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完成
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「っっっ凄く綺麗ですわ!カルミア様!!」
全ての工程作業が終わったのは、およそ一時間後の事だった。全身鏡に映ったカルミアの姿を見て、ターニャは感嘆の声を上げた。
鏡の中には、カルミアの面影を残した別の青年が立っていた。立襟のブラウスに、大きめのレースリボンのタイ。燕の尾のように後ろに垂れ下がった濃青色の燕尾服。上質なハーフパンツから出たすらっとした細長い足は、編上げのブーツの中に収められている。カルミアのために造られたと思う程、サイズ感もぴったりで、中性的なカルミアを際立たせるようなデザインだ。
「……これ、本当に僕?」
カルミアは思わず目を疑った。
長い時間をかけてターニャに遊ばれた………施された美しい顔は、ターニャの施術によって、さらに美しく変化を遂げていた。
毛穴一つ見えない陶器の肌。白金色の睫に囲まれた綺麗なアーモンドアイは、アイラインによって猫目に姿を変えている。赤銅色の鉱石が塗られた瞼は、艶やかで、まるで濡れているようだ。小さな唇は透明な膜が張っていて、縦皺一つない程潤っている。
華美な衣装に映えるように、金糸はハーフアップに纏められていて、毛先が緩く巻かれている。
サイドテーブルに置かれたメイクボックスの中の整理をしていたターニャが、目を丸くさせながら鏡を凝視しているカルミアを見てくすくすと笑った。
「ふふふ。紛れもなくカルミア様ですよ。幼き日に教会で目にした壁画の神の使いに瓜二つですわ。ターニャは幸せ者です。今日以上に嫁がなくて良かった思えた日はありません。社交界だってこんな美しい殿方はお目にする事が出来ませんもの。きっと私は、今のカルミア様を見るために侍女になったのですわ」
ターニャのあまりの褒め様に、カルミアは居たたまれない気持ちになった。
後方にいるターニャを視界に収めて、軽く肩を竦ませる。
「褒めすぎだよ。僕以上に見目が良い男なんて腐る程いるって」
「........何を言っているんですの?カルミア様は、ご自分の容姿を客観的に観察すべきですわ。少なくとも私はカルミア様以上に美しい殿方を見た事がありません。ご謙遜もほどほどにしてくださいまし」
ターニャはムッとしたように口を尖らせた。
「...そんなに?ほら、ギルがいるだろ?性格は多少難ありだけど、容姿だけは天下一品だと思うんだけど」
「確かにギルバート様は男前ですわね。ターニャもカルミア様に会う前は、なんて格好いい方なんだろうって思ってましたわ。でもカルミア様には叶いませんの。カルミア様は、人間の域を超えているっていうか。もはや神々しいというか。ギルバート様がお囲みになりたくなる理由も分かりますもの」
「...そこまで言う?」
何故そこまでターニャが自分を賞賛するか、カルミアは分かっていなかった。
カルミアだって、自分の容姿が多少良いことは自覚している。そうでなければ、長年男娼は務まらなかった。しかし十八年間狭い世界でしか生きてこなかった。思えば男娼時代は容姿端麗な商品にばかり囲まれていたし、現在もギルバートを始め、容姿が優れている人間が周りにいる。
そのためかカルミアの美的感覚は人より大幅にずれていた。
こんなに美しい人間が大勢いるのに、ギルバートもクロエもターニャも、何故自分を特別のように称えるのだろう。僕に気を遣っているのだろうか。
カルミアはそんな風にさえ思っていた。
つまるところ、カルミアは平均というものを知らなかった。
「王女様に会っても、堂々と胸を張って下さいね。カルミア様の美しさの前では、王女様も嫌味を言う気にもなれないでしょうから」
ターニャの中では、王女様はすっかり悪者化している。貴族の社会でも、正室と妾は仲が悪い、というのが鉄板らしく、寵愛を得るために何処もどろどろの愛憎劇を繰り広げているそうだ。
側室になっていないカルミアが今日の茶会に誘われたのも、きっと嫉妬に狂った王女様がカルミアを牽制するためだ、とターニャは思い込んでいた。
胸の中が空っぽになるくらいの長い溜息が、部屋中に響き渡る。
「もう!何故ターニャはお茶会に参加できないんですの!カルミア様だけを敵陣に向かわせるなんて、ターニャは心配で心配で…。今にも胃に穴が開きそうですわ」
「大丈夫だよ、ターニャ。今回はギルもいるし。それに王女様が悪い人間かどうかなんてまだ分からないだろ?」
「いいえ!カルミア様。いい人な訳がありません!我儘だとか破天荒だとか、とにかくあの王女は良い噂を聞かないんですから!絶対悪い人に決まってますわ!その証拠にターニャに招待状を送って下さらないではありませんか。カルミア様がいじめられて、泣いて帰ってきたらどうしましょう。ターニャ、正気で居られるかしら」
「大げさだなぁ、ターニャは。虐められて泣くなんて幼子じゃあるまいし」
ーーターニャ曰く、茶会に招待する時は必ず招待者と数名の使用人に宛てて招待状を送るのがこの国の常識らしい。同じテーブルで茶を交わす事はないにしても、主人の嗜好を熟知しているのは日頃仕えている使用人だ。主催者側の使用人の手伝いをしたり、主人の好みに合わせて菓子や飲み物の指示を出したりするためにもサロンに呼ばれるのが普通のだが、どういうわけか、今回の招待状の宛名がカルミアだけだった。
所変われば品変わる。カルディアにはそういう文化がないのかも知れない。
招待状を貰っていないターニャは留守番を余儀なくされるためか、昨日から怒り心頭の様子だった。
自身の変貌ぶりを十分に堪能したカルミアは、王女様に敵意丸出しのターニャに歩み寄った。
カルミアもこの国の男性の平均身長より小さい方だが、ターニャはもっと小さい。傍に寄ればターニャを見下げる形になる。
カルミアは、ターニャの頭を撫でた。ターニャの髪の毛は、まるで動物の毛のようだ。一本一本が細く、柔らかい。
「僕はターニャが茶会に来なくて、正直安心してるけどね。王女様が皮肉めいた言葉を口にしたものなら、わざと転んで紅茶を浴びせそうだし」
「まぁ、カルミア様ったら。このターニャがそんな野蛮な事をするわけ....」
ターニャはそう言いかけて、にへらと笑っていた顔を急に真顔に変えた。
「.....ありますわね。ないとは言い切れませんわ」
「だろ?そんな事したら一生牢屋の中だよ。ちゃんと土産話を持ってくるからさ。大人しく留守番お願いね」
「はあい」
ターニャはむくれたように頬を膨らませた。その姿は実に愛らしい。アーダルベルト南部のカデンツァ地方に生息する、リマリスという魔物を連想させる。リマリスは前世のリスに瓜二つの魔物だ。本でしかリマリスを見た事がないが、その愛らしい姿に虜になる者が多く、魔物でありながらペットとして飼っている貴族も多いんだとか。かく言うカルミアも、何年か前にリマリスをペットとして飼いたいとギルバートに頼み込んだ事があるが、あっさり却下されてしまった。その理由はカルミアがペットを溺愛するあまり、自分の相手をしてくれなくなったら嫌だからというなんとも子供じみたものだった。
カルミアはターニャの頭を撫でるのを止めた。
カチ、カチと等間隔でリズムを刻む大型の古時計に視線を送る。
(...ギルはもうそろそろだろうか)
時計の針は二時半を指している。そろそろギルバートの足音が聞こえて来るはずだ。
神経がピリピリとして、手足が冷たくなるのを感じる。
柄にもなく緊張している自身を自嘲するように鼻で笑う。
(ただ茶会が終わるまで座っていればいいだけなのに、何緊張してるんだよ。重要な外交の任務を任されてるわけでもないのに。ただ時間を過ぎるのを待てばいいだけの話じゃないか)
分かっている。頭では分かっているのだ。しかし大荒れの波が胸の中に打ち寄せ、荒れ狂う海のようにさざめく。
一嵐がすぐそこまで迫っているかのような、この言い表せない胸騒ぎは何だろう。
頭と心は違う生き物だとつくづく思う。
