婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟

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 スティーブンがそこにいること、居合わせることについてはよくよく考えてみると、それほど不思議なことではなかった。ただ、タイミングの問題というか…。そういうことである。

「おいおい、大丈夫か?」

 スティーブンはバートンの方に近づいてくる。バートンは気絶したままだった。そして、その隣に私がいることに気が付いた。

「君は……」

 スティーブンの声は観衆の狂気に消された。野次馬というのもあるが、それ以上に美男子であるスティーブンが人助けをしているシーンは絵柄として最適なのだ。

「スティーブン様が人助けをしていらっしゃるわ!!!」

 私と同年代の令嬢たちがこぞって集まる…馴染みある光景だった。かつての私は……スティーブンの横を一緒に歩いていたんだ。今は赤の他人だけど……。幸いなことに、この場に居合わせた令嬢たちで私を知る者はいなかったようだ。

「急病人がおります!今すぐ病院まで運んでください!!!」

 私は思いっきり叫んだ。叫んだ効果でスティーブンはすぐさま担架を用意し、王宮に近い病院まで運ぶ手はずを整えた。道中、スティーブンは私のことを見ていた。私はスティーブンのことを知っているが、スティーブンは…ひょっとすると私のことを忘れたのかもしれない。そう思った。

 スティーブンは病院に到着するまで、到着してからも終始無言だった。仮に私のことを覚えていても、なんて声をかければいいのか分からなかっただろう。

「急病人です、よろしくお願いします!!!」

 病院に到着しても、私は大声で叫んだ。視界から……意識の中からスティーブンを消したかった。今、私の伴侶になるのはバートンなのだから。スティーブンのことを意識してはいけないのだ。そう思っていた。


 バートンは中々目を覚まさなかった。医者の話によれば、過緊張に伴う失神とのことだった。失神でそんなに長期間意識を失うものなのか…。ふと横を見ると、そこにはスティーブンの姿がある。


「あのお……どうして残っていらっしゃるのですか?」

 視界から消えてほしい男……私は悪意を込めて、スティーブンに質問をした。

「……ここにいてはダメだろうか?」

 スティーブンの意図がよく分からなかった。最初は横にいる存在が邪魔だと思っていたけれど……少しずつ慣れていった。


「この場で……君のことを抱いてもいいか?」

 私はさすがに絶句した。この展開で抱く、とは?いよいよ気でも狂ったのか?

「君は……アンナだよね?」

 その時が初めてだった。スティーブンの口から私の名前が出たのは……。
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