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マティアス ②

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「ご冗談がすぎます」
「何もしないよ。相変わらずヒューゴは堅苦しいね」
 マティアス様はヒューゴ様の手を振り払った。

「マティアス様、会議には出られなくてよろしんですか? 殿下はこのことをご存知で?」
 いつもは温厚なヒューゴ様なのに、マティアス様がここに現れたことに対して、明らかに不快感を表している。
「会議は俺がいなくても進んでいくから大丈夫。それに僕がユベール様の元に伺うのに、アレク兄さんの許可がいるの?初めて聞いたんだけど」
 マティアス様は笑顔で返すが、ヒューゴ様に対して不快感は雰囲気でわかる。

「ユベール様は俺と会うのは嫌?」
 なのにマティアス様は僕に対しては笑顔で話しかける。
「嫌なんて、そんな滅相もないです」
「じゃあ嬉しい?」
 正直、マティアス様の雰囲気はどことなく闇があって近寄りがたい。
 でも敵意を向けられたり、嫌がらせをされたわけでもないので、拒否はできない。

「……はい……」
「それはよかった。実は庭園の中に、俺が小さい頃から大切に育てている薔薇の道があって、今日はそこにユベール様をご招待したくて。どうですか?一緒に来てくださいませんか?」
「え?」
 一瞬、一緒に行くことをためらったが、断る理由がない。 

「ユベール様、必ず行かないといけない訳ではありませんよ」
 ヒューゴ様が言うと、
「君には聞いてない。黙っててもらえる?」
 マティアス様は冷たい視線と、冷たい言葉をヒューゴ様に向ける。
「ユベール様はどうされますか?」
 先ほどヒューゴに見せた冷たい表情は初めからなかったかのように、僕に対しては笑みを浮かべた。 

 マティアス様とは今日会ったばかり。
 それにこの短い時間に人に対しての接し方が待ったく違うのを目の当たりしてしまうと、怖い感じもする。
 本当は断りたいけど……。
「ご一緒したいです」
 笑顔で答えた。

 するとマティアス様は満面の笑みを浮かべ、右腕を腰にあて、僕がマティアス様と腕を組めるようにされる。腕を組むか迷ったけど、そこまでされて組まないのは失礼にあたると、僕はマティアス様と腕を組む。

「ではユベール様、参りましょう。あ、きちんとユベール様をお部屋までお送りするので、ヒューゴもクロエも付き添いは不要だよ」
 ちらりとヒューゴ様とクロエを横目で見ると、不敵な笑みをこぼしながら、マティアス様は僕を庭の奥へと連れて行った。
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