表情を曇らせているカルミアに、ターニャは心配そうに尋ねた。
「……カルミア様。もしかしてお加減が悪いんですの?」
ターニャの声にハッとする。
カルミアはターニャを安心させるように、慌てて作り笑いを浮かべた。
「全然!むしろいいくらいだよ」
「...本当ですの?初めてコルセットを身に着けたのですから、相当苦しいはずですわ。社交界慣れしていないご令嬢はよく貧血で倒れますの。もし具合が悪くなったらギルバート様に早めに言って下さいね」
「……確かに圧迫感は凄いね」
内臓を圧迫するような違和感。それに加えて胸の辺りの血流が滞るような感覚。これでは貧血になるのも分かる気がする。
平均の青年より遥かに細いカルミアだが、今回の衣装は燕尾服をモチーフにしたデザインだ。くびれた腰がよく映えるシルエットで、男性特有の寸胴な腰では魅力に欠ける。
社交界に参加するわけでもあるまいし、何もそこまで拘らなくてもとカルミアは思ったが、ターニャの強い説得に押し負け、渋々着用に至った。
「社交界シーズンでは毎日コルセットを着用するんですの。もう腰が痛くて痛くて」
「..これを。毎日」
カルミアは言葉を失くした。尊敬を通り越して、もはや畏怖の念すら抱く。
「...女性の美に対する執念って、本当に凄いよね。補正下着と言うよりは拘束具に等しいじゃん、これ」
「....同感ですわ」
王国の医学会では、コルセットを日常的に着用していると肋骨が曲がるという研究結果も出ているらしく、最近では柔らかいコルセットが出たらしい。しかし補正効果が弱いという理由で、まだまだ普及にまでは至ってないそうだ。
"お洒落は我慢"。
そんな言葉が前世の日本にはあったが、どうやら世界を超えてもそれは共通するらしい。
化粧道具を整理し終えたターニャは、メイクボックスの蓋を閉め、金具のレバーを倒した。
「それにしても本当にギルバート様遅いですわね。何をしてらっしゃるのかしら」
ターニャはワンピースのポケットに手を差し込み、懐中時計を取り出した。その拍子に、淡い群青色の封筒がパラリと床に落ちる。
全ての工程作業が終わったのは、およそ一時間後の事だった。全身鏡に映ったカルミアの姿を見て、ターニャは感嘆の声を上げた。
鏡の中には、カルミアの面影を残した別の青年が立っていた。立襟のブラウスに、大きめのレースリボンのタイ。燕の尾のように後ろに垂れ下がった濃青色の燕尾服。上質なハーフパンツから出たすらっとした細長い足は、編上げのブーツの中に収められている。カルミアのために造られたと思う程、サイズ感もぴったりで、中性的なカルミアを際立たせるようなデザインだ。
「……これ、本当に僕?」
カルミアは思わず目を疑った。
長い時間をかけてターニャに遊ばれた………施された美しい顔は、ターニャの施術によって、さらに美しく変化を遂げていた。
毛穴一つ見えない陶器の肌。白金色の睫に囲まれた綺麗なアーモンドアイは、アイラインによって猫目に姿を変えている。赤銅色の鉱石が塗られた瞼は、艶やかで、まるで濡れているようだ。小さな唇は透明な膜が張っていて、縦皺一つない程潤っている。
華美な衣装に映えるように、金糸はハーフアップに纏められていて、毛先が緩く巻かれている。
サイドテーブルに置かれたメイクボックスの中の整理をしていたターニャが、目を丸くさせながら鏡を凝視しているカルミアを見てくすくすと笑った。
「ふふふ。紛れもなくカルミア様ですよ。幼き日に教会で目にした壁画の神の使いに瓜二つですわ。ターニャは幸せ者です。今日以上に嫁がなくて良かった思えた日はありません。社交界だってこんな美しい殿方はお目にする事が出来ませんもの。きっと私は、今のカルミア様を見るために侍女になったのですわ」
ターニャのあまりの褒め様に、カルミアは居たたまれない気持ちになった。
後方にいるターニャを視界に収めて、軽く肩を竦ませる。
「褒めすぎだよ。僕以上に見目が良い男なんて腐る程いるって」
「........何を言っているんですの?カルミア様は、ご自分の容姿を客観的に観察すべきですわ。少なくとも私はカルミア様以上に美しい殿方を見た事がありません。ご謙遜もほどほどにしてくださいまし」
ターニャはムッとしたように口を尖らせた。
「...そんなに?ほら、ギルがいるだろ?性格は多少難ありだけど、容姿だけは天下一品だと思うんだけど」
「確かにギルバート様は男前ですわね。ターニャもカルミア様に会う前は、なんて格好いい方なんだろうって思ってましたわ。でもカルミア様には叶いませんの。カルミア様は、人間の域を超えているっていうか。もはや神々しいというか。ギルバート様がお囲みになりたくなる理由も分かりますもの」
「...そこまで言う?」
何故そこまでターニャが自分を賞賛するか、カルミアは分かっていなかった。
カルミアだって、自分の容姿が多少良いことは自覚している。そうでなければ、長年男娼は務まらなかった。しかし十八年間狭い世界でしか生きてこなかった。思えば男娼時代は容姿端麗な商品にばかり囲まれていたし、現在もギルバートを始め、容姿が優れている人間が周りにいる。
そのためかカルミアの美的感覚は人より大幅にずれていた。
こんなに美しい人間が大勢いるのに、ギルバートもクロエもターニャも、何故自分を特別のように称えるのだろう。僕に気を遣っているのだろうか。
カルミアはそんな風にさえ思っていた。
つまるところ、カルミアは平均というものを知らなかった。
「王女様に会っても、堂々と胸を張って下さいね。カルミア様の美しさの前では、王女様も嫌味を言う気にもなれないでしょうから」
ターニャの中では、王女様はすっかり悪者化している。貴族の社会でも、正室と妾は仲が悪い、というのが鉄板らしく、寵愛を得るために何処もどろどろの愛憎劇を繰り広げているそうだ。
側室になっていないカルミアが今日の茶会に誘われたのも、きっと嫉妬に狂った王女様がカルミアを牽制するためだ、とターニャは思い込んでいた。
胸の中が空っぽになるくらいの長い溜息が、部屋中に響き渡る。
「もう!何故ターニャはお茶会に参加できないんですの!カルミア様だけを敵陣に向かわせるなんて、ターニャは心配で心配で…。今にも胃に穴が開きそうですわ」
「大丈夫だよ、ターニャ。今回はギルもいるし。それに王女様が悪い人間かどうかなんてまだ分からないだろ?」
「いいえ!カルミア様。いい人な訳がありません!我儘だとか破天荒だとか、とにかくあの王女は良い噂を聞かないんですから!絶対悪い人に決まってますわ!その証拠にターニャに招待状を送って下さらないではありませんか。カルミア様がいじめられて、泣いて帰ってきたらどうしましょう。ターニャ、正気で居られるかしら」
「大げさだなぁ、ターニャは。虐められて泣くなんて幼子じゃあるまいし」
ーーターニャ曰く、茶会に招待する時は必ず招待者と数名の使用人に宛てて招待状を送るのがこの国の常識らしい。同じテーブルで茶を交わす事はないにしても、主人の嗜好を熟知しているのは日頃仕えている使用人だ。主催者側の使用人の手伝いをしたり、主人の好みに合わせて菓子や飲み物の指示を出したりするためにもサロンに呼ばれるのが普通のだが、どういうわけか、今回の招待状の宛名がカルミアだけだった。
所変われば品変わる。カルディアにはそういう文化がないのかも知れない。
招待状を貰っていないターニャは留守番を余儀なくされるためか、昨日から怒り心頭の様子だった。
自身の変貌ぶりを十分に堪能したカルミアは、王女様に敵意丸出しのターニャに歩み寄った。
カルミアもこの国の男性の平均身長より小さい方だが、ターニャはもっと小さい。傍に寄ればターニャを見下げる形になる。
カルミアは、ターニャの頭を撫でた。ターニャの髪の毛は、まるで動物の毛のようだ。一本一本が細く、柔らかい。
「僕はターニャが茶会に来なくて、正直安心してるけどね。王女様が皮肉めいた言葉を口にしたものなら、わざと転んで紅茶を浴びせそうだし」
「まぁ、カルミア様ったら。このターニャがそんな野蛮な事をするわけ....」
ターニャはそう言いかけて、にへらと笑っていた顔を急に真顔に変えた。
「.....ありますわね。ないとは言い切れませんわ」
「だろ?そんな事したら一生牢屋の中だよ。ちゃんと土産話を持ってくるからさ。大人しく留守番お願いね」
「はあい」
ターニャはむくれたように頬を膨らませた。その姿は実に愛らしい。アーダルベルト南部のカデンツァ地方に生息する、リマリスという魔物を連想させる。リマリスは前世のリスに瓜二つの魔物だ。本でしかリマリスを見た事がないが、その愛らしい姿に虜になる者が多く、魔物でありながらペットとして飼っている貴族も多いんだとか。かく言うカルミアも、何年か前にリマリスをペットとして飼いたいとギルバートに頼み込んだ事があるが、あっさり却下されてしまった。その理由はカルミアがペットを溺愛するあまり、自分の相手をしてくれなくなったら嫌だからというなんとも子供じみたものだった。
カルミアはターニャの頭を撫でるのを止めた。
カチ、カチと等間隔でリズムを刻む大型の古時計に視線を送る。
(...ギルはもうそろそろだろうか)
時計の針は二時半を指している。そろそろギルバートの足音が聞こえて来るはずだ。
神経がピリピリとして、手足が冷たくなるのを感じる。
柄にもなく緊張している自身を自嘲するように鼻で笑う。
(ただ茶会が終わるまで座っていればいいだけなのに、何緊張してるんだよ。重要な外交の任務を任されてるわけでもないのに。ただ時間を過ぎるのを待てばいいだけの話じゃないか)
分かっている。頭では分かっているのだ。しかし大荒れの波が胸の中に打ち寄せ、荒れ狂う海のようにさざめく。
一嵐がすぐそこまで迫っているかのような、この言い表せない胸騒ぎは何だろう。
頭と心は違う生き物だとつくづく思う。
表情を曇らせているカルミアに、ターニャは心配そうに尋ねた。
「……カルミア様。もしかしてお加減が悪いんですの?」
ターニャの声にハッとする。
カルミアはターニャを安心させるように、慌てて作り笑いを浮かべた。
「全然!むしろいいくらいだよ」
「...本当ですの?初めてコルセットを身に着けたのですから、相当苦しいはずですわ。社交界慣れしていないご令嬢はよく貧血で倒れますの。もし具合が悪くなったらギルバート様に早めに言って下さいね」
「……確かに圧迫感は凄いね」
内臓を圧迫するような違和感。それに加えて胸の辺りの血流が滞るような感覚。これでは貧血になるのも分かる気がする。
平均の青年より遥かに細いカルミアだが、今回の衣装は燕尾服をモチーフにしたデザインだ。くびれた腰がよく映えるシルエットで、男性特有の寸胴な腰では魅力に欠ける。
社交界に参加するわけでもあるまいし、何もそこまで拘らなくてもとカルミアは思ったが、ターニャの強い説得に押し負け、渋々着用に至った。
「社交界シーズンでは毎日コルセットを着用するんですの。もう腰が痛くて痛くて」
「..これを。毎日」
カルミアは言葉を失くした。尊敬を通り越して、もはや畏怖の念すら抱く。
「...女性の美に対する執念って、本当に凄いよね。補正下着と言うよりは拘束具に等しいじゃん、これ」
「....同感ですわ」
王国の医学会では、コルセットを日常的に着用していると肋骨が曲がるという研究結果も出ているらしく、最近では柔らかいコルセットが出たらしい。しかし補正効果が弱いという理由で、まだまだ普及にまでは至ってないそうだ。
"お洒落は我慢"。
そんな言葉が前世の日本にはあったが、どうやら世界を超えてもそれは共通するらしい。
化粧道具を整理し終えたターニャは、メイクボックスの蓋を閉め、金具のレバーを倒した。
「それにしても本当にギルバート様遅いですわね。何をしてらっしゃるのかしら」
ターニャはワンピースのポケットに手を差し込み、懐中時計を取り出した。その拍子に、淡い群青色の封筒がパラリと床に落ちる。
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