二度目の人生は魔王の嫁

七海あとり

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忍び寄る影

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二人と一匹は中庭を歩いていた。

「ターニャ、あれはなに?」

カルミアは、露店で売られている赤色のお菓子を指差した。串に刺さっているそれは、表面が艶々としていて、とても美味しそうだ。


「あれは林檎飴ですわ。林檎に水飴をまぶしたお菓子ですのよ」
「美味しい?」
「ええ、とっても」
「じゃああれは?」

今度は雲のようにふわふわとしているお菓子を指差す。

「あれは綿飴ですわね」
「綿飴?」
「溶かした砂糖を絡めとって、綿状にしたお菓子ですわ」
「砂糖ってことは甘いの?」
「ええ」

中庭からは王宮のバルコニーが見える。式典を終えたギルバート達を一目見ようとしている一般市民で、賑わいを見せていた。

ーー肩と肩がぶつかる程の人の群れ。
白熱灯をぶら下げた露店からの、威勢の良い掛け声。楽しそうな子供達の笑い声。
何処からともなく漂う、美味しそうな食べ物の匂い。

外に出ることを禁じられていたカルミアにとって、その光景は初めてみる光景で、ただただ胸が踊った。
カルミアはすっかり祭りの楽しげな雰囲気に飲まれていた。
だから気づけなかったんだと思う。ーーすぐ傍に忍び寄る"あの男"の影に。


「ーーギルバート様よ!!」


群衆の中の一人が叫んだ。
それと同時に空気が割れる程の歓声が響く。
カルミアはその名前に、全身から血の気がひくような感覚に陥った。

バルコニーを見上げると、純白のドレスで着飾ったクローディアと、灰色のモーニングコートで身を固めたギルバートが、群衆に向かって手を振っていた。
二人を視界に収めた瞬間、カルミアの心臓の鼓動は速度を上げる。
カルミアはギルバートに見つからないように、シーツを目深に手繰り寄せた。


「ターニャ。もう行こう」
「...ええ」

カルミアの顔は強張っていた。
これだけの人がいるのだ。簡単には見つけられないだろう。分かっている。分かっていても、緊張で身が震える。 
ここまで来て、監禁脱出計画を失敗させるわけには行かない。

(大丈夫。落ち着いて行動しよう)

カルミアがギルバートに背を向けようと、ゆっくり動き出したその時だったーー。

「うわ!!!」


闇を引き裂くような強風が吹き荒れ、カルミアの顔を隠しているシーツを奪い取った。
ひらりと、天高くシーツが舞う。シーツは軌道に乗り、右に、左にと宙を移動する。
カルミアの宝石のような琥珀色の瞳と、海底のような碧眼が交差する。

しまった、とカルミアは思った。

カルミアは群衆に埋もれるように、咄嗟にしゃがみこんだ。しかし既に時遅かった。
ギルバートの視線を奪ってしまった。それだけカルミアは目を惹く容姿をしている。

「...カルミア?」

ーー見つかってしまった。
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