二度目の人生は魔王の嫁

七海あとり

文字の大きさ
24 / 44

態度

しおりを挟む
「ーーカルミア、入っていい?」

籠ったようなギルバートの声にドキリと心臓が鳴る。サイドテーブルの中に収めた手紙と笛の存在が後ろめたくて、思わず声が上擦った。

「い、いいよ」

ギイイイと錆びついた音を立てながら、古びた扉が開かれた。
回廊から姿を現したギルバートは上質なモーニングコートに袖を通していた。前髪も蝋涙で固められている。
ギルバートの出で立ちは、質素ながらも何処か洗練されている。手足が長いせいか、丈の長い衣服がよく似合う。

「ごめん、遅くなった。書類整理が中々終わらなくて。そろそろサロンに...」

ギルバートは部屋につかつかと侵入する。そして強張った面持ちで立っているカルミアを見た瞬間、石のように固まった。
不意打ちにキスでもされたかのように、目をぱちぱちとさせる。
カルミアはちらりと視線を下げて、自分の装いを確認した。

(...変じゃないよな。ターニャだって似合ってるって言ってくれたし。我ながら悪くないと思うんだけど)

ギルバートの態度にカルミアは不安を募らせる。

何故何も言ってくれないのだろう。  
絶句する程、似合ってないのだろうか。それとも化粧が合ってないとか。
ターニャは絶賛してくれたが、それは気を遣っての事だったのかも知れない。

  
「...もしかして変?」

カルミアの不安げな声に、ギルバートはハッと目を見開いた。
焦ったように大きく首を横に振る。

「...まさか。凄い、似合ってる」
「...本当に?」

疑いの目を向けると、ギルバートは逃れるように視線を反らした。疑惑が確信に変わる。

「正直に言えって。ギルの態度を見れば、似合ってない事くらい言われなくても分かるから」
「本当に似合ってるって!!」
「でも目も合わせてくれないじゃん」
「だからそれは」

ギルバートはちらちらとカルミアを盗み見しては言葉を詰まらせた。 頬がほんのり桜色に蒸気している。 

「っ。ま、まともに見れないんだよ。君が想像以上に可愛くて」
「か、かわ」

カルミアの真っ白な肌は見る見る赤く染まる。小さな唇はわなわなと震え、揃った歯の奥から言葉にならない声が漏れる。

(照れながら言うなよ、馬鹿!!こっちまで恥ずかしくなるだろ)  

カルミアは視線を落とし、もじもじと指先を遊ばせた。

「...タ、タ、ターニャが頑張ってくれたんだ。コルセットを絞めてくれて、社交界に出るみたいに化粧もして、髪も巻いてくれた。第一印象は見た目が全てだからって」

華のない見た目で、カルディアの王女に卑下されないように。
いわばターニャなりの餞別だ。

ギルバートは真っ赤になっているカルミアに大股で近寄り、カルミアの細い腕を引っ張った。カルミアの体がギルバートの腕の中にすっぽり収める。
はぁ、と熱い吐息が耳元にかかる。

「···困ったな。今のカルミアは特に誰にも見せたくない。今すぐ君を抱いてしまいたい」
「ななな何言ってんだよ、馬鹿」
「···じゃあキスしていい?」
「だ、駄目だ。ギルはキスなんかで終らないだろ。それにターニャだって見てるのに」

ターニャをちらりと尻目で見ると、満面の笑みを浮かべていた。
いいぞ、もっとやれ。
そう思っているのが手に取るように分かる。

カルミアはギルバートの体を押して、無理やり引き剥がした。

「そ、そろそろ行こう!王女様、待ってるんだろ!」
「...そうだね。もうすぐ約束の時間だ」

ギルバートはおもむろにしゃがみこんだ。
そして胸ポケットから古びた鍵を取り出すと、足枷の鍵穴に差し込んだ。
ガチャリという音と共に、メッキの剥がれた足枷がゴトッと床に落ちる。

ギルバートは誰にも奪わせないとばかりに速やかに胸ポケットに鍵を戻した。


「こんなものなくたって、僕はどこにもいかないのに」
「どうかな」
「本当にギルは心配性だな」
「···心配にもなるさ。だってこんなに」

ギルバートは言葉を飲み込んだ。
こんなに····なんだろうか。
ギルバートを見ると、何処か怒りを宿したような表情を浮かべていた。

しかしすぐに諦めたような表情に変わって、フッと息を吐いた。

「....そろそろ行こうか。ディア....クローディアを待たせたらいけない」


クローディア。
初めて聞くその名前に、ちくりと、胸が鳴った。
どうやらカルディアの王女はクローディアというらしい。
そして愛称で呼びあう程の仲のようだった。

「....そうだね」

もやもやと黒い雲に心が覆われるような感覚に支配される。
これくらいで嫉妬するなんて情けないなぁ、とカルミアは自嘲する。
しかし思考とは正反対に黒々とした雲は広がっていく。
その気持ちを消化出来ないまま、カルミアは部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

従者は知らない間に外堀を埋められていた

SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL 転生先は悪役令息の従者でした でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません だから知らんけど精神で人生歩みます

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 最終回まで予約投稿済みです。 毎日8時・20時に更新予定です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...