死霊術士ですが、信仰系魔法も習得したことは内緒です

珠來

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第一章 グレリア教国

第9話

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 ロメオは、いずれ来るユーリとの再戦のため、日夜努力を続けている——
 それが自分のモチベーションだとハッキリと理解していた。

 己の訓練に集中するため、学生騎士団の団長就任を辞退したのだが、「責任ある立場になってこそ、訓練に身が入るとというもの」という学長の説得に負けた形だったのだ。

「君の功績に比べたら、僕のチカラなどまだまだだよ」
 そう謙遜するロメオに、ナタリアは手をパタパタさせて、「そんな、私なんて……」と応える。
「いや、君のチカラは本物だ。僕はいずれ、君を騎士団に推薦するつもりだ」
「————————えっ?」
 突然のことでナタリアは目を丸くする。
「な……何を言っているのですか? 私は死霊術士ですよ。騎士団なんかに入れませんよ」
「そんなことない。現に騎士団の三分の一は魔導士だ。今後はアンデットが関わる事件を扱うことも増えるだろう……そのために、アンデットの専門家が騎士団に必要だと考えている」

 この数年、「アウイール」というカルト集団がアンデットを使った騒ぎを各地で起こしていた。

 ことの発端は十年前——
 アウイールの盟主ハーデースが、フベール共和国とダン帝国の間にあった小さな町で、「死者の共鳴」と呼ばれる儀式を行い沢山のアンデットを召喚した。それは一つの町を滅ぼしたのである。
 フベールとダン帝国の連合軍により事件は沈静化するのだが、両軍ともかなりの犠牲者が出た。市民を加えれば、この事件での犠牲者は一万人を越えるという。
 なのより、首謀者であるハーデースを捕らえることに失敗し、アウイールの勢力拡大を許してしまう。

 首謀者のハーデースを含むアウイールは、大陸の各地に潜伏していると言われ、時より、アンデットを使ったテロ行為を今も起こしている。
 今後、「死者の共鳴」のような大規模のアンデット召還事件が起きることは充分考えられる。そのために、各国、対アンデットの対策を急いでいたのは事実だ。

 ナタリアもそれは理解しているのだが……
「そんな……もっと適任者がいます」
 ナタリアの反論に、ロメオは頭を振る。
「君ほどの適任者はこの国にいないよ」
 真剣な顔でロメオが言うので、ナタリアはドキッとした。
 その時に、ロメオを呼ぶ声があり、彼は「その話はまた今度——」とその場を離れてしまう。

(騎士団か……)
 そんなことは思いもしなかったので、ナタリアは「はあ……」と深い溜め息を吐く。

「なあに? あの屍臭い平民、ロメオ様に馴れ馴れしく話し掛けるなんて、身の程知らずにもホドがあるわ」
 わざと聞こえるように話をする女子生徒達の視線を感じて、再び溜め息を吐くナタリアであった。


 図書館で時間を潰した後、ナタリアは宿舎へと戻る。
 ——部屋が何故か広く感じた。
「えーと……ニーナは?」
 広く感じたのはニーナの荷物が無くなっていたからだったのだ。
「ニーナは自主退学したわ」

「…………えっ」

 アリシアの素っ気ない応答に、ナタリアの思考が追い付かない。
「実家が破産したとかで、直ぐに帰らなければならなくなったらしいわ。『あなたに挨拶できなくてゴメンネ』と言っていったわよ」
「そ、そんな……」
 突然のことで、まだ状況を呑み込めない。確かに、最近、実家が大変だと言っていたのを覚えてはいたが……
「まあ、あのコの場合、成績も悪かったから、いずれ退学だったでしょうけどね……」
 仲間を心配するような素振りも見せず、淡々と説明するアリシアだが、これが彼女の性格だとナタリアも理解しているので、特に腹は立たない。
 ただ、もうニーナに会えないと思うと寂しくなる。
「なあに、まだ何処かで会えるわよ」
 アリシアとしては珍しく慰めるような言葉だったのだが、実のところ、ナタリアがニーナに会うことはもう二度となかった……


 ——月日は流れ、ナタリアは二年生になった。

 しかし、ナタリアの状況は変わらない。
 相変わらず、スレイノフはナタリアに実験参加を認めず、授業以外は図書館で本を読む毎日だった。おかげで、図書館に本の半数は読み終えてしまう。
 残りの半分は絵画や音楽など興味をそそらないタイトルばかりなのだが、暇なので仕方なくそれらにも手を伸ばしていた。

