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前世
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カルミア・ロビンズは物語から飛び出てきたかのように美しい少年だった。
顎下まで伸びた金糸のような髪は、甘い蜜を垂らしたように輝いている。
白金の睫に覆われた琥珀色の瞳は、まるでガラス玉のような美しさ。乳白色の肌に浮かぶ薔薇色の頬。内側から鮮血が滲んでいるかのように、ほんのり赤みがかっている薄い唇。風に吹かれれば消え去ってしまいそうな儚い雰囲気を纏う彼は、誰もが目を奪われる存在だった。彼を見た者は皆口を揃えてこう言う。
“彼以上に美しい人間は見たことがない”と。
そんな優美な彼にも、人には言えない秘密があった。
カルミアは、前世の記憶を持っていた。ーーつまるところ、カルミアは第二の人生を歩んでいるのだった。
思えば幼い頃からよく奇妙な夢を見た気がする。名前も分からない少年になって、薬品の匂いが充満する真っ白な部屋で、退屈な時間を過ごす夢だ。そういえば夢なのに随分と鮮明で、夢というより誰かの記憶を覗いているかのようだった。
前世の記憶を思い出したのは、十歳の時だった。あの忌まわしい娼館で、客の一人に慰め者にされている時に、突然視界に閃光が走った。
『樹君は、本当に折り紙が好きよね。千羽鶴を作っているの?』
走馬灯のように瞳の奥に流れる誰かの記憶。高速で再生される幻影に、くらくらと眩暈がする。――幻影の中には、幼い頃から見続けているあの夢もあった。
『そうだよ。だって母さんが言ってたんだ』
重々しい機械が置いてある、純白の部屋の中。僅かに開いた窓からは、柔らかな風が流れ込み、白いカーテンがふわりと舞っている。窓辺のベッドの上で、正方形の紙を黙々と折っていた遠い異国の少年が、動かしていた手を止めて顔を上げた。木製のオーバーテーブルの上には、紙で作られた鶴が、数えきれないくらい転がっている。
『千羽折れば願いが叶うって』
少年の細い腕は、透明の管に繋がれていた。針が刺さっている箇所は、包帯にも似たシールが貼られている。
聞いた事もない名前で少年を呼んだ女性は、空の点滴瓶から針を抜き、透明な液体の入った点滴瓶の口にその針を差し替えている最中だった。
『あら。何をお願いするの?』
『えっとね』
へへへ、と少年は無邪気に笑う。
『――病気を治して、外に出られますようにってお願いするんだ』
優しい笑みを浮かべていた女性の顔が、見る見る曇っていく。
彼女の心中なんて気にも留めず、少年は嬉々として続いた。
『僕、お父さんとキャッチボールしてみたい。あとキャンプもしてみたい。それからプールだって入ってみたいな。行きたいところがいっぱいあるんだよ』
『…そっか。叶うといいね』
『うん!』
少年は再び折り紙に視線を落とした。紙の端と端を合わせて、折れ線を作る。
パリン、と幻影が弾ける音がする。夢の終わりを告げる音だ。
最初にこの夢を見た時、幻覚のような夢だと思った。それほど色鮮やかだったから。何回も何回も続けて見るものだから、何か意味があると薄々感じていたが、前世の記憶を全て取り戻した今なら理解出来る。あの夢は前世の記憶の一部なのだ。――どうやら僕は転生したらしい。
前世での僕は、長谷川樹という少年だった。生まれた時から重い病を抱え、十歳を迎える事なく死ぬと医者から余命宣告を受けていた。樹は生まれてから一度も病院の外に出た事がなかった。窓が一つあるだけの、あの真っ白な空間が彼の全てだった。
両親共々、縋るような想いでありとあらゆる治療法試したけど、結局雪が舞い上がる冬の日に、あっけなく死亡した。享年九歳。実に不幸な少年だった。
顎下まで伸びた金糸のような髪は、甘い蜜を垂らしたように輝いている。
白金の睫に覆われた琥珀色の瞳は、まるでガラス玉のような美しさ。乳白色の肌に浮かぶ薔薇色の頬。内側から鮮血が滲んでいるかのように、ほんのり赤みがかっている薄い唇。風に吹かれれば消え去ってしまいそうな儚い雰囲気を纏う彼は、誰もが目を奪われる存在だった。彼を見た者は皆口を揃えてこう言う。
“彼以上に美しい人間は見たことがない”と。
そんな優美な彼にも、人には言えない秘密があった。
カルミアは、前世の記憶を持っていた。ーーつまるところ、カルミアは第二の人生を歩んでいるのだった。
思えば幼い頃からよく奇妙な夢を見た気がする。名前も分からない少年になって、薬品の匂いが充満する真っ白な部屋で、退屈な時間を過ごす夢だ。そういえば夢なのに随分と鮮明で、夢というより誰かの記憶を覗いているかのようだった。
前世の記憶を思い出したのは、十歳の時だった。あの忌まわしい娼館で、客の一人に慰め者にされている時に、突然視界に閃光が走った。
『樹君は、本当に折り紙が好きよね。千羽鶴を作っているの?』
走馬灯のように瞳の奥に流れる誰かの記憶。高速で再生される幻影に、くらくらと眩暈がする。――幻影の中には、幼い頃から見続けているあの夢もあった。
『そうだよ。だって母さんが言ってたんだ』
重々しい機械が置いてある、純白の部屋の中。僅かに開いた窓からは、柔らかな風が流れ込み、白いカーテンがふわりと舞っている。窓辺のベッドの上で、正方形の紙を黙々と折っていた遠い異国の少年が、動かしていた手を止めて顔を上げた。木製のオーバーテーブルの上には、紙で作られた鶴が、数えきれないくらい転がっている。
『千羽折れば願いが叶うって』
少年の細い腕は、透明の管に繋がれていた。針が刺さっている箇所は、包帯にも似たシールが貼られている。
聞いた事もない名前で少年を呼んだ女性は、空の点滴瓶から針を抜き、透明な液体の入った点滴瓶の口にその針を差し替えている最中だった。
『あら。何をお願いするの?』
『えっとね』
へへへ、と少年は無邪気に笑う。
『――病気を治して、外に出られますようにってお願いするんだ』
優しい笑みを浮かべていた女性の顔が、見る見る曇っていく。
彼女の心中なんて気にも留めず、少年は嬉々として続いた。
『僕、お父さんとキャッチボールしてみたい。あとキャンプもしてみたい。それからプールだって入ってみたいな。行きたいところがいっぱいあるんだよ』
『…そっか。叶うといいね』
『うん!』
少年は再び折り紙に視線を落とした。紙の端と端を合わせて、折れ線を作る。
パリン、と幻影が弾ける音がする。夢の終わりを告げる音だ。
最初にこの夢を見た時、幻覚のような夢だと思った。それほど色鮮やかだったから。何回も何回も続けて見るものだから、何か意味があると薄々感じていたが、前世の記憶を全て取り戻した今なら理解出来る。あの夢は前世の記憶の一部なのだ。――どうやら僕は転生したらしい。
前世での僕は、長谷川樹という少年だった。生まれた時から重い病を抱え、十歳を迎える事なく死ぬと医者から余命宣告を受けていた。樹は生まれてから一度も病院の外に出た事がなかった。窓が一つあるだけの、あの真っ白な空間が彼の全てだった。
両親共々、縋るような想いでありとあらゆる治療法試したけど、結局雪が舞い上がる冬の日に、あっけなく死亡した。享年九歳。実に不幸な少年だった。
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