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膝枕

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 その後、殿下に孤児院での話をすると、殿下はたのしそうに微笑みながら、僕の話を聞いてくれた。
 そんなことをしていると、この前会ったカイトくん達、宮廷で働く侍女の子ども達がガゼボに集まってきてきた。

 はじめは殿下のことを怖がっていたけれど、カイトくん達も新しい噂を知っていたようで、恐る恐るだけれど、殿下の周りにもやってきた。

 殿下もはじめは戸惑っていたけれど、だんだんと子ども達とも距離が縮まり、これから僕は子どもたちと一緒に過ごしてもいいとまで言ってくれた。
 そういうと、子ども達の瞳はみるみるうちにきらきらと輝き出す。

「これからずっと?」
「うん。ずっとだよ」
「やった~」
 子ども達がバンザイをして喜ぶ。

 誰も知り合いのいなかった後宮での居場所を見つけられて、とても嬉しい。
 殿下は公務があるからと、席を離れたけれど僕達はお茶とお菓子を楽しみ、そのあと僕は子ども達に読み聞かせをした。
 子ども達が一喜一憂する反応が可愛くて、時間を忘れて子ども達と過ごした。

「今日はすっごく楽しかった。ありがとうユベール様」
 カイトが僕に抱きつくと、他の子ども達も次々と抱きついてくる。
「僕も楽しかったよ」
 自然と笑みが溢れた。

「ねぇ、明日もご本、読んでくれる?」
「今日みたいにたくさん読んでくれる?」
「ねぇ、ユベール様」
 子ども達の質問攻めに合う。
「もちろん。そうだ、明日はどんな本がいい?」
「えっとね、明日は字を教えてほしい」
「字?」
「うん。僕ね、字は読めるけど書けないんだ。字が書けるようになったら、お母さんにお手紙あげたいんだ」
 カイトは自分が持ってきていた本を、胸の前でぎゅっと抱きしめている。僕はカイトと同じ目の高さになるようにしゃがむ。
「それ凄くいいね。じゃあ明日、必ず字の勉強をしようね」
 僕はカイトと指切りをした。

 その日の殿下が僕を夕食に誘ってくれた。
 食後、殿下は何かいいたげだったので訊いてみると「膝枕をしてほしい」と言われた。
 はじめは戸惑ったけれど、殿下直接された初めてのお願い。

 僕は殿下を膝枕した。
 ふたりとも緊張しすぎて、体はガチガチ。
 殿下は「重くないか?」と訊いてくれたけれど、そんなことを考える余裕は僕にはない。

 大丈夫ですと言うように首を横に降ると、殿下は僕の膝の上で嬉しくて気持ちよさそうに目をつむる。
 僕が殿下の顔を見下ろしたとき、殿下の頬に僕の髪がハラハラと人束落ちた。
 殿下はなんの躊躇いもなく、僕の髪を手に取り口付けをしたり、髪を指に絡ませ遊んだり。

 驚きすぎて、僕が口をぱくぱくさせていると、殿下はそのときやっと自分がしたことがわかったのか、「すまん」と顔を真っ赤にしながら謝ってくれる。

 そんな姿を見ると、とても嬉しかった。
 僕は殿下に今日の出来事を話すと、
「楽しい時間が過ごせたんだな」
  なぜだか殿下も嬉しそう。

「明日は字の練習用に紙とするのか。では鉛筆を用意させておく。子ども用の本も買い足さないとな。また沢山話を聞かせてくれ」
 明日、子ども達と過ごすことを、僕よりもなぜだかアレク様の方が楽しみにしているようだ。

「ほら、やっぱりアレク様はお優しい」
 そういうと、
「そうか?冷血だと評判は悪いぞ」
 そう言いながらも、アレク様は僕の反応を伺っているように見える。 

「僕が知るアレク様はお優しくて、甘えたさんです」
「甘えた?」
 僕は殿下に僕自身のことを知ってもらいたくて、殿下に対して思ったことは、ちゃんと口に出して伝えようと決めていた。

 だから……、
「はい。膝枕して欲しいって仰ったり、僕の髪で遊ばれてたり。とても可愛いです。可愛くて仕方ないです」
 恥ずかしかったけれど、思ったことを話した。
 僕にしてくれたように僕もアレク様の髪を優しく撫でる。

 するとアレク様は目を丸くし、そして気持ちよさそうに目を瞑った。

「甘えられるのは嫌か?」
「嫌ではありませんが、人によります」
「じゃあ、誰だったらいいんだ?」
「たとえば、子ども達だったり…」
「他はいないのか?」
 目を瞑っていたアレク様が目を開ける。

「他の方ですか?」
 う~んと考えるが、出てこない。
「そんなに考えないと出てこないのか?」
 むくりとアレク様が上半身を起こす。
「そう言われましても……」
 困り果てていると、
「俺は……どうなんだ?」
「え?」
「俺に甘えられるのは、嫌なのか?」
 顔を赤くしながらアレク様が言うので、笑ってはいけないとわかりつつも我慢ができず「うふふ」と笑ってしまった。

「笑うな」
 アレク様睨むけど、全く怖くない。
「アレク様は僕に甘えたいのですか?」
「悪いか……?」
 子どものように、アレク様はプイッと顔を横に向ける。 

「アレク様は特別です。だから甘えられるのは嬉しいですし、もっと甘えてもらいたいです」
 これ以上笑うと、子どもみたいに拗ねてしまいそうだったので、必死に笑いを堪えている。
「アレク様、たくさん甘えてくださいね」
「……」
 アレク様は言葉で答えず、チラリと僕を見ると、そのまままた僕の膝の上に頭を置いた。
 なんて可愛い人なんだろう。
 笑うのを我慢していたが、自然と「うふふ」と笑ってしまっていた。

「だから笑うなと言っている」
「申し訳ございません。ただあまりにもアレク様が……」
 可愛いと言ってしまってはまた拗ねると思い、
「なんでもありません」
 そう誤魔化しながら、アレク様の艶のある黒髪を優しく撫でた。
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