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プロローグ
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緑の木々が生い茂る、鬱蒼とした森の中。
重なり合った枝葉が、月光が遮り、周囲は一面仄暗い。
ここはロズベルクの森。通称、死の森。言わずと知れたフェンリルの生息地だ。この森に足を踏み入れた者は、二度と帰ってこない。痕跡すら残さずに、フェンリルが食い殺してしまうからだ。そのため普段は誰も近寄らない。…近寄らないはずなのだが、どうも今日は様子が違っていた。地響きのような大勢の爪音から遠ざかるように、二匹の馬が颯爽と森の中を駆け抜ける。――フェンリルも怯える程の速さで。
「死ぬ。死ぬから本当にいぃいいい」
先頭の馬に跨まっている少年は、涙目を通り越して半泣きだった。大きく上下に揺れる馬の背は、姿勢を保つ事すら困難。それに加えて、絶え間なく吹き荒れる向かい風で、窒息死寸前だった。
王宮の騎士達は、呼吸をするくらい自然に乗りこなしていたから、てっきり馬に乗るのは簡単なものとばかり思っていた。
『乗馬?そんなの僕だって出来るよ。ただ馬に乗ればいいんだろ?』
とかなんとか言っていた過去の己を戒めたい。こんなに大変だと分かっていれば、馬に乗って大陸を横断しようなんて絶対に提案しなかった。
「待てや、ごらぁああああああ」
背後からは品の欠けた罵倒の数々。時折、鋭く光った矢が頬すれすれに飛んで行く。空気を裂き、地面の土を大きく抉るそれに、一瞬にして背筋が凍りつく。
ひいい。なんちゅーもんを投げてくれてるんだよ、あいつら。
(何が傷一つつけないで拘束するだ、ギルの奴。こんなのが刺さったら、怪我どころでは済まないぞ。拘束どころか完全に殺す気だろ、あの馬鹿)
追っ手共は日を追うごとに過激になっている。中々捕まらない逃亡者に、痺れを切らしているのだろう。
「っ痛」
伸びきった枝が体を叩き、擦り傷が増えていく。陶器のような肌に赤い血がじんわりと滲み、紙で指を切った時のような鋭い痛みが駆け巡る。しかし今はそんな些細な事を気にしている場合ではない。
闇夜のような漆黒の髪をなびかせながら、目の前で手綱を握っている青年にしがみつく。
――あの場所には二度と戻らない。自分の人生は、自分で切り開くと決めたのだ。
澄んだ瞳は遥か遠くの未来を見据えていた。
重なり合った枝葉が、月光が遮り、周囲は一面仄暗い。
ここはロズベルクの森。通称、死の森。言わずと知れたフェンリルの生息地だ。この森に足を踏み入れた者は、二度と帰ってこない。痕跡すら残さずに、フェンリルが食い殺してしまうからだ。そのため普段は誰も近寄らない。…近寄らないはずなのだが、どうも今日は様子が違っていた。地響きのような大勢の爪音から遠ざかるように、二匹の馬が颯爽と森の中を駆け抜ける。――フェンリルも怯える程の速さで。
「死ぬ。死ぬから本当にいぃいいい」
先頭の馬に跨まっている少年は、涙目を通り越して半泣きだった。大きく上下に揺れる馬の背は、姿勢を保つ事すら困難。それに加えて、絶え間なく吹き荒れる向かい風で、窒息死寸前だった。
王宮の騎士達は、呼吸をするくらい自然に乗りこなしていたから、てっきり馬に乗るのは簡単なものとばかり思っていた。
『乗馬?そんなの僕だって出来るよ。ただ馬に乗ればいいんだろ?』
とかなんとか言っていた過去の己を戒めたい。こんなに大変だと分かっていれば、馬に乗って大陸を横断しようなんて絶対に提案しなかった。
「待てや、ごらぁああああああ」
背後からは品の欠けた罵倒の数々。時折、鋭く光った矢が頬すれすれに飛んで行く。空気を裂き、地面の土を大きく抉るそれに、一瞬にして背筋が凍りつく。
ひいい。なんちゅーもんを投げてくれてるんだよ、あいつら。
(何が傷一つつけないで拘束するだ、ギルの奴。こんなのが刺さったら、怪我どころでは済まないぞ。拘束どころか完全に殺す気だろ、あの馬鹿)
追っ手共は日を追うごとに過激になっている。中々捕まらない逃亡者に、痺れを切らしているのだろう。
「っ痛」
伸びきった枝が体を叩き、擦り傷が増えていく。陶器のような肌に赤い血がじんわりと滲み、紙で指を切った時のような鋭い痛みが駆け巡る。しかし今はそんな些細な事を気にしている場合ではない。
闇夜のような漆黒の髪をなびかせながら、目の前で手綱を握っている青年にしがみつく。
――あの場所には二度と戻らない。自分の人生は、自分で切り開くと決めたのだ。
澄んだ瞳は遥か遠くの未来を見据えていた。
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