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「由寿!」
改札口越しから聞こえた懐かしい声に、私の頬は反射的に緩む。正己の声だ。
顔を向けると、幸せそうな顔で華奢で綺麗な女性と腕を組んで、こちらにゆっくりと歩いてきていた。
この人が理沙さんか。
私の予想通り。とても綺麗な人で、その自覚がちゃんとある女性のようだ。
面と向かって話すだけで気後れしそうな気がする。
この人に正己をとられるんだ。
とられると言うにはあまりにも身勝手な話なのだが、まだ少しだけ気持ちの切り替えが出来ていない。
わかっていても目の前で仲睦まじくしていると、つい、嫌な気持ちが心の奥底から滲み出てくるのだ。
「由寿。大丈夫」
高梨が気遣わしげに、私の手を握る力を強めた。
そこで、ようやく冷静に戻れた。
「由寿。久しぶり」
「正己くんも久しぶり。じゃあ、集まった事だしお昼ごはん食べに行こうか?」
「お腹ペコペコよ」
理沙は小さく笑うと、真珠のように真っ白な歯が見えた。
「こっちよ」
高梨に教えられた喫茶店へ私が案内しようとすると。
「由寿のおすすめの店か。期待せずに行こうかな」
相変わらずの正己の一言。いつもなら苦笑い混じりの『酷い』と言い返して終わるのだが、今日は魚の骨が引っかかったように喉に引っかかったような感じがする。
「どんなお店か楽しみ」
理沙もどこか馬鹿にしたように白々しく笑った。
このお店を探したのは高梨だ。だけど、私が案内した方が良いだろうとそれを譲ってくれたのだ。
折角気を遣って選んでくれた相手になぜ貶すような言葉を吐けるのだろう。
「気にしなくて良いよ」
高梨が困ったように笑うけれど、私はどうしてもそれが許せそうにない。
酷い物言いに悲しくすらなってきた。
「ここよ」
そう言って扉をあけた喫茶店は、どちらかというと洋食屋さんといった店内だ。
一昔前の喫茶店といった雰囲気だ。
置いてあるものはすべて物が良さそうだ。
綺麗に掃除が行き届いているけれど、テーブルや椅子などは昔からの使われているもののようで、アンティークの家具のように味があって見ているだけでうっとりとする。
「良いお店ね。ありが」
「古臭い店だな」
私が高梨にお礼を言おうとすると、かぶせるように正己が小声で文句を言ってきた。
勝手に決めて、他は丸投げでそれなのになんでこんな事を言えるのだろう。身勝手にも程がある。
「何言ってるの?」
「そのまんまの意味だけど。ここよりも駅前にちょっとお洒落そうなカフェがあったのに、そこでも良かったんじゃないの?」
正己はあろう事か文句までつけてくる。
「まぁ、いいよ。由寿さんが頑張って選んでくれたんでしょ?ちょっと空回りしただけでさ、座ろうよ」
理沙のフォローはフォローというにはあまりにも人を馬鹿にする物で、静かにゆっくりと話がしたいと、このお店を選んでくれた高梨に失礼だ。
「そうだね。とりあえず座って自己紹介するか、人の都合も考えないで突然呼び出したってことは大切な用事があるって事だからだよね」
高梨も、負けじとなかなか辛辣な事を言い出す。だけど、笑顔で、それは、それで怖いけれど。私の恐怖も知る由もなく、そのまま席についた。
私は高梨が言い返した事を驚いていた。基本的に彼は争いを好まない。
今のセリフも普段の彼なら思っていても絶対に言わない事だ。態度に出さないけれど間違いなく怒っている。
理沙も正己も、自分達がした事が常識外れだと自覚があったようで、渋々といった様子で席についた。
胃がキリキリと痛む。とてつもなく嫌な予感がする。
メニュー表を見ても何も食べたいものは浮かばず。高梨も同じようで二人とも飲み物だけ注文した。
理沙と正己も『実は食べてきた』と、飲み物だけ注文した。
「佐々木正己です。由寿の幼なじみです。で、隣にいるのは田本理沙さん。俺の彼女です」
「彼女っていうか妻になるんだけどね」
理沙は得意げに補足説明を入れて、正己に肩を寄せて微笑んだ。
まるで、仲を見せつけるような態度だ。しかし、不愉快さが増しただけで、全く胸が痛まない。
「私は羽田由寿です。正己の幼なじみで、この方は……」
「僕は高梨尚。由寿の恋人です」
高梨は私の紹介に食い気味に入ってきた。理沙に負けじといった感じだ。
「実はさ、由寿に彼氏いるって信じられなくて、なんかさ、理沙が由寿が俺の事好きだって言ってくるから気になってたんだ。本当に彼氏いたんだな」
正己は高梨を見て苦笑い混じりで、そんな事を言い出す。
設定上ではあるが、恋人の目の前で言っていい言葉ではない。
「あのさ、尚くんに」
「ねえ、高梨くん。私の事知らない?出身は?」
私が正己を咎めようとすると、理沙が高梨に顔を近づけて全く関係のない事を話し出す。
私の存在など見えていないかのようにだ。
「○○だけど」
高梨は明らかに不愉快そうにため息混じりで、それに答える。
「高校は?」
「N高」
理沙は高梨の表情など見えていないように、ますます食い気味に質問をした。
「あ、やっぱり。久しぶり。私、田本!彼女の緑子とクラスメイトだっ」
「ああ、久しぶりだね。こんな所で逢えるなんて驚いたよ」
高梨は笑顔で話をさっさと切り上げようと、作り笑いでそれに応じる。最早失礼の応酬だ。
恋人の前で、微妙な事を言ったり、たまたまではあるが元カノの事を持ち出したりまるで私たちを仲違いさせたいかのようなやりとりだ。
「おい、理沙」
正己は急に理沙が高梨と距離を詰め始めた事に、苛立ったように咎めた。
「ごめん。オトモダチの由寿さんと仲良くするために来たんだもんね」
理沙は謝りつつも、まるで、私を牽制するように睨みつけてきた。
「僕は話すことなんて田本さんにないけど」
高梨は不愉快そうに理沙を見ている。
「君、わざと、僕と由寿が喧嘩するように物を言ってるよね?」
「私は、そんなつもりない。でも、不愉快に感じさせたならごめんなさい」
理沙は顔を歪めて謝ってくるけれど、何もかもがわざとらしい。
この人達はなんで、ここまでして嫌がらせめいた事をするのだろう。
「由寿。もう、子供じゃないんだ。付き合う相手はいくらでもいる」
高梨の一言に私は目を見開いた。
改札口越しから聞こえた懐かしい声に、私の頬は反射的に緩む。正己の声だ。
顔を向けると、幸せそうな顔で華奢で綺麗な女性と腕を組んで、こちらにゆっくりと歩いてきていた。
この人が理沙さんか。
私の予想通り。とても綺麗な人で、その自覚がちゃんとある女性のようだ。
面と向かって話すだけで気後れしそうな気がする。
この人に正己をとられるんだ。
とられると言うにはあまりにも身勝手な話なのだが、まだ少しだけ気持ちの切り替えが出来ていない。
わかっていても目の前で仲睦まじくしていると、つい、嫌な気持ちが心の奥底から滲み出てくるのだ。
「由寿。大丈夫」
高梨が気遣わしげに、私の手を握る力を強めた。
そこで、ようやく冷静に戻れた。
「由寿。久しぶり」
「正己くんも久しぶり。じゃあ、集まった事だしお昼ごはん食べに行こうか?」
「お腹ペコペコよ」
理沙は小さく笑うと、真珠のように真っ白な歯が見えた。
「こっちよ」
高梨に教えられた喫茶店へ私が案内しようとすると。
「由寿のおすすめの店か。期待せずに行こうかな」
相変わらずの正己の一言。いつもなら苦笑い混じりの『酷い』と言い返して終わるのだが、今日は魚の骨が引っかかったように喉に引っかかったような感じがする。
「どんなお店か楽しみ」
理沙もどこか馬鹿にしたように白々しく笑った。
このお店を探したのは高梨だ。だけど、私が案内した方が良いだろうとそれを譲ってくれたのだ。
折角気を遣って選んでくれた相手になぜ貶すような言葉を吐けるのだろう。
「気にしなくて良いよ」
高梨が困ったように笑うけれど、私はどうしてもそれが許せそうにない。
酷い物言いに悲しくすらなってきた。
「ここよ」
そう言って扉をあけた喫茶店は、どちらかというと洋食屋さんといった店内だ。
一昔前の喫茶店といった雰囲気だ。
置いてあるものはすべて物が良さそうだ。
綺麗に掃除が行き届いているけれど、テーブルや椅子などは昔からの使われているもののようで、アンティークの家具のように味があって見ているだけでうっとりとする。
「良いお店ね。ありが」
「古臭い店だな」
私が高梨にお礼を言おうとすると、かぶせるように正己が小声で文句を言ってきた。
勝手に決めて、他は丸投げでそれなのになんでこんな事を言えるのだろう。身勝手にも程がある。
「何言ってるの?」
「そのまんまの意味だけど。ここよりも駅前にちょっとお洒落そうなカフェがあったのに、そこでも良かったんじゃないの?」
正己はあろう事か文句までつけてくる。
「まぁ、いいよ。由寿さんが頑張って選んでくれたんでしょ?ちょっと空回りしただけでさ、座ろうよ」
理沙のフォローはフォローというにはあまりにも人を馬鹿にする物で、静かにゆっくりと話がしたいと、このお店を選んでくれた高梨に失礼だ。
「そうだね。とりあえず座って自己紹介するか、人の都合も考えないで突然呼び出したってことは大切な用事があるって事だからだよね」
高梨も、負けじとなかなか辛辣な事を言い出す。だけど、笑顔で、それは、それで怖いけれど。私の恐怖も知る由もなく、そのまま席についた。
私は高梨が言い返した事を驚いていた。基本的に彼は争いを好まない。
今のセリフも普段の彼なら思っていても絶対に言わない事だ。態度に出さないけれど間違いなく怒っている。
理沙も正己も、自分達がした事が常識外れだと自覚があったようで、渋々といった様子で席についた。
胃がキリキリと痛む。とてつもなく嫌な予感がする。
メニュー表を見ても何も食べたいものは浮かばず。高梨も同じようで二人とも飲み物だけ注文した。
理沙と正己も『実は食べてきた』と、飲み物だけ注文した。
「佐々木正己です。由寿の幼なじみです。で、隣にいるのは田本理沙さん。俺の彼女です」
「彼女っていうか妻になるんだけどね」
理沙は得意げに補足説明を入れて、正己に肩を寄せて微笑んだ。
まるで、仲を見せつけるような態度だ。しかし、不愉快さが増しただけで、全く胸が痛まない。
「私は羽田由寿です。正己の幼なじみで、この方は……」
「僕は高梨尚。由寿の恋人です」
高梨は私の紹介に食い気味に入ってきた。理沙に負けじといった感じだ。
「実はさ、由寿に彼氏いるって信じられなくて、なんかさ、理沙が由寿が俺の事好きだって言ってくるから気になってたんだ。本当に彼氏いたんだな」
正己は高梨を見て苦笑い混じりで、そんな事を言い出す。
設定上ではあるが、恋人の目の前で言っていい言葉ではない。
「あのさ、尚くんに」
「ねえ、高梨くん。私の事知らない?出身は?」
私が正己を咎めようとすると、理沙が高梨に顔を近づけて全く関係のない事を話し出す。
私の存在など見えていないかのようにだ。
「○○だけど」
高梨は明らかに不愉快そうにため息混じりで、それに答える。
「高校は?」
「N高」
理沙は高梨の表情など見えていないように、ますます食い気味に質問をした。
「あ、やっぱり。久しぶり。私、田本!彼女の緑子とクラスメイトだっ」
「ああ、久しぶりだね。こんな所で逢えるなんて驚いたよ」
高梨は笑顔で話をさっさと切り上げようと、作り笑いでそれに応じる。最早失礼の応酬だ。
恋人の前で、微妙な事を言ったり、たまたまではあるが元カノの事を持ち出したりまるで私たちを仲違いさせたいかのようなやりとりだ。
「おい、理沙」
正己は急に理沙が高梨と距離を詰め始めた事に、苛立ったように咎めた。
「ごめん。オトモダチの由寿さんと仲良くするために来たんだもんね」
理沙は謝りつつも、まるで、私を牽制するように睨みつけてきた。
「僕は話すことなんて田本さんにないけど」
高梨は不愉快そうに理沙を見ている。
「君、わざと、僕と由寿が喧嘩するように物を言ってるよね?」
「私は、そんなつもりない。でも、不愉快に感じさせたならごめんなさい」
理沙は顔を歪めて謝ってくるけれど、何もかもがわざとらしい。
この人達はなんで、ここまでして嫌がらせめいた事をするのだろう。
「由寿。もう、子供じゃないんだ。付き合う相手はいくらでもいる」
高梨の一言に私は目を見開いた。
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