髪の毛と目の色をした男性が声をかけてきた。
「ロシェル。今日、素晴らしい発表があるんだって?」
赤い色を持つ者は、王族の血を引いている。
「セルドリス兄さん」
ロシェルはセルドリスの名前を呼びつつ引き攣った顔をして笑った。
「せいぜい頑張ってくれ。失敗したら見物だけどな」
ククク、と、バカにしたように笑うセルドリスに、ロシェルは俯いた。
関係の悪さが嫌というほどに伝わってくる。
「……」
セルドリスが値踏みするように私たちの顔を見回し、不意に目があってしまった。
「お前か」
セルドリスは断定するように私を指差した。
「美人の妹を押し除けて、ナイジェルの婚約者に立候補したんだろう?お前、度胸あるな」
楽しげに笑うセルドリス。
私はそれがとても不愉快だった。
「老婆みたいに醜いって聞いたが、思ったよりも……」
ほう、と、息を吐き。セルドリスは、私に近づいてきた。
それを、阻むようにナイジェルが私の目の前に立つ。
「なあ、俺はどうだ?正妃には無理だが、愛妾にはしてやれるぞ。ナイジェルなんかよりもずっといい生活をさせてやる」
自分が選ばれて当然だと言わんばかりのセルドリスに、大きな声を出すために私は息を吸い込んだ。
「お断りします!」
「……!」
セルドリスは、断られると思いもしなかったようでとても驚いた顔をする。
しかし、一瞬だけ寂しそうな顔をして、「ナイジェルには勿体無いくらいのいい女のようだ」と、言いすぐに去ってしまった。
「……」
セルドリスの様子を見て、何か釈然としないものを感じる。
「なんなの!アイツ!」
しかし、マリカがセルドリスの態度に腹を立てていて、そんなことはすぐに頭から消え去ってしまった。
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お読みくださりありがとうございます
何一つ状況は変わってませんが、時間をかけて更新していきます
「……!」
二人は絶句するが、立場上言い返す事ができずに、逃げるように会場から去って行った。
私は、それを見て安堵する。
正直、ライザにもお披露目にでる権利はある。しかし、問題を起こすのなら話はまた別だ。
不意にチラリとロシェルと目が合った。
「やあ、君がナイジェル兄さんの婚約者だね。こっちに来なよ」
「は、はい、ロシェル殿下」
声をかけられて、ナイジェルに抱き留められたままロシェルの元へと向かった。
挨拶を交わすと、ロシェルはナイジェルと私を交互に見て微笑んだ。
先ほどの作られたような笑みとは違い本物の笑みのように見える。
「先ほどはご迷惑をおかけしました」
ロシェルがレオナルドとライザの間に入ってくれたおかげで、騒ぎにならなくて済んだ。
私がお礼を言うとロシェルは、「どのみち摘み出していたから気にしなくていい」と、言った。
「いや、気にしてないよ。最初に君もちゃんと警告したのに無視した向こうが悪い。それに、デビュタントのお披露目は令嬢の憧れて夢でもあるんだ。あの子が君の所に行った時から、間に入ろうかとずっと様子を見ていたんだ」
ロシェルは、王族という立場上会場内でかなり気を配ってくれていたようだ。
「お気遣いありがとうございます」
「ちゃんと言い返すなんて、さすがレオナルドの妹だなって思ったよ」
ロシェルの物言いから、いつも遠慮なく色々な事をレオナルドは言っているような気がした。
二人の仲は良さそうだと思った。
「ナイジェル兄さん、今回は魔獣用の結界の協力本当に感謝します。おかげでいいデータが取れました」
「役に立てたならよかったよ」
ロシェルとナイジェルのやり取りを見ていると、臣下というよりも兄弟のような親さがあるように見える。
「本当は僕がそっちに行きたかったんだけどね。レオナルドがアストラ嬢と会いたいと泣きついてきたから我慢したんだ」
ロシェルはレオナルドを意味深に見る。
レオナルドはというと、少しだけ気まずそうな顔をしていた。
「で、殿下、事実だけどやめてもらえますか?」
泣きついたのは事実らしい。
「どの顔をして会えばいいのか、と、ずっと気にしていたよ」
「……そうですか」
シズリーに来るまでの裏側を聞く事ができてよかった気がした。
「仲直りできてよかった。そういう関係で羨ましいよ」
どこか困った顔で笑うロシェル。そういえば、第一王子とあまり関係が良くなかったはずだ。
なんだか親近感持ってしまうわ。
そこに、ロシェルと同じような真っ赤な髪の毛と目の色をした男性が声をかけてきた。
「ロシェル。今日、素晴らしい発表があるんだって?」
赤い色を持つ者は、王族の血を引いている。
「セルドリス兄さん」
ロシェルはセルドリスの名前を呼びつつ引き攣った顔をして笑った。
「せいぜい頑張ってくれ。失敗したら見物だけどな」
ククク、と、バカにしたように笑うセルドリスに、ロシェルは俯いた。
関係の悪さが嫌というほどに伝わってくる。
「……」
セルドリスが値踏みするように私たちの顔を見回し、不意に目があってしまった。
「お前か」
セルドリスは断定するように私を指差した。
「美人の妹を押し除けて、ナイジェルの婚約者に立候補したんだろう?お前、度胸あるな」
楽しげに笑うセルドリス。
私はそれがとても不愉快だった。
「老婆みたいに醜いって聞いたが、思ったよりも……」
ほう、と、息を吐き。セルドリスは、私に近づいてきた。
それを、阻むようにナイジェルが私の目の前に立つ。
「なあ、俺はどうだ?正妃には無理だが、愛妾にはしてやれるぞ。ナイジェルなんかよりもずっといい生活をさせてやる」
自分が選ばれて当然だと言わんばかりのセルドリスに、大きな声を出すために私は息を吸い込んだ。
「お断りします!」
「……!」
セルドリスは、断られると思いもしなかったようでとても驚いた顔をする。
しかし、一瞬だけ寂しそうな顔をして、「ナイジェルには勿体無いくらいのいい女のようだ」と、言いすぐに去ってしまった。
「……」
セルドリスの様子を見て、何か釈然としないものを感じる。
「なんなの!アイツ!」
しかし、マリカがセルドリスの態度に腹を立てていて、そんなことはすぐに頭から消え去ってしまった。
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久しぶりに拝読出来てとても嬉しいです。
次回を、楽しみに待っております。
相続問題でご多忙とのこと、心身共にお辛い事お察し致します。自愛下さいませ。
相続問題大変ですね。そんな中更新ありがとうございます。私も9月迄相続問題抱えていたので辛さ分かります。禿げるか、ストレスでやられるか、と毎日思っていました。頑張って下さい。
お待ちしてました!
とても楽しみに読ませていただいています。気長に待っていますので、お身体にお気をつけて、作者様のペースで進めてくださればと思います🙇🏻♀️