最愛の旦那様に先立たれて~もう誰も愛せない~

岡暁舟

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救われた命

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 気が付くと、私はベッドの上で寝ていました。そう、死んでいなかったのです。最初は夢かと思いました。もう死後の世界に辿り着いてしまったのかと。

「目が覚めた?」聞き覚えのある声でした。この声を聞いて、ひょっとしたら生きているのだと思いました。

「ここは……どこかしら?」私は尋ねました。

「私のこと、覚えている?」そう言って、私に顔を見せました。

「あなたって……もしかして、ルーチア?」

「ご名答……なんだ、覚えていてくれたんだ」

 ルーチアは王立学院時代の級友でした。私は公爵家出身でしたので無条件に入学することができましたが、彼女は辺境伯爵家の出身であったため、入学試験を受験しトップの成績で合格した才女でした。

「どうして……あなたの家にいるの?」

「だって、川で洗濯をしていたら上流から人間が流れてきたから、弟と力を合わせて救助したら、驚いたことにレイチェルだった、というわけよ……」

「ということは……私、どのくらい流されたんだろう……」

「王都からこの辺境まで流れてきたのだから……おおよそ50kmってところかしらね?」

「そんなに流されたんだ……いやだ、どうして死ななかったんだろう……」私はつい口走ってしまいました。すると、ルーチアは暗い顔になりました。

「やっぱり……おかしいと思ったのよ。まさか、何かの事件に巻き込まれたの?」

「事件?いいえ、そんなことではないわ……」

「だって……身体に大きな傷が……」ルーチアに見られたようでした。まあ、それだけ長い距離を流されたのですから、すっかり裸になってしまったわけで、見られてしまうのは当然でした。

「ああ、この傷ね……いや、ちょっと色々あってね……」

「まさか……旦那に殴られたとか……?」図星で私は返事することができませんでした。

「あらっ……まさか、当たっちゃった?」

「……………………」

「いやだ、だとしたらすごい傷じゃない……」私は相変わらず何も言えませんでした。

「ねえ、そうなの?大問題よ?」

 私はようやく話すことができました。

「うん、まあ世間ではそう言うことになっても……我が家ではこれを問題にすることはできないわ……」

「どうして?家なんて関係ないでしょう?」

「いや、旦那様は王家の血筋を引く方なの……そんな人が妻に暴力をふるうだなんて、公にすることはできないわ」

「ふーん……王家の人って言うのはそんなに偉いのか……」奥の部屋から男の人が出てきました。

「俺があなたの立場だったら、完全にぶん殴っているけどなあ……」

「こら、ニック。あなたは黙っていなさい……」

「はいはい、俺は一生お姉様に逆らえないですよっだ!!!」

「ニックって言うの……あなたの弟さん?」

「ええ、やんちゃな弟なんだけどね……」

 ルーチア一家との出会いで、私の人生は少しずつ変わり始めることになりました。
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