1 / 44
プロローグ
しおりを挟む
緑の木々が生い茂る、鬱蒼とした森の中。
重なり合った枝葉が、月光が遮り、周囲は一面仄暗い。
ここはロズベルクの森。通称、死の森。言わずと知れたフェンリルの生息地だ。この森に足を踏み入れた者は、二度と帰ってこない。痕跡すら残さずに、フェンリルが食い殺してしまうからだ。そのため普段は誰も近寄らない。…近寄らないはずなのだが、どうも今日は様子が違っていた。地響きのような大勢の爪音から遠ざかるように、二匹の馬が颯爽と森の中を駆け抜ける。――フェンリルも怯える程の速さで。
「死ぬ。死ぬから本当にいぃいいい」
先頭の馬に跨まっている少年は、涙目を通り越して半泣きだった。大きく上下に揺れる馬の背は、姿勢を保つ事すら困難。それに加えて、絶え間なく吹き荒れる向かい風で、窒息死寸前だった。
王宮の騎士達は、呼吸をするくらい自然に乗りこなしていたから、てっきり馬に乗るのは簡単なものとばかり思っていた。
『乗馬?そんなの僕だって出来るよ。ただ馬に乗ればいいんだろ?』
とかなんとか言っていた過去の己を戒めたい。こんなに大変だと分かっていれば、馬に乗って大陸を横断しようなんて絶対に提案しなかった。
「待てや、ごらぁああああああ」
背後からは品の欠けた罵倒の数々。時折、鋭く光った矢が頬すれすれに飛んで行く。空気を裂き、地面の土を大きく抉るそれに、一瞬にして背筋が凍りつく。
ひいい。なんちゅーもんを投げてくれてるんだよ、あいつら。
(何が傷一つつけないで拘束するだ、ギルの奴。こんなのが刺さったら、怪我どころでは済まないぞ。拘束どころか完全に殺す気だろ、あの馬鹿)
追っ手共は日を追うごとに過激になっている。中々捕まらない逃亡者に、痺れを切らしているのだろう。
「っ痛」
伸びきった枝が体を叩き、擦り傷が増えていく。陶器のような肌に赤い血がじんわりと滲み、紙で指を切った時のような鋭い痛みが駆け巡る。しかし今はそんな些細な事を気にしている場合ではない。
闇夜のような漆黒の髪をなびかせながら、目の前で手綱を握っている青年にしがみつく。
――あの場所には二度と戻らない。自分の人生は、自分で切り開くと決めたのだ。
澄んだ瞳は遥か遠くの未来を見据えていた。
重なり合った枝葉が、月光が遮り、周囲は一面仄暗い。
ここはロズベルクの森。通称、死の森。言わずと知れたフェンリルの生息地だ。この森に足を踏み入れた者は、二度と帰ってこない。痕跡すら残さずに、フェンリルが食い殺してしまうからだ。そのため普段は誰も近寄らない。…近寄らないはずなのだが、どうも今日は様子が違っていた。地響きのような大勢の爪音から遠ざかるように、二匹の馬が颯爽と森の中を駆け抜ける。――フェンリルも怯える程の速さで。
「死ぬ。死ぬから本当にいぃいいい」
先頭の馬に跨まっている少年は、涙目を通り越して半泣きだった。大きく上下に揺れる馬の背は、姿勢を保つ事すら困難。それに加えて、絶え間なく吹き荒れる向かい風で、窒息死寸前だった。
王宮の騎士達は、呼吸をするくらい自然に乗りこなしていたから、てっきり馬に乗るのは簡単なものとばかり思っていた。
『乗馬?そんなの僕だって出来るよ。ただ馬に乗ればいいんだろ?』
とかなんとか言っていた過去の己を戒めたい。こんなに大変だと分かっていれば、馬に乗って大陸を横断しようなんて絶対に提案しなかった。
「待てや、ごらぁああああああ」
背後からは品の欠けた罵倒の数々。時折、鋭く光った矢が頬すれすれに飛んで行く。空気を裂き、地面の土を大きく抉るそれに、一瞬にして背筋が凍りつく。
ひいい。なんちゅーもんを投げてくれてるんだよ、あいつら。
(何が傷一つつけないで拘束するだ、ギルの奴。こんなのが刺さったら、怪我どころでは済まないぞ。拘束どころか完全に殺す気だろ、あの馬鹿)
追っ手共は日を追うごとに過激になっている。中々捕まらない逃亡者に、痺れを切らしているのだろう。
「っ痛」
伸びきった枝が体を叩き、擦り傷が増えていく。陶器のような肌に赤い血がじんわりと滲み、紙で指を切った時のような鋭い痛みが駆け巡る。しかし今はそんな些細な事を気にしている場合ではない。
闇夜のような漆黒の髪をなびかせながら、目の前で手綱を握っている青年にしがみつく。
――あの場所には二度と戻らない。自分の人生は、自分で切り開くと決めたのだ。
澄んだ瞳は遥か遠くの未来を見据えていた。
5
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
従者は知らない間に外堀を埋められていた
SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL
転生先は悪役令息の従者でした
でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません
だから知らんけど精神で人生歩みます
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる