職業:「スパダリ」ってのを授かったんだけど、なにコレ?!

犬雑炊

文字の大きさ
3 / 6

3話 落街へ

しおりを挟む
 結局、僕のことは終始スルーされて成人の儀は終了した。参加者がゾロゾロと帰っていく中、215番・・・ルライバが大げさに両手を広げてハハハハと、笑いながらこちらにやって来る。その後ろには取り巻きの二人もいて僕を見ながらニヤニヤしている。

「やぁ・・・ジェント。お前が前例のない職業を授かったときは、
 同じ貴族候補になるのかと、怒りでお前をズタズタに切り刻ん
 でやろうかと思ったが・・・残念だったなぁ。何の力もない
 「クズ職業」だとは・・・憐れ過ぎて笑ってしまうよぉ」

 怖っ!! 切り刻むとか、どんだけコイツは僕の事嫌いなんだよ。僕なにかしたか?

「そんな事よりルライバ様。+職業を授かるかるとは流石ですね」

「前からルライバ様は貴族の子と皆が噂をしたいましたが、これは確定でしょうね」

 取り巻き二人がルライバをヨイショする。「様」まで付けちゃって、まぁよくやるよ。

「フン、まぁ当然の結果だな。108番はテシタスで「盾士」。412番のギチャックは
 「火術師」だったか? ・・・ふむ、お前達なら俺のパーティに加えてやってもいいか
 もな」

「ほ、本当ですか!? 光栄です!!」

「やった。ルライバ様といれば、上級狩人になれますぜ!! キシシシ!!」
 
 もう僕のことに興味がなくなったのか、3人はワチャワチャと騒ぎながら去って行った。・・・やれやれ、これでようやくアイツらからのイビりから解放されたわけだ。いや~清々しい。もう二度と関わりたくないものだ。・・・と、そんな事よりもこれからの自分自身の事を考えなくちゃいけないな・・・。

◇◇◇◇◇

 ――次の日、育成棟を出た僕はその正門の前で悩んでいた。戦闘職ならあの3人も言っていた「ギルド」に入って狩人業をこなす。あそこは3食付きで寮も完備している。生産職ならその手の店に弟子入りして住み込みで働く。要は戦闘職も生産職も、しっかりとした受け皿がある。だけど僕の訳の分けらない職業では、どちらにも所属できないわけで・・・。

 僕は育成棟からの卒業生用の支給品を確認する。護身用と思われるナイフ1本、回復ポーション1本と解毒ポーション1本。それと屈魂指輪1つと少量のお金・・・。道具を全部売ってもよくて10日くらいしか持たない。

「やはりあそこに行くしかないかぁ・・・。まさか初手であそこに行くことに
 なるなんてなぁ・・・」

 ヤロヴァツカは、木の年輪のように城壁で区切られていて中心に行くほど重要な施設になっている。中心は貴族街、次に商業施設とギルド。そして一般街・・・となっている。で、僕が今向かっているのが王国の一番外の外壁にある一部の区画、通称「落街」と言われている所だ。そこでなら何とかやっていけるかもしれない。だがちょっと・・・いや、かなり問題のある場所なのだ。・・・行きたくないのがバレてるのか足が重い。だがそういう訳にもいかず、僕は足を引きずる様に落街へ向かうのだった。

◇◇◇◇◇

 落街に着いた僕は周りを警戒しながら進む。ゴミは散乱し、道や建物や城壁もボロボロ。道端に座り込んでいる浮浪者っぽい男たちが僕をチラチラと見てくる。ここはまさにスラム街といった感じだ。定年を迎えた者達は狩人は街の衛兵や育成棟の教員に。生産職なら先代からの店を継いだり、新しく自分の店を持ったりする。だが中には途中で
怪我や病気でやむなくドロップアウトしなければならなかった者たち。そんな彼らがここで暮らしている。国に貢献できない者は国民にあらずでここに住んでいる人達は完全に国から見捨てられている。なのでここで生きて行く為に恐喝、強盗、殺人が日常茶飯事になっている。・・・僕は明日の太陽を拝められるだろうか?

 ――しばらく歩いていると、横の路地からうめき声が聞こえてきた。気になって覗いてみると、そこには男がうつぶせに倒れていた。僕は驚きながらも警戒しながら近づいて男を抱き起こした。

「だ、大丈夫ですか!?」

「っ・・・。だ、誰だアンタ?」

 僕は男の状態を確認した。脇腹から血が出ている。おそらく刃物で刺されたのだろう。僕はすぐさま回復ポーションを取り出すと蓋を開け、男の服を捲り上げて傷口に流し掛けた。

「ちょっ、お前! それはっ!! っ・・・!!」

 シュー・・・っと小さな煙を出しながら傷口が塞がっていく。僕はその様子を見て安心してホッと息をついた。

「くぅ・・・アンタすまない。助かった。でもポーションを俺なんかに使って
 しまってよかったのか?」

「いいんだ。困ったときはお互い様ってね。・・・ってこんな言葉はこの世界には
 無いか。あはは」

「? なんにしても礼をしたい。・・・だが、見ての通り追いはぎにやられて
 何もないんだ・・・すまん。何か力になられることがあればいいんだが・・・」

「あ、それならここの顔役的な人を教えてくれませんか?」

 こうして僕は男の人の案内で顔役に会わせてもらえることになった。貧民街の奥の奥まで付いて行き、1つの小さなボロ家の中に通された。そこには老人が一人住んでいて、案内してくれた男が老人にこれまでの事情を説明した。

「・・・ふむ。こやつを助けていた頂いたそうで。礼を言わせてください。
 ワシはロージと申します」

「そう言えば、まだ名乗ってなかったな。俺はワッセだ。改めて助けて
 くれてありがとうな」

二人は僕にペコリと頭を下げた。

「僕はジェントです。あの、本当に気になさらずに。おかげで顔役の貴方に会う
 ことが出来ましたから」

「顔役と言っても、長い間ここに住んでいるだけですがね。・・・で、
 儂に用とは?」

ロージが促してくれたので、僕は席に着いた。ワッセはその間に、そつなく二人分の飲み物を出したくれた。

「あの、僕この地域に住みたいんです。それで住む所を紹介して欲しくて・・・」

「ほっほ。近頃は勝手に住み着いてやりたい放題する輩ばかりなのに・・・貴方は
 律儀な方だ。しかし見たところ貴方は育成棟を出たばかりではないかな?」

「ええ、実は・・・」

僕は自分の事情を説明した――。

「なるほど、そんな事が・・・。分りました。すぐに住む場所を紹介しましょう。
 ただ・・・言いにくいのだが、その代わりに育成棟を出たばかりの貴方なら解毒
 ポーションを持っているはず。それを譲って欲しいのだが・・・良いだろうか?」

「え? お金じゃなくていいんですか? ええ、いいですよ。どうぞ」

僕は快く解毒ポーションを渡した。

「おお! 有難い。我らでは解毒ポーションを買う金を作るのも一苦労でね。これを
 希釈して使えば10人分は行き渡るだろう。助かりました。本当にありがとう」

こうして僕は、落街で住む場所を手に入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...