最愛の旦那様に先立たれて～もう誰も愛せない～

無駄な命

　お父様が発見した薬によって、私は元気を取り戻すことになりました。

「レイチェル……ああ、あれほどやせこけてしまった身体が再び命を取り戻したんだ！」

「レイチェル……よかったわ、あなたが健康でいること……それが何よりも大切なことなんだから！」

　お父様は名高いウィルキンス公爵家の第15代当主であり、お母様は王家にルーツを持つ伯爵家の出身と、絵に描いたような血筋を受けることになりました。お母様の体質ゆえ、私を出産された後は子宝に恵まれず、子孫は私のみとなってしまいました。

　婚約相手として、お父様はまず王家の血筋を引く男性を連れてきました。しかしながら、彼は非常に傲慢で私に暴力をふるいました。この件について、私はお父様に訴えました。でも、お父様は私の話を聞きませんでした。そればかりか、「夫婦とは常に喧嘩をするものだ」と、お父様の口癖を聞かされる羽目になりました。お母様もまた、「事実だとしても殿方に逆らうことなんてできない」と言い、やはり私の味方にはなってくれませんでした。

「お前はウィルキンス家の人間だと言うのに……あまりいい顔をしていないな……」

　彼は夜な夜な私のことを批判しました。そして、他に交わった女性と比較を始めるのです。つまり、私は全く価値のない女であると言いたかったのです。でも、お母様の言いつけ通り、反論はしませんでした。殿方の方が力強く、私は無力だったのです。

　服で都合よく隠れていましたが、彼は私をよく殴りました。夜な夜なベッドを共にするわけですが、全く満足できなかったのでしょう。

「お前はやる気があるのか？」とよく尋ねられました。

「申し訳ございません。私が不自由なもので……」と、私はずっと謝りました。

「ああ、お前を抱いてもちっとも面白くねえ……」と彼は言い続けました。そして、思いっきり殴りました。

「公爵に告げ口したら……命はないぞ？」なんて恐喝されるレベルでした。いっそのこと、死んでしまったほうがいい……私は本気で考えました。

　お父様やお母様が私の幸せを考えないはずはありません。ですが、それよりも公爵家の家柄を尊重しているのは事実でした。正直なところ、私が夜な夜な殴られていることを知っていたかもしれません。でも、彼を糾弾したら大問題になってしまいます。ですから、黙認していたのでしょう。

「私……もう死にたいわ……」空に向かってずっと言い続けました。

　屋敷の近くに大きな川が流れており、私は何度も飛び込もうとしました。でも、結局は死ぬのが怖くてあと一歩を踏み出すことができませんでした。でも、そんな私を後押ししてくれたのは、彼でした。

「もう、いっそのこと死んだほうがいいんじゃないか？」そう言われて、私は決心がつきました。生きている以上、彼の呪縛から解放されることはありません。かといって、離縁を迫る勇気はありませんでした。そんなことをしたら、公爵家に泥を塗ることになってしまいますから。

　一番手っ取り早く、家の面子を保った上で自分が楽になる方法……それは自ら人生を終わらせる以外に方法はありませんでした。だから……あの日、私は思い切って川に飛び込んだのでした。私は全く泳ぐことができませんでした。直ぐに溺れて、激流に飲み込まれてしまって……この瞬間、私は間もなく死がやって来ると直感したのでした。