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態度
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「ーーカルミア、入っていい?」
籠ったようなギルバートの声にドキリと心臓が鳴る。サイドテーブルの中に収めた手紙と笛の存在が後ろめたくて、思わず声が上擦った。
「い、いいよ」
ギイイイと錆びついた音を立てながら、古びた扉が開かれた。
回廊から姿を現したギルバートは上質なモーニングコートに袖を通していた。前髪も蝋涙で固められている。
ギルバートの出で立ちは、質素ながらも何処か洗練されている。手足が長いせいか、丈の長い衣服がよく似合う。
「ごめん、遅くなった。書類整理が中々終わらなくて。そろそろサロンに...」
ギルバートは部屋につかつかと侵入する。そして強張った面持ちで立っているカルミアを見た瞬間、石のように固まった。
不意打ちにキスでもされたかのように、目をぱちぱちとさせる。
カルミアはちらりと視線を下げて、自分の装いを確認した。
(...変じゃないよな。ターニャだって似合ってるって言ってくれたし。我ながら悪くないと思うんだけど)
ギルバートの態度にカルミアは不安を募らせる。
何故何も言ってくれないのだろう。
絶句する程、似合ってないのだろうか。それとも化粧が合ってないとか。
ターニャは絶賛してくれたが、それは気を遣っての事だったのかも知れない。
「...もしかして変?」
カルミアの不安げな声に、ギルバートはハッと目を見開いた。
焦ったように大きく首を横に振る。
「...まさか。凄い、似合ってる」
「...本当に?」
疑いの目を向けると、ギルバートは逃れるように視線を反らした。疑惑が確信に変わる。
「正直に言えって。ギルの態度を見れば、似合ってない事くらい言われなくても分かるから」
「本当に似合ってるって!!」
「でも目も合わせてくれないじゃん」
「だからそれは」
ギルバートはちらちらとカルミアを盗み見しては言葉を詰まらせた。 頬がほんのり桜色に蒸気している。
「っ。ま、まともに見れないんだよ。君が想像以上に可愛くて」
「か、かわ」
カルミアの真っ白な肌は見る見る赤く染まる。小さな唇はわなわなと震え、揃った歯の奥から言葉にならない声が漏れる。
(照れながら言うなよ、馬鹿!!こっちまで恥ずかしくなるだろ)
カルミアは視線を落とし、もじもじと指先を遊ばせた。
「...タ、タ、ターニャが頑張ってくれたんだ。コルセットを絞めてくれて、社交界に出るみたいに化粧もして、髪も巻いてくれた。第一印象は見た目が全てだからって」
華のない見た目で、カルディアの王女に卑下されないように。
いわばターニャなりの餞別だ。
ギルバートは真っ赤になっているカルミアに大股で近寄り、カルミアの細い腕を引っ張った。カルミアの体がギルバートの腕の中にすっぽり収める。
はぁ、と熱い吐息が耳元にかかる。
「···困ったな。今のカルミアは特に誰にも見せたくない。今すぐ君を抱いてしまいたい」
「ななな何言ってんだよ、馬鹿」
「···じゃあキスしていい?」
「だ、駄目だ。ギルはキスなんかで終らないだろ。それにターニャだって見てるのに」
ターニャをちらりと尻目で見ると、満面の笑みを浮かべていた。
いいぞ、もっとやれ。
そう思っているのが手に取るように分かる。
カルミアはギルバートの体を押して、無理やり引き剥がした。
「そ、そろそろ行こう!王女様、待ってるんだろ!」
「...そうだね。もうすぐ約束の時間だ」
ギルバートはおもむろにしゃがみこんだ。
そして胸ポケットから古びた鍵を取り出すと、足枷の鍵穴に差し込んだ。
ガチャリという音と共に、メッキの剥がれた足枷がゴトッと床に落ちる。
ギルバートは誰にも奪わせないとばかりに速やかに胸ポケットに鍵を戻した。
「こんなものなくたって、僕はどこにもいかないのに」
「どうかな」
「本当にギルは心配性だな」
「···心配にもなるさ。だってこんなに」
ギルバートは言葉を飲み込んだ。
こんなに····なんだろうか。
ギルバートを見ると、何処か怒りを宿したような表情を浮かべていた。
しかしすぐに諦めたような表情に変わって、フッと息を吐いた。
「....そろそろ行こうか。ディア....クローディアを待たせたらいけない」
クローディア。
初めて聞くその名前に、ちくりと、胸が鳴った。
どうやらカルディアの王女はクローディアというらしい。
そして愛称で呼びあう程の仲のようだった。
「....そうだね」
もやもやと黒い雲に心が覆われるような感覚に支配される。
これくらいで嫉妬するなんて情けないなぁ、とカルミアは自嘲する。
しかし思考とは正反対に黒々とした雲は広がっていく。
その気持ちを消化出来ないまま、カルミアは部屋を後にした。
籠ったようなギルバートの声にドキリと心臓が鳴る。サイドテーブルの中に収めた手紙と笛の存在が後ろめたくて、思わず声が上擦った。
「い、いいよ」
ギイイイと錆びついた音を立てながら、古びた扉が開かれた。
回廊から姿を現したギルバートは上質なモーニングコートに袖を通していた。前髪も蝋涙で固められている。
ギルバートの出で立ちは、質素ながらも何処か洗練されている。手足が長いせいか、丈の長い衣服がよく似合う。
「ごめん、遅くなった。書類整理が中々終わらなくて。そろそろサロンに...」
ギルバートは部屋につかつかと侵入する。そして強張った面持ちで立っているカルミアを見た瞬間、石のように固まった。
不意打ちにキスでもされたかのように、目をぱちぱちとさせる。
カルミアはちらりと視線を下げて、自分の装いを確認した。
(...変じゃないよな。ターニャだって似合ってるって言ってくれたし。我ながら悪くないと思うんだけど)
ギルバートの態度にカルミアは不安を募らせる。
何故何も言ってくれないのだろう。
絶句する程、似合ってないのだろうか。それとも化粧が合ってないとか。
ターニャは絶賛してくれたが、それは気を遣っての事だったのかも知れない。
「...もしかして変?」
カルミアの不安げな声に、ギルバートはハッと目を見開いた。
焦ったように大きく首を横に振る。
「...まさか。凄い、似合ってる」
「...本当に?」
疑いの目を向けると、ギルバートは逃れるように視線を反らした。疑惑が確信に変わる。
「正直に言えって。ギルの態度を見れば、似合ってない事くらい言われなくても分かるから」
「本当に似合ってるって!!」
「でも目も合わせてくれないじゃん」
「だからそれは」
ギルバートはちらちらとカルミアを盗み見しては言葉を詰まらせた。 頬がほんのり桜色に蒸気している。
「っ。ま、まともに見れないんだよ。君が想像以上に可愛くて」
「か、かわ」
カルミアの真っ白な肌は見る見る赤く染まる。小さな唇はわなわなと震え、揃った歯の奥から言葉にならない声が漏れる。
(照れながら言うなよ、馬鹿!!こっちまで恥ずかしくなるだろ)
カルミアは視線を落とし、もじもじと指先を遊ばせた。
「...タ、タ、ターニャが頑張ってくれたんだ。コルセットを絞めてくれて、社交界に出るみたいに化粧もして、髪も巻いてくれた。第一印象は見た目が全てだからって」
華のない見た目で、カルディアの王女に卑下されないように。
いわばターニャなりの餞別だ。
ギルバートは真っ赤になっているカルミアに大股で近寄り、カルミアの細い腕を引っ張った。カルミアの体がギルバートの腕の中にすっぽり収める。
はぁ、と熱い吐息が耳元にかかる。
「···困ったな。今のカルミアは特に誰にも見せたくない。今すぐ君を抱いてしまいたい」
「ななな何言ってんだよ、馬鹿」
「···じゃあキスしていい?」
「だ、駄目だ。ギルはキスなんかで終らないだろ。それにターニャだって見てるのに」
ターニャをちらりと尻目で見ると、満面の笑みを浮かべていた。
いいぞ、もっとやれ。
そう思っているのが手に取るように分かる。
カルミアはギルバートの体を押して、無理やり引き剥がした。
「そ、そろそろ行こう!王女様、待ってるんだろ!」
「...そうだね。もうすぐ約束の時間だ」
ギルバートはおもむろにしゃがみこんだ。
そして胸ポケットから古びた鍵を取り出すと、足枷の鍵穴に差し込んだ。
ガチャリという音と共に、メッキの剥がれた足枷がゴトッと床に落ちる。
ギルバートは誰にも奪わせないとばかりに速やかに胸ポケットに鍵を戻した。
「こんなものなくたって、僕はどこにもいかないのに」
「どうかな」
「本当にギルは心配性だな」
「···心配にもなるさ。だってこんなに」
ギルバートは言葉を飲み込んだ。
こんなに····なんだろうか。
ギルバートを見ると、何処か怒りを宿したような表情を浮かべていた。
しかしすぐに諦めたような表情に変わって、フッと息を吐いた。
「....そろそろ行こうか。ディア....クローディアを待たせたらいけない」
クローディア。
初めて聞くその名前に、ちくりと、胸が鳴った。
どうやらカルディアの王女はクローディアというらしい。
そして愛称で呼びあう程の仲のようだった。
「....そうだね」
もやもやと黒い雲に心が覆われるような感覚に支配される。
これくらいで嫉妬するなんて情けないなぁ、とカルミアは自嘲する。
しかし思考とは正反対に黒々とした雲は広がっていく。
その気持ちを消化出来ないまま、カルミアは部屋を後にした。
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