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再会
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「...ここ、は?」
やがてカルミア達を包んでいた竜巻は勢いをなくし、春のそよ風のような微風に姿を変えた。
柔らかな風がザアザアと木々を鳴らす。
台風の目の中にいるような強烈な浮遊感は消え去り、ぐにゃりと歪んだマーブル状の視界も、あるべき姿に戻った。
視界には見知らぬ景色が写っていた。
カルミアの背より遥かに高い、バロック式の城門が聳え立っている。
ここは一体ーー。
「カルミア」
背後から懐かしい声がした。
その声は王位継承権を諦め、ギルバートに王の座を譲った"彼"に、とてもよく似ていた。
カルミアはおそるおそる振り返った。
ーー肩につくかつかないかの辺りで揺れている紺碧色の髪。南国の海のようなマリンブルーの瞳。聡明さを纏った端正な顔立ちは、何処かギルバートを彷彿とさせる。チェーンの垂れた縁のない眼鏡は、彼の知的さを強調していた。
「...ヨハ、ン?」
ーーそこにはヨハンがいた。騎士に扮しているが、紛れもなくヨハンだ。あの頃と何も変わっていない。
「何て顔をしてるんですかカルミア」
まるで死人でも見たかのようなカルミアの態度に、ヨハンは苦笑いを浮かべた。
「久しぶりですね」
「...久しぶり。元気だった?」
「ええ。元気でしたよ。カルミアも元気そうで」
「...まぁね」
二人の間には、ぎくしゃくとした気まずい雰囲気が流れている。まるで喧嘩別れした恋人と再会した時のようだ。
カルミアは平然を装っている風だが、内心びくびくとしていた。
王位継承権を奪還するというヨハンの大切な夢を、カルミアの我欲のせいで奪ってしまった。おそらくヨハンに恨まれているに違いない。
(ヨハンに責められたらどうしよう。ヨハンの口から、呪詛のような言葉を聞きたくない)
カルミアの表情が曇っていく。
せっかく再会出来たというのに、何処か怯えているカルミアに、ヨハンは眉間に皺を寄せた。
「....もしかして、私に恨まれてるかもしれないって思ってませんか?」
「うっ」
図星だった。
カルミアの考えている事など全て御見通しのヨハンは、「馬鹿ですね」と呆れたように溜息をついた。
「言っておきますけど。私は別にカルミアのことを恨んでませんからね。私は自分の意思で、外交官の道に進んだのです」
「そう、なのか?」
「ええ。別にギルバートに追い込まれて、外交官の後釜についたわけではありません。だから私の事でそんな気を病まないでください。」
どういう事だ?自ら外交官の後釜についただって?
あんなにギルバートから王位を取り戻す事に執着していたのに?
「どうして、わざわざ外交官なんて」
「魔国との橋渡しになるためです」
「橋渡し?」
「・・・ちょっと抽象的過ぎましたね」
ヨハンは鼻に落ちてきた眼鏡を、中指でクイっと押し上げた。
「――貴方を助けるためです、カルミア」
「僕を?」
「ええ」
外交官の後釜につく事と、僕を助ける事に何の関係があるのだろう、とカルミアは疑問に思った。
「アーダルベルトは大陸一の大国です。資源に領土、そして戦力。どれを取っても他国に劣らない。一番である故にどの国もこの国に逆らえません。・・・もしもの話ですが、カルミアが自身の力でこの国から抜け出して、隣国に逃げ出したとします。当然ギルバートは隣国に圧力をかけるでしょう。さすれば隣国は全力でカルミアを探し当て、身柄を引き渡そうとするはずです。どの国も戦争の火種になるのは嫌ですからね」
「・・・えっと、それはつまり」
「簡単に言えば味方がいないということです」
「だから」とヨハンは後に続いた。
「魔国に目を付けました。大陸を横断した先にある魔国は、アーダルベルト以上の大国です。資源、領土、戦力。どれを取ってもアーダルベルトに引けをとりません。国交も断絶してることも相まって、ギルバートも圧力をかけられない」
「・・・もしかして、僕のこれからの逃亡先って魔国だったりする?」
「察しがいいですね」
やっぱり、とカルミアは思った。
(でも待てよ?)
頭の中で疑問符が乱舞する。
「魔国とは国交を断絶しているんだろ?そんな簡単に上手く行くのか?むしろ入国すら出来ないんじゃ」
「だから私が外交官になったのです。丁度魔国も、人間の国々と国交を復活させたがっていたところでしたから。簡単に交渉出来ましたよ。・・・ね、ジキル様」
そう言って、ヨハンはカルミアの隣にいるジキルを見た。
ジキルは僅かに口の端と端を上げた。
なんだろう。嫌な予感がする。
「な、なんでジキル?」
「カルミア。聞いて驚かないで下さい。ーーこの方は、魔国連邦第十七代魔王、ジキル・ユーフォルビア様です」
…………は?
脳内がフリーズする。
後ろにいるターニャも驚きのあまり、目が点になっている。
やがてカルミア達を包んでいた竜巻は勢いをなくし、春のそよ風のような微風に姿を変えた。
柔らかな風がザアザアと木々を鳴らす。
台風の目の中にいるような強烈な浮遊感は消え去り、ぐにゃりと歪んだマーブル状の視界も、あるべき姿に戻った。
視界には見知らぬ景色が写っていた。
カルミアの背より遥かに高い、バロック式の城門が聳え立っている。
ここは一体ーー。
「カルミア」
背後から懐かしい声がした。
その声は王位継承権を諦め、ギルバートに王の座を譲った"彼"に、とてもよく似ていた。
カルミアはおそるおそる振り返った。
ーー肩につくかつかないかの辺りで揺れている紺碧色の髪。南国の海のようなマリンブルーの瞳。聡明さを纏った端正な顔立ちは、何処かギルバートを彷彿とさせる。チェーンの垂れた縁のない眼鏡は、彼の知的さを強調していた。
「...ヨハ、ン?」
ーーそこにはヨハンがいた。騎士に扮しているが、紛れもなくヨハンだ。あの頃と何も変わっていない。
「何て顔をしてるんですかカルミア」
まるで死人でも見たかのようなカルミアの態度に、ヨハンは苦笑いを浮かべた。
「久しぶりですね」
「...久しぶり。元気だった?」
「ええ。元気でしたよ。カルミアも元気そうで」
「...まぁね」
二人の間には、ぎくしゃくとした気まずい雰囲気が流れている。まるで喧嘩別れした恋人と再会した時のようだ。
カルミアは平然を装っている風だが、内心びくびくとしていた。
王位継承権を奪還するというヨハンの大切な夢を、カルミアの我欲のせいで奪ってしまった。おそらくヨハンに恨まれているに違いない。
(ヨハンに責められたらどうしよう。ヨハンの口から、呪詛のような言葉を聞きたくない)
カルミアの表情が曇っていく。
せっかく再会出来たというのに、何処か怯えているカルミアに、ヨハンは眉間に皺を寄せた。
「....もしかして、私に恨まれてるかもしれないって思ってませんか?」
「うっ」
図星だった。
カルミアの考えている事など全て御見通しのヨハンは、「馬鹿ですね」と呆れたように溜息をついた。
「言っておきますけど。私は別にカルミアのことを恨んでませんからね。私は自分の意思で、外交官の道に進んだのです」
「そう、なのか?」
「ええ。別にギルバートに追い込まれて、外交官の後釜についたわけではありません。だから私の事でそんな気を病まないでください。」
どういう事だ?自ら外交官の後釜についただって?
あんなにギルバートから王位を取り戻す事に執着していたのに?
「どうして、わざわざ外交官なんて」
「魔国との橋渡しになるためです」
「橋渡し?」
「・・・ちょっと抽象的過ぎましたね」
ヨハンは鼻に落ちてきた眼鏡を、中指でクイっと押し上げた。
「――貴方を助けるためです、カルミア」
「僕を?」
「ええ」
外交官の後釜につく事と、僕を助ける事に何の関係があるのだろう、とカルミアは疑問に思った。
「アーダルベルトは大陸一の大国です。資源に領土、そして戦力。どれを取っても他国に劣らない。一番である故にどの国もこの国に逆らえません。・・・もしもの話ですが、カルミアが自身の力でこの国から抜け出して、隣国に逃げ出したとします。当然ギルバートは隣国に圧力をかけるでしょう。さすれば隣国は全力でカルミアを探し当て、身柄を引き渡そうとするはずです。どの国も戦争の火種になるのは嫌ですからね」
「・・・えっと、それはつまり」
「簡単に言えば味方がいないということです」
「だから」とヨハンは後に続いた。
「魔国に目を付けました。大陸を横断した先にある魔国は、アーダルベルト以上の大国です。資源、領土、戦力。どれを取ってもアーダルベルトに引けをとりません。国交も断絶してることも相まって、ギルバートも圧力をかけられない」
「・・・もしかして、僕のこれからの逃亡先って魔国だったりする?」
「察しがいいですね」
やっぱり、とカルミアは思った。
(でも待てよ?)
頭の中で疑問符が乱舞する。
「魔国とは国交を断絶しているんだろ?そんな簡単に上手く行くのか?むしろ入国すら出来ないんじゃ」
「だから私が外交官になったのです。丁度魔国も、人間の国々と国交を復活させたがっていたところでしたから。簡単に交渉出来ましたよ。・・・ね、ジキル様」
そう言って、ヨハンはカルミアの隣にいるジキルを見た。
ジキルは僅かに口の端と端を上げた。
なんだろう。嫌な予感がする。
「な、なんでジキル?」
「カルミア。聞いて驚かないで下さい。ーーこの方は、魔国連邦第十七代魔王、ジキル・ユーフォルビア様です」
…………は?
脳内がフリーズする。
後ろにいるターニャも驚きのあまり、目が点になっている。
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