 それにしても、この世界の本はどれも重い——
 最初は、持ち運ぶだけでも一苦労だった。暫くは筋肉痛に悩んでいたのだが、ひと月もすると体が慣れてくる。
(まさか、本が筋トレになるとは思わなかったなあ……)
 運動嫌いなナタリアにとって、唯一の運動と言っていい。

 今日はお料理の本を読む。別に調理方法に興味を持ったわけではないが、他国の食事はどんなものかを見るだけでも結構楽しいものだ。
(他国か……いつか行く機会があるかな……)
 前世のように飛行機があれば、気軽に海外旅行……なんてこともできるのだろう。しかし、この世界は魔法によって生活レベルは結構高いのに、移動手段はいまだ馬車に頼っている。
 隣町に行くだけでも一苦労なのだから、一般市民が国外に出ることはほとんどない。一部の商人、そして「冒険者」くらいだ。

「キミはいつも図書館にいるね」
 声を掛けてきたのは、神官の平服であるカソックという衣装を纏った男性だった。図書館で何度か見掛けたことがあったが、声を掛けられたのは初めてだった。

「えーと……ハ、ハ、ハ……」
 まさか、研究室から追い出された……なんてとても言えない。
「先生も図書館を良く利用するんですね」
 彼を「先生」と言ったのは、歳が三十前後に見えたことと、神官の姿でいたからだ。学校で神官は先生か、神官見習いの生徒しかいない。
「ボクはここの管理人だからね」
「……………………えっ?」
 管理人? 図書担当の先生なのだろうか?
「来てごらん。もっと面白い部屋に入れてあげるよ」
 そう言って、神官の男性はある扉の前に立つ。
 一際大きく重厚な扉なのだが、ナタリアはそれが開いたところを見たことがない。
 以前から気にはなっていたのだが……

 言われたとおり、ナタリアは男性の横に立つと、右手首を掴まれた。
「……あっ」
 そのまま、扉に手のひらをピタッと当てられる——すると扉が淡く輝いた。
「うわあ……」
 思わず声をあげてしまう。

「これで君の認証ができたよ。これからはいつでも、この部屋に入れるからね」
 そう言って、扉を開けると……

「す……すごい……」
 扉の先にも本が並んでいた。ただし、その数は一般公開されている部屋の比ではない。
 二倍……いや四倍はありそうだ。

「ここは……?」
「この部屋には特別な者しか閲覧できない貴重な本が置いてあるんだ」
「……えっ?」
「歴史的価値のある本や、古代人の残した本。禁書なんてのもある」
 平然と言われるのだが——
「そんなもの……学生、それも私のような者に見せて、その……良いのですか?」
 ナタリアは逆に不安になってしまう……
「君には見せたい。そう判断したんだ」
「私に……? 見せたい……?」
 困惑する。いったいどういうことなのか?
「まあ、心配しなくて良いよ。僕が許したと教授達に説明しておくから」
 教授に説明? この人はいったい誰なのか?
 前を行く男性の歩く姿を見ていて、ナタリアは「あっ……」と呟く。
「あのう……もしかして、一年前、馬車でご一緒されていた方ですか?」
 男性は振り向き、ニコッと笑う。
「やっと思い出してくれたのですね」
 そう——初めて学校に入った時、学生課の入口を教えてくれた男性だった。
「すみません……あの時は神官の服装ではなかったので、今とは雰囲気が違っていた……というか……」
 まあ、要するに忘れていたのだが……
「そうだね……あの時は、他国で行われた会議の帰りだったので、礼服を着ていたからね」
「……えっ?」
「まあ、気にしなくて良いよ。僕のことはミゲルと呼んでくれたまえ」
「えーと……ミゲル先生ありがとうございます」
 ナタリアが頭を下げると、「いいから、いいから……」手を振りながら、ミゲルは扉へと向かう。
「それでは存分に楽しんで——あと、この部屋に認証されていない者を連れ込むと、このゴーレムに殺されてしまうから気を付けてね」
 ミゲルが扉の脇に甲冑を着た人形の肩を叩くとそのまま出て行った。

「……………………えっ?」
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