夫の不倫劇・危ぶまれる正妻の地位

岡暁舟

文字の大きさ
10 / 10

10

しおりを挟む
 カーチャが去って、私も旦那様の屋敷を改めて去ることとした。もはや未練はない。私は行く宛てがなくなった。このまま死んでしまってもいいが……もう一回修道院に戻ってもいいかな、なんて思った。

 修道院は常に行き場を失った人々を受け入れてくれる場所だから……考えてみればそこにカーチャがいても不思議ではなかった。

「アンナ様!」

 カーチャが私がやって来るのを予想していたのか。色々と準備をしていたみたい。

「あなたもここにやって来たの?」

「ええ、アンナ様と同じように……私も居場所がありませんから。ここにいる人々は皆似ていますからね。少しでも子供たちのためになれば……なんて考えまして」

「それはいいことね……」

 カーチャは清々しい表情を浮かべた。

「ああ、そう言えば、チャールズ様一家のことなんですけどね。アンナ様、知っていますか?」

「今更、興味ないわよ。あなたは、何か知っているの?」

「知っているも何も……公爵家の爵位が失効したそうですよ」

 爵位の失効……聞いたことはあるが、実際にそうなった例を把握していなかった。

「そんなことが、現実に起こり得るなんてね…」

「あれっ、アンナ様?喜ばないのですか?」

「喜ぶ?どうして?」

「だって、アンナ様の宿敵である公爵家が無くなったんですよ?」

「…人の不幸を笑っても仕方ないでしょう?」

「アンナ様…だから、あなた様はあんなろくでもない連中の餌食になってしまったんですよ?」

「あら、そうなの?」

「ああっ…でもまあ、アンナ様みたいな貴族が増えれば…この世界はもう少しましになるのかもしれませんね」


 後日、この一件にカーチャが関わっていたことを知った。つまり、子供が出来ないからと言って迫害したり、子供が死んでしまったことを母親の責任とするなど、様々な横暴を暴露してしまったのだ。

 貴族界でも、女性蔑視を改善する機運が盛り上がっているので、こうした世論が後押しになり、旦那様一家は貴族として不適格と認定されたわけだった。

「ああ、そう言えば…あの例のお母様とか…行き場を失ったら、この修道院に来るかもしれませんね?」

 カーチャがこう言うと、私はすぐさま、「それだけは無理!」と答えた。

「あらあら、優しいアンナ様にも許可できないことがあるんですね…」


 カーチャは笑った。結果として、この地で安らかに過ごすことが私にとってはいいのだと思えた。


「では、今日も張り切っていきましょう!」

 カーチャの明るい掛け声とともに、満ち足りた1日が始まろうとしていた…。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身

青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。 レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。 13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。 その理由は奇妙なものだった。 幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥ レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。 せめて、旦那様に人間としてみてほしい! レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。 ☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

あの人のことを忘れたい

ララ愛
恋愛
リアは父を亡くして家族がいなくなった為父の遺言で婚約者が決まり明日結婚することになったが彼は会社を経営する若手の実業家で父が独り娘の今後を託し経営権も譲り全てを頼んだ相手だった。 独身を謳歌し華やかな噂ばかりの彼が私を託されて迷惑に違いないと思うリアとすれ違いながらも愛することを知り手放したくない夫の気持ちにリアは悩み苦しみ涙しながら本当の愛を知る。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました

ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。 夫は婚約前から病弱だった。 王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に 私を指名した。 本当は私にはお慕いする人がいた。 だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって 彼は高嶺の花。 しかも王家からの打診を断る自由などなかった。 実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。 * 作り話です。 * 完結保証つき。 * R18

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

処理中です...