聖女様の生き残り術

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助演女優賞

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「アイオラ!」

 私を産んだ人は、慌てた様子で私の名前を読んだ。
 余計なことを言われるかもしれないと思ったので、私が喋るのを遮ったのだろう。

 何も言わずにじっと私を産んだ人のことを見つめていると、気まずそうに口を開いたのはマリネッタだった。

「アイオラさん。お久しぶりですね」

 マリネッタは、いつもと変わらない柔らかな笑みを浮かべて挨拶をした。

「マリネッタ様、お久しぶりです。どうしてこちらに?もしかして、私が神殿に来なかったから心配して様子を見に来てくれたんですか?」

 私はというと、なぜ来たのか理由はわかっているが、知らないフリをする。
 無邪気な子供の顔をすると、マリネッタは壊してはいけない大切なものを見るような目を向けてきた。
 
「そうね。それもあるのよ。今日はね。神託があってこちらにきました」

「神託ですか?」

 私はこてりと首を傾けて、心底不思議そうな顔をする。
 これじゃあ、聖女というよりも女優だ。
 助演女優顔負けのすっとぼけに、マリネッタはまんまと騙されてくれたようだ。
 ちなみに主演は、カオリだ。

「そうよね。突然来られても驚くわよね。カドラ家の長女アイオラが聖女だと神託が出たのよ」

 私はやはりとは思ったが、瞬きをしてあえて固まる演技をした。

「アイオラ、私はとても君を誇らしく思うよ」
「私もですわ」

 両親だった人たちが、今までどんな態度を取ってきたのか忘れた様子で私の肩を叩いた。
 私はわざとらしく顔を強張らせて俯く。

「……」

 二人は、私の反応など気がついた様子もなく好き勝手に「お祝いのパーティーをしないと」とはしゃぎ出している。
 本当に滑稽でしかなかった。
 マリネッタは、二人の様子に眉を寄せて咳払いをした。
 マリネッタに話を遮られた二人は、明らかに気分を害したような顔をしたがすぐに取り繕う笑みを浮かべた。

「私たちは、貴女を……、アイオラ様を迎えに来たんです」
「……私が聖女だなんて、そんなことありません」

 唐突に呼び方が変わり少しだけ面くらいながらも、私はとりあえず信じられない。と、言ってみることにした。
 すんなりと受け入れるのも、なんだかおかしいからだ。

「失礼。右の手を出してください」

 そこに、一人の男性の神官がやってきてさりげなく両親の間に入ってきた。

「は、はい」
 
 言われるまま。右手を差し出す。
 手の甲には、青みがかった白い聖石が日光を浴びた初雪のように輝いていた。

「……やはり。貴女が聖女です。これは、間違いなく聖石です」

 神官は、しばらく私の聖石をうっとりとした顔で見つめて、「嫌でなければ触ってもよろしいですか?」と聞いてきた。

 私はというと憧憬の含まれた視線に、嫌とは言えなかった。
 断ったら鬼だと思う。

「あ、どうぞ」

 神官は私の承諾を取るなり、とても控えめに聖石に触れた。
 それに続いて何人かの神官が私の聖石に触れてもいいのか聞いてきた。

「生きてる間に聖女様と出会えて、聖石にも触れられて凄く嬉しい」

「一生自慢します!」

 神官たちは口々に私が善良な聖女だと疑いもしない様子で、そんなことを言い出す。
 まるで、本から飛び出してきたヒーローを見たかのような反応に戸惑う。
 
「この女はニセモノです!」

 突然応接間のドアが開いた。
 そこにいたのは、シエナだ。
 そういえば、応接間にはシエナがいなかった事に気がついた。

 シエナは、私がいかにも嘘をついているかのような目を向けてきていた。